【第3部〜神国編〜】第47話 はじまりのおわり【第3部完結】
全速力で飛んだ。
私を撃ち落とそうとする迎撃ミサイルを掻い潜って、日本に戻って来た。山口県の上空から地上を見ると、焦土と化していた。まともに建っている民家は一軒も無い。地上に降り立つと、燃えた後の独特な臭いが辺りに漂っていた。炭になった住宅に行ってみたが、焼死体などは見当たらなかった。
「何処かに避難出来たのかな?」
生存者を今の所は、誰も見かけていないので不安になって来た。
「全く状況が分からない。ラジオでも持っていれば良かった」
道路に沿って飛び、周辺を探った。全く人の気配が感じられない。そんな事があるのか?
暫く探していると、中国軍の国旗を付けた大型トレーラーが100台以上停車している所を発見した。こっそり中を覗くと、トレーラーの中に押し込められた100人以上の幼い女の子達(小学生や中学生くらいに見える)が、自分の父親よりも年上であろう兵士達から代わる代わる犯されている光景だった。
別の車両では、男性ばかりが集められており、生きたまま臓器を取り出されて、遺体は打ち捨てられていた。そしてそれを何処かに運んでいる者がいた。臓器を取り出し、冷凍保存するクーラーボックスに収納する。手際よく機械的に淡々と行っていた。よもや人間の所業ではない。
「こんな幼い子供達によくも…よくもこんな酷い真似を!」
怒りで頭に血が昇ってクラクラする。ヴィシュヌに自分がされた事と重ねて過呼吸になり、苦しそうに胸を押さえて息をした。
「我会把你们都杀掉!(ウォフィバニーメンドゥシャアディアオ!)(皆殺しにしてやる!)」
少女達を襲っている男達に向かって『死誘鎮魂歌(レクイエム)』を唱えて瞬殺した。
そんなトラックがまだ100台近くある。恐らく近くにあった小中学校から集められたのだろう。まだ7歳くらいの女の子が、下腹部から血を流して泣いているのを見て我を失った。
中国兵の遺体から日本刀を奪い取ると、1車両ごとに斬り込んで1人1人殺して行く。銃弾を弾き、叩き落として間合いを詰め、1人また1人と斬って行く。
「杀!(シャア!)(殺す!)」
「杀!(シャア!)(殺す!)杀!(シャア!)(殺す!)杀!(シャア!)(殺す!)」
憎しみに心が支配され、1人殺すごとに血に酔い、人殺しに快感を感じる様になって来た。銃弾を弾いているうちに、刀に限界が来て折れてしまった。意に介さず折れた剣で斬りかかる。
『練気剣(ヴァジュラ)!』
気を練り、折れた剣の先に気が凝縮されて生み出された刃で敵を斬る。
かつて帝釈天(インドラ)が見せてくれたので、模倣(ラーニング)していた。練った気の強さが、そのまま剣の斬れ味となる。
少女達を助け出すと、今度は臓器を抜き取っている施術師に斬りかかった。背後を取られない様に立ち回っていたつもりだったが、銃弾が背中から胸を貫通すると、数十発もの弾丸を撃ち込まれて倒れた。兵士の1人が近づいて来て、私の頭を機関銃で撃ち、肉片が飛び散った。次の瞬間には、吹き飛んだはずの頭は再生し、私を撃った兵士を真っ二つにした。
『光矢速連撃(ライトニングアロー)』
光の矢が無数の光線を放って、中国兵の身体を貫いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、魔力が3分の1くらい減ったな」
臓器を抜かれて死んだ者達を生き返らせ、少女達には『回復(ヒーリング)』をかけてあげた。女の子達に抱きつかれ、わんわん泣かれた。
「お姉ちゃんも、皆んなと同じ様に男の人から酷い事された事があるの」と泣くと同病愛憐れみ、共に泣いた。
生き返った男達に提案した。
「皆んなを生き返らせた様に、私には死んだ人を生き返らせる魔法が使えるの。憎いのは分かるけど、このまま死なせてると、人殺しをした気になって心が痛いの。中国兵も生き返らせたい。ただ、私の命令に絶対服従する様に生き返らせる事も出来るの。どうかしら?」
「こんな奴らを生き返らせても仕方ないだろ?生き返ったら、俺たちが殺してやるよ!」
ほとんどの者の意見は同じだった。
「気持ちは分かる。でも、ここに中国兵がいれば、逆に彼らに守ってもらえるから安全になるのよ。どこもここと似た様な感じなら、安心して暮らせる場所が必要になると思うの。他にも同じ目に合ってる人達を助け出して、ここに連れて来たい」
