【第1部〜序章編〜】第15話 ドキドキの告白

「うわぁ~。広いプールね、青山くん」

「本当、広いなぁ」

 それにしても意外だった。まさか麻生さんがビキニとは。しかも目のやり場に困るくらい、ボリューミーだ。他の男達の目が痛い。無邪気な麻生さんは、本当に気付いていないのか?男達の視線を。可能なら私もガン見したいのだが、そんな事をすれば嫌われるし、「友達に欲情するなんて信じられない。私達の友情もこれまでね」とか言われるのが怖い。

「先輩!すみません、瑞稀ちゃん、遅くなるみたいで」

「山下さんの彼女に会うのが楽しみね?」

「え?あぁ」

 今日は会社が休みで、山下の希望でWデートをする事になった。8月の真夏日で、プールに行こうと誘って来た。カップル同士なら、瑞稀ちゃん(私なんだけど?)も来てくれると思うと言うのが理由だった。本心は瑞稀ちゃんの水着姿が見たいって事らしい。私はとんでもない、と思ったが、麻生さんの水着姿が見たくて誘いに乗ってしまった。自然な形で麻生さんをプールに誘えるからだ。とは言え、山下の彼女は女性に変身した私なんだが。どうするんだ、この状況。取り敢えず遅れて来るって事にして、隙を見て入れ替わる計画だったが、この人混みだ。海は、塩やら日焼けやらの問題があり、屋内プールが人気だ。少し考えれば、この混雑も予想が出来た。これでは簡単に変身は出来ない。誰かに目撃される訳にもいかない。まぁ、チャンスは必ずあると信じよう。最悪、楽しみにしている山下には悪いが、急用で来れなくなったと言い訳しよう。

 私は麻生さんと一緒にウォーターライダーを滑った。2人乗りの浮き輪で、水着姿で密着出来ると言う素晴らしいイベントだ。カップルじゃないからと嫌がられるかも?と思ったが、ゲーム好きの麻生さんはノリノリでOKしてくれた。私が前になり、後ろから麻生さんが足を前に出して私の腰を締める形で、背中に抱き付く様な格好だ。前のめりに麻生さんが密着して来ると、水着の薄さで胸の感触が直に伝わる。

神様ありがとう。

「3・2・1、GO!」

「キャアー」

急角度で降下するので、結構なスピードが出てる。麻生さんは、怖いのか喜びなのか分からない叫び声を上げた。首に強くしがみ付いて来る度に、胸の感触が伝わる幸せな時間だ。麻生さんにはとても言えないが。ぐるぐる回りながら、ラストの急斜面の急降下で浮輪から放り出されて転覆した。水面に上がって少し後に麻生さんが浮いてきた。

「あっ!」

麻生さんが立ち上がると水着がズレていて、モロに白い胸が見えた。手で目を隠しながら、すぐに自分の身体で麻生さんの胸を隠して、他の人の目から麻生さんを守った。

「麻生さん、胸が見えてます」

耳元で教えた。

「キャア」

悲鳴を上げると、プールの中に頭まで浸かって水着を直していた。

「ぷはぁ。はぁ、はぁ。青山くん、見た?」

「ごめん、見たって言うか、見えちゃいました。でも直ぐに目を隠したので、一瞬だけでしたよ。それよりも、他の人に見られない様にしないと、と思うので頭が一杯でした。もっとちゃんと見ておけば良かったって後悔してますよ。あははは」

「ふーん、青山くんでも、そう言う事、考えちゃうんだ?」

「ごめんなさい」

「ううん、違うの。嬉しかったの。ちゃんと、女性だと思われてて。女性に見られて無いのかと思ってた。出不精の私がね、今日何で来たと思う?青山くんが来るからよ」

「それって…」

ハッとして、覚悟を決めた。

「麻生さんの事は最初から女性として見てました。ただ、一緒にいられるだけで楽しくて、幸せで、この関係さえ壊れてしまうのが怖くて言えませんでした…」

すぅー、はぁー、と深呼吸をした。

「ずっと好きでした。これからも一緒にいたいです。宜しくお願いします」

少し古いけど、手を差し出して頭を下げた。

「こちらこそ、宜しくね。青山くん」

手を握り返してくれた、この日を生涯忘れる事はない。

「ごめんね。何だか言わせちゃったみたいで」

「お陰で勇気を出して、思いを伝える事が出来ました」

「じゃあ、これからは、お付き合いするって事で良いのよね?」

「はい、宜しくお願いします」

「ふふふ、彼氏だ」

「あはは、彼女だ」

我慢出来なくなり、麻生さんを抱きしめた。

「大好きです。麻生さん」

「私もよ、青山くん」

そう言って手を背中に回してくれた。それから麻生さんの手をずっと握り締めて、プールから上がり、冷えた身体を暖める為に、温かい紅茶を飲みながら、話をしていた。山下の事をすっかり忘れている事に気付いた。

