【第1部〜序章編〜】第16話 初めての…①

 あれからしばらくは何事もなく、平穏に過ごしている。今日は土曜日で休みなので、山下と部屋でイチャイチャしながら、華流ドラマを見ている。今夜はお泊まりの予定だ。初めて一緒にお風呂に入る予定なので、昨日から緊張しっぱなしだ。

「ねぇ、そろそろ晩ご飯の買い出しに行かない?」

「そうだね。瑞稀の手料理が楽しみだ」

嬉しそうにして肩を抱いて来た。手を繋いでアパート近くのスーパーに行った。近所の人に会ったので、挨拶して会釈をした。

「良い娘だね、瑞稀は。自慢の彼女だよ」

「ふふふ、おだてても何も出ないよ?」

「いーや、出るよ?瑞稀の愛を感じるよ」

「あははは、なにそれ?」

手繋ぎから腕組みに変えて寄り添った。こう言うのをリア充って言うのかな?幸せだ。アパートに戻って料理を始めると、山下が背後から抱き付いて来た。まるで新婚さんみたいだ。

「もーぅ、料理出来ないよぉ。待ってて。すぐ作るから」

今夜は王道で肉じゃがにするつもり。

「あっ!」

突然、頭の中に映像が浮かび上がった。黒猫の目を通してパトロールしているのだ。慌てて料理の火を消した。

「ごめん。本当、ごめんなさい。行かなきゃ」

「事件か?」

「うん」

そう言うと、アパートを飛び出して白面を着けると、飛んで向かった。

「やれやれ。今の関係に不満が無いと言えば嘘になるな。瑞稀はこんな事、いつまで続けるつもりだろうか?ずっとなら…俺が耐えられないかも知れない…」

山下は溜息をついた。

 瑞稀は深夜2時過ぎに帰って来た。

「ごめんね。遅くなって、ご飯どうしたの?」

「待ってたよ。瑞稀も食べてないだろう?」

「うん。でも今から作るのは…ごめんね。明日、作るから」

そう言うと、生活魔法を唱えて料理を出した。晩ご飯を食べ終わると2時半を回っていた。

「じゃあ、一緒にはいろうか?でも、あんまりジロジロ見ないでね?恥ずかしいから」

瑞稀が先に入って身体を洗っている所に、山下は入って来た。

「スベスベで柔らかくて気持ち良い」

「もう、触り過ぎだよ。それに…当たってる。背中に当たってるよ。その…男の人だから仕方ないけど…」

「仕方ないだろう?好きな女性の裸を見て興奮しない男はいないって」

瑞稀は恥ずかしそうに、お湯をかけて泡を流すと、素早く湯船に浸かった。

「あれ?もしかして生えてないの?」

「サイテー!そう言うのは、口に出しちゃダメだよ。その…一応生えてるんだけど…産毛みたいのが。丸見えだから、見ないでね」

「やっばい。最高過ぎる」

山下も湯船に浸かって来て、瑞稀の肩を抱いた。瑞稀は、山下の肩に頭を乗せて寄り添った。

「はぁ。なんだかめっちゃ疲れたよ…」

そう言って目を閉じた。

「頑張り過ぎだよ。今日は、どんな事件事故があったんだ?」

瑞稀の返事は無く、顔を覗き込むと寝息を立てて寝ていた。

「お疲れ様。…って、瑞稀!おーい!瑞稀さーん!」

熟睡した瑞稀を揺さぶっても、起きなかった。

「どうするんだ、これ?まさか俺が下着を着けてあげる訳にはいかないよな…。そうだ、バスローブがあった」

なるべくあまり見ない様にして、瑞稀の身体を拭くと、バスローブを着せてベッドに運んだ。

「めっちゃ可愛い…」

軽くキスをすると、バスローブをめくって胸に触れていた。

「ダメだ。もう我慢出来ない」

避妊具をタンスから取り出すと、装着した。

「う~ん、ごめん。寝てた?」

瑞稀は半分、寝惚け眼で起き上がった。

「えっ?瑞稀!今ちょっと…」

慌てて前を隠して、挙動不審な行動を取った。素早く前に回り込むと、装着された避妊具の先に白濁色の液が溜まっているのが見えた。

「キャア、えっ!ちょっと、まさか…?」

『ステイタスオープン』

「聖女」のスキルを確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。処女でなくなると、「聖女」のスキルは失われるからだ。

