【第4部〜西洋の神々編〜】第53話 再び天界へ①
帝都に帰って来た。神猫(バステト)と神狼(フェンリル)と血盟を結び、蛇龍(ミズガルヅ)、狂神象(ベヒモス)、四手熊(クワトロハンドベアー)の討伐に成功した。この報告は事前に報しらされており、そのまま凱旋パレードとなった。城下はお祭り騒ぎで、民は飲み、食らい、歌い、語らい、大いに楽しそうだった。
「ふぅ、疲れた」
「お祭りには参加されないのですか?」
「私は別の楽しみがあるから良い。貴女達は、今日は自由にして良いから、遊んでおいで」
私にいつも寄り添っている侍女達を解放してあげた。勿論、たっぷりお金をあげた。侍女達は、喜び感謝され、ウキウキでお祭りに向かった。
部屋で暫く待っていると大官が、食事を運んで参りましたと報せに来た。待ってました、これを。食事は蛇龍(ミズガルヅ)御膳だ。蛇かぁ、初めて食べる、楽しみだ。先まずは蒲焼から。
見た目は鰻の蒲焼だ。さっそく一口食べてみる。外はカリッ、中はふわっ、蛇は小骨が多いと聞いていたが丁寧に全て取り除かれている。少し甘辛く、濃い目の味付けにしてある。蛇自体の肉はタンパクで、鶏肉に似ているらしいとよく聞く。なるほど、そう言われればそんな気もする。
次に箸休めで、お吸い物。蛇は水っぽいらしいので、このお吸い物も濃い目の味付けと言うか、辛い味付けだ。汁を飲むと、これが蛇の味か?と感激した。生臭さも消してあるので飲みやすく、身は本当に鶏肉の様な食感でホロホロだった。
生き血をお酒で割った物が出て来たが、お酒は飲めないので、と断った。蛇は全体的に骨が多く、根気よく骨を取られていたが、それでも時々、口の中に小骨が刺さって食べにくかった。
次に骨ごと砕いてミンチにして、つくねハンバーグみたいなのが出された。骨をコリコリと食べる食感も楽しく、味付けもGOOD。これはかなり美味しいなぁ。普通の女子ならキャーキャー騒いで絶対に蛇なんて食べられないだろうけど、私は子供の頃から食べる事が大好きで、よく食べた分、身体の発育も良くて、11歳の頃には大人並みのバストがあり、子供とは思われなくて、大人からナンパされたり、求婚されたりした。まだ小学生の私がだよ?話は逸れたけど、食への探究心は蛇なんかでは衰える事は無い。ただ、虫だけは全般的に無理。虫を食べてるのを見ても絶叫しちゃうな。特に蜘蛛はダメ。この世でもっともダメ。砂つぶほどの大きさだろうとも、大絶叫で逃げ惑う。サイズの問題でもない。蜘蛛がダメなのだ。身体に触れられたら気を失うに違いない。それほどダメだ。
最後に違うバージョンのスープが出て来た。こちらは身だけでなく、鱗も見える。蛇は身よりも骨が多く、かぶりついて身を食べながら骨を出すのだ。この料理も同じ様な感じだったが、これは本当に、何と言うか蛇って感じで私は苦手な料理だった。途中で食べるのを止めて、もう結構と料理を引っ込めさせた。味も食感もダメ。食べて気持ちが悪くなった。蛇食べてますって、食べてるんだけどね?その、主張が激しいと言うか、蛇感を忘れさせてくれる料理なら良かったのに。
「なるほど、蛇の味ってこんな感じなのね。もう良いや」
食べるのは1度で良い、話のネタになったと思えば良い。そんな感じ。蒲焼とつくねは美味しかったけどね。私が蛇龍(ミズガルヅ)を食べたお話はこれでお終しまい。
凱旋パーティーから数日が経った。
「いよいよゲートを開けて天界に攻め込む事になる。だが、話しておく事がある。信じられない話だろうけど最後まで聞いて欲しい」
私が夢の中で見た事が、ほぼそのまま現実となっている事。恐らく私はループさせられ、人生のやり直しをしている事。皆んなの名前を予め知っていた事も、その推測を確定させる要素の1つである事。そして、夢の中通りに事が運ぶなら、これから起こるであろう事の全てを話した。
「それなら陛下1人で、ゲートを解放するのは危険過ぎる」
「そうは言っても陛下以外に地上に行けて、ゲートを開けられる者はいない」
「どうするんだ?」
「危険を承知で行くのか?」
「ヴィシュヌなら知ってるぞ。あいつは途轍もなく強いぞ」
どうするんだ?と、ざわざわし始めた。
「俺が小虞(シャオ・ユー)を守る。夫として当然だ」
「どうやって?」
「俺も人間だ。元だがな。神格を捨てれば良い」
「何だと?そこまで貯めた修練を捨てると言うのか?しかし、修練を捨てれば、お前はただの人間。ヴィシュヌが現れたら勝てはしないだろう。行くだけ無駄だ」
「よせ!お前が盾となり陛下を逃す時間を稼ごうとでも思っているのかも知れないが、人間では神の一撃を受け止める事も出来ない。時間を稼ぐ事すらも無理だ。そんな事はお前も分かっているだろうに」
ロードが眉をしかめて阿籍(ア・ジー)を止めた。
誰も良い案が出ずに終始無言だった。
「でも、少しずつ未来も変化しているし、前ループでは神猫(バステト)や蛇龍(ミズガルヅ)なんて見てもいない。だから絶対会うとも限らない」
結局良い案も浮かばず、その日は散会となった。侍女達に手を取られて、寝殿に向かう。
「小虞(シャオ・ユー)!」
「どうしたの?阿籍(ア・ジー)」
「実は1つだけ方法がある。俺の修練を取り出し、魔石の様に結晶化させるのだ。それを必要な時に服用すれば一時的だが、神格を取り戻して、神とも渡り合える」
「なるほど、要するにドーピングするって事ね」
確かにそれは良い案かも知れない。アダム以外に阿籍を倒せる者はいない。少なくとも東洋天界にはいないのだ。これは最強の用心棒だ。
「謝謝你(シェーシェーニー)(ありがとう)」
阿籍と並んで寝殿に向かうと、侍女達は気を遣つかい、足を止めて私達を見送った。絶対Hすると思っているんだろうな?しないけど。気を遣って、こっちに来ないのはそう言う事だろう。私だって、そう言う事ね?って思って余計な気を回しちゃう。
前ループも夢で冷静に見てた。浮気しまくりだったな、私は。最低だ。前ループは男性から人生がスタートして、死んで女性の姿になった。今ループは最初から女性で人生がスタートした。そして、時間軸が微妙に違う。今年で18歳になると言う事は、山下巧はまだ12歳の小6のはずだ。だから彼とは恋仲になる事はあり得ない。張玉(ヂャン・ユゥ)にも今ループでは会っていない。今後は、ヴィシュヌ、梵天(ブラフマー)、帝釈天(インドラ)から貞操を守り、アダムにも心を動かさなければ、阿籍だけの私でいられる。元夫婦なのだ。それが一番自然な形だ。他の男に心を動かされてはダメだ。夢の中で自分の行動を見ていて、そう感じていた。
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