第11話 とりあえず行ってみることにする
「ええ〜!またお父さんの車を使いたいの〜?」
仕事中に連絡をした僕が車を使って良いかの確認をすると、お母さんは怒りの声を上げた。
「なんで車を使うの?昨日使ったばっかりでしょう!」
「いや、それがさ、昨日、一緒にバーベキューをした人が車の事故で入院しちゃったらしくてさ」
「えええ〜!」
「僕も小四の時に事故って入院しているから他人事とは思えないというか。とりあえず、友達(大森くん)も、お見舞いに行くって言うし、僕も一緒に行っておこうかなと思ってさ」
「何処の病院に入院しているの?」
「八王子の病院」
「遠いじゃない!」
お母さんは、今から運転して八王子に向かうのは危ないとか何とか行って車の使用を拒否したんだよね。
「道が混んでいるから車で行くよりも電車で行った方が早いわよ!」
なんだったら、駅から病院まではタクシーを使っても良いと言われて、僕は車を使うことを諦めた。
「あのさ、お母さん」
「何?」
「お母さんって五島さんと今でもラインで繋がっているの?」
「はあ?五島さんって誰?」
「中三の時に一緒のクラスだった女子生徒だけど」
「あの五島さんね!」
電話の向こう側のお母さんは、あからさまなため息を吐き出しながら言い出した。
「あの時、智充は厨二病を患って、幽霊が見えるとか言い出して五島さんに嫌がらせをしたんでしょう?あそこの家はお母さんがうるさいから、一応はお父さんと一緒に謝りに行ったんだけど、この前、スーパーで会った時にも嫌味を言われたわ〜」
えっと、厨二病って・・
「謝りに行ったとか聞いていないんだけど」
「言ってないもの」
「なんで言ってくれなかったわけ?」
「だって、智充ったらあの時からやけに一生懸命、勉強を始めたじゃない!心底学校で嫌なことがあって、その怒りを勉強にぶつけているんだなって思って、見守ることにしたのよ」
勉強さえしていれば満足のお母さんらしい意見だけど、お父さんと一緒に謝りに行っていたのは知らなかったなぁ。
「いやあ、あの時は迷惑かけてすみません」
「いいのよ、誰しも厨二病にはかかるものなんだから」
お母さんはそう言って電話を切った。僕は知らぬ間に両親から厨二病扱いを受けていたんだな。
「それで?智充のお母さんはどうだって?」
「電車で行けって」
「いいんだよ!車なんかじゃなくても!電車で行こう!電車のほうが安全だと思うし!」
「それにしても・・八王子まで電車代がかかるよな〜」
「出します!切符代くらい払います!」
角田くんのお見舞いを済ませた僕らは、とりあえず、昨日入院した杉山くんの様子を見に行ってみるかっていう話になったんだよね。角田くんの飲み物に薬を混入したかどうかは、杉山くんが知っていると思うし、その杉山くんは足を骨折しただけだから話とか出来る状態だと思うんだよ。
気絶して入院した渡辺さんは、連絡がつかない状態が続いている。五島さんは僕が連絡を取ることを拒否しているので、最終的に話を聞くのは杉山くんしか居ない状態になっているわけだ。
赤羽から新宿乗り換えで八王子に向かうと820円、これを往復だと1640円。絶対に払いたくない僕の意思を感じ取った様子の大森くんは、八王子までの切符を購入してくれたんだよね。
大森くんの後ろには、相変わらず坂本くんの生き霊が憑いている。
おそらく、坂本くんの体が何処かにあるとしたら、病院の近くということになるのだろう。
「とりあえずお見舞いに行ってみるとして」
電車に乗り込みながら大森くんは言い出した。
「坂本くんが見つかると良いんだけど・・」
「人って水がなくても4〜5日は生きられるっていうし、そんなに心配しなくても大丈夫じゃない?」
「だとしても、坂本くん、連絡つかないまんまなんだもんな〜」
スマートフォン片手に大森くんは落ち込んだ様子を見せているけれど、後ろの坂本くんは僕の意見にイライラしたような顔をしている。
彼は果たして、どういった状態に陥っているのだろう?生きているのは分かるんだけど・・
『り』『な』
生き霊の彼は、この言葉ばかり繰り返している。つまりは五島莉奈のことを言っているんだろうけど、僕は彼女に関わらない状態で、人命救助をしたいと考えている。
赤羽から八王子まで1時間ちょっと、そこからバスに乗って病院まで向かうことになったんだけど、杉山くんたちが入院した病院は山の中にあるような病院だった。駅からこんなに離れた場所に病院を作ったのは、土地代が安かったからなのかな?とか、色々と思うところはあるけれど、奥多摩とか、奥多摩とか、あそこら辺で事故ったバイクの運転手とか車の運転手とかが運ばれてくるのがこの病院っていう事になる。
入り口横に設けられた受付で面会の希望を出した僕らは、
「杉山さんは〜今、集中治療室に居るので、面会は無理ですね」
と言われることになったわけ。
何処の病棟に居るか(整形外科だとして何号室か)分からないから尋ねたんだけど、予想外の返答に、
「しゅ・・集中治療室?」
驚き慌てる大森くん。
「確かに、昨日、車で事故った時には足を折っただけって言われていたんです。何か問題が発生したってことなんでしょうか?」
「プライバシーに関わるので、ここでは病状について言うことは出来ないんです」
ここまで来たのに面会謝絶。
「それじゃあ・・・」
万に一つの望みをかけて、僕が渡辺さんの名前を出すと、
「ああ、その方は婦人科の大部屋にいますね」
と言って、渡辺さんの面会は許可してくれたわけだ。
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