「はぁ。寝てる間にされちゃったのかと思って焦ったわ」

「ごめん…」

「私が寝てるから我慢出来なくて、1人でしちゃったのね?」

「…」

「なんだか、凄くバツが悪いね…あははは。その…私も悪いね…何だかごめんね。その…お風呂入った時、手で良いなら…してあげようか?」

「本当に?でも、そこまでしてくれるなら、口でして欲しい」

「それは無理だよ。だいぶ覚悟がいるから…ごめんね」

「分かったよ」

「ふーん、でも。何処に隠してるのよ?写真?DVD?」

「えっ?瑞稀を見ながらしたよ…」

「えぇ!あっ!」

はだけたバスローブの下に、何も着けていない事に気付いて、顔を真っ赤にした。

「マジサイテー!」

『衣装替チェンジ』

生活魔法でパジャマに着替えると、そっぽを向いて寝た。

「瑞稀ちゃん、ごめんよぉ。許して、ごめんなさい」

「もう良いよ。怒ってないよ。ただ残念だったの。信用してたから寝落ちしちゃったのよ。警戒してたら眠ったりしないよ?何だかね。残念だったの」

「ごめん。もう2度としない」

「当たり前じゃない。今度やったら別れるからね!」

しくしく泣き声が聞こえた。

(あーもう、面倒くさいな。男のくせに女々しく泣くな)

「ごめん…もう、3時…過ぎて…る。眠ら…せ…」

すー、すーと寝息を立てて、あっという間に眠りについた。

「う~ん!良く寝た…かな?」

今日は日曜日だから会社は休みだ。

時計に目をやると8時15分だった。

「ふわぁーあ。平日なら会社が始まってる時間だね」

欠伸をしながら、口を手で押さえた。

ふと、ベッドの横を見ると山下は目を赤くして起きていた。

「えっ?もしかして、寝てないの?」

「瑞稀に嫌われたと思って、眠れないよ」

「もう、馬鹿ね」

山下にハグをしながら、「もう怒ってないよ」と言って背中を撫でた。

山下って、メンヘラだったんだ?

私も多分、嫉妬深い方だと思うけど、ここまでじゃないかなぁ。こう言う人と別れる時が大変だって言うよねぇ。「他に好きな人が出来た」何て言おうものなら、俺と楽しく過ごした日々は何だったの?幻だったのか!と詰め寄られるし、その好きになった人と付き合おうものなら、リベンジポルノされるか、ストーカーされるか、逆恨みして相手の男の人に危害を加えるか、裏切ったお前が悪いから一緒に死のうとして、殺されそうになるかも知れない。リベンジポルノをする心理って、俺とこんなHしてたんだぞ?愛し合ってた時があったんだ!と相手の男に見せつけたいんでしょう?あわよくば新しい彼氏が嫌になって別れてくれないか?との思惑で。馬鹿だよねぇ?新しい彼氏と別れたって、貴方とは絶対に寄りを戻したりなんてしないのに。男って独占欲強くて、自分の事は棚に上げて、彼女が男性経験豊富だったらショックを受けるのよねぇ?俺以外の男にもこんな事をしてたのか?とか、ヨガリ声を上げてたのか?とか思って、ぶつけられない、怒りと悲しみが込み上げて来るのよねぇ?だからシングルマザーは、特に気を付けなくちゃいけない。連れ子を見る度に、妻の前夫が頭によぎるの。子供がいるって事は当然、Hしたから生まれたのよね。愛し合ってるカップルなら1年で、200回以上Hしてるわ。付き合ってる期間、結婚してた期間、合わせて5年ともなると1000回くらいHしてる事になる。シングルマザーと付き合ってる男、または再婚した夫は、それが頭に浮かび、心が苦しくなる。女性を愛するが故の嫉妬だ。それは連れ子を見る度に頭によぎるの。その行き場の無い苦しみは、その子供に矛先が向けられる。奥さんを愛しても連れ子を愛してる訳じゃないから。だから、ニュースで何度も何度も同じ様な境遇の子供達が、虐待されて殺されてる。シングルマザーは自分には後が無いから、前の夫とは違うこの新しい恋を大切にしたい、壊したく無い。それなのに我が子が新しい夫に懐かないから、虐待されるのよ。虐待されるあんたが悪いの!あんたが良い子になれば母子が上手くいくのに、あんたのせいで!と我が子を責めて、夫や彼氏と一緒になって虐待をする。子供にとって唯一の味方であるはずの母親まで、自分の敵に回るのよ。どれほどの地獄を味わっている事か。それは自分の命が終わる事で、やっとその苦しみから解放されるの。こんなに悲しい事は無い。こんなニュースを聞く度に心を痛める。そんな親に育てられるくらいなら、可能であれば私が大切に育てて幸せを感じさせてあげたいと思う。子供を救えるのは母親だけだ。我が子に手をあげる男とは、きっぱりと別れるべきだ。男なんて他にも、いくらでもいると思えば良い。