「なるほど、あんたに救われた命だ、従うよ。でも女の子達を犯した奴らまで生き返らせたら、トラウマで女の子達は怯えて一緒には暮らせないんじゃないのか?」
「それには考えがあるの」
ここを拠点にする為に瓦礫を集め、周囲を囲って、女の子達と男達の住み分けを行い、中国兵の乗っていたトレーラーのうち、3台を寝室にした。トレーラーには十分な食料が冷蔵されて積まれていたので、当分は大丈夫そうだ。医薬品もある。ここを拠点キャンプにして、周辺を飛んで回った。
山口県は本州の最西端だ。中国兵を日本から駆逐する為にも重要な土地だ。広島も空襲されていたから、山口と同じ様な事になっているかも知れないと考えていたが、何せ私は1人しかいない。1人で出来る事は限られている。それに日本政府も、やられっぱなしではないだろう。必ず反撃する準備をしているはずだ。まさか降伏などしないだろう?魔石が無いから魔力の回復は、中国兵から『魔力吸収(マジックドレイン)』で魔力を奪って回復した。彼らを生き返らせたのは、私の電池になってもらう為でもあったのだ。
拠点キャンプは山口市にあり、そこから少し南西して宇部市を捜索した。中国軍のトレーラーを発見すると、やはり同じ事を行っていた。中国にも回復士はいるが、世界の人口4分の1は中国人だ。そんな人数を賄えるほどの回復士はいない。だから、まだまだ医療技術に頼っている。数が足りていない臓器は、いくらあっても足りないのだ。
女の子達は、死と隣り合わせの兵士達のストレスを和らげる為の報酬であり、むしろ好きなだけ犯して良いから日本を制圧しろ!と指揮を高める餌として使われていた。自分達の報酬であるから、女の子を見つけては犯した。それを邪魔した親や恋人も目の前で殺して、死にたく無ければ大人しく姦らせら!と頭や口に銃口を突きつけて、犯した。母国でこんな事をすれば銃殺刑にされる犯罪だ。戦争最高だ、万歳!と喜んで兵士となる者も多かった。むしろ母国では、日本人の美少女を好きなだけ犯しても罪にはならないと煽って兵士を募集していたのだ。
『死誘鎮魂歌(レクイエム)』
効果範囲を拡大して、女の子達も含めてしまうが、全員を即死させた。勿論、女の子達も臓器を抜かれた男達も生き返らせた。中国兵も生き返らせて、山口市の拠点キャンプと同様にして守らせた。
臓器を抜いていると言う事は当然、それを受け取りに来る者がおり、食料・武器弾薬を補給しに来る者もいると言う事だ。彼らは補給の手続きが終わると、休憩と称して女の子達を犯してから戻って行くのがルーティンだった。補給兵は女の子を犯す前に射殺しろ、と私の操り人形になった中国兵達に命じていた。補給兵が戻って来ない事に不審を感じて、1個中隊が調査に来た。
調査の間、その隊長の夜伽の相手を私がすると言って、現れた私の美しさに思わず口笛を吹いて喜んだ。こんな美女を抱けるのか?と。その隙を逃さず練気剣(ヴァジュラ)で、右腰から左肩まで斬り上げて真っ二つにした。中国兵が反応するよりも速く間合いに入り、片っ端から斬り捨てた。これでも魔界と天界を統べる女帝だ。人間相手に最早、遅れなど取らない。他の拠点キャンプもこれではキリがない。下関と徳山、長門、柳井に輸送船タンカーが着港しており、そこを中国軍は拠点にして、山口県を侵攻している事を突き止めた。中国兵から銃と弾薬を奪い、『魔法箱(マジックボックス)』に弾薬のストックを入れて、下関のタンカーを襲撃しに向かった。タンカーは、下関市の彦島に停泊していた。宇部市から車で行けば、1時間半から2時間くらいかかる距離だ。それを全力で飛び、わずか2分ほどでタンカーまで着いた。当然、銃を持った見張りがいる。正面から斬り込んでも、今の私なら皆殺しに出来るだろう。しかし、自惚れていると足元を掬われる。
『影の部屋(シャドウルーム)』
影の世界を抜けてタンカーの中に侵入した。タンカーには、下関周辺から掠奪したであろう宝石やお金、食料などの物資が積み込まれていた。勿論、武器弾薬から医薬品もある。タンカーごと沈めてやるつもりだったが、あの物資は日本の復興の為には必要だ。このまま沈めてしまうのは惜しい。
影の世界から姿を見せると、私を銃撃して来た。左肩を撃ち抜かれたが、私も銃を乱射した。銃神スキルは、適当に引金を引いても必ず敵に命中する。中国兵の姿が見えると同時に、引金を引いて撃ち殺していく。慣れは恐ろしい。人を殺しているのに、まるでアクションゲームをしている見たいに、楽しみながら射殺していく自分がいた。何せ百発百中だ。アトラクションゲームの様に現れる中国兵を1人、また1人と撃ち殺していく。
