第4話 大森くんの家
僕の担当看護師だった君島さん曰く、僕は交通事故に遭った為に、幽霊を見ることが出来るチャンネルをグワーッと回してしまったみたいなんだよね。
これを他人に言えば、統合失調症だとか何とか、色々な病名を付けられて病院送りにされるから言わないけど、この世の中は、結構な数の思念体が存在するんだよね。
そんなわけで、精神的に弱り切っている小宮君は、今では二十体近くの小さな思念体を張り付けている。たまにマッサージという名の痛み刺激を与えて、彼の周りのものを追い払ってあげてはいるんだけど・・
「大森君、大丈夫かな・・心配だよ・・」
小宮君はそんなことを言っているけれど、僕としては小宮君の方が心配だよ。鬼のおばあちゃんが居れば、そんな雑魚ども、あっという間に蹴散らしてくれるんだろうけど、僕は無力だ。今度、おばあちゃんが東京に遊びに来た時には、小宮君を僕ん家に誘っても良いのかもしれないなぁ。
大森君の家は僕の家から大体、10分くらい歩いて行った所にある一戸建ての住宅なんだけど、駅からは結構離れた場所に広がる住宅街の中にあるんだよね。車が一台しか通れないような細い道路をくねくねと進んだ後に坂を登るんだけど、その坂の途中にある公園からは街を眺めることが出来るんだよね。
東京って海の近くだし、平坦な土地の上にビルが建ち並んでいる印象が強いんだけど、意外や意外、坂なんかも結構多いし、古い住宅街なんかも残っていたりするってわけ。大森君が住んでいるのは三十年くらい前に宅地開発された場所っていうことらしくって、同じような形の家がズラーっと並んでいるわけだ。
「すみません、僕、真山って言いますが、大森君に学校の宿題を届けに来ました」
インターフォンを押した僕は、小さなカメラに向かってそう言ったわけだけど、僕らは学校帰りで制服も着たままの状態だったので、大森君のお母さんはすぐに玄関の扉を開けてくれたのだった。
コックリショックで失神をした大森君は、あの後、一週間も学校を休んでいるし、クラスメイトの話だと、部屋に引き籠っちゃっているような状態らしいんだけど、
「先生から頼まれたプリントです、大森君に渡してくれますか?」
大森君のお母さんに対して、アレコレ聞くのもまずいかなと思って、僕はとりあえずお母さんにプリントを渡したんだ。
だけど、お母さんは僕が差し出すプリントは受け取らずに、
「良かったら家に上がらない?」
と、そんなことを言い出した。
コロナ禍以降、不登校児が鰻登りに増えていったという話はテレビのニュースでも見たことがあるんだけど、実際問題、うちのクラスにも学校に来られないという子は二人とか三人とかいるわけさ。
この度、コックリショックで不登校児の仲間入りをしてしまった大森君だけど、
「本当に、本当に、部屋から全然出て来てくれないのよ」
と言って、お母さんも本当に困り果てているらしい。
大森君のお母さんはパート勤めをしているらしいんだけど、大森君がこんな状態だから仕事を辞めようかどうしようか迷っている所なんだって。
不登校になる子が、
「お友達との付き合いに疲れた」
「部活の人間関係が辛い」
「学校の先生が合わない」
と言い出す場合が多い中で、大森君の場合は、明らかにコックリさんが不登校の原因になっていると思われるわけで、
「昨日、学校カウンセラーの先生に相談してみたんだけど、思春期だからって言われちゃって・・」
挙句の果てにはお祓いに行ったらどうかと言われた大森くんのお母さんは、ガックリしながら帰って来たらしい。
思春期はコックリさんをやりたいと思いがち。通常ではあり得ない心霊の世界を体験したいと思う心が大きくなるっていうんだけど、そこのところは、僕にはよく分からないんだよな〜。だって、望まなくても見える状態だからね!
多分、大森家では毎日、どうしたら学校に行けるようになるのかという話と共に、不登校の原因となったコックリさんについて話をしているんだと思うんだよね。コックリさんでコインを動かすこと自体は『不覚筋動』と『予期意向』だから心霊現象とはあんまり関係ないんだけど、霊を呼び出すという行為に対して畏怖とか怯えとか、そういった心の動きが良からぬ輩を引き寄せる。
大森くんの家は、ご家族の連日に渡るコックリさん談義(コックリさんをやってから部屋から出て来なくなったけど、どうしたら良いんだって話し合っているんだろうね)によって空気は澱み、雑多な思念体が床に這いつくばるようにして広がり始めている。良くないですねこれは!
「大介!大介!お友達が来てくれたわよ!扉を開けてちょうだい!」
お母さんが大森くんの部屋の扉をノックして声をかけたんだけど、その大森君の部屋の扉には真っ黒なヘドロのようなものがこびり付いている。みんなの恐怖がこういうものを引き寄せちゃうんだよな〜。
「大森!俺、小宮だけど、お前のことが心配で!」
さっきまで黙って僕の後ろにいた小宮君が声をあげたんだけど、すると扉の向こう側で何かがガタンと倒れるような音が響いたわけ。
「こ・・こ・・小宮?」
扉を開けた大森くんは、僕と小宮くんのことを交互に見ると、
「入って!早く!」
と、お母さんのことはまるっきり無視状態で僕らを自分の部屋に招き入れたのだった。
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