第6話 そして神社に行くことに
「お母さん、俺、神社にお祓いに行きたいんだ」
ようやっと自分の部屋から出ることが出来るようになった大森くんは、キッチンで夕食の支度を始めていたお母さんに向かって言い出した。
「智充がコックリさんは呪わない、全ては思い込みだって言ってくれたんだけど、自分に踏ん切りをつけるために、一度、お祓いに行っても良いかもしれないって言ってくれたんだ」
スクールカウンセラーの先生に、
「コックリさん・・それじゃあ、一度お祓いに行ってみたらどうでしょう?」
と、言われて激怒した大森くんのお母さんへフォローをするように僕は説明を加えることにしたわけだ。
「僕は小学校の時に交通事故に遭って脳外科病棟に入院していたことがあるんですけど、そこに勤める先生も、時には神頼みも有効だって言っていたんです」
脳外科で神頼み、何それ状態のお母さんがこちらを見たので、僕は畳み掛けるようにして言い出したよ。
「脳に損傷を受けると、見えないものが幻覚として見えるようになることもあるんです。それで、神頼みっていうのもおかしいんですけど、自分はお祓いをしたからもう大丈夫と思い込むようにする。そうするだけで、幻覚症状が緩和されることもあるって言うんですよね」
人は思い込みの生き物だからね〜。
「大森くんはコックリさんをやった時の恐怖心で学校に行けなくなってしまったって言うので、お祓いをすることでリセットした方が良いと思うんです。僕が脳外科の先生に勧められた神社が埼玉にあるんですけど、そこの神社はその道の人にはかなり有名というか、霊験あらたからしくって」
「玉津神社っていうんだけど、そこに行きたいんだけど、駄目かな?」
大森くんは小宮くんと僕も連れて神社に行きたいと言い出した。
「俺もその神社に行ってみたいんです」
と、コックリ友である小宮くんも言い出した。
結果、大森くんのお父さんが車を出してくれることになり、次の日曜日に埼玉にある玉津神社に向かうことになったんだけど・・
「えええ?ちょっと待って、僕も行くの?」
僕としては、勝手に行きたい人だけ行ってこいよって思っていたんだけど、言い出しっぺとして僕の同行は決まったようなものらしく、
「お母さんが許してくれるかな・・」
と、一抹の不安を抱えることになったわけ。
うちのお母さんの後ろには、鬼のお面が付いている。
大森くんの家へプリントを届けた僕が家へと帰ると、鬼は無茶苦茶顔を真っ赤にした状態で僕の方を振り返る。
「智充!大森くんのママから連絡があったんだけど、あなた、大介くんと一緒にお祓いに行くって本当なの?」
仕事から帰って来て夕飯の支度をしていたお母さんは、顔を真っ赤にしたまま言い出した。登校拒否児がお祓い、なんでやねんって思っているのかもしれないけれど・・
「お母さん、日曜日にみんなで行くのは玉津神社っていう埼玉の神社で、その道の人にはとっても有名な、霊験あらたかな神社らしいんだよ」
「本当に玉津神社っていうところに行くの?本当に?」
お母さんと鬼のお面が何に興奮しているのかが良く分からないんだけど、とにかく興奮状態が凄い。
「お母さんね、この前テレビで特集されているのを見たんだけど、玉津神社っていうところには国宝的イケメンが神職をしているのよ!」
「はい?」
「無茶苦茶死ぬほど格好良かったのよ!すんごいイケメンだったのよ!」
お母さんと鬼のお面は、蕩けるような顔で、イヤイヤするみたいに顔を左右に振りながら興奮している。
「だからね!お願いだから写真を撮ってきて!」
「え?」
「写真よ!お願い!」
「えええ?」
玉津神社というところは、天照大神の妹神で、日の神とも言われる稚日女尊(わかひるめのみこと)と明光浦霊(あかのうらのみたま)が祭神として祀られている。神社の社頭や社殿の前には、狛犬ではなく兎が置かれていることでも有名で、兎は月の精霊ともされているし、多産の象徴でもあるため、女性に人気の神社だってネット上にも書いてあったよ!
その兎の可愛らしいフォルムプラス、イケメンの神職も居るとあって、まあ、ネット上でも大荒れ状態。氏子になったら神職のプロマイド写真が貰えるとか何とか、本当かどうかも分からない噂まで蔓延しているらしい。
目的地である玉津神社には高速道路を使って1時間弱で到着することが出来たんだけど、周辺の駐車場は朝も早いというのにほぼ満車。駅から神社に移動する女性客(参拝客というべきなのか)も多くって、神社までの道路の両側には、女子が好きそうな小洒落たカフェとか、お香屋さんとか、雑貨屋さんとか建ち並んでいるわけだよ。
神社に行くまでにもそれは大きな鳥居があって、その鳥居をくぐり抜けて問題の神社へと向かったわけなんだけど・・
「うわーーーーーーっ!」
人形、人形、人形、人形、山のような人形がはみ出す勢いで祀られている。
呪われたものをお祓いすることでも有名な神社らしくって、いわくつきの物が毎日、毎日運ばれて来るらしい。
神社はこんもりとした森に包み込まれるように建っているんだけど、その人形の数とかが恐ろしい。社殿の前に狛犬の代わりに置かれているウサギの姿は可愛いんだけど、その奥に見える山のような人形とのコントラストが異様だ。
「真山くん、本当にお祓いをしなくても良いのかい?お金だったらおじさん出してあげるけど」
一通りお参りをして社務所へと移動した大森くんのお父さんが、お祓いをして貰うための手続きをしていたんだけど、途中で僕の方を振り返って言い出したんだよね。
小宮くんは一緒にお祓いするつもり満々でお金を用意して来ているんだけど、僕はお祓いなんてするつもりゼロだから、一人でお祓いが終わるまで(イケメン神職を探しながら)待っているって言ったから気にしたのかもしれない。
「いや、いいです!いいです!神社の周りを見学しながら待っているので!どうぞ皆んなで行って来てください!」
僕は慌てて言い出したよ。ただでさえ、この神社に来るつもりはなかったというのに、追加でお金を払ってまでお祓いなんて。ご縁が出来ますようにで、五円をお賽銭で払うだけで十分だっていうの。
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