第12話 本気の戦闘と良きライバル

 ついに入学式が始まった。歓迎祭の準備を終え、三人は集まっていた。

 三人は自分たちの課外活動パフォーマンスに備えて、入念に最後の打ち合わせをした。いつもの通り魔法競技部のパフォーマンスはとても人気だったようで拍手や歓声が大きかった。

 

「今期だけでも、魔法技術部はすごいことを証明しよう!」


「はい!魔法競技部よりいい部活であることを思い知らせてやります。」


「リコちゃん、いいね!あいつ等よりすっごーい戦闘演習して、大注目されようじゃない!」


 三人は手を合わせて息を合わせ、お互いに頷く。「よしっ!やろう!」と声をかけて舞台袖から舞台へと上がった。


 舞台に上がると入学生の注目を浴びる。魔法競技部のパフォーマンスの余韻が残っているのかざわざわしていた。レンはゴクリと喉を鳴らし、石を口元に構えた。


「みなさんこんにちは!オレたちの、魔法技術部の紹介をしたいと思います!」


 石には【拡散】の紋章が封じられており、レンの声が屋内競技場に響く。その声で入学生のざわつきは収まり、全員の注目を集めた。

 【拡散】の魔道具は使用限界で壊れる心配があり、他の活動紹介ではあまり使われることはなかったが、石を利用すればこの程度の魔法なら半永久的に使える。まずそこから違いを見せていく。

 

「皆さんは魔法技術部の活動はよく知らないと思います。私たちは魔道具を作り、その研究をしています。」


「一見、地味な部活かと思いますが、中身は違います!」


 レンが舞台の袖から部室に置いてあった鎧を台車に乗せて持ってくる。サクラは棒状の魔道具を取り出し、会場の人々に見えるように掲げた。


「これは戦闘用魔道具で中には複合魔法【幻揺】が入っています!それでは実演します!」


 サクラは起動のために魔力を流す。前回作ったものと違い、外部装置がつけられるようになっている。

 そこにあらかじめ魔力を貯めていた魔石を設置するとそこから魔力を吸い出すので複合魔法の魔力消費の問題が魔石の数だけだが、解決した。サクラは鎧と向かい合い、魔道具を構えた。

「やっ!!」と掛け声とともに魔道具を振るう。レンと違い距離はレンのおおよそ三倍、威力も音の違いだがサクラの方が使いこなしていた。あいまいな表現になるのはサクラの攻撃でも鎧は傷つくこともへこみができることもなかったからだ。剣舞のように剣を振るうサクラの姿を見た会場の人々がざわつき始める。


「魔法技術部やべぇ!」


「あの狸族の女子って魔法競技部より強いんじゃないか!?」

 

「あの魔道具使ってみたいなぁ……。」


 歓声の中にそれぞれ感想が聞こえ、つかみはばっちりのようだった。サクラの魔道具のパフォーマンスが終わり、リコの番になる。リコはサクラに手を出すと、サクラはニッと笑い、ハイタッチする。そしてバトンタッチされたリコは舞台の真ん中に立つ。


「次に私の作った魔道具をご紹介いたします。」


 リコが取り出したものは腕輪と小さい装置であった。会場のざわめきが収まる前に発表する形となるかと思いきや、すぐに静まり返った。

 それはリコが学園の中でも美人であり、現在の首席であるということが入学生の中でも有名であるため注目をする。しかし、サクラの魔道具の派手さに比べると小さく、明らかに攻撃用の魔道具の見た目ではない。


「なんか首席にしては派手さがないよな……。」


「さっきの狸の女子の方が面白そうだよな。」


「もっとかっこいいのかと思ったんだけどな。」

 

 そんなことを言われていたが、リコは全然気にしない。

 

「入学生の皆さん、あなたたちの中で魔法なしと診断された方いらっしゃいますか?」


 会場の雰囲気は動揺していた。レンのように魔法なしと診断されるものはかなり少ない。

 補助魔法はよっぽどなことがない限りは持つことがなく、そもそも補助魔法というものの認知がほぼされていない。したがって、そのような人がいるわけがないという反応になるのだ。するとレンの担任であるサムが一人の兎型獣人の男の子を連れてきた。おどおどし、震えていた。


