第3話 デートの達人
僕は釣り堀って初めて来たんだけど、秋川に生息している魚をそのまま釣るってことじゃなくて、専門で山魚を養殖しているところから持って来た魚を釣り堀に入れて、お客さんに釣ってもらうって形になっているみたいなんだよね。
「卵から山魚を育てている釣り堀もあるとは思うんだけど、うちでは業者さんに持ってきて貰っているの」
カフェのオーナさんは女性だったんだけど、
「昨日の夕方に魚を釣り堀に入れて貰っているから、今日は魚、釣り放題よ!頑張って釣ってね!」
とは言われましたけども、一匹あたり五百円で購入する形になるんだよね。
竿も餌も有料、釣った魚も有料なのは何処の釣り堀でも同じシステムらしいんだけど・・「なんか、自然豊かな渓流を眺めながら、釣り堀で釣竿借りて魚釣りって、結構お金が掛かるんだな〜」
というのが僕の感想だった。
バーベキューセットを頼む形だから、肉やら野菜やらを切って用意する必要はないし、バーベキューが嫌なら釜焼きピザも注文できる。
なんなら食後に美味しい珈琲とケーキも食べられるとあって、至れり尽くせりなのは間違い無いんだけど・・
「想像以上に金がかかったな」
と、大森くんがこっそりぼやく通り、金を払ってこその贅沢、金を払ってこその便利さってことなんだよね。
「今度は自分たちでお肉とか野菜とか用意してバーベキューしてみたいね!」
「本当!本当!」
お会計を済ませた後に、目減りした財布の中身を見て思ったよ。今度やろうというバーベキューには、僕は誘ってくれなくてもいいよ。車を出してくれる足として呼ばれそうだけど、色々と都合をつけて断ろう。
「まだ時間あるし、奥多摩のダムを見に行かない?」
杉山くんが、お会計を済ませた僕らの方を振り返りながら言い出した。
「せっかくここまで来たのに、バーベキューだけってのも寂しくない?」
「確かに・・」
「そうかも」
奥多摩には奥多摩湖っていう湖があるんだけど、そこは多摩川上流域を水源としているダムってことになる訳だけど、ダムがあるならそこに行きたい!って言い出す人が、一定数存在している訳だよ。
釣り堀カフェから青梅街道をひたすらまっすぐ西に進んで行くわけだけど、道は細いし、くねくねしているし、短めのトンネルも幾つか通過していくわけで・・
この時点で僕は嫌な予感がしていたんだけど、大河内ダムっていうところの駐車場は広めだったし、ダムの堤体から見る奥多摩湖と周囲に広がる山々のコントラストは美しかったし。丁度、ダムが放水しているところだったから、ダムの上から白い滝のように流れ出る水の飛沫を見て、みんなはしゃいだ声を上げていた。
一通りダムを堪能した僕らに、杉山くんは更に提案をして来たんだよね。
「ここから30分くらい車を走らせたところに、滝と夕焼けがすごく綺麗なスポットがあるんだけど、どうする?行ってみる?」
「「「え〜!行ってみた〜い!」」」
女子がはしゃいだ声をあげれば、僕らが嫌だと言えるわけがない。もう一台の車の運転手である杉山くんと、大森くん、そして、今日一番におとなしい印象の坂本くんが行くって言えば、僕も行くことになるわけで・・
ダムってあんまり来たことなかったんだけど、景色は壮大だし、今度は麻衣ちゃんを連れて来てデートしたい!と僕は思ったものだから『滝と夕焼けがすごく綺麗なスポット』を提案する杉山くんはデートのプロだな!と思ったわけだ。
「智充、本当に今日は無理言って車を出させちゃってごめんな〜」
運転席に僕が座ると、助手席に座る大森くんが言い出した。
「本当に!」
「急に車出して貰ってごめんねー!」
僕の車に乗っている女子二人もそんなことを言って謝り出す。
「急に角田くんがお腹痛いとか言い出してさ」
「本当、最近体調悪いとは言っていたんだけど」
