【第1部〜序章編〜】第7話 影の部屋
(そうだ!寝る前にもう少し能力を確認したい)
念じる様に女性変化を唱えると、一瞬で女性の姿になる。もう手慣れたもんだな。心にもだいぶゆとりが出て来た。さっそくステイタスを開いて眺めた。つくづく凄いスキルだな。もしかして人類最強か?回復魔法もヤバいし、死者蘇生に完全状態異常回復は毒とか治すだけでなく全ての病気を治せる。医者なんて要らないんじゃないの?
おまけに手足の欠損とかまで治せるとは、言葉も出ないな。闇魔法の中には闇耐性が無い相手に、100%の確率で即死させる最上級呪文まである。昔やったゲームの女神◯生に出て来るベルゼブブの専用スキル「死蠅の葬送」みたいな呪文だな。あっちは呪殺耐性で、こっちは闇耐性なんだが、今はゲームの話をしても仕方ないか。所でこの『影の部屋(シャドウルーム)』って言うのは何だ?唱えてみると影の中に、身体が沈む様に入った。
(なるほど、影の中に入れる魔法か。それにしても、部屋と言うよりも『影の世界』だな)
影の世界に入ると、空にあたる所に身体が浮いていた。飛行能力のスキル効果かな?宙返りをしたり、錐揉み飛行をしてみたりして空を飛ぶ感覚に感動し、楽しんだ。影の世界はこちらの世界がそのままで、建物などは影の様に暗く、薄暗い空が広がっている。自分達の世界と大きく異なっているのは地面だ。地面と言うよりも影の様な雲と例える方が近い表現だ。もしかして雲みたいな地面に潜って、さらに底に行けたりするのかな?影の空から思い切って雲の様な地面に突っ込んでみた。
(万が一、硬くて激突しても不死と身体状態異常無効のスキルで無事だろう)と考えての事だった。
ぶつかる!と思った瞬間は恐怖を感じたが、想像した通りぶ厚い霧みたいで、掻き分ける様にしながら潜り続けた。
ぼふっ。雲を抜けると、そこはさらに闇が広がる世界だった。ここは、影の世界がさらに濃くなり、ほぼ真っ暗な世界だ。この中でも辛かろうじて目が見えるのは、スキルのおかげだろう。『影の部屋』のスキル説明には、影の世界でも目が見えると書いてある。それでも目を凝こらして何とか見える程度だ。暗闇を漂いながら周囲を見回した。暗くて底が見えないが、地面はあるのかな?確認したいが、この世界に来てから薄寒い冷気が全身に纏わりつく様な感じがする。例えるなら、霊感などなくても、あるアパートのドアの前に立つと、言いようのない恐怖を感じる。そこは、かつての殺人現場で、その後、部屋を借りた住人が次々と自殺したとか。漠然としているが、そう言った不気味な気配を感じる場所だ。つまり、そこにいるだけで恐怖し、本能が危険だと警鐘を鳴らす、そんな場所に自分はいるんだと自覚した。嫌な予感がし、その場から一刻も早く立ち去ろうとした。すると何か足元の遙か先に、赤く光ったものが見えた。
「うわっ!」
それはもの凄い速さで私に体当たりして来た。咄嗟に身を捩って間一髪で躱せた。
(何だ?龍?いや…)
想像上の龍ほどもある大きさのそれは、百足の長い身体で無数の足を蠢かせ、虻にも似た頭がこちらに牙を剥いていた。光った様に見えた物は、真っ赤な大きな目玉だった。
「百足が空を飛んでる…」
私を捕食しようと、長い身体を巻き付けて来た。その巨体さからは予測出来ないほど速く、逃げようとした私の前に先回りして、無数の足で絡めて来た。全力で飛んで紙一重で躱わした。キモいし怖い。
対峙してから背筋がゾクゾクし、動悸が止まらない。冷や汗が冗談や比喩ではなく、滝の様に流れる。その百足の様な化け物は、無数の足から何かを飛ばして攻撃して来た。
(毒針?回避…)
百足と言うくらいだ。
100発近く弾丸の様に飛ばされた毒針を躱しきれず、数発ほど身体に撃ち込まれた。