「大丈夫。オレも魔法なしって診断された身だから。」


「ほ、ホントなのですか?」


 レンはニコッと笑い、男の子の腕に魔道具の腕輪を取り付けた。レンはリコに合図を送ると、魔道具に魔力を流し込む。

 男の子は光に包まれ、彼の紋章が浮かび上がり発動しようと彼を包み込む。暴走しないように【反転】の魔法がそれを中和する。光が収まると、レンは腕輪を外し、リコから魔道具を受け取り、舞台の袖に持って行った。

 

「はい、お疲れ様です。あなたの魔法を解析いたしましたので、結果をお伝えします。」


 男の子がゴクリとつばを飲み込む。そしていつの間にか会場は静まり返っており、結果を待ち望んでいた。

 

「あなたの魔法は、小型の魔獣やオーパーツのような私たちにはよくわからない乗り物に簡単に乗れるようなものみたいです。」


 会場が再びざわつき始めた。診断した魔法が強いものではなさそうに見えたこと、そしてリコの診断が本当に正しいものなのか分からないというものだった。

 リコはその会場を見て、どう収めようか迷っていると、舞台の一部がゆがむ。


「ふむ、本当にその魔法かわしが確かめてやろう。」


 突然壇上に出現した女王の登場で会場が沈黙する。ふくは男の子の額に手をかざすと「ふむ。」といって終わった。本当に一瞬であった。

 

「たしかにこの者の魔法は【搭乗】の魔法じゃ。リコよ、こやつの魔法の制限はなんじゃ?わしの答えと同じならその魔道具は本物のようじゃ。」


 リコは胸に手を当てて一呼吸を置き、自信をもって答える。

 

「魔獣の場合は魔力が自分より下であること。オーパーツのようなものであれば、そのものを魔力のみで全体を覆うこと。搭乗対象がいなければ発動しない……です!」


「見事じゃ。さすが、わしの見込んだ者じゃ。皆の者、こやつの魔道具は正しく機能しておる。こやつを称えるのじゃ。」

 

「ふく様!!勝手に表に出られては困ります!」


 めえの脇に抱えられて来賓席の方に連れていかれた。


「今の女王様だったよな?」


「本物の女王様ってきれいな方ですね。」


「めっちゃ、おっかないって聞いたことあるぜ。」


「静粛に。」


 めえが短く一言で会場を沈黙させた。その後、めえはリコに目配せをすると、リコは頷き、発表を続けることにした。


「え、えぇっとハプニングがありましたが、このように魔法を見分けることができます。もちろんそれだけでなく、発動条件など今まで何となく使っていたということを解消でき、皆さんに使っていただくことで、自分だけの魔法を最高のパフォーマンスで発揮できます。」


 会場が「おぉ!?」という声が上がり、再びざわめく。この年頃の子供たちは自分だけの最高の魔法という言葉に弱い。

 そこを突いて盛り上げていく。リコはそういうことは得意ではないが、嘘は言っていないので上手く噛み合った。


「学園長——女王様に認めていただいたこの魔道具は今後この学園に寄贈することになっていますので、是非、使ってみてその効果を実感してください。」


 会場が拍手に包まれる。その雰囲気の中レンは前に出る。リコはレンとすれ違う時頬にキスをしていった。勿論大勢の前でその光景を見られたので、ザワザワと会場がうなりを上げていた。レンは両手をギュッと握りしめて舞台の真ん中に立つ。


「そして、オレの開発した魔道具はこれです!」


 レンは光り輝く小さな石を取り出した。会場の照明でキラキラ輝くこの石を会場の注目を浴びた。

 魔道具はほとんどミスリルでできた金属をベースに作られることが多い。ほかの材料で作る場合は魔力を帯びた魔獣の革やドラゴンスケイルで作ることになる。レンの魔道具は見た目が魔道具らしくないため皆の注目を浴びる。


