【第2部〜魔界編〜】第30話 犯された瑞稀

 配下達の死者蘇生が終わったタイミングで、ロードとフレイアがやって来た。

「もう起きて大丈夫なのか?ミズキ」

「え、ええ…動いていれば忘れられる。じっとしてると思い出しちゃって…」

抑えていた涙が溢れてくる。

「でもミズキは初めてが、ちゃんと愛してる男だったんだろう?」

「うん…」

「その分だけまだマシだよ。私も初めから強かった訳ではない。私の初めては力づくで犯され、数人に回されたよ。でも、魔族の女なんて大体皆同じだ。好きな相手と最初にヤレただけ良かったと思えばいい」

「そうは言っても、巧と付き合ってた訳だし、彼に申し訳ないと思った筈だわ、私なら」

「そいつを殺してやりたいか?」

「殺してやりたい。でも…人殺しは出来ない」

そう言って天を仰いだ。

「私はね?復讐したわ。強くなって、探し出してあいつら全員殺してやったわ。ミズキはそのままのミズキでいれば良い。だから、もう忘れた方が良い」

「分かった、私も忘れる。今は中国軍の対策を練ろう」

 中国軍は手強いが、数で押して今のところは、城に近づけさせていないらしい。どの様に戦っているのか見たい、と伝えて見学させてもらった。見ると戦術とは程遠く、個人個人がバラバラに個の武勇を頼んで戦っていた。これではダメだ。撤退させた。籠城と称して、城に籠こもらせた。その間に簡単にシステムを整えた。まず、最小単位で5人1組とし、20組で100人規模の部隊を100ほど作ったので1万人だ。次に体育の授業で行う集団行動の基本から叩き込んだ。つまり、「前に倣え」、「回れ右」、「左向け左」等だ。

 これがある程度形になった頃、銅羅を鳴らして音によって動く命令を教えた。わずか5日で軍隊らしく、様になって来た。ちょうど良いタイミングで再び中国軍が攻めて来た。私は指揮をして、敵を疲弊させ、翻弄した。数日前までと、まるで動きが違う我が軍に戸惑っていたが、すぐに対応して来た。流石は本職だ。素人が書物で得ただけの知識とは違う。彼らは実践で得た知識、経験によって身体が自然に動いて、生き残る為の正解を弾き出す。

「実戦はこれが初めてだし、書物で見た兵法書は少し役に立っている程度。知らないより知ってる方がマシな位かな?私が知ってる程度なら、あいつらも当然知ってるはず…」

 指揮や訓練は単純で簡単なものだったが、これまでは力づくだけに頼っていた分、少し統率力が上がっただけで以前とは雲泥の差だ。戦いとは、その僅かな差が勝利を呼び込む。

 城壁から指揮し、射撃を命じていると、突然目の前が真っ暗になって床に崩れ落ちた。配下達が慌てて駆け寄って来た。

「魔王様、しっかり!早く回復っ!」

回復師が駆け付けるより早く、受けた傷は塞がった。1発で確実に私の心臓は撃ち抜かれていた。胸の所が破れ、肌が露出していたので手で胸を隠した。

「あんな距離から百発百中か…王の奴」

『衣装替』衣装を着る呪文を唱えて着替えた。

「やったのか?」

「分からんが、敵の指揮官らしい奴には命中した。多分、死んでる」

「多分って、貫通スキルで間違いなく即死だろう。その証拠に敵の攻撃が止んだ」

「好機だ。突撃しろ!」

「まぁ待て、次は魔王が出て来るかも知れん」

「魔王もSSSランクなんだろう?俺が相手をしよう」

 人間界には神崎瑞稀を含めて3人しかSSSランクがいない。そのうちの1人が、この張玉だ。瑞稀が出会ったのは40年前だが、その頃と全く容姿が変わっていない。彼は「不老長寿」の称号保持者だからだ。

