第18話  蛇足・麻衣ちゃんの場合

 私は霊感がないと思う。

「麻衣ちゃん、幽霊とか見たことある?」

「麻衣ちゃん、なんか怖い話とかある?」

 オカルト話で盛り上がる友達にこう話を振られることはあるんだけど、

「霊感ないから見たことないもないし、霊体験したこともないんだけど、おじいちゃんとか叔父さんは色々な話を持っているんだよね」

 自分の持ちネタはゼロだけど、親族の持ちネタだけは豊富に持っている。


 タクシーの運転手をしている叔父さんが幽霊を乗せるのはしょっちゅうだし、おじいちゃんも会社員時代はしょっちゅう、幽霊と一緒にエレベーターに乗っていたんだって。


「おばあちゃんも霊感ないから良く分からないんだけど・・おじいちゃんは霊感が強い方だと思うわね」

 男鹿家の人間は、幽霊を見ることはないんだけど、幽霊が視える人と結婚することが多いみたいで、

「ゔぐ・・」

 お茶碗と箸を持ったまま、あらぬ方向を見ながら固まるおじいちゃんとか、叔父さんの姿を見ていると、ああ、今きっと、何かよく分からないものが見えているんだなぁって思っていたし、

「霊感あるっていいな〜」

 と、憧れのようなものを私は持っていた。


「うちの家系は霊感強い人と結婚しがち」

 と言うのはおばさんの意見で、

「ベタベタしてくる人と結婚しがち」

 と言うのがおばあちゃんの意見。


 うちのおじいちゃんとおばあちゃんは今でもとっても仲良しで、一緒に歩く時には手を繋いで歩いているし、

「ヒャッ!」

 と、言いながらおじいちゃんがおばあちゃんに抱きついているのも良くあること。うちの両親は普通だけど、おばさん夫婦も、おばあちゃん夫婦もとっても仲が良いんだよね。


 高校三年生になって、大学の進学はどうしようってことになった時に、どうしても埼玉にある聖上大学に行きたくて、そのことを相談したら東京にお父さんの従妹夫婦が住んでいるから、そこにお願いしてあげるって言ってくれて、夏休み中に行われる大学の説明会に参加する時には、お邪魔させてもらうことになったんだ。


 私は秋田市にある高校に通っていたんだけど、やっぱり東京は垢抜けているのかなぁ。同じ年になる智充くんは、垢抜けていて格好良くて、

「素敵!」

 と、思ったの。喉が渇いたなって思う前にジュースを買ってくれるし、紳士!東京の高校生は紳士なんだわ!


 でも、智充くんは霊感が強いって感じじゃないから、私と付き合うことはないんだろうなって思ったの。だって智充くん、格好良いから、私じゃない他の子と付き合ったりするんだろなって思ったし。


 だけど、智充くんが好きだって言ってくれて、付き合うことになった時には天にも昇る気持ちだったの。おばさんは、

「霊感ない奴とだと、長く続かない」

 とか言っていたけど、そんなの関係ない!そもそも、霊感とか関係なくない?だって私自身が霊感とかゼロなんだし!


 大学が始まった途端に智充くんがバーベキューに誘われて、

「都会(大学は埼玉だけど)でも!バーベキューってやるのね!」

 と、内心はしゃいじゃったの。


 家族でバーベキューはしょっちゅうやっていたから、私、活躍出来る!って思ったし、

「智充くんにお肉をアーンしてあげられるかも!」

 と、自分の妄想に興奮していたのが不味かったのかも。


 バーベキュー直前で熱発、病院に行ったら風邪でしょうって、なんで?どうして?知らない女の子たちもバーベキューに行くんだよね?智充くんが他の子が気に入ったとか言い出したらどうしよう?


 不安で泣いたし、もうどうしようと思ったんだけど、その後、家までやってきた智充くんを見て、

「あれ?」

 と、思ったんだよね。

「なんか変わっているぞ?」

 と、思ったの。


 智充くんは、まるでおじいちゃんとか叔父さんのように、何もない空中を見つめるし、視線を固定させているし。更にはペタッと私にくっつくようになったし、ブルブル震えながら抱きついてくるようになったの。


「麻衣ちゃん・・実は大変なことがあって・・・」


 様子がおかしい智充くんがようやっと告白してくれたところによると、この前のバーベキューで、最恐の心霊スポット呼ばれる花魁淵というところに行ってしまって、三人入院、一人は死亡事故という、痛ましい事態になってしまったそうで、

「玉津神社っていう神社があるんだけど、そこに二人でお参りに行かない?」

 そう言われた時には、胸がキューンッとなってしまったの。


「パートナーがとりあえず神社に行きたいと言い出したら、何も言わずについて行ってあげなさい!」

「私たちには到底分からない、拠ない事情があって、神社に行きたいって言い出しているだろうから、黙ってついて行ってあげるのが吉と出るのよ!」


 おばあちゃんもおばさんも、そんなことを言っていたもの!

「もちろん!一緒にお参りに行こうね!」



 女性の参拝者が非常に多い玉津神社、縁を結ぶというよりは、悪縁を断つ、呪いを払う、後は狛犬がうさぎに代わっていることから分かる通り、多産のご利益で有名な神社では、一人の巫女が、神主姿の男の袂を握って引っ張っていた。


「た・・たくみさん!たくみさん!あれ見て!あれ!」

「なんだよ、さつき・・・」


 言われた方を見て絶句をした玉津たくみは、ブルブル震えながらさつきの後ろに隠れた。

「あの子って、何年か前にもうちの神社に参拝していたよね?」

「そうそう、あの子、八咫烏の子ですよ!」


 大きく成長した背が高い青年の肩には、それは大きな八咫烏が憑いている。その青年の隣には恋人と思われる女性が居て、

「相手の方は巨大な鬼を憑けていますよ」

 やっぱり鬼だった、確かにあの時、あの鬼が視えたもの。




               〈 完 〉



         ******************



これでこのお話は終わりとなります。

玉津神社の巫女さんとイケメン神職が出てくるお話『屍の謳』も掲載しているので、もしも興味がありましたら、こちらも読んでいただければ幸いです!!


また、このお話を作成するに至った裏話など、近況ノートに載せています。

興味がある方は、そちらも読んで頂ければ嬉しいです!!

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