 「この石は、紋章を封印する石【ルナティクス】と言います。これはもともと古代で失われた技術であり、それを現代の技術で再現したものとなります。」


 (石の名前、決まったのですね……。)


 リコはルナティクスと名付けられた石が装飾されたネックレスを見つめる。嬉しくなって尻尾が左右に振られていた。

 

「あらかじめ紋章を封印し、この石に魔力を注ぎ、詠唱を行うと発動できます。」


 その説明を聞いて会場はひそひそと声が上がっていく。既存の魔道具でもそれは再現できており、それは詠唱も必要とせず、すぐに使うことができるからだ。

 レンは狙い通りと口角を上げる。以前サクラに指摘されたものを利用したのだ。


「お気づきでしょうが、今存在する生活用や戦闘用魔道具のほうが詠唱なしで即時発動できます。この魔道具は今までの魔道具の劣化版ではないのかと思っていませんか?ではこの魔道具の真価をお見せします。」


 石を一つ投げ、杖型の魔道具を取り出して魔力で空中にとどめる。さらに六つを投げ最初の石を中心とし、円環になるように配置を調整した。

 中心の石は水色に輝き、その周りに配置した石は緑色に輝いていた。その光を見た人々は息をのんだ。深呼吸をし、レンは詠唱を始めた。生まれて初めて複合魔法を発動させるのだ。


「『すべてを凍らす息吹よ、空に幻誘の空間にて包み込め。』」


 レンは詠唱を終え、魔法を発動させた。複合魔法【氷結】の応用でダイアモンドダストを発生させた。


「ご存知の通り、【氷結】魔法は風・水の元素魔法を複合させたものです。オレの魔法は元素魔法ではありませんが、このように石を使えば複合魔法が誰でも使えるようになります。」


 会場の照明のおかげでレンの魔法はより一層光り輝き、それが会場一面に広がっているため、人々は魅了されていた。

 そして、程なくして魔法の効果が切れ、会場は元に戻った。レンは再び注目があつまる。【氷結】で少し冷えた空間ではあるが、魔法の負荷が大きくレンの頬に汗が伝う。


「オレには中等級の魔力しかありません。なので今回はパフォーマンスとして威力をなくして、範囲に全部振りましたが、皆さんの魔力次第で高威力の大魔法も夢ではないので、是非体感してみてください!」


 レンは魔力が切れかかり、倒れそうになるのを堪え、ごまかすようにお辞儀した。すると、会場内は拍手喝采となった。急いで顔を上げ、周りを見ると会場のみんなは立ちあがって拍手をしていた。ふらつく足を何とか取り戻そうとしたが、うまく動けず倒れかけると、リコとサクラが腕をとり、支えた。


「よくやったよ!よくあんな広範囲の魔法をだせたね!」


「あとは私たちに任せてください。」


 二人に抱えられたレンは舞台袖付近に置いてある鎧のそばに座らせられる。その表情は少し悔しそうであった。


 (戦闘演習……参加したかったな。)


 立っている二人を見上げ、悔しそうに歯を食いしばった。

 

——ご主人さまと一緒に戦いたいの?


 レンはふと聞こえた声に驚き周りを見渡した。声色からステージで発表している二人ではない。恐る恐る、そばに立っている鎧を見たが何も変化はない。

 

——ここだってば。下、あなたの胸の前。

 

 声が指し示す方に向くと小さな羽の生えたとんがり耳の女の子がいた。レンは思わずぎょっとした。その小さな女の子はこの前魔物が襲来してきたときの一番強い魔物と同じような顔をしていたからだ。顔の造形こそ似てはいないが体毛が無いところなど、共通点は多かった。

 

——あたしはニンゲンなんかじゃないわよ。失礼ね。

 

 レンは心を読まれて全身の毛が逆立つ。魔力がないこの状態でできるのは威嚇だけだった。

 

——ちょっと!あたしはあんたとは戦わないわよ。ご主人と一緒に戦いたいのかってきいているの。わかる?


「ご主人って誰……?」


——あの野狐の女の子。あなたのお嫁さんでしょ?で、どうするの?