「ワシの貫通スキルは防御不可だ。魔王が現れたら瞬殺してくれるわ!」

ワハハハハと、大笑いした。

「まずは敵将を討ち取ったのを祝して、乾杯ガッ!」

「乾杯ガッ!」

一息で杯に注がれた酒を呑み干した。

「魔族がどんなものかと思いきや、人間と強さは大して変わらんわぃ」

筋骨隆々とした大男が、珍しく口を開いた。身長は190㎝前後はあるだろう。

『声東撃西之計』で明日は正面から攻めて挑発する。そして、陽動で側面から攻撃を仕掛けるが本命は、背後に展開した主力で城門を破る。この作戦が成功すれば、明日の夜は久々にベッドで寝れるかも知れない。魔族は美女も多いらしい。女には当分不自由しそうもないな、自然に笑みが溢れる。勝利を確信して眠りについた。

 400(よんまるまる)時、予定通り敵もまだ微睡みの中にいるであろう時刻に攻撃を開始した。此方の部隊は5人パーティーのうち、正面と東門に1人ずつ、本命の裏門に2人がそれぞれ兵を率いて攻める。SSSランクの張玉は魔王を討ち取る為に控えている。

 正門は敵を引き付ける為に王がいる。裏門には李少佐と許少佐が、合図を待って待機している。この東門はこの俺(馮中佐)が、王の攻撃開始を待っている。それにしても厄介な命令を受けたものだ。地下(影の世界)で人知れず軍事力を強化し、未知の資源も得ようとは。まさか御伽話に出て来る悪魔たちが、本当にいるとはな。ここまで1人の死者も出していないのが奇跡だ。この奇跡が少しでも長く続いてくれれば良いと思う。

「うわっ!」

「ぐっ、敵襲!」

敵襲?馬鹿な一体、何処どこから?

 城壁から光の矢が飛んで来るのが見える。此方とはかなり距離がある上に、茂みに潜んでいる。それなのに正確に矢が当たる。威力は大した事が無く、負傷らしい負傷も無く被害は皆無と言って良い。しかし、馮は何かに気付いて叫んだ。

「散会して今すぐにここを離れろ!」

「中国軍は、あの茂みに隠れているぞ。砲撃用意!」

大砲に似た兵器を茂みの辺りに向けると、込められた魔力を吸収しながら怪しく輝いた。

「撃てー!」

轟音と共に魔導砲が発射される。

「回避ー!」

馮達は全速力で、その場所を離れた。爆音と共に土砂が舞い上がる。地面は抉られ、茂みは無くなり地形が変わっていた。威力はあるが、燃費が悪くて魔力を充填するのに時間はかかるし、消耗も激しい。脅して牽制くらいにはなるかと思い使用した。

「魔王様の発案の魔弓、素晴らしいですな」

飛距離によって威力が段違いに落ちるが、素晴らしいのはそこでは無い。100%の必中効果が付与されている為、敵が潜んでいそうな場所へ放つと、索敵として利用出来るのだ。

 今の所は順調に守れている。しかし、攻城して来たと言う事は、攻城兵器を用いるのが普通だが、それらしき物は見当たらない。つまり敵はそれ以外の方法で、城門を破る手立てがあると言う事だ。空が飛べるんだから簡単に侵入出来るだろう?誰もがそう考えるかも知れない。だから当然、城の周囲には強力な魔力の磁場を発生させてあり、身体が重くなって飛べなくなる様にされているのだ。それが中国軍のSランク以上が、誰も飛んでいない理由だ。飛ばないのではなくて、飛べないからなのだ。それは魔王軍も例外ではなく、討って出るには門を開く必要がある。もしかすると、そのタイミングを見計らっているのかも知れない。考えあぐねている間に、戦況は膠着状態となっていた。その膠着を破ったのは西門の守備兵からだ。定石通り西から攻めなのね?そう思った。当然、予測の範囲内で兵を多めに回している。

