第14話 気に入らないあいつ
「莉奈!一体なんなのこのテストの点数!」
「塾にどれだけお金を払っていると思っているの?」
「お母さんだってお父さんだって、頑張って働いているのよ?」
「莉奈はなんで勉強を頑張れないの?」
莉奈は普通に良く居る中学生の女の子だった。
「莉奈ちゃん、かわいいね!」
と、友達から言われることはあるけれど、周りと比べればちょっとだけ、髪型やメイクにこだわっているだけ。だけど、
「莉奈ちゃん、クラスで一番人気だと思うよ」
と、周りの友達は言って来るのだった。
お父さんとお母さんと、まだ幼稚園に通っている弟が一人の、よくある家庭、よくある家族構成。
「莉奈、お姉ちゃんなんだから」
「塾のテスト、もっと頑張らないと」
「莉奈、ちゃんとして」
「莉奈」
「莉奈!」
塾に放り込まると、朝から晩まで勉強漬けの状態。塾では定期テストの点数でランク分けされるし、その点数が低いと母親からは頭ごなしに怒られる日々。弟の面倒に手が掛かるのは分かるけれど、なんで自分ばかりが怒られなければならないのかが理解できない。
「だって貴女はお姉ちゃんだから!」
「塾のテストは重要でしょう?」
勝手に塾に放り込んで、どれだけ勉強が出来ているのか、何が苦手なのか知ろうともしない。塾の先生の説明の早さに付いて行けずに四苦八苦している莉奈のことを気にかけもせずに、ただ、ただ、
「頑張って!」
と、言われてしまうのだ。
「インスタのDMで知り合った人が居て」
「相手は高校生みたいなんだけど」
「凄く格好良くって!」
周りの友達は自分の愚痴とかをDMで知り合った相手に言っているみたい。周りのみんながやっていることだもん、私がやったとしても何の問題もないよね。
「頭ごなしに出来ないことだけ言うのは良くないことだよ。出来ているところを褒めもせずに悪いところだけ指摘するなんて、莉奈ちゃんのご両親は莉奈ちゃんのことを何も分かっていないみたいだね」
インスタのDMで知り合った大学生、私のことを凄く理解してくれる。
「気晴らしにドライブでも行かない?車で迎えに行ってあげるから」
ドライブだなんて、大人の仲間入りをしたみたい。
「そこで沢山、莉奈ちゃんの愚痴も聞いてあげるからね」
「大好きだよ、莉奈ちゃん」
この世界に、私を助けてくれるような白馬の王子様が現れるわけがない。自称、大学生のお兄さんに会ってから私の世界が変わりだす。
どうしてこうなったのかが分からない。なんで?どうして?
「僕?僕は塾には行かないよ」
隣の席に座る男子生徒が、クラスメイトに胸を張って言い出した。
「塾に行っておにぎりだけの生活とか、夜も早く寝られない生活とか無理だもん」
「塾行かない奴で偏差値低い高校狙う奴がいるのは分かるんだけど、お前、かなり偏差値高い高校を狙ってんじゃん」
「そんなんで塾行かないやつ、お前以外に見たことないって!」
「いいんだよ、分からないところはお父さんが教えてくれるから」
その男子生徒は肩をすくめながら言い出した。
「僕はお父さんに分からないところを教えてもらう、お父さんは塾の高額な費用を払わずに済む。それにリスキリングっていうの?中学の勉強をもう一度やり直すのは、お父さんにとっての学びの場でもあるんだよね」
「お前の言っていること、マジで分かんねえ」
「だけど、塾なしで親が教えるのかよ、それってどうなの?」
「お父さんが教えるのは良いんだけど、最近、お母さんが率先して丸つけを始めたんだよ」
「はあああ?」
「そしたら、僕の分かんない場所が良く分かるとか言い出して、自分で丸つけをしないで済んで、楽っちゃ楽なんだけど、母親のプレッシャーが怖い」
「えええ!お母さんが丸つけ?無理!無理!俺には無理かも!」
「自宅学習、エグくない?」
自宅学習は、エグくないんじゃないのかな?