 レンはリコのことを嫁さんと言われ照れてしまい、顔が熱くなる。頭を冷やそうとこの女の子のことを考えていると。

 

——鈍感ね。あたしは風の精霊『シルフ』よ?力を貸してあげるから一緒に戦いたいなら立ちなさい。


 そういうとシルフは消えていった。ふと疲労感が抜け、立ち上がることができた。魔力も戻っており、走って二人の元へ行く。


(二人とも待ってて!オレも一緒に……!)

 

「レン君の開発した石は、アタシたちの魔道具に搭載されています。また、製作の際もこの石が無ければできない事が多く、これがなければアタシたちの発明もなかったかもしれません。」


「こちらの魔道具も量産体制が整い次第、本格的に学園で研究し、生活・軍事転用もされる見込みです。」


 サクラと顔を合わせて発表を打ち切ろうと目で合図した。会場に目をやると拍手が一斉に沸き起こる。何が何だかわからず二人は会場の目線の先を見ると、レンが走ってきた。


「レン君!?」


「魔力無くなったんじゃ……。いや、魔力が回復してる。どうして?」


「オレもよくわかんない。けど、リコさんの精霊がオレに話しかけてきて、魔力を分けてくれたんだ。ここまできたんだ。最後の締め、やってやろうよ!」


「しょーがないわねー。リコちゃん、手加減は無用だよ!」


「はい、全力で参ります!」


 三人はこぶしを合わせると会場に向き合った。三人は横一列に並び、発表はもう終わるのかと思っているようだった。そんな空気の中、レンが一歩前に出る。


「皆様はこの前の魔物の襲撃は覚えておられますか?」


 会場は突然の発言に動揺の嵐が起き始めた。


「オレたちはその襲撃で調査隊と共に戦いました。それだけでなく近衛師団長にも戦闘訓練に参加させてもらったりしました。この課外活動だけではなく、この学園のみんなに一つ言えることがあります。」


 レンは一呼吸を置き再び口を開いた。


「強くなければ、大切なものを守れない……このことを覚えてください!」


 会場は静まり返った。教師たちの方を見ると皆、頷いており、ふくを見ると腕を組んで頷いていた。弱肉強食がこの世界のルールだ。草食の獣人だろうが、魔法や魔力が弱かろうが、それは変わらない。学園にいる間、未成年の間はそのことから目を背けさせてもらえるが、卒業して成人してしまうとルールに従わなければならない。レンは嫌なことを思わせてしまって申し訳ない気持ちになったが、本人が一番実感していた部分でもあるのだ。レンは会場の空気が重くなったと見越して、最後の盛り上げにかかる。

 

「口では何とでも言えます。それでは、お見せします。魔法技術部、オレたちの魔道具や力を利用した戦闘演習です!」


 一瞬、レンが何を言ったのか呆気に取られたが、意味が徐々に伝わり会場の雰囲気がジワジワと沸き上がった。みんな戦闘演習は憧れるもので大好きなようだ。


「では先生!事前にお渡しした【守護】が入ったルナティクスを発動してください!」


 教師のみんなが【守護】の魔法を発動させ、会場の人々、建物を守った。レンとリコ、サクラはお互い距離をとり、構えた。サクラの腰袋の中にはいろんな魔法が発動できるようにレンの作ったルナティクスが大量に入っている。


「最初から全開で行くわ!リコちゃん!最後の全開戦闘でアタシはあなたに勝つっ!」


 そういうと複数の石を投げ、一歩引くとサクラの姿がぶれた。


「レン君、準備はいいですか?」


「いつでも大丈夫!」


 そういうとレンは両手をリコの背中に当て、リンクを始める。リコは大魔法と速射魔法を構え、詠唱に入る。遠くからサクラは【幻揺】の魔道具で詠唱を中断させるために切りつける。レンの【重撃】で複数展開が可能になったリコは『岩の盾』を斬撃に合わせて発動していた。


「相変わらず要塞っぷりはすごいね。これならどう?」


 ぶれた体が六体に分かれた。


「あれは【幻惑】の魔法です!本人は幻惑の分身と常に位置を入れ替えられるので、すべて実体だと思ってください。攻撃すると消えるので広範囲魔法行きます。3重でお願いします。」