「ドーン!」

突然の轟音と共に、城門に風穴が開いた。

幾重にも張られている筈の防御結界をアッサリと破られた。何をされたのかと見ると、正体はロケットランチャーだった。恐らく貫通スキルが付与されている。あれなら携帯も出来る。続け様に数発命中し、城門は破られた。中国は早いうちからスキル付与の研究をしていて、人口的に魔法道具を作り出そうとしていた。

 西門に待機させていた兵士を投入して、壊された門を守らせたが後手に回ってしまっている。そこへ、裏門が猛攻を受けて突破されたと報告を受けた。万が一を考えて実はフレイアを待機させていた。更に正門にSSSランクも現れて門が破られる寸前だと言う。裏門はフレイア、西門はなんとか持ち堪えてもらうしかない。正門は私とロードで食い止める。

「皆んな、ここが正念場だ!」

叫びながら正門に走り込む。

「魔王様に遅れを取るな!」

ロードも兵士を鼓舞して駆け付ける。

 城門が破られ、敵兵が雪崩れ込んで来た。マシンガンの弾には、全て貫通スキルが付与されているのか?それとも銃に付与されていて、弾がその効果を受けるのかは分からない。兵士達の盾や鎧をも貫通して、目の前でバタバタと倒れて行った。魔族とは言え、私を王と仰ぎ信用した者達だ、その死を悼むよりも先に頭に血が昇った。

『光斬撃』

光の刃が斬撃となって敵兵の胴体を真っ二つにする。光魔法は基本的に全て光の速さの攻撃である為、回避不能だ。

 人殺しはしないと心に誓っていたが、一方的に殺戮される仲間達を見て我を失っていた。

「魔王様、まるでバーサーカーみたいだな」

誰かが呟いた。全身が中国兵の返り血で真っ赤に染まって行く。

 人間の本性は獣であり、それを理性で抑えていると言った哲学者がいた。誠にその通りで血は血を呼び、人は血に酔って興奮状態に陥る。

 水滸伝にも血に酔って暴走する記述がある。梁山泊二代目の首領・晁蓋が曾家の毒矢に倒れた復讐戦において、降伏し味方であった筈の扈家に対して、血に酔って暴走した黒旋風李逵が皆殺しにしてしまうシーンがある。後に三代目首領となる宋江にキツく叱られた李逵は、こともなげに言ってのけた。

「まぁ良いや、十分に殺し尽くしたから満足だ」と。

人は血に酔う。瑞稀の目には敵と味方の区別が付いていたのかも分からない。向かって来る敵兵を反射的に殺戮して行く。

「小娘がぁ!」

怒号が聞こえ、顔の右半分が吹き飛ばされて地面に倒れた。ほぼ瞬間的に吹き飛んだ顔は治って起き上がった。

「まさかお前、日本のSSSランクか?何故ここにいる!」

叫ぶと同時に3発の銃弾を発射していた。しかし、私の身体に命中するよりも速く、ロードが銃弾を全て斬り落としていた。

「邪魔をするな!剣が銃に敵うとでも思っているのか!」

「試してみろよ」

ロードは不適な笑みを浮かべて剣を構える。

「瑞稀、すまないな、お前の仇を私にくれ!」

目で合図され、私はその場を離れた。

「逃すかよ!」

私に向けて放たれた銃弾は、全てロードが斬り落とした。

「やるな、貴様。面白い、久々に狩り甲斐のある相手だ」

「たかが土塊から生まれた人形如きが神に挑むなど笑わせるな」

私は敵将を討ち取る役目になったと言う事かな?走りながら考えを巡らせていると、ふと頭によぎった。敵将はSSSランクの張玉って人よね?確か私に熱を上げていた人だとか。戦わずに解決出来ないかな?敵も味方も大勢死んだけど、私の魔法で全員生き返るし。被害が無ければ、戦いも無かった事に出来ないかなぁ。

