【第1部〜序章編〜】第2話 得た能力
次に目が覚めると白い天井が見え、目を横にやると机の上のマスコットキャラクターが、これでもかと主張していた。確か、何かのゲームの限定特典だったはずだ。ここは見覚えがある。どうやら会社の医務室の様だ。まだ少し頭がぼーっとするが、痛みはなかったのでベッドから身体を起こした。
「あら?ようやく目が覚めた?」
状況とは場違いなくらい明るい声で呼びかけて来たこの女性は、会社専属の女医さんだ。もの凄く美人と言う訳ではないが、性格は明るく前向きでいつもニコニコしていて人懐っこく、嫌な顔1つした所を見た事がない。内面の美しさ(性格の良さ)が、外面に溢れ出て、まるで全身をオーラで包まれているみたいに神々しく見える女性だ。こう言うのをカリスマと呼ぶのかも知れない。当然、男性社員人気はダントツで1位だ。 しかし、マイペースで空気が読めず、他の女性社員達からは嫉妬されて孤立している。大人になってまでイジメとかダサい事するなよ、と思う。妬(ねた)み、嫉(そね)み、僻(ひが)み、あー嫌だ、嫌だ。そんな、ドラマや漫画の中に出て来る悪役の定番みたいな事をリアルでやるなんて恥ずかしくないのか?性格の悪い主人公なんて殆どいないだろう?悪役よりも主人公になりたいと思わないのかねぇ?彼女の方は別に気にもしていない様子で、お昼休憩は会社の屋上か近くの公園のベンチでよくスマホゲームをしている。彼女がゲームしている所を偶然見かけ、たまたま知っているゲームだったので思い切って話しかけたのがきっかけで仲良くなった…と思う。私があの公園のベンチで昼飯を食べていたのは、彼女に会えるかも知れないと言う期待が込められていたからだ。
「ね、ね、あの声、何か願った?」
無邪気に微笑んで顔を覗き込んで来たので、思わず少し目を逸らした。顔が赤くなっていないか、彼女に心音が聞かれてないか心配でさらに心拍が上がった気がする。
「そう言う自分は何を願ったんだ?どうせ、ゲームいっぱい欲しいとか、どんなゲームでも攻略出来る才能が欲しいとか願ったんじゃないのか?」
彼女を意識しているのを悟られまいと必死に、少しぶっきらぼうに言い放った。
「えへへ、そんなんじゃないよ。ちょっとごめんね」
そう言うと、いつの間にかに右手に握られていたメスで、軽く左手を斬られた。
「痛っ」思わず声を上げた。
彼女は申し訳なさそうな顔をしながら、「大丈夫だから」と両手が不思議な光に包まれて、それを傷口にかざすとあっという間に傷が消えた。
「ふー、どう?まだ痛い?」
彼女の笑顔に心が癒される。
左手を斬りつけられたのに奇妙な感情だ。
「信じられないけど、本当に願った力が手に入ったんだ?」
「うん、怪我や病気を治せる力を願ったの」
「それにしても意外だった。女医の仕事、真剣だったんだな」
驚きと好奇心で続け様に口をついた。彼女はわざとらしく少し頬(ほ)っぺを膨らませながら、「酷(ひど)いー、これでもちゃんと女医に憧れてたんだから」と、可愛らしく怒って見せた。
「ごめん、ごめん、あまりにも普段とギャップがあり過ぎて」
「はいはい、私の事、普段どんな目で見ていたのか良く分かりました」
棒読みしながら言って来るあたり、本気では怒っていない。こんなやり取りが楽しく、ささやかな幸せを感じる。私は彼女の事が好きなんだろうな?と、冷静に分析してる自分に可笑しくなり、クスリと笑った。それを見て彼女は、馬鹿にされたのかと思って拗(す)ねた態度を取った。
「ごめん、ごめん。でもそのおかげで私は助かったんだ。頭を治療してくれたんだろう?」
私がそう言うと彼女は満面の笑みで応えた。
「私に感謝しなさいよ~なんてね(笑)」
「勿論(もちろん)感謝してるよ、ありがとう」
「私ね、女医になりたくて医大出たのに、この会社に来て…あ、ううん、違うの、だってほら、ここは何と言うか、保健室の先生みたいと言うか…女医とは違うかなーって」
「でもこの力があれば、大勢の人を助けてあげられるって自信がついたよ」
「神様に感謝だね」
「うん。本当に神様ありがとうございます!」
そう言って彼女は、お祈りを捧げる様な仕草をした。こんな素直な所が愛おしい。
ふっと彼女に目をやると先程までなかった、いや正確には見えなかった小さな枠が見える。何だこれは?と、その枠をタップする様な仕草をすると、RPG等のゲームでよく見るステイタス画面の様なものが開いた。
(レベル:23 ランク:S 氏名:麻生佳澄 年齢:23歳 身長:153㎝ 体重:44㎏ バスト:84㎝ ウエスト:56㎝ ヒップ:82㎝ 称号:聖女・医者 スキル:飛行能力S・回復魔法S・防御魔法S 筋力: ...)
なるほど、個人情報だだ漏れだ。
称号やスキルはタップ出来る仕様だな、詳細が見れるのかな?と思いながら称号をタップしてみると、やはり詳細画面が開いた。
(聖女:全ての回復魔法にプラス100%の恩恵を受ける。但し、称号保持者が処女でなくなると、称号は剥奪される)
…って、えっ?処女?
こんなに可愛くて23歳だ、さぞかし恋愛経験は豊富なんだろうな?と思っていたので、処女だと知っただけで何だか嬉しくなる自分に、つくづく男って馬鹿だよなぁと思った。では、自分はどうなんだ?と思い、ステイタスをタップしてみると。
(レベル:32 ランク:SSS 氏名:青山瑞稀 年齢:32歳 身長:172㎝ 体重:63㎏ 称号:なし スキル:隠しスキル・女性変化0% 筋力:32 知力: …)
はぁ?称号なしで、スキル何これ?確か私は、魔法が使える様になりたいって願ったはず?まさかのハズレスキルと言う奴か?とガッカリしながら、一縷(いちる)の望みをかけてスキルをタップして確認してみる。
隠しスキルってもしかすると、とんでもないスキルが隠されていたりとか?何せSSSランクだし…と思ったが、タップ出来る仕様じゃない。で、何だこれ…女性変化って何?
(女性変化:進行率100%に達すると永久に女性化する)
だぁぁぁ、やっぱりハズレだ…。
女になりたかったと思った事は1度も無い。女性に生まれたかった人や、スパイが女性に変化すればバレないとか有効に使えそうなのに、なんで私にこんなスキルが…最悪だ。
辺りはもうすっかり暗くなり、パトカーや消防車やらのサイレンの音が大きくなったり小さくなったりしていた。
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