 大魔法の詠唱を破棄し、広範囲の魔法に切り替えて詠唱を始める。彼女は狐の能力であるか不明だが、相手のやろうとしてくる事に的確に合わせて魔法の組み替えを行う。

 そのスピードが尋常じゃない為、誰も寄せ付ける事ができないのだ。レンはリコの魔法の切り替えに合わせて【重撃】の詠唱に入る。

 

「わかった!行くよ、リコさん!『数多の魔法よ。幾重にも重ねその力を昇華せよ』」

 

「はい!『大いなる風の精霊よ。その風を以ってすべてを薙ぎ払い、風刃をわが敵に切りつけよ!』」

 

 爆発的な突風が結界内を吹き荒れる。結界は壊れこそしていないが、ミシミシと音を立てて、その威力が入学生にも伝わった。思ってもいなかった威力であるため教師たちは冷や汗をかきながら魔力を込める。

 サクラの【幻惑】は消し飛んだが、岩の魔法が入った石を先に撒いていたおかげで遠隔発動し、半ドーム状の岩壁を出現させて身を隠す。そのおかげで吹き飛ばされずに済み、リコの魔法に対抗するため岩の強度を上げ追撃の風の刃も防いでいた。しかし、この前ではリコの風魔法に壁は崩されると想定し、サクラはもう一つ魔法を発動することにした。それは先ほどの【幻惑】で分身体の移動しつつ先にルナティクスを設置し、発動機会をうかがっていた。風がどんどん強くなり、端からボロボロと崩されていく。

 このままではまずいと思い、岩の魔法が崩れる前に詠唱を始めた。一瞬躊躇うが、首を振って意思を固める。

 

「これくらいやらなきゃ、あなたには勝てないわよね……。『万物の雷よ。わが力と声を聴き、天雷と共に貫け!』」

 

 天井付近に結界全域と同じ広さの紋章が出現した。規則正しく配置された石の三色の光が目に入る。レンはその光を見てどんな魔法が分からなかったが、魔力がかなり込められていることが分かると、頬に汗が伝う。

 

「リコさん、あれって複合魔法だよね。」

 

「え、ええ。しかも風・水・火の複合魔法【万雷】です……。まずいですね。」


 リコの頬を緊張の汗が伝う。その汗は風の精霊魔法で瞬時に乾かされる。レンはリコの表情を見て覚悟を決めた。


「リコさん、オレたちも複合魔法だ!どこまででもついていくよ!」

 

レンはリコとのリンクを強めるために魔力を解放した。背中からくる魔力を感じ、その中にレンの覚悟も感じ取り、リコはサクラに目線を戻す。首に下げたネックレスも同時に強く輝きだした。


「大変かもですが、お願いします!『炎の精サラマンダー、風の精シルフ、水の精ミズチ、地の精ノーム。すべては円環となし、巡り巡れ!』」


 リコは持てる精霊をすべて実体のある姿で召喚した。


——ご主人様のピンチです。私たちとあなたで複合魔法を作ります。いいですね?

 

——【万雷】を防ぐにはわれらでは力不足だ。

 

——では精霊王をお呼びするときだね。

 

——……。

 

 土の精は何も言わなかったが協力してくれるみたいであった。


「オレに……リコさんに力を貸してください!」


 その意気込みに精霊たちは答え、レンの【重撃】を利用して組み上げていく。頭が真っ白になりそうなほど力を籠め、紋章の組み上げと維持を行う。リコは組みあがっていく紋章をみて、【万雷】の発動を遅らせるためにサクラに風の弾丸でけん制していた。

 ついに極限魔法と言っても恥ずかしくない紋章が組みあがった。レンも同時に限界が近づき、堪えていた。


「リコ……さん!これを!」


 見上げると今までにない大きさの紋章であり、リコの精霊たちも疲弊して実体を保てなくなっていた。目にぐっと力を込めて、祈るように手を組む。


「みなさんの……レン君の力。受け取りました。『四大元素を司りし大精霊よ。わが祈りの声を聴き入れん。万物を滅さん雷光を打ち払い、われらを守り給え。わが名は、リコ。』」