「瑞稀…?」

「瑞稀ぃー!どうしてここに?まさか攫われて?」

声を掛けて来た男の顔に、何となく見覚えがあったが、やはり思い出せない。

「ごめんなさい。私、記憶が無いの。貴方は私の事を知ってるの?」

「そんな…瑞稀…。ずっと会いたかった」

私を抱き寄せ様として近づいて来た。

「大佐ぁぁぁ!そいつが魔王です!」

光の刃から逃れた兵士だ。見逃してやったのに。

「瑞稀が魔王…?」

私を見た。スキャニングされたのが言葉に出来ないけど、何となく分かった。

「聖女じゃ…ない?し、処女じゃないのかぁぁぁ!」

「なっ、当たり前じゃない!私、結婚して人妻なのよ」

正確にはまだ人妻では無い。結婚を前提に同棲しているカップルだ。

「うぁぁぁ!」

張玉は頭を抱えて叫び出した。

「戦う気は無いわ…」

私は戦闘態勢ファイティングポーズを取るのを止めた。その瞬間、彼の結界の中に閉じ込められた。気が付くと真っ白い空間世界にいた。手足には四角い枷が付けられていた。張玉は私の首を掴んで床に押し付けた。手足の四角い枷はゆかに張り付いて動かせなくなった。

『完全時間吸収(フル・ドレイン)』

何が起こったのか分からない。張玉が私に鏡を見せた。鏡の中の自分の姿を見ると、30代前半の男の姿があった。

「40年前に時間を戻した」

「まずは女に戻ってもらおうか?」

懐から銃を取り出して、私の太腿を撃ち抜いた。

「うぎゃあぁぁぁ」

絶叫して、のたうち回る。

「痛いか?女性に戻れば、そんな傷など一瞬で治るだろう?」

私が女性の姿に戻ると、服を手で引き千切り、下着を剥ぎ取られてあられも無い格好となった。

「ははははは、成功だ。処女に戻してやった。」

「何が起きたのか分からないか?『完全時間吸収(フル・ドレイン)』でお前の40年の時間を吸った」

「これでようやく、お前は俺のモノだ」

全身を隈なく舐められた。特に足の指先から太腿まで時間を掛けて舐められた。中国人は特に足への執着心が異常に強い性癖を持つ者が多い。秘部に舌を這わせられた時、絶頂に達して意識を失った。気が付いた時、すでに上に乗られて腰を振られていた。

「あぁ、ダメ…いくっ。巧じゃないのに、ごめん」

「俺も…イク、一緒に…」

容赦なく中に出されて放心状態の私を愛撫した後、再び腰を突き始めた。

「もうっ、もう、止めて…。お願い…」

「ダメだ、俺の40年の想いは、こんな程度じゃ終わらない」

「ダメ、抜いて…こんなの嫌だ…」

「はぁ、はぁ、愛してる。ずっと忘れられなかった。もう、誰にも渡さない。ずっとここで2人っきりで暮らそう」

「やだぁ、止めて!お願い、もう止めて!抜いて、下さい…」

「はぁ、はぁ、気持ち良いか?うっ、イキそうだ…うっ!」

「うっ、もうやだぁ。死にたい。巧、巧ごめんなさい…あっ、はぁ、うっ…イっちゃう…ダメなのに…あぁ…」

「一生ここで2人で暮らそう?俺の子を生んでくれ」

何度も何度も無抵抗の私は犯され続けた。両手足首に付けられた枷が床と一体化して身動きが取れず、抵抗出来ないからだ。しかし彼は、乱暴に私を犯した訳ではなかった。優しく耳元でずっと愛を囁いていた。私と過ごした時間、どれほど幸せだったのか、私がいなくなって、どれ程の長い刻ときを苦しみ続けたのか、と。抱かれ続け、何度も絶頂を迎え、やがて私は抵抗する気力が無くなり、言われるがままに口で奉仕もした。彼は手足の枷を外してくれた。もう逃げる事も抵抗する事も無くなった私を、嬉しそうに何度も抱いた。女性化が維持出来なくなったのか?男の姿になった。