「麻生さん、ごめんなさい。ちょっとお腹が冷えたみたいで、暫くトイレに籠るから、麻生さんは山下と泳いでてもらえますか?」

「大丈夫?分かった。待ってるね」

麻生さんと別れ、トイレを探したが、多目的トイレが無い。男性用トイレに入り、『女性変化』を唱えて女性に変身し、『影の部屋シャドウルーム』を唱えて、影の世界に入って、『衣装替チェンジ』で水着に着替えた。それから影の世界を移動して、人の死角になる場所から現れて、山下と麻生さんの元へ向かった。

「山下さん、待たせちゃって、ごめんなさい!」

息を切らせて、山下達の元へ来た。

「瑞稀!めっちゃ綺麗♡」

「嫌やだ、そんなに見られたら恥ずかしい」

私のはワンピースだが、背中は腰まで完全に露出していて、腰回りも水着で覆われておらず、おへそ部分から胸元までが繋がっている、なんちゃってワンピースで、ほとんどビキニと変わらないデザインだ。この間、どんな水着を着ようかと思って、ショーウィンドウに飾られていた水着を見ていたのだ。

「うわぁ、噂に聞いてたけど、すっごい綺麗な女性ひとね。本当にこんな女性が山下くんの彼女なの?」

「初めまして、神崎瑞稀です。宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくね。瑞稀ちゃん」

「見てよ、周りの男達の視線が熱いよ。両手に花とはこの事だよ」

と言って笑ったので、イラッとして山下の腕をつねってやった。

「痛いっ、何で?」

「ダメじゃない山下くん、瑞稀ちゃんだけ見ないと。女心が分かってないねぇ」

「もしかして妬いてくれたの?」

嬉しそうな顔をして、だらしなくニヤけていた。

「もう、気持ち悪いよ。山下さん」

「ふーん、お似合いだね。でもまだ付き合い始めたばかりなのかな?山下さんって、何だか他人行儀だよね?」

私は山下と顔を見合わせた。

「そうですかね?」

「そうよ。あっ、ちなみに私と青山くんも、さっき付き合い始めたのよ」

「そうなんですね。どんな彼氏さんですか?」

麻生さんの本音が聞けるかも、と思って尋たずねてみた。

「うーん。気が合うし、ずっと側にいて欲しい人かな?気を遣わないといけないんだけど、気を遣わなくて良い人なの。何言ってるか意味分からないよね?もうね、私の一部になってる人なのよ」

顔が赤くなっているのが自分でも分かる。心臓の音が聞こえるんじゃないかと思うほど、鼓動を速く刻んでいる。

「麻生さん、瑞稀ちゃんはウブなんだから、ノロケ話を聞かされて顔が真っ赤になってるよ?」

「うふふ、ごめんね。幸せで」

私と付き合えて、幸せだって。

今すぐに男に戻って抱きしめたい衝動に駆られた。女性に変身してる時は、男の時の自分が消えて無くなってしまったみたいになるのに、今日は何でだろう?

「麻生さん、トキメキをご馳走様です」

麻生さんは、止めてと言いながら終始笑顔だった。

「ねぇ?何だか焦げ臭く無い?」

「あれ?そう言えば、確かに何か燃えてる様な臭いがする」

「でも誰も騒いで無いね?」

周りにいる他の人達も臭いには気付いていたが、ここはプールだし火事でも焼け死んだりしないでしょ?とか言って気にしている様子が無い。

「待って、違うよ。火事の時、ほとんどの人は火で焼け死んだりしないのよ。多くの人は一酸化炭素中毒で亡くなるのよ。確か空気中に一酸化炭素の濃度が0.64%含まれると1、2分吸っただけなら頭痛・めまいを感じるけど、15分から30分も吸うと死に至り、その倍の濃度の1.28%だと1、2分吸っただけで死亡するわ。ここは屋内プールだし、密閉空間だから酸素は直ぐに無くなって一酸化炭素の濃度も高くなるわ。本当に火事なら全員死ぬわよ」

流石に麻生さんは女医さんだけあって詳しい。

「聞いた事はあるな。煙に一酸化炭素が含まれているから吸うなって」

「口や鼻をハンカチで押さえたくらいじゃダメなのよ」

「煙って言うと、ただの煙でしょう?って思って、火を恐れて煙を恐れないのが問題だと思うのよ。思い切って、煙は毒ガスだぞって言うくらいじゃないと煙の恐ろしさが伝わらないと思うのよね」

これは、私の見解。

「何かあったのかも知れない。臭いの方向を確認に行こうか?何も問題が無ければそれで良いし」

私は山下と目で合図をした。

「麻生さんは、ここで待ってて。危険を感じたら直ぐに逃げて。私はスキルで大丈夫だから。回復魔法も使えるのよ」

この頃になると、臭いに気付いた人達がザワザワし始めていた。立ち入り禁止とかかれている所を思い切って開けて入ると、物が焼けている臭いがする。ボイラー室の辺りが怪しい。ここのプールは温水プールで、ぬるい温度に調整されている。だからボイラー室があるのだ。