 シングルマザーになって、出会い系に登録して、毎日違う男の人とHを繰り返して、半年で100人以上とHしたと言う女性がいた。シングルマザーになった理由は夫の浮気だったけど、こんなに男に抱かれたら、そんな事は小さな事だったと思えて、何だったら離婚しないで、仕返しに自分も浮気Hを繰り返してやれば良かったと言ってた人もいたよ。

 話はだいぶ脱線しちゃったけど、山下の事、実はあんまり知らないで付き合っちゃったもんなぁ。趣味が合うから一緒にいて楽しいかなぁ、と思ったんだけど。確かに一緒にいて楽しいんだけどね。

 昨晩の料理の続きで、肉じゃがを作った。他にも野菜たっぷりのスープと金目鯛を焼いた。

「いただきまーす!」

「うわぁ、美味い!この肉じゃが甘辛くて、味付け濃い目だからご飯が進む。濃い目の味付けが好きだって知ってたの?」

「えっ?ううん、私も濃い目が好きだから」

本当は、男の時の私が何度も山下と食事に行って聞いた話だ。

一日中部屋でゲームをしてた。

ちょっと疲れて飽きて来たら、華流ドラマを観た。ゲームは荒野◯動をしてた。スマホで出来るからお手軽だ。2人でマイクを通して協力する、と言っても隣にいるのだから声は聞こえる。

「右、右、右に行った!」

「あっ!やられた。気を付けて、救助お願い」

「あー、そっちに行ったよ。その辺、その辺」

ゲームの世界に完全に入り込んで、まるで自分がその世界にいるみたいに没頭する。最後まで生き残れると嬉しいし、何よりもリアルもバーチャルも2人っきりで楽しい。この人と付き合って良かった…本当にそう思える。晩ご飯も一緒に食べて、お風呂に入って帰る事にした。約束通り手でしてあげた。手で包み込みながら、上下に擦ってあげると、2、3分もしないうちに精を吐き出した。

「ふふふ、気持ち良かった?でも早くない?」

「早いって…瑞稀がしてくれてると思うと、興奮して、めっちゃ感じたんだよ。それ、男が傷付く台詞第一位だから」

「あははは、傷付いた?ごめんね」

そう言いながら再び手で包み込むと、上下に擦り始めた。

「ほら、もう立って来たよ?」

「わあぁ、瑞稀!瑞稀!もうイクっ」

「わっ!2回目も早いよ。って、あぁ。ごめんね?」

「1回イって敏感になってたんだよ。それに瑞稀が上手過ぎなんだよ!他の男にした事があるんじゃないのか?って、ごめん。怒らないでね」

「え、うぅん。他の男の人には、した事ないよ」

(男の時の私が、自分でしてるだけなんだけど、上手いのかな?)

お風呂から上がると、「またね!」と言ってアパートを出た。自分のアパートに戻ると、女性変化を解いて男に戻った。

「はあぁ。男の時と女性の時の落差が激しい…。それにもう完全に別人みたいだ。女性の時の私は、最早完全に別人だろう。2人に分裂とか出来たら丸く収まるのに。記憶が残っているのも問題だ。彼女のプライベートだろう?」

女性変化した時の自分を、他人の様に彼女と呼ぶ事で、自分である事を認めない様にした。いや、認めたく無いのだ。このまま山下との関係が深まれば、必ずHしてしまうだろう。それに、求婚された時どうするんだ?彼女は受け入れるに違いない。そうなると、ずっと山下と一緒にいなくちゃならなくなる。それでは、男の自分はどうなる?こっちが本物のはずなのに、存在が消えてしまう事になるのでは無いのか?先の事を考えると頭が痛くなる。頭を抱かかえて悩んだ。

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