第6話  女神な君島さん

 君島さんがアドレスを添付して送ってくれた公園は、僕も昔に家族と一緒に遊びに来たことがある広い公園で、小さな子供が水遊びをすることが出来るように人工の小川が作ってあったり、遊具なんかも充実している。芝生ゾーンではボール遊びとかも出来るような設備が整った公園なんだよね。


 公園には広めの駐車場も一ヶ所あって、有料ではあるけれど、今の僕の状態ではお金がどうのと言っている場合ではない。


 到着しましたメッセージを送ってしばらくすると、自転車で君島さんは駐車場へとやって来たんだよね。それから、無表情のままで僕が乗る車の方へとやって来ると、豆まきみたいな勢いで塩をまき出したんだよね。


 土曜日とはいえ、もう日も暮れかかっているし、公園で遊んでいた人もほとんど帰っているような状態だったから良いけど、これ、人に見られたら確実に『不審者』案件になる奴だよ。


 そうして不審者・君島さんは車の助手席に乗り込んで来ると、

「今度、両親が遊びに来た時に渡す予定のものだったんだがな」

 と言って、運転席のところに交通安全のお守りを括り付けてくれたんだ。


 すると、今まで居座るようにして後部座席に座っていた女の霊が、トランクルームの方へと吸い込まれるように消えていく。


 車に張り付いていた雑多な思念体も窓ガラスから飛び退くように消えて、僕は思わずぶら下がる交通安全のお守りを握りしめた。


「す・・すごい!霊験あらたか過ぎる!!」

「玉津神社のお守りだからな」


 玉津神社って、あれか?前に君島さんが教えてくれた、礒部先生もお祓い目的で訪れたっていう、コックリショックの時に大森くんと一緒に行った埼玉にある神社のことだよな?


「1200円」


 君島さんが手を前に出しながらそう言い出した時、僕は即座にお財布を手に取ったよ。新興宗教にハマる人が、壺とか壺とか、高いお金を払ってでも買ってしまう気持ちが良く分かる。このお守りが一万したとしても僕は購入したと思うもの。


 僕は二千円を君島さんに握らせて言い出した。

「僕・・僕・・殺人者を見つけてしまったかもしれないです!」

 あの黒々とした塊は確実に死霊、悍ましいほどの怨念、あれは確実に殺された恨みが集まって凝縮しているような感じだったわけ。


「どうしよう・・僕・・僕・・」


 あわあわあわ、と、混乱する僕の頭の中には、チャンネルを回した後の驚きと恐怖が鮮明に蘇っていく。


 僕としては、昔々に死にましたっていう霊体よりも、最近、マジで殺されたんですわっていう方が思念体の記憶も新しいから、悍ましく見えるんだよね。


「ふわあああ・・どうしようー〜・・」

「あのな、意外にそういう人、そこら辺に居るもんだぞ」

「えええ?」

「まずは医者だ。あいつら故意ではなかったとしても結構、人を殺しているからな」

「いや、それ、医療ミスって奴じゃ」

「生きるか死ぬかで言ったら結局死ぬんだから、同じようなものだろう」

「えええ・・そうなのかな・・」


「あと、人を虐めた、追い詰めた、そういう行為の末に死なせたんだろうなって奴もそれなりに居るわけだよ」

「そういったパターンもあるわけですか」


 昔、チャンネルが開いていた時に見た五島さんにへばりつく生き霊は、彼女と肉体関係があったのかな?と思われるようなおじさんの生き霊みたいなものを感じたんだけど、今日、見た五島さんは、完全に死霊が噴出しているような恐ろしい状態だったんだよね。


 僕が幽霊が見えるっていうたった一つだけの証言を使って(小宮くんの発言を使って)あそこまでクラスを動かした五島さんの手腕は相当なものだったし、彼女が何処の高校に行っていたかは分からないけれど、同じようなことをやって、誰かを自殺にまで追い込んだってこともあるわけで・・


「僕、今日、会った人がシリアルキラーみたいな人だったのかなって思っちゃって、もうどうしよう!って思っちゃって!」


「どういった経緯で誰を死に追いやったのかは分からないが、そいつが悪意を向けて来た場合には要注意だな」


「えーっと?」

「医者みたいに、患者を救おうとしてミスって殺すのとは訳が違うんだから」

「ミスって殺すって酷くないですか?」

「だが、しかし、実際にあるんだから仕方がない」

「仕方なくないですよ」

「とにかく、今日会ったという悪意が噴出している奴には近づくな。近づいても碌なことにはならないと断言する」


 僕は、おかっぱ眼鏡にイメチェンした五島さんを思い出して身震いした。

 彼女が仲良さそうにしていた女の子も、子供を堕した経験があるみたいだったし、相変わらず性に対して奔放な生活を送っているのかもしれないけれど、そこで、何をどうやってあんな風になってしまうのか。


 そして、なんで中学の時に同級生だったというだけの僕に、あれほどの悪意を向けて来るのだろうか。


「君島さん、僕、チャンネルを閉じたいんですけど」

「君は大学受験を終えてしまっただろう?」


 君島さんは眉を顰めると言い出した。

「何かに必死になって熱中するって、受験勉強が一番ちょうど良いとは思うんだが、君はそれを終えてしまったからな・・」

「ええええ〜!」

「ちなみに、私はあらゆる努力をした末に、自身のチャンネルを閉じるのを諦めた」

「えええええ〜!」

「人間、諦めることが必要な時もある」

 君島さんはそう言うと、

「それじゃあ私は帰る、夕食の準備の途中だったんでな」

 そう言って車から降りて行こうとしたので、僕は深く頭を下げた。

「君島さん!ほんっとーーにっ!ありがとうございました!」

 そうして、僕は、心からお願いしたよ。

「また何かあったら相談させてください!」

「うーん」


 君島さんは悩ましげな瞳を僕に向けると、

「暇な時に限ってならまあ・・いいが・・・」

 と言って自転車に乗って帰って行ってしまったのだった。

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