【第1部〜序章編〜】第17話 初めての…②

 9月になった。

それでもまだ陽射しは強く、ただ歩いているだけで汗だくになる。昨今の異常気象のせいだ。地球温暖化の影響は、気付かないうちに進行する病の様なものだと思う。

「暑っいなぁ。いつになったら涼しくなるんだ?」

そう言いながらも実際は、あと1ヶ月もすれば涼しくなって来るだろうと思ってた。毎年10月の2週目頃には突然、肌寒くなって来て、先週まで半袖だったけど?なにこの寒さ、みたいな感じになるのがここ数年の常だ。

「ふぅ、まだ来ていないな?良かった、待つ方で」

彼女の姿が見えて手を振った。

「ごめーん。待った?」

「いえ、全然待ってないです。今来たばかりなので」

実際、5分も待たずに麻生さんは来た。今日は、麻生さんと映画を観る為に待ち合わせていた。

(はぁ。めっちゃ可愛い。綺麗。信じられない。こんな女性ひとが自分と付き合ってくれるなんて)

手を繋いで並んで歩きながら、幸せを噛み締めていた。

 映画は、麻生さんの推しアニメだ。医務室にも、このキャラクターのマスコットが飾られている。麻生さんは一喜一憂しながら反応し、完全にアニメ世界と一体化して没入していた。麻生さんがキャッキャ喜びの悲鳴を上げながら、観てる姿に自分も嬉しくなって来た。繋いでいる手の手汗が滲にじんで、自分のか?麻生さんなのか?あるいは2人ともなのか?分からなかったが、全力疾走してるのか?と言うくらいに心拍が上がっていた。

「はぁ。面白かったね?ごめんね。手汗かいちゃって、びちゃびちゃだ。ふふふ、手を洗ってくるね」

化粧室に向かったので、自分もトイレに行った。

「私ね、集中すると手汗をかいちゃうの。ごめんね」

「謝らなくて良いよ。俺も緊張すると手汗をかくから」

「何で緊張するのよ?」

「麻生さんと手を繋いでるのが緊張しちゃって」

「あははは、私ね。青山くんの彼女なのよ?私の全部、青山くんのモノなの。緊張する意味が分からないよ?」

愛しい度が高まり過ぎて、思わず麻生さんを抱きしめた。麻生さんも手を回してくれ、見つめ合った。そのまま唇を重ねた。まだ人前だったけど、周りの人達は関心が無いのか、2人の世界に浸ひたっている自分達を見ない様にしてくれているのか?足早に素通りして行った。

「引かないで下さいよ?ファーストキスでした」

「うふふふ、私も初めてよ」

「あっ、でも青山くんって、もしかすると…ドーテーくん?」

「32歳でキスもまだだったなんて気持ち悪いですよね?」

「そんな事ないよぉ。お互い初めてどーしだし。って何言ってるの私」

顔を赤らめて両手で手を隠した。その仕草がまた可愛らしい。

 10代でH経験する人が多いから、未経験の麻生さんも興味があったんだろうな。23歳まで大切に守って来てくれてありがとう。2人の距離がもっと縮まって、いつかそうなれたら良いなと思う。とは言っても、山下の様にガンガン来られても、やりたいだけ?って思われそうで怖い。こればっかりは、雰囲気とタイミングが重要だな。

 麻生さんとディナーを楽しんだ後、食後の運動でゲーセンに行って遊んだ後、家まで送って行った。玄関前でサヨナラとまたね、のキスをして別れた。一度口付けすると、当たり前の様に出来る様になる。幸せ過ぎる。山下も女性の私と一緒にいる時、こんな気持ちなのだろうか?

「麻生さんとキスした…」

はぁぁぁ、何て幸せなんだろう。こうやって、少しずつ関係が深まっていくんだな。半年後、いや最低でも1年後には麻生さんとHしているに違いない。

 麻生さんは女医さんだ。

麻生さんは、回復魔法の効果を100%プラスすると言う、超強力なスキルを持つ「聖女」の称号がある。(女性変化した時の私も持っているけども)

 日本で唯一のSランクである麻生さんの事は、日本政府も把握している。(私がSSSランクである事は隠しているが、白面の魔女がSランク以上である事は把握されている。何故ならSランク以上だと飛行能力のスキルを持っており、白面の魔女が空を飛んでいる所を、写真にも動画にも撮られているからだ。)