「おい、舐めてるのか?すぐに女に戻れ!」

「ダメです。戻れないみたいです…」

「なんだと?あ、あぁ、そうか。魔力切れか」

暫く彼は思案していた。

「魔石で魔力を回復しても良いが、どうしたものか」

結局今度は吸った40年の時間を私に戻した。

「魔力が戻れば逃げられるかも知れないからな。もう、処女のお前を抱いて満足したから元に戻した。これでずっと女のままだ。魔力の無いお前は、ただの女だからな」

「張玉、貴方は優しかったわ。何で無理矢理こんな事を…?」

「俺を責めているのか?お前が悪い。お前を失ってから俺の人生は下り坂だ」

「どうして?」

「お前を庇って王と揉めた。そのおかげで背信行為だと見なされた。懲罰で過酷な労働に従事もさせられた。地獄の様な最前線に送り込まれて生き残り、功績を上げて再び今の地位に這い上がったんだ」

「後悔してるの?貴方に食事に連れて行ってもらったり、足湯で私の足を洗ってくれた事、楽しい想い出だったわ」

実は全く覚えてないが、自動音声ガイドが言っていたのを思い出して話した。

「でも貴方が私にやった事は犯罪行為だわ。強制猥褻、強制性交、強姦、監禁、わざわざ処女に戻して処女膜を破ったから傷害罪も立憲出来るわ」

「馬鹿な、俺はお前を愛してるんだ!それに、これは戦争だ」

「戦争だったら何しても許されるの?それに愛してるから犯罪じゃないって?まるでストーカーの言い訳ね?」

「違う、違う、違う…」

「私は貴方の事が嫌いじゃなかったわ。いいえ、むしろ好意的だった。でも貴方は私を力づくで犯した事によって、貴方への感情は憎しみしかない。犯罪者に好意を持つ人なんている訳ないじゃ無い!」

「そんな事は分かってる。だけど、もう俺の心が限界だった…。40年、40年だぞ!会いたいのに会えない苦しさ。やっと再会したと思ったら人妻だと?心が手に入らないなら、せめて身体だけでも手に入れたいと思ったんだ」

「はぁ、何でそんなに私に固執してるのよ?中国にも絶世の美女がいるじゃないの?」

「范林の事か?あいつは性格が悪いからダメだ」

「是嗎スィーマ?(そうなの?)」

私も性格が良いとは言えないけど、范林さんは高飛車で高慢なのかもね?美女に多そうな性格だな。

「手討ちにしてあげる案があるんだけど話、聞く?」

「お前に嫌われたままでいたくない。話を聞こう」

「私のステイタスを知ってるなら分かるわよね?双方の被害者を私が生き返らせる。そして、大人しく撤退して頂戴。資源の為に来たのよね?なら、交易を結ぶわ。争う必要はない」

それから私がここにいる経緯を話した。

「それから、最後に1番重要なのは、私の身体を貴方に抱かれる1日前に戻しなさい。だからと言って、貴方が私を抱いた記憶が、私が貴方に犯された記憶が消える訳じゃない。これは自己満足なの。貴方に犯されてない身体に戻りたいのよ。戻してくれれば、恨みは忘れる」

「本当に忘れてくれるのか?またデートしてくれるのか?」

「またデートするかどうかは貴方次第じゃないの?」

「分かった、全て要求を飲む」

私の時間が1日前に戻った。そんなの実感なんてないし、彼が戻したフリをしてても私には分からない。でもこの状況で嘘は付かないだろう。それに身体が戻ったからと言っても、抱かれた忌まわしい記憶が消える訳じゃない。それでもこだわったのは、巧に対して、後ろめたい気持ちになりたくなかったからだ。自分でも言ったが、全ては自己満足だ。それで事実が変わる訳ではないのだから。