「うふふ、あははは。楽しいわぁ」
すでに200人以上殺害している。感覚が麻痺し、殺戮に酔う。返り血を浴びて、薄ら笑みを浮かべる私を見て中国兵は怯えていた。命乞いをする者も情け容赦無く、撃ち殺した。タンカーの内部に誰もいなくなると、甲板に出た。その直後、頭を撃ち抜かれ脳髄が飛び散った。
ライフルで狙撃された、あの一瞬で狙いをつけたのか?良い腕だと思い、弾が飛んで来た方向に向けて銃をぶっ放した。100%命中する弾は、確実にスナイパーの頭を撃ち抜いていた。
「せっかく手に入れた銃神スキルだもの、使わないと勿体ないじゃない?決めたわ。人間は皆殺しにする。人はどこまで行っても残酷で愚かだ。滅べば良い。人が争うのは人間界の王がいないからだ。私が人間界を支配してやろう。お前達を管理する。天界から神族と魔族を引き連れ人類を滅ぼす。あははは」
タンカーに残っていた中国兵は、『死送鎮魂歌(レクイエム)』で殺した。
天界へ地上に攻め込めと命令したが、瑞稀が支配する東洋天界は西洋天界の神々に攻め込まれ、それどころではなかった。
「全く反応が無いな?私の命令を無視するなんて」
イライラして、すでに死体となっている中国兵に銃を乱射して八つ当たりした。
「どうした?小虞(シャオ・ユー)。ご機嫌斜めじゃないか?」
韓国から日本に瑞稀が戻ったと聞いて、項籍も帰って来た。
「どうして?私の居場所が分かったの?」
「俺のスキルだ。お前が浮気して男とラブホテルにいたのも、このスキルで分かった」
「梵天(ブラフマー)と帝釈天(インドラ)の事を言っているの?もう、別れたから安心して。もう2度と貴方を裏切らない。今度は漏らすだけじゃ済まなくなりそうだもの」
頬を少し膨らませて拗ねてみせた。
「ねぇ、阿籍(ア・ジー)。私に力を貸して。人類を滅ぼすわよ」
「おい、おい、一体どうした?お前らしくもない」
私は阿籍に、これまでの経緯を話した。
すると項籍は、「何を今更。そんな事は分かっていた事だろう?」と、嗜たしなめられた。意外にも阿籍の方が達観していて驚いた。
「皆殺しにして、生き返らせて統率するのか?まぁ、お前なら簡単に出来るだろう。お前の命令には従う様になるからな。国と言う概念も無くして、人間界としてまとめるんだな?」
それではまず、と牙戟を頭の上で振り回すと、小さな台風の様な高魔力を帯びた風の渦が生まれた。それを空に向けて放った。
その渦に吸い込まれる様にして、雲が柱の様に天まで昇ると、それを中心にして空に巨大な竜巻が発生し、成層圏にまで達していた核の死の灰を吸い込みながら集まっていく。徐々に空に晴れ間が見え、太陽からの暖かな陽射しが大地を照らした。10分もしないうちに、日本上空の死の灰は消えていた。その渦はどんどん広がって行く。
死の灰を吸い込みながら。
「凄い。これなら間も無く全世界が陽に包まれる。なんでもっと早くやらなかったの?」
「もう俺は人間ではないのだ。なぜ助けてやる必要がある?」
「じゃあなんで今、助けたの?」
「助けた訳じゃない。お前が支配する土地が死の大地では意味が無いだろう」
殺した中国兵を生き返らせて、『魔力吸収(マジックドレイン)』で全ての魔力を奪った。そして上空に飛んで、地上全てを効果範囲に収めていく。
『死誘鎮魂歌(レクイエム)』
もう地上で動いている生物はいない。
人間だけでなく、全生物に効果がある事を、瑞稀は今知った。
「それもそうか、神でさえ『死送鎮魂歌(レクイエム)』を受けて死んでいたからね」
地球上の全ての生命を奪った。そして瑞稀の身体が光に包まれ、辺りを照らす。
『黄泉還反魂(リザルト)』
この瞬間、地上世界は瑞稀の手に落ちた。人類はようやく永遠の平和を手にしたのだ。これからは人々が争う事などは無い。
暴力による争いの禁止を命じたからだ。
人類は全てが等しく瑞稀の操り人形となった。命令には絶対服従だ。だが、ずっと人類を見守り関わり続ける事も不可能だ。
だから、それ以外は自由に生活させる事にした。私は全く音沙汰の無い天界が気になっていたのだ。もうじき私はここを離れる。もしかすると、人間界に来る事はもう無いかも知れない。そう思いながら、阿籍を抱きしめて空を見上げた。
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