「痛っ!」
思わず声を上げたが、受けた傷は一瞬で消えて治る。毒で身体が動かなくなったフリをすると、毒針を飛ばして来なくなり、捕食しようと巻き付いて来た。その刹那に全速力で飛んで回避し、追いかけて来た百足をぶっちぎって引き離した。飛行能力SSSのおかげか?私の方が速い様だ。
(はぁはぁ。落ち着け、冷静になれ。私の方が速いから大丈夫だ。あいつはここで倒した方が良い。追いかけて来るかも知れないし。攻撃呪文も試してみたい)
自分に話しかける様にして心を落ち着かせた。案の定、すぐに百足が追いついて来た。
「私は不老不死だ。怖がるな。私の方が強い!」
自身をなけなしの勇気で鼓舞する。
(ここは闇の世界だ。恐らく闇魔法は効かない。光魔法で攻撃してやろう)
「光速熱撃!」
唱えた瞬間に右手人差し指の先が光に包まれると、目にも止まらない速さで光線が百足の頭を射抜いた。百足の動きが止まり、無数の足をばたつかせながら、ゆっくりと闇の底に落ちていく。
(倒したのか?)
目を逸らさず落ちていく百足を見ていたが、こちらに向かって来る様子は無かった。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間で、百足と入れ替わりに巨大な羽虫の様な化け物が向かって来るのが見えた。
それは軽く1000匹くらいだろうか?
(RPGみたいに敵全部とか、1グループにダメージを与えられる呪文は無いのかな?)
攻撃呪文は光と闇だけだが、闇呪文は効きそうにない。
「光矢速連撃(ライトニングアロー)」
複数攻撃呪文っぽいのを選んで唱えると、右手が光に包まれ、その光が無数の矢の様に敵を射抜いた。
「おぉ~凄い。今ので5分の1は減ったかな?」
(あと4回撃てば倒せる)
そう思った瞬間、突然背中に痛みを感じて吹き飛ばされた。無防備な背中を叩かれ、地上へ一直線に勢いよく落ちて行く。
(油断した…)
空気摩擦でシャツから煙が昇るとすぐに発火した。全身火だるまになりながら落ちていく。その様は、さながら降り注ぐ隕石の様だった。地面に激しく衝突し、辺りに鳴り響く爆音と共に大量の土砂を巻き上げた。土埃が落ち着くと、そこにはクレーターが出来ていた。その中心には下着が燃え尽き、ほぼ全裸の私がいた。これほどの衝撃を受けても傷一つ無い事に驚いた。だが切迫する状況は、感慨にふける余裕を与えてくれない。羽虫の化け物たちは私を見つけると、迷う事なく捕食する為に襲いかかって来た。
「光矢速連撃(ライトニングアロー)」何度も繰り返して唱え、襲い来る物たちから身を守った。
(やっと倒せた)
さすがに疲れて、その場にしゃがみ込んだ。ステイタスウインドウが光っている。
何か覚えたのか?ステイタスを開いて見ると、『自動音声ガイド機能』と『生活魔法』を覚えていた。何だこれ?『自動音声ガイド機能』を押して見る。
〝初めまして主様、今後とも宜しくお願い致します〟
頭の中に直接、声が聞こえて来た。
「この声は『自動音声ガイド機能』の効果なの?」
〝はい、主様。ステイタスについて解説させて頂きます〟
「では、『生活魔法』って何?ランクも無さそうだけど?」
〝生活魔法にはランクがございません。ただし、主様のランクによって影響を与えます〟
「と言うと?」
〝生活魔法は、衣装を着たり、食事を出したり、飲料水を出したり、身体や衣装を綺麗にする魔法等です〟
「服が出せるの?」
〝はい、出すと言うよりも身に付けると言う表現が正しいと思われます〟
「ランクで影響を受けると言うのは?」
〝例えば飲料水を出すにしても、コップ1杯の量かプールを満たす量なのかと言う様に影響を受けます〟