 祈りと共に歌を歌うように詠唱をし、精霊と戯れるように華やかに舞う。そして、精霊に自分の名を告げ、【召喚】を発動する。リコの呼びかけに応え、紋章が光り輝く。


「真っ向勝負、絶対に負けな——っ!?」


 サクラはリコの召喚術と決着をつけようとした瞬間、圧倒的な威圧感に気圧されてしまった。膝をつき、丸くなる。歯がガチガチと鳴り、サクラにとって今までにない恐怖を感じていた。

 【万雷】の魔法は発動したが、強い光によって守られ、紋章もろとも霧散させられた。

 追撃を覚悟した瞬間、サクラの前に一人の女性が間に立っていた。黒く長い髪、異国の衣装、九本の尻尾——女王であった。


「『健やかに。』」


 女王はサクラに手を向けると心が落ち着いた。それは錯乱状態などの心が乱されている状態を落ち着かせる【安息】という魔法であった。

 そして、強い光の方に向いて指をパチンとならす。その魔法の衝撃波がリコの【召喚】を打ち破り、結界の魔法【守護】もろとも吹き飛ばした。威力は制限されていたのか、魔法だけ吹き飛ばし、建物に被害はいかなかったようだった。

 呆然とへたりこんでいるサクラの横を通り、頭をポンポンと叩く。


「見事な【万雷】じゃった。それともう大丈夫じゃ、安心せい。」

 

 レンとリコは何が起きているのかわからなかったが、へたり込んでいるサクラをみて駆け寄った。


「大丈夫ですか!?【万雷】を防ぐまではわかっていたんですが……。」


「う、うん。大丈夫。女王様がすべて吹き飛ばしてくれたみたい。あ~……やっぱり勝てなかった……。」


「女王様が……。あ、それよりもまず発表を終わらないと……!」


「そうだね。リコちゃん、レン君の回収お願いね。」


 振り返るとレンは壇上で倒れていた。リコが駆け寄ると、レンはまだ意識があったようだ。リコはレンを抱きかかえ、サクラと共に舞台中央に立った。

 会場は戦闘演習のすさまじさに静まり返っていた。サクラはその光景を見て深呼吸する。

 

「アタシたちはこのような戦闘訓練を日々こなしていました。それでも、魔物を倒すことは困難で、調査隊がいなければおそらく命はなかったでしょう。」


「ですが、皆さんもどの課外活動に入っても日々戦闘演習は欠かさないでください。そして、魔道具で困ったことがあればいつでも頼ってください。」


「すべては……自分……の、みん……なの、大事なものを……守る……ため……スゥ……。」


 ついにレンは意識を手放してしまい、力の抜けた男の子の体をリコが受け止められるはずもなく一緒に倒れこんだ。


「……え、えぇっと、以上で魔法技術部の発表を終わります!せ、先生!レン君が!」


 発表の終わりを告げると、大歓声と拍手がレン、リコ、サクラに贈られた。


「戦闘演習、めっちゃすごかったぞ!」


「リコちゃーん!美しかったよー!!」


「サクラちゃんも、とても強かったよ!」


「レン君!ナイスガッツだよ!」


 レンたちは屋内競技場を後にし、担任のサムがレンを抱えて、めえと共に保健室へと向かうのであった。


 ☆


 今日の歓迎際は今までにない大盛況のなか終了したようだ。

 めえの見込みによると、レンは今日中に目を覚ますことがないとのことだった。リコとサクラは細かい傷などあり、めえから治療を受けていた。

 魔法によるものではなく、薬剤での治療であった。サクラが理由を聞くと、治療魔法は瞬時に治すことができるが、その分細胞に負担がかかるとのことだった。あまり魔法に頼ると傷が治りにくくなったり、老化が早まることがあるらしい。

 