「大学生活が始まって緊張し続けているのかも」
角田くんというのは一浪してこの度、国立大に合格した人らしくって、この人も車の免許を持っていたっていうんだよね。
「いやいや、別に大丈夫だよ」
高速使ってないから高速代払ってないし、親が入れたガソリンを使って車を走らせているだけだし。
「僕も車の免許取ってから練習してはいたんだけど、山道はこういう機会でもないと走ることがないから良かったよ」
結局、バーベキュー代は自分で払った僕って良い奴だよな。ケーキは大森くんに奢って貰ったけども。
「そういえば、飯能市の方に夜景が綺麗なスポットがあるらしいんだけど」
「途中にある峠の茶屋からの夕焼けが綺麗なんでしょう?」
「今度、みんなで行ってみたいね〜!」
女子とかって夜景とか夕日とか好きだよなって思うんだけど(うちのお母さんもそういうのが好きだ)明らかに僕の家の車を利用して、みたいな下心が見え見えだよ。
「それじゃあ大森くん、早いところ車の免許取らないと」
「え?」
「大森くんの家の車、外国の高級車だからさ、きっとドライブも楽しいと思うよ」
「えええ?」
大森くんの家の車は僕んちの車よりも遥かにお値段お高めの外国車だったから、きっと女子はそっちの方が好きに違いない。
「大森くん、車の免許取るの?」
「いや、取ろうとは思っているんだけど」
「大森くんちは、何に乗ってるの?」
夜景にこだわる女子は、車の種類にもこだわるよな〜(偏見)
夕日が綺麗なスポットとやらは、奥多摩湖をさらに抜けて、山梨方面に向かったところにあるらしいんだよね。僕は杉山くんが運転する車の後ろをついて行ってるんだけど、山桜がまだ残っているところもあるので、素敵な森林ドライブっていう感じだよ。
ダムから車を走らせて30分。
こんもりとした山の中にあるような小さな駐車場に降り立った僕らは、夕焼けの絶景スポットという割には様子が違うなぁとは思っていたわけ。
「この先に滝があるんだけど、その滝と夕焼けがめちゃくちゃ映えるんだよね」
「えー!滝があるんだ!」
「楽しみ〜!」
なんでダムとか滝って好かれるんだろうね、人間って水が好きってことなのかな?
僕も親と旅行なんかに行くと、
「パパ、この先に滝があるんだって!」
「それじゃあ、せっかく(・・・・)だから見に行ってみようか!」
という、両親の勝手な決断によって、滝とか滝とか、連れて行かれた覚えがあるよ。
大概、滝っていうのは山の中に伸びる登山道みたいなところを長々歩かされて、くねくね、登ったり降ったりしながらその先にある滝壺を目指すんだよね。
「ああ!マイナスイオンだわ!」
お母さんなんかそう言って喜んでいたけど、滝壺なんかで発生されると言われるマイナスイオン、美容に良いとか言われていたのは過去のことで、科学的根拠とかないとか言われているんだよね。
「うわー!なんか雰囲気あるね」
「本当!本当!」
僕らは滝壺まで細い道をどんどん進んで行った訳だけど、道は整備されていて歩きやすかったんだ。さすがデートの達人である杉山くんだよ、女の子の靴を考慮してのこの場所なんだね。
『南妙法蓮華経』
途中、やたらと落書きされた供養塔が建てられていたんだよね。
まあ、山の中だし、事故に遭った人とかを供養しているってことなのかな。
「もうすぐ到着するからさ」
錆びた鉄柱とロープで区切られた階段をゆっくり降りていく、川の流れる音がどんどんと近づいてくる。
パシンッ パシンッ パシンッ
何かが弾けるような音が森の中で木霊した。
「あれ?鳥かな?」
誰かがそんなことを言っていたけれど、鳥の囀る声なんか、ひとつも聞こえてなんか来ていない。
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