第23話 ナツの決意

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「ハァー……」


 佐々木との通話を終えたナツはその場にしゃがみ込む。


「あんの馬鹿……!」


 あれだけナツが忠告したのに、アキはカミシロ山へと向かった。

 佐々木はアキが走って行った方面をナツに言っただけだが、ナツにとっては確信になりつつあった。

 学校へは忘れ物を取りに戻った、提出物を出しに行った。

 よくある理由だが、それをするのに数時間もかかるわけがない。

 アキと安田が誰かの家へ遊びに行って、親へ連絡するのを忘れていたとかなら此処まで話が広がることもない。

 中学校の指定ジャージを着て歩いていたら、補導とまではいかなくても目撃情報が多数あるはずだ。

 安藤と佐々木の話だけで推測すると、帰宅後のアキと安田の姿を見た者はいない。

 佐々木がアキと見間違った可能性もなくはないが、小学校から知ってる仲だ。

 佐々木の情報は間違いないだろう。


「勘弁してくれよ……」


 家へ帰って来ないアキ。

 今朝、登校してからナツはアキに会ってなかった。

 双子だから学年は同じでも、二人はクラスが違う。

 たまに体育や音楽などで合同授業があるが、1組と3組が一緒になることは殆どない。


「マジで何やってんだよ……」


 アキが帰って来ない。

 それがナツを不安にさせた。


『万夏、秋乃。おやつ買って来るから良い子で待っててね』


 6年前、そう言って家を出た来々美。

 

『行ってらっしゃい』


 ナツとアキは声だけ掛けて、見送りはしなかった。

 来々美の顔は見なかった。

 ナツの視界の端に映ったのは制服を来た来々美の後ろ姿。

 それが最後に見た来々美の姿だった。

 来々美は家へ帰って来なかった。


「姉ちゃん……」


 アキのことを考えながら、ナツは来々美のことを思い出す。

 自分の兄弟が行方不明になる経験をする人間はほんの僅かだろう。

 成人済みではなく、未成年の場合はもっと少ないだろう。

 6年前、ナツとアキは小学2年生だった。

 行方不明になった来々美は中学二年生だった。

 今のナツとアキは当時の来々美と同じ年になった。


「やめろよ……やめてくれ……」


 6年経っても、姉の来々美はまだ帰って来ない。

 今度は妹のアキが帰って来ない。

 ナツの不安は増していく、


「なんでカミシロ山なんだ……。あそこは嫌だ……。怖い……怖い……!」


 ガタガタと身体が震え出すナツ。


(あそこには行きたくない……。あそこには行ってはいけない……。オレを呪わないで……。オレは呪われたくない……!)


 恐怖がナツを支配する。

 だけど、


『万夏。秋乃に何かあったら守ってあげて。あの子、頭で考えるより身体が先に動いちゃうから、その時は万夏が止めてあげてね』


 昔、来々美に言われたことを思い出す。


『万夏は秋乃のお兄ちゃんだけど、ずっとお兄ちゃんじゃなくて良いの。言い付けを守らない秋乃なんて放っておいて良いわ。あの子、痛い目見なきゃ分からないんだから』


 いつも優しかったけれど、時々見せた冷たい表情をする来々美。

 アキが知っているかは分からない来々美の一面。


「姉ちゃん……。アキが帰って来ないんだ……」


 目を閉じて、記憶に残る来々美に話し掛けるナツ。


「カミシロ山へいるみたいなんだ……」


 ナツはゆっくりその場から立ち上がる。


「……ごめん、姉ちゃん。あいつを放っておけるほど、オレは無情にはなれないや……」


 ナツにとって、アキは双子の妹。

 生まれる前から一緒にいた自分の片割れだ。


「怖ぇ……。でも、オレは“兄ちゃん”だから……」


 大人でも立ち入らないカミシロ山。

 自分が行かなくて、誰が行くというのか。


「……帰ったら説教だからな、馬鹿アキ」


 数回深呼吸をして、ナツはある決意をするのだった。


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