そうだよ、自宅学習に切り替えれば、私もストレスが溜まることもなかったわけで・・
「お母さん、うちのクラスの男子生徒なんだけど、塾に行かないで自宅学習して、分からないところは親に教わっているんだって。そしたら塾の費用もまるまる浮くし、お互いにウィンウィンだって言っていたんだけど」
「無理無理無理無理無理!」
莉奈の母親は全力で拒絶するように言い出した。
「コウちゃんの面倒を見て、莉奈の勉強の面倒までみるの、お母さんには無理よ!」
「それじゃあ、お父さんに教わるのはどう?」
「お父さんに訊いてみなさいよ」
「お父さーん、同じクラスの男子生徒の家では、塾に行かないで自宅学習で親に教わっているって言うんだけど」
「莉奈、そんなに莉奈は塾が嫌いなわけ?」
「嫌いっていうか」
「この前も点数下がったよね?自分が勉強を出来ないことを塾の所為にするのはどうかと思うよ?」
「でも」
「塾の先生は勉強を教えてくれるだろう?莉奈はきちんと勉強をして、高校受験に備えないと」
結局、親は何も話を聞いてくれない。
大事なのは幼稚園に通うコウのことばっかりで、私のことなんてどうでも良いんじゃないのかな。私が何で悩んでいるか、何で点数が取れないのか、そんなこと、何も考えてくれない。
「本当に、本当に嫌だ」
ストレスが溜まった莉奈は、塾にも行かずに両親からサポートを受けている男子生徒(クズ)を追い込むことにした。小宮くんが言うにはクズは『幽霊』が視えるらしい。だからこそ、気持ち悪い奴ということにして、クラスの仲間外れにすることにした。
最初は部活の仲間外れにしようと思ったんだけど、それは上手くいかなかったため、クラス全体を巻き込むことにしたのだけれど、言葉に出来ないストレスを毎日抱え込んでいるクラスメイトには楽しい遊戯になったらしい。
塾にも行かない気に入らないクズを追い込んだのは遊びのようなもので、『幽霊が見える』クズはあっという間に仲間外れになっていった。
ハブられ続ける日々の中で、クズは突然言い出した。
「クラスで一番人気の五島さんって自分でも人気者!とか思っていそうだけど・・君に憑いているおじさんの霊すごすぎない?パパ活でもしているの?」
突然、自分は幽霊が見える宣言をしたクズは、莉奈に向かって言い出した。
「手首から上の霊がエロい感じで撫で回しているんだよね。これって完全に生き霊の手だと思うんだけど、どうしたらこんな事になるの?訳わかんないんだけど?」
周りの生徒がドドッと大いに騒ぎ出す。
「嘘ばっかり言ってないでよ!本当は霊なんて見えていないんでしょう!」
「えええ?僕が幽霊が視えるとか何とかで、散々大騒ぎしていたのは君たちだよね?だというのに、都合が悪くなったら急にそんなことを言い出すんだ。僕は本当のことを言っているだけなのに!本当に呆れちゃうなあ」
莉奈はクズが嘘をついていないことには気が付いていた。
クズはきっと知っている、莉奈がどうしようもない理由で売春をしているのを知っている。
怯えた莉奈はホテルに呼び出した自称大学生の胸にナイフを刺し込んだ。無理やりホテルに引き摺り込んで莉奈に乱暴を働いた男は、撮影したデーターを脅しに使って、莉奈に売春行為をさせていたから。親にも相談出来ないことだから、自分で対処をするしか方法がない。
莉奈は自称大学生の他にも、二人の中年をナイフで刺して殺した。警察に捕まるならそれで良い、警察が駆けつけてきた時に、両親は心から悔いれば良いんだ。
だけど、警察はやっては来なかった。
東京のホテルで刺殺体が発見されたと報道されても、誰も莉奈のことを疑わない。
「ああ・・そうか・・私って何でも出来るんじゃん・・」
自分に憑く生き霊とやらは殺したから、私の周りには何も見えないでしょう?
そう問いかけたかったけど、幽霊が見えるクズは馬鹿みたいに勉強に集中して、クラスメイトの誰とも交流を持とうとはしなかった。
いつまでも莉奈の心の中には、クラスメイトのクズ、真山智充のことは胸の中に残り続けていた。親に関心を向けてもらえるクラスメイト、塾にも通わないクラスメイト。
彼が、本当に幽霊が見えるのかどうかが莉奈には謎で、だからこそ、車の免許を取ったと彼の母親が言っているのを聞いた莉奈は、彼をバーベキューに誘ってやろうと考えた。バーベキューの後に最恐の心霊スポットに連れて行って、本当に霊が見えるのかどうかを訊いてみよう。
そうして、今も自分に霊が憑いているのかどうかを尋ねてみたい。そんな莉奈の異様な執着に気がついた様子の、高校から続いている名ばかりの恋人が文句を言って来たけれど、山に呼び出して捨ててきた。
強力なセックスドラッグを飲ませて放置したから、助かることはないだろう。最近は非合法の薬が沢山あるし、手に入りやすい。女を弄ぼうっていう奴は必ずそんな薬を複数持っているから、殺す(・・)ついでで拝借すれば何も問題はないのだから。
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