「先生……治療魔法の使いすぎは良くないと教えてくれましたが、先生は調査隊の頃は最強の魔術師と言われていましたよね?」


「そうだな。確かに私の魔法は【治癒】の魔法だ。細胞を活性化させ、傷を癒したり、細胞から魔力を抽出することができ、それで魔力を補填できる。」


「やっぱり、すべてはパワーで解決……みたいな、ですか?」


 めえはやれやれと首を横に振り、植物が植えられた鉢植えを二つ取り出した。


「まず【治癒】による回復だ。『彼の者の傷を癒せ。』」


 植物が光に包まれると、だんだん元気になっていくのか葉に艶など現れ始めた。すると徐々にしおれていき、枯れた。


「え……あんなに元気になったのに、どうして……?」


「細胞分裂の限界、ですか?」


「ご名答。【治癒】はあくまで細胞分裂を早め、傷を治す術。事象魔法の分類だ。そして次、『彼の者の力の源より、魔の力を与えよ。』」


 もう一つの植物に魔法の効果が表れる。植物から魔力があふれだす。魔力を帯びた植物は不気味にゆらゆらと揺れる。そして、突如魔力が霧散して消えた。

 植物は静止し、ボロボロになっていった。


「枯れたというより崩れたね。ということは絞り出す魔力は有限ってことですか?」


「その通り。このように【治癒】は薬にもなるがやりすぎれば対象を殺すことができる。それで大体の生命は刈り取らせてもらったが、竜族は生命力が大きくてな、中々倒せないので、魔道具や他の魔法に頼らざるを得なかった。」


「レン君は……大丈夫なのでしょうか?」


 リコは心配してそわそわしていたが、めえは少し笑い、リコの頭をくしゃくしゃと撫でる。


「大丈夫だ。お前たちはまだ成長期。十三歳に成人となるが完全に成熟するのは五十を超えてからになる。それに話を聞くにレンは精霊から魔力を貰ったみたいだし、細胞から無理やりひねり出したものではないから、心配無用だ。」


 リコはホッと胸をなでおろし安心した。

引き続き治療を受けていると、保健室の扉がノックされた。


「入れ。」


 短く入るように促すと、二人の獣人が入ってきた。

 ポチおとにゃんであった。リコとサクラは初めて出会うヒトに少し警戒する。そんな様子を見ためえは二人を庇うように低い声を出す。


「なんだ、今取り込み中なんだが。」


「そんな固いこと言わないの。魔法技術部の三人のことなんだけど。」


 めえがベッドのカーテンを開けるとリコとサクラ、寝ているレンがいた。めえはポチおに近づき、睨んだ。ポチおは苦笑いを浮かべたが、すぐにまじめな表情に戻った。


「茶化しに来たんじゃないよ。まじめな話、あの三人に卒業後、魔法技術士の免許を発行してほしくて来たんだ。」


「え、いいのですか!?試験も難しいって聞いてはいるのですが……。」


「もちろん。こんなに技術のある子に免許を与えないのは国の財産として損でしょ?」


「あ、あの……。アタシ、宮廷魔術師に進路決めているのですが、それでもいいのですか?」


「ええ、大丈夫よ。私たちの発行している免許は一応国家で認められているけれど、別にほかの職についてはいけない決まりはないので安心して。」


 サクラはホッと安心していると、ポチおとにゃんが持っている魔道具に目が釘付けになった。それに気づいためえは二人に問いただす。


「お前たち、どこへ行くのだ?」


「ん?今から素材狩りに行くんだよ。この子たちの発表に制作欲に火がついてしまってね。」


「この人ったらデバイスの強化にいろいろアイデアが出たみたいなの。」


「そうか。お前も大変だな。それならこの薬を持っていくといい。どうせドラゴンでも狩ってくるのだろう?」


「ありがとう!サムさんとは会えてる?」


「ああ、毎日ではないが、会えているから大丈夫だ。……にゃん、この娘が何か聞きたそうにしているぞ?」


 サクラはもじもじしながら前に出てきた。にゃんの腰に下げている魔道具に指をさして、質問する。


「あ、あの。この魔道具を見させてもらえませんか?」


「わ、