第3話 噂

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 土栄どえい中学校2年3組はナツが所属するクラスだ。

 アキは2年1組でクラスは別々である。


「なぁなぁ、ナツ」

「間に合ってます」


 朝のホームルームが始まる前、ナツが自分の席で予習をしていると級友の佐々木静流しずるが話し掛けてくる。

 ナツと佐々木は小学校も同じの仲だった。


「間に合ってるってまだ何も言ってないだろ!」

「うるせぇな、見たら分かるだろ。今、予習してんだよ。邪魔すんな」

「ナツ、成績良いじゃん! なぁ、聞いてくれって~」

「んだよ」


 このままスルーすることも出来たが、佐々木は引く気がないらしく話し掛けて来るのでナツは一旦予習するのを止めて佐々木の話を聞くことにした。


「出たんだって」

「出た? 出たって何が?」

「幽霊」

「………」


 幽霊と聞き、背筋が寒くなるナツ。

 しかし、表情に出ることはない。


「あっ、その顔は信じてねぇな? マジなんだって!」

「お前が直接見たわけじゃないんだろ?」

「そうなんだけどよー。つーか、幽霊が出ても俺たちは行けないし見れない的な?」

「はぁ?」


 佐々木は霊感の有無を言っているのかと思ったが、どうやら違うようだ。


「その幽霊の目撃情報、―――カミシロ山付近だってよ」

「!」


 カミシロ山。

 その場所は土栄中学校の裏にある私有地の山で、山奥には小さな祠が祀られている。

 関係者以外立ち入り禁止で、《男子禁制》の山である。

 男性がカミシロ山へ足を踏み入れるとその者は呪われると言われていた。

 昔、信憑性を確かめにカミシロ山へ度胸試しの類いで足を踏み入れた男性たちが後を絶たなかったがその後、ある者は精神に異常をきたし、ある者は大病を患い、ある者はこの世を去ったなどの不幸に見舞われたという。

 他には事故に遭ったり職を失うなど、例を挙げ出すとキリがない。

 土栄中学校では、性別関係なくカミシロ山へは足を踏み入れてはならないと注意喚起を呼び掛けていた。

 生徒は各家庭でも親から耳に胼胝が出来るほど聞かされていた。


「俺は知り合いに親戚のお兄さんがカミシロ山に入って精神病棟に入院してるって聞いたことあるから行けないんだよなぁ。マジ怖ぇ……!」

「…怖いなら何でオレに言うんだよ」

「だって、その幽霊……」

「?」

「……黒髪ロングの女で口の左下に黒子ほくろが“3つ”あったんだってよ」

「…っ!」


 佐々木の言葉にナツは息を呑んだ。


「なぁ、その幽霊って……」

「………」

「ナツ?」

「お前、何が言いてぇの?」

「え、いや……」

「それ、オレに言ってどうするんだよ。どうしたいんだよ」

「……ご、ごめん!」


 佐々木がそれ以上、目撃された幽霊についてナツへ話すことはなかった。

 もう一度「ごめん」と呟き、佐々木は自分の席へと戻って行った。


「………」


 黒髪のロング。

 女性。

 口の左下に黒子ほくろが3つ。


 カミシロ山付近で目撃された幽霊の正体に、ナツは心当たりがあった。

 佐々木が言おうとしていることも分かっていた。


(何で今更……)


 目撃された幽霊は、6年前に行方不明になったナツとアキの姉・来々美ここみに当てはまっていたのだった。


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