【第1部〜序章編〜】第13話 Wデート!?
「うはぁ、暑いっ」
炎天下の中、会社で毎月1回あるボランティア活動で、ゴミ拾いをさせられている。仕事もあるから、くじ引きで負けた半数の社員がボランティア活動を行う事になった。会社の隣りの公園から道路を隔てた向かいの商店街まで、地域に貢献と言う名目で行われている。運が悪いと、くじ引きで負け続けてずっと参加させられる事になる。私は3ヶ月連続で参加する事になった。7月の真夏日なんかに行う様な事ではない。皆んな汗だくだ。暑いのが苦手で体力が失われて、もうヘロヘロだ。皆んな疲れて無言で黙々と作業している。心の中で、終われ!早く終われ!と祈りの言葉が聞こえて来るようだ。
ゴミを集め終わると、ちょうど12時を報せるチャイムが鳴り、社内のシャワー室に向かった。ゴミ拾いの人数に入ったと分かると、皆んな今日の為に着替えを持って来る。ボランティア係りは、通常の休憩時間に1時間プラスでもらえる。シャワーを浴びる時間も与えてくれているからだ。
さっぱりして、食堂に向かうと麻生さんが席の前に座って来て、栄養ドリンクを置いてくれた。
「はい、お疲れ様!」
「ありがとう」
キンキンに冷えた栄養ドリンクが胃に染み渡る。そんな訳ないのに、飲んだ瞬間に効いて来た気がして、疲れが飛んだみたいだ。いや、これは麻生さんに会えた効果だ。この頃になると、女性社員達から全く食事に誘われなくなった。私と麻生さんが付き合っている、と言う噂が社内で広まったからだ。最近よく一緒にいるだけでなく、仲良さそうに手を振っている所を目撃されたり、医務室で一緒にお昼を食べている所を見られたからだ。そんな関係では無いのだが、ここだけ見れば確かにそう見えるだろう。私としては本当に麻生さんとお付き合いしたいと思っているのだが、山下の様に積極的に行ける性格ではない。女性の私が山下に押し切られた様に、女性目線で見ると、今のウジウジした自分と山下とどっちが良い?と聞かれれば、後者だろう。どう思っているのかハッキリ言わないと伝わらない。そんな事は分かっているが、それでも玉砕した場合、どう接したら良いのか分からなくなる。今までの様に気軽に話し掛ける事も出来なくなるだろう。
そうなるくらいなら、今のまま友達でいられる方が幸せだと思う。そう思うのは、まだ麻生さんに彼氏がいないからだ。彼氏が出来てしまった時、早く気持ちを伝えていれば良かったと後悔しそうで、頭を悩ませる。
仕事が終わって帰ろうとすると、入口で麻生さんが待っていてくれた。
「お疲れ様!」
「お疲れ様です。どうしたんですか?」
「お昼、一緒に食べられなかったから、晩ごはんでもどうかと思って。青山くんモテモテだから、私とじゃ嫌?」
「えぇ!そんな事無いです。嬉しいです。待っててくれて感激ですよ」
「ふふふ」
そう言うと腕を組んで来たので、心臓が飛び出そうなほど驚いた。
「あっ、ごめん」
と言うと、腕から離れた。そのままで良かったのに。柔らかな膨らみが…右腕が幸せだった…そう言えば、こう見えて84㎝だったっけ?ステイタス見てしまった時に知った。
更に麻生さんには『聖女』の称号がある。
『聖女』は、回復スキルの効果を100%加算すると言う超強力なスキルだが、処女で無くなるとこの称号を失う。何が言いたいのかお分かりだろうか?「【処女】で無くなるとこの称号を失う」のだ。つくづく男って馬鹿だよなぁ、って思う。
気を遣われたのか、商店街のファミレスに入った。あー、いや、別にデートでは無いのだから、普通なのか。
「ねぇ、あのゲームの攻略方法って、かなり玄人向けだよねぇ?普通、無理だよ。もっと簡単な方法がありそうなんだけどなー。どう思う?青山くん」
「うん、かなりテクニックが要るよね。攻略方法ってなると、誰でも簡単に出来ないとダメだよね」
「そうなのよ。ネットで出てる攻略通りにやりたくなっちゃうじゃない?出来なくて悔しい思いをしてるのは、私だけじゃないと思うんだけどな」
「あははは、運も要るしね、あのやり方は。私も頭に来て何度もスマホ投げ掛けたよ」
相変わらず麻生さんとの会話はゲームの話だ。これがキッカケで友達になったのだから当然なんだが、他に何を話したら良いのか分からない。アニメの話もするけど、中国の歴史も好きで華流ドラマもよく観ているから、その話もしたいんだけど、引かれるのが怖い。山下と仲良くなったのは、中国史がお互い好きだったからだよなぁ、と思って大変な事を思い出した。そう言えば、山下と会う約束をしていたんだった。女性の私が。