なるほど、それはまたおいおい確認するとして、なによりもまず今は優先したい事がある。
「裸なので取り敢えず今は服を着たい、どうすれば良い?」
〝主様、生活魔法の中に『衣装替(チェンジ)』がございます。着替えられる前に『自動清浄(オートクリーン)』で身体や服を綺麗に出来ます」
(これか…)
呪文を唱え、まず身体の汚れを落としてから服を身に付けた。
「わぉ、これは便利だ。凄い。もう服買う必要ないな」
それからレベルが上がっている事に気付いた。恐らくレベルが上がって、『自動音声ガイド機能』と『生活魔法』を覚えたのだろう。
「ちょっと思ってたんだけど、レベルって年齢と同じになってるよね?」
〝はい。正確には何もしなければ年齢=レベルです〟
「何もしなければ、とは?」
〝スキルを使用して、一定の値を超えますと、レベルが上がります〟
(へぇ、なんとなく熟練度的なのが上がりそうなイメージだけど、レベルが上がるのね)
「レベルが上がると何か恩恵があるの?」
〝レベルが上がりますと、体力や筋力などのステイタスが上昇するだけでなく、相手を状態異常にする成功確率なども上がります。それから、年齢だけでレベルを上げたとします。例え100歳まで生きたとしてもレベル100です。しかし、50歳を超えるとステイタスにマイナス10%の補正がかかるようになります。60歳以上ではマイナス20%、70歳以上でマイナス30%、80歳以上でマイナス40%、90歳以上でマイナス50%の補正がかかります。つまり、100歳を超えてレベル100になってもステイタスにマイナス50%の補正がかかっている為、50歳時のレベル50にステイタスで劣ってしまうので、レベルが100だからと言っても強いとは限りません〟
「なるほど、レベル至上主義と言う訳でもないのね」
〝ただし今のはあくまでも一般論です〟
「?」
〝主様は、不老不死である為、マイナス補正がかかる事はありません。不老長寿を持っている方も同様です。これらの方々をレベル上限突破型と申します〟
「ずっと強くなり続けるって事?」
〝左様でございます〟
(マジでヤバいじゃん。チート過ぎない?私)
「ところで、地図みたいなのは無いかな?」
〝ございます。生活魔法の中に『自動書込地図』があります〟
「コレね」
ポチっとタップすると地図が目の前に現れた。
(書き込まれてるのが、私が通った事があるって事ね?多分)
「あれ、この赤く光ってる点が向かって来てるのは…」
〝はい、敵意を持った者がこちらに向かって来ています!〟
またさっきの様な奴らとやり合うのか?キリがないなと思い、
慌てて通って来た道を全力で飛んで逃げた。闇の世界を抜け、影の世界を抜けて元の世界に戻って来た。そしてベッドの上に寝転がった。
「はぁ、精神的に疲れた」
あの世界を探索するのは、また今度だな。
(でもあれだけ全速力で飛んだのに、ほとんど疲れてない)
ステイタスを開いて回復魔法を見てみると、『自動連続回復魔法』の項目が光っていて発動中だった。
「これのおかげで全く疲れてないのか」
そうは言っても、なんだかとてつもなく眠くなってきた。ふと時計に目をやると11時23分だった。
(ヤバい!遅刻だ!)
丸1日以上時間が経っていたのか?青ざめてベッドから飛び起きた。スマホの日付を見るとアパートに帰って来た日付のままだ。えっ?確認の為にテレビを付けてみる。どうやら日付は間違いない様だ。影の世界に入ってから数分しか経ってない事になる。こちらの世界と、あちらの世界では時間の経過が違う様だ。安心すると瞼が重く感じられ、吸い込まれる様に深い眠りについた。
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