 日本政府としては、麻生さんの貞操を守る為に、私に接触して来る可能性がある。世界情勢や日本の立場を訴えられ、金でも渡されて「別れろ!」と脅されるかも知れない。麻生さんと付き合い始めて間もないから、まだ動き出して無いけど、1ヶ月も付き合うとHするカップルもいるから、今月中に接触して来る可能性がある。当然、拒絶するが、家族を人質に取られる様な真似をして脅されたら、どうすれば良い?その場しのぎで別れると言うのか?いや、出来ない。それに当然、念書を書かされるだろう。そうなった時、SSSランクである事を明かして、麻生さんとの交際を認めてくれる代わりに、国に協力するとでも言うしかない。日本政府からすれば、Sランクと引き換えにSSSランクが手に入る事になるのだから、承知するに違いない。

 山下の彼女が実は私だと知った時、麻生さんはどんな反応をするのだろうか?騙してたと怒って、フラれてしまいそうだ。山下にも軽蔑されるだろうな。自分の彼女が、実は中身が男の私だと知ったら…。

 だったら言う意味はあるのか?いや、ある。麻生さんの自由と引き換えだ。私は不老不死だから、永遠の時間を生きる。麻生さんは、悲しくて考えたく無いが、いつか必ず亡くなる。山下は不老長寿だから、女性の私とは長い時間を一緒に過ごす事になるだろう。その頃には男の私は死んでいて、女性変化100%永続中となり、女性として生きているに違いない。ただそうなっても、子供だけは絶対に作る訳にはいかない。スキルは遺伝しない。神の声に願って手に入れたスキルだからだ。それに願ったスキルと同じではなくて、近いスキルが手に入る。何故なら私は、女性変化なんて望んで無いからだ。とすると、子供は長寿ではなく、無限の時間を生きる私にとっては、一瞬で亡くなってしまう事になる。山下が不老長寿なら、一体何人の子供を生む事になる?それに長寿でも、いつか山下も亡くなる。私は悲しくて寂しくて孤独に耐えられず、また山下の面影に似た相手と付き合うかも知れない。それが自分の子供の子孫とは知らずに。子供を生めば、自分の子孫と再婚してしまう可能性があるのだ。生む訳にはいかない。考えればキリがない。そう考えていた時、黒猫の目を通して映像が脳裏に描き出された。覆面の男達に麻生さんが拉致されている映像だ。

「今、玄関まで送って来たばかりだぞ!?」

慌てて『女性変化』を唱えると、全力で飛んで向かった。上空から攻撃を仕掛けても良かったけど、車が横転したり事故したりすると麻生さんも無事ではいられない。車内で麻生さんに変な事したり、傷付けたりしたら、絶対に許さない。山奥にある廃工場で車は止まった。どうやら麻生さんは気を失っている様だ。犯人達の目的が分からない。全部で6人いる。そのうちの1人が麻生さんの服を脱がせ始めた。まさか最初から、猥褻行為が目的か?

「お前達それ以上、麻生さんに変な事をしたら許さないわよ!」

地上に降り立ち、怒りに震えた声で犯人達に言った。

「うひょう。本当に白面の魔女が現れたぜ」

「まずはその仮面を取って見せてくれよ」

「お前達は何者だ?」

「月並みな質問をするねぇ?だが、発言権はこちらにある事を忘れるな!」

細身の男がアゴで指図すると、麻生さんの服を脱がそうとした、小太りの男は麻生さんの頭に銃を突き付けた。

「分かったわ」

白面の仮面を外して床に投げた。

「おぉ~。溜息が出るくらいの美女だな」

「殺すのが惜しいな」

「私を殺すのが目的なの?どうして?何かしたの?」

「あははは。無自覚が1番タチが悪いってなぁ。お前がこの間、倉庫で捕まえた奴は組織の仲間でな。報復にお前を殺せって命令されたのよ。このSランクと仲が良いらしいから誘い出せるってな。じゃあ、あばよ!」

「ぐはっ」

突然何かが、背中から胸を貫通した。血を吹いて地面に倒れると、血の付いたゴルフボールが跳ね返って目の前に転がった。

「ゴルフボール…?」

遠ざかる意識の中で、男達の声を聞いた。

「おーい、まだ声が聞こえるか?このSランクがお前を殺した犯人って事になるのよ。わははは!」

男達は笑いながら立ち去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る