ふと時計に目をやると、約束の時間まで1時間を切っていた。食事が終わってゲーセンでクレーンゲームをしたり、プリクラ撮ったり、エアホッケーしたりレースゲームをして燃えた。楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
「麻生さんごめん、送って行きたいけど。ちょっと大事な用事を思い出した。本当にごめんなさい。急いで帰らないといけない」
「うん、分かった。今度この埋め合わせをしてよね?」
「勿論です」
駅に向かう麻生さんの背中を見届けて、お店のトイレに駆け込んだ。
『女性変化』『衣装替(チェンジ)』『影の部屋(シャドウルーム)』と立て続けに呪文を唱えた。
影の世界に入ると『光速飛翔(ライトニングレイヴン)』を唱えて、文字通り光の速さで飛んで移動した。山下と待ち合わせている、公園の木の影から姿を表すと『自動洗浄(オートクリーン)』を唱えて、汗をかいた身体と服をリフレッシュさせた。
「ごめんなさい、待った?」
待ち合わせの時刻を5分ほど過ぎていた。
「来てくれたんだ?」
「当たり前じゃない、約束したんだから」
山下のほっと胸を撫で下ろす仕草を見て、可愛いと思う私がいた。これが母性本能をくすぐられると言う奴なのか?手を繋つないでレストランに向かった。
「どうしたの?食べないの?」
さっき、麻生さんと食事したばかりなので、全くお腹に入らない。ドリンクだけ頼んだ。
「そのままで十分綺麗なんだから、ダイエットなんてしなくて良いよ」
ダイエットだと思われたのか。本当にもう食べられないだけなんだけど。
たわいもない話をしながら食事を済ますと、会社の屋上に来た。夜でも残業をして残っている人が多いので、まだ会社に入れるのだ。
「綺麗…」
この屋上から見える街の灯がネオンの様に彩り、まるで地上の星々みたいだ。
「そうだね、初めてキスしたのもこの場所だったね。俺にとっては瑞稀との大切な思い出の場所だよ」
瑞稀って、もう呼び捨て?進展が相変わらず早いな。抱き寄せられると口付けをされた。手も早いしって…胸を触られて、あっと思って離れた。
「触っちゃダメだよ」
「でも触った事あるよ」
「あの時は無理矢理でしょう?」
「ごめん、もう触らないから」
再び抱き寄せられて、口付けを交わした。
ハグをされると、耳たぶを甘噛みされ、首筋にキスされた。
「良い匂い。どんな香水を付けてるの?」
「嫌だ。香水なんて付けてないよ」
「本当に良い匂いがするよ。瑞稀の匂い。甘い桃の様な香りがする」
この時、瑞稀はまだ知らなかったが、『絶世の美女』の称号を持つ者だけに与えられた「国色天香」のフェロモンの匂いだ。国色とは、国1番の美女の事を差し、天香とは、天のものかと思うほど良い香りがする事を差す。
『絶世の美女』は、常に周囲に自動で魅了攻撃をし続けて相手を魅了状態異常にする。対象が女性の場合は、マイナス補正がかかり効き目はほとんど無くなるのだが、魅了耐性の無い男性は、ほぼ確実にかかる。瑞稀の意思に反して行うので、これは仕方ないのだが、山下も魅了状態になっていた。
「瑞稀、愛し過ぎる。ずっとこうしていたい」
そう言って、すでに10分以上、ハグしたままだ。夏で暑くて汗をかいてきた。
「暑いよぉ」
ようやく離れてくれたかと思ったら、キスされて舌を入れられた。私も山下の背に手を回して、舌を絡めた。
「我喜歡你(ウォーシーファンニー)!(貴方が大好きよ!)」
と、私が言うと嬉しそうな笑顔を見せた。お互い華流ドラマが好きだから、この中国語は伝わる。
「我真的爱你(ウォージェンダアイニー)!(俺もお前を愛してる!)」
よく知られる「我爱你(ウォーアイニー)!(愛してる)」よりも、もっと愛していると言う表現で使われる言葉だ。
私は顔を赤らめると、山下の首に手を回して、自分から口付けをした。何だか物凄く愛しい。少し前まで悩んでいたりしたのが何だったのか?と言う感じの豹変振りで、自分でも驚いている。このまま流されてHしてしまっても良い、とでさえ思っている自分がいる。でもしてしまったら恐らく、女性変化進行率100%になり、2度と男に戻れなくなるだろう。男の時の私は麻生さんの事が好きで、女性の時の私は山下の事が好きだ。どんな三角関係だよ、と思い悩んだ。
山下とまた会う約束をして別れてアパートに帰った。それにしても、平和だ。そうそう、事件・事故がある訳がない。あってたまるものか。平和である事は、有り難い事だ。男に戻り、ベッドで横になるとすぐに、イビキをかいて眠りについた。
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