第11話  窮地に陥る

「智充、お前、幽霊が視えるって本当なのか?」

「俺の後ろに何か居る?」

「視えているんだろ?教えてくれよ!」


 僕はバスケ部に入っていたんだけど、突然、部活中にそんなことを言われたんだよね。


「え?なんでそんな話になってんの?」

「それは三宅がさぁ」

「五島さんから聞いたらしいんだけど」

「はああああ?」


 バスケ部にはイケてるグループが集まっていたりするんだけど、僕は中途半端なモブって感じで試合にも出たり出なかったりを繰り返している。可もなく不可もなくのバスケ部員の僕がイケてるグループに囲まれたわけだけど、

「五島さん?何故?」

 頭にハテナマークが量産されることになったってわけ。


 三年も1学期後半になると部活ももう終わりってことになるんだけど、最後の最後で、

「なあ!俺の守護霊どんなやつ?マジで教えて欲しいんだけど〜!」

 とんでもないことになったものだ。


 どうやら僕が、幽霊が視える奴みたいだと言い出しているのが、ポイントゲッターである三宅くんの彼女である五島さんらしい。五島さんと言えば、昔、読者モデルをやっていたとかで華やかな顔立ちをした目立つ存在の女子生徒。大森くんがコックリショックを受けるきっかけにもなった女子生徒だよ。


「ええー〜訳分からんて」


 霊体が視えるという話は、病院以外で話したのは、自殺騒ぎを起こした小宮くんだけなんだよね。小宮くんが言ったのか?だけど、何故?


「僕が小四の時に入院していた時に担当になってくれた看護師さんが視える系の人だったから(君島さんは確かに視える系の人)その話をした(誰にもしていないけど)時に勘違いされたのかな〜」


 息を吸って吐くように僕は話をすり替えると、

「実は僕の担当になった脳外科の医者が本当に女遊びが激しい人で・・彼の肩の上には〜」

 という礒部先生のオカルト話をネタにして何とかこの話を終わらせたんだよね。


 医者は女遊びが盛んゆえ、生きているのから死んでいるのまで、沢山の霊を引き連れて歩いている。実話だからみんなの食い付きも本当に良かったんだよね。


 それで、次の日に学校に登校すると、

「智充〜、お前、幽霊が視えるってマジなの?」

「どんな幽霊が視えるの?」

「お前、たまに全然違うところを見ているもんなぁ。幽霊が視えるからって言われて納得したわ〜」

 と、友達に囲まれて言われ出したんだよね。


「真山くん、やっぱり真山くんって変だったもんね!」

 大概、何処のクラスにもイケてるグループが存在するとは思うんだけど、そのイケてるグループの中心人物と言えば五島莉奈さんになるだろう。


 コックリショックが起こった時には、誰が好きなのかも分からないような謎の少女って感じだったんだけど、実はマッチングアプリで知り合った年上と付き合っていた〜なんて話も出回っているし、最近ではバスケ部で人気の三宅くんと付き合い出していたりと、なんとなく話題の中心にいつでも上がっているような子なんだよね。


「なんか気持ち悪かったもん」

「変だったもんね」


 五島さんといつも仲が良い女子がそんなことを言い出すと、

「呪いが移りそう」

「大森がコックリさんやった時におかしくなったのも、智充が近くに居たからだろ?」

「マジで怖くない?」

 と、周りがガヤガヤ言い出した。


 ここでテレビドラマだったら、

「そんなことないよ!」

 と、お祓いに連れて行ったことに感謝していた大森くんが言い出しても良さそうなものなのに、

「ええ〜!俺がおかしくなったの智充のせいだったの?マジかよー!」

 なんてことを大森くんは自分の席で言っているし、

「・・・・」

 小宮くんは黙っているし。


 僕が、幽霊が視えるっていうのは小宮くんにしか言っていないので、学校帰りに呼び出して問い詰めたんだけど、

「いや、五島さんが智充ってたまに変なところ見つめているよね、みたいな話をしてくるから、視えるみたいだよって言っただけなんだよ」

 と、あっさりと白状したんだよね。マジで、そんな話からこんなことになんのかよ。



 脳外科病棟に勤めていた君島さんなんだけど、結婚して今は病院勤めはやめて、診療所の看護師さんとして働いているんだよね。

「看護師はな、夜勤に入っていると確実に家に帰って来ないという時間帯が出来るから、最終的には浮気をされるんだ」

 というのが君島さんの持論らしくって、陶芸の先生と結婚する時に、あっさりと夜勤がある病院を退職。


 連絡先は交換している僕らなので、診療所での仕事を終えた君島さんはお値段がお安めで珈琲が飲めるドーナツ屋さんで僕の話を最後まで聞くと、

「君は本物のバカだな」

 と、呆れた様子で言い出した。


「私は前から言っていたよな?幽霊が視えるなんてことを言ったところで碌なことにはならないと、しつこいほどに言ったよな?」


 僕の担当看護師だったのが五年前。だというのに、僕のこんな話を聞いてくれるなんて、君島さんは偉すぎる。


「だけど、たった一人に言っただけでこんな事になるとは思いもしなかったんだ」


 幽霊がどうので騒がれるのなら、コックリショックで失神をした大森くんこそ槍玉にあげられるべきだし、幽霊に引っ張られるようにして自殺しそうになっていた小宮くんこそが取り上げられるべきだろう。


「クラス全体で、僕が変だ、僕が気持ち悪い、また変なところを見ているけど、きっと幽霊を見ているのに違いないってなっちゃって!どうしてこんなことになっちゃったんだろう?」


「これから受験ということで、漫然とした不安とストレスを抱えている集団が、攻撃対象を見つけてはしゃいでいるだけだろう」

「なんてことだ!」

「まあいいじゃないか、中学生の時の友人関係なんぞその場限りのものだ。私だって、中学時代の友達で未だに付き合いがあるような奴なんかいないぞ」

「だけど、今、すっごく辛いんです」

「完全にイジメのループにはまり込んでいるな」


 ドーナツ屋のテーブル席は、窓ガラスから外が見られるような形で並べられたもので、僕と君島さんは並んで珈琲と抹茶ラテを飲んでいたんだけど、白い陶器のカップを置いた君島さんは、自分の胸の前に腕を組みながら言い出した。


「良い機会だから、嫌がらせしてくる奴らの後にいる霊体について言及してやれよ」

「えええ?」

「君に対して、悪意を持って接してくるような奴。大概、面白い霊体をくっつけて歩いていると思うのだが?」

「えええええ!」


「そういうイジメはな、ある程度こちらが反撃をしないと増長してキリがない状態になる。幽霊がどうので馬鹿にしてくるのであれば、その馬鹿にしてきた奴らを十分に怯えさせてやれ。それも一種のサービス精神ってことだな」


「サービス精神ですか」

「中学生がオカルト好きなのはいつの時代も同じことで、そんな奴らが満足するようなオカルトを体験させてやれよ」

「うーん」

「それから、良い機会だから君はそのチャンネルを閉じてしまえばいい」

「えっ?」

「実はその幽霊が視えるチャンネル、やりようによっては閉じることが出来るんだ」

「えええええっ!」


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