「くくくっ、どうしたそれで終わりか?」

「くそっ、こんな筈はずは無い。剣が銃を上回るなんて事がぁ!」

王が持つ全ての技、スキルを繰り出しても悉く斬り落とされ、あるいは叩き落とされた。

 ロードの亡き父は、神々の剣術師範だったと言う。その剣技を受け継いだロードの剣筋は、人間では到達不可能な域に達している。剣であれば彼女に敵う者などいないだろう。

「うぉぉぉぉ!」

銃口を向けた瞬間に王の両手首は斬り落とされた。

「うぉらぁ!」

右足を銃口にしてロードに放ったが、躱されて右足を斬り落とされ、返す刃で左足をも斬り落とされた。

「ぎゃあぁぁぁ」

両手両足を斬り落とされて、激痛でのたうち回り、地面を転がる。

「殺せ、殺せぇ!」

「楽に死ねるとでも思っているのか?貴様は生まれて来た事を後悔するほどの苦痛を与え、嬲ってやろう」

「うぁぁぁぁぁ」



結界から戻って来ると、ほぼ戦は終わっていた。魔族は勝利の雄叫びを上げていた。

張玉は膝から崩れ落ちて、項垂れた。

「ミズキ!」

ロードが声を掛けて来た。片手に肉の塊となった王をぶら下げて、私の方に放り投げた。

「お前の仇を討った。トドメを刺すなら早くした方が良い。虫の息だ。すぐに死ぬ」

王は両目をくり抜かれ、両耳、鼻、唇、性器を斬り落とされ、両手両足は無く、皮を剥ぎ取られていた。

「うっ…」

私は吐きそうになり、口を押さえて目を逸らした。

「恨みを晴らすなら、楽に殺すな。少しずつ肉を削ぎ、内臓を引き摺り出すんだ」

「ロード、怖いよ。そこまで出来ないよ」

ロードは私には優しいが、やっぱり悪魔なんだな、と思った。

「ふふふ、ミズキは甘いな。まぁ、それも良い。統治者には慈悲の心も必要だろう。魔界では足元を掬われるがね」

私は皆んなを集めた。

「皆んな聞いて!此度の戦、よくやってくれた。戦いは終わりだ。実は私は敵将に捕えられた」

ざわざわと騒がしくなった。

「皆が得た勝利だが、総大将の私が不甲斐なくて申し訳ない。私は解放される代わりに停戦を提案した。しかし、既に中国軍の捕虜も皆殺しにされており、生き残っているのはここにいるSSSランクの張玉だけだ」

「SSSランクでも全員でやれば殺せる」

「殺せ!殺せ!殺せ!」

「生きて返すな!」

殺気立っている配下を抑えるのは難しいかも知れない。

「皆んな待って!さっきも言った通り、私は捕まり解放される為の条件を出したの」

「停戦って、こっちの勝ちで終わったろう?そいつブチ殺して終わりだよ」

「そうだ、そうだ!」

「皆んなも知っている通り、私の蘇生呪文で亡くなった仲間は全員生き返る。彼らも生き返らせて、双方被害が無い状況に戻す。彼らが戦を仕掛けて来た理由は、資源が目的。そこで、我国は中国と交易する事を条件に停戦した」

「そんな事する必要あるのか?」

「そうだ!そんな奴ぶっ殺して、ズタズタに引き裂かれた遺体を送り返してやれば良い」

「それをすれば、遺恨が残る。この地に次々と兵が送り込まれ、戦乱が続く事になる。我らは、魔界制覇に乗り出している。後顧の憂いを取り除かずして、成し遂げられるの?」

「うーむ、確かに魔王様の仰る事も正しい」

「魔王様に従います!」

「魔王様は英明なり!」

配下の兵が全員、跪いて私の言葉に従った。

「説得などまどろっこしい事などせずとも、命令すれば良いものを」

「そこが我らが王の良い所じゃないのぉ、ロード」

あははは、と笑いながらフレイアはキセルを吹かした。

 生き返った中国兵らは地上に帰って行った。破壊された城門も城壁も魔法で修復され、傷一つ無い状態に戻った。ようやく束の間の平穏を取り戻した。いよいよ次は、魔王クラスタ攻略に乗り出す事になる。

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