 念の為に山下に、防御結界魔法と耐火耐熱の障壁も張った。ボイラー室のドアを開けた瞬間に爆発し、爆風によって吹き飛んだ。バックドラフト現象だ。ドアを開けた事によって、急激に空気が入り込んで爆発的に燃焼したのだ。山下は障壁で無事だったが、爆風の衝撃波で飛ばされて床に背中を打ち付けていたが、シールドのお陰で無傷だ。ドアを開けた私の右手は吹き飛び、下半身も何処かに飛び散ってみつからず、お腹から内臓が出た状態で、顔半分も焼けただれていた。通常だったら即死だろう。しかし、身体が修復していく。

「私は治るから心配しないで」

悲しそうな顔をして覗き込んでいる山下に声を掛けた。

「私よりも皆んなを誘導して。私も修復したら行くから」

でもどうやって火を消そう?空気を遮断すると全員窒息死だ。一酸化炭素が怖いから、外の空気を入れる方が先かも。この屋内プールは、水着の女性達が外から盗撮されない為に、窓1つ無く完全密閉された建物だ。

『魔法箱マジックボックス』

白面を取り出して装着すると、失われた下半身と右手もちょうど回復した。山下がいなくて良かった。吹き飛んだ下半身が元に戻っても、水着までは戻らないので、回復した時に下半身が丸見えだったからだ。

『衣装替チェンジ』

水着では無く、動きやすい服装に着替えた。

『光之神槍ライトニングジャベリン』を天井に向かって唱えると、突き破った。それを横壁にも唱えて5箇所ほど風穴を開けた。これで一酸化炭素中毒の心配は無い。私は水や氷魔法を持ってないので、火を消す事が出来ない。どうしたものかと思案すると、名案が浮かんだ。

『魔法箱マジックボックス』

プールの水を残らず収納すると、飛んで上から『魔法箱マジックボックス』を解放して、その水で火を消し止めた。

 幸いにして死者は1人も出なかった。

しかし、運営会社が白面の魔女を訴えたのだ。天井や壁に許可無く穴を開けたと。日本政府は白面の魔女を擁護する立場にあり、迅速な救命活動と、穴を開けて空気を入れていなければ、一酸化炭素中毒によって大惨事を招いていた、その死者は計り知れない。そうなっていた場合、遺族に対する賠償金は、こんな修繕費用の比ではなかったはずだと世論を動かしたが、運営側は、そうなっていないので、それについては返答し兼ねる。こちらはあくまでも正当な損害賠償請求しているだけだと言い張り、譲ろうとはしない。

 世間ではこの争いがどうなるのか見守り、連日ニュースで報道され、政府では議会で意見を争った。この騒動に終止符を打ったのは、玩具メーカーだった。白面の魔女グッズを本人の許可無く作成し、巨額の利益を上げた恩返しをしたいと、プールの運営会社に損害費用を支払ったのだ。その費用は2億8000万円だった。天井及び壁穴の修繕費とボイラー室周りの吹き飛んだ機材の金額も含まれていた。あまりの金額に驚いた私は、立て替えてもらった玩具メーカーに対して、お礼の挨拶に伺った。この時、グッズの作製権、使用権などの契約も結ばされた。お礼に伺った報道もニュースで流れた。更にCMにも出演させられた。

「人助けだったのに、大変だったな」

「本当よ。今回ばかりは心が折れそうだったわよ」

山下の前で頬っぺたを膨らませて、拗すねてみせた。

「結局、玩具メーカーに良い様にされたな。グッズは、本人公認のライセンス契約があり、ニュースは宣伝になるし、お前の人気を利用してCMまで出演させられた。1円も貰って無いんだろう?2億8000万円なんて逆に安い買い物をしたと思ってるよ。白面の魔女グッズ、月間売上1億円超えたらしいな。3ヶ月で元が取れる計算だ」

「そこまで計算してたか分からないけど、仕方ないよ、今回は。私の魔法は人は治せても、物は直せないからね」

「それにしても著作権全部持っていかれたのは、やられ過ぎじゃないのか?今更、言っても仕方ない事だけど」

「そうね、サラリーマンがあの請求金額を聞かされたらビビっちゃうからね」

「サラリーマンって?」

「あっ!あぁ、例えばの話よ、例えば」

「瑞稀は本当、謎が多いよな。彼氏にも教えてくれないのかい?」

「ごめんなさい。機会があれば、ちゃんと話すよ」

山下のベッドに腰掛けると、口付けを交わした。そのまま押し倒されると、胸を両手で触られ揉みほぐされた。服の上からなら良いよ、と許可してあげた。今は、一緒にお風呂に入りたいと言って来てるが、断ってる。恋人同士の性的な関係は、少しずつエスカレートして行くものだ。でもそのうち、温泉の家族風呂に入るのはOKしてあげようか?とか思い悩んでいる所だ。

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