第1話 日常
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授業が終わった放課後、女子生徒が数人集まって雑談をしていた。
「……でね、そしたら、後ろに気配を感じるの……」
軽い雑談から怖い話になったようで、語り手の女子の話を聞き手の女子たちは次の展開はどうなるのかと各自ワクワクしたり怯えながら聞いていた。
「振り返るとそこには……」
「おい」
「きゃー!」
「いやぁー!」
語り手の女子とは違う声に驚き、悲鳴を上げる女子たち。
「うるさっ」
女子たちに声を掛けたのは男子生徒だった。
片耳を押さえながら鬱陶しそうにしていた。
「ナツ!」
女子の一人が男子生徒の名前を呼んだ。
「え、ナツくん?」
「
正体が分かると確認するように男子生徒へ視線を向ける女子たち。
ナツと呼ばれた男子生徒の苗字は上本というようだ。
「玄関にいないと思ったら、こんなとこでなに油を売ってんだよ、アキ!」
「良いでしょ、別に」
ナツの名前を呼んだ女子はアキというらしい。
「良くねぇよ。今日はタイムセールあるんだから間に合わなくなるだろ」
「まだ時間に余裕あるじゃん」
「そう言ってこの前狙ってた牛肉買えなかっただろうが。せっかく値引きされたお高いカレールゥを買えたのに、ビーフカレー作れなかった」
「もー、根に持たないでよ」
先程のナツと同じく鬱陶しそうに片耳を押さえるアキ。
「そうだよ、ネチネチした男子は嫌がられるよー?」
「ナツくん、心穏やかに」
「……」
女子たちがアキに加勢するが、ナツは態度を変えるつもりはないようだ。
「早く行くぞ」
「ちょっと!」
アキの鞄を持って教室を出て行くナツ。
「みんなごめん、また明日!」
「じゃあね」
「バイバーイ」
女子たちに挨拶をして、アキは急いでナツの後を追うのだった。
「あれが土栄中学名物、上本双子」
「顔は似てるけど、性格は真逆ってのが面白いよね」
「仲悪いなら離れれば良いのに」
「男女とはいえ双子なら仕方ないんじゃない?」
「確かに」
ナツと呼ばれた上本
アキと呼ばれた上本
双子はそう珍しくないと思うが、ナツとアキは男女の双子だ。
二人は二卵性双生児だが、見た目はよく似ていた。
クラスは別だが、顔を合わせれば言い合いが絶えない二人は土栄中学校の名物になっていた。
「ナツくんの方がお兄ちゃんなのに弟に間違われるしね」
「アキの方が身長高いもんね」
ナツとアキが去った教室では女子たちが二人を話題にした話で盛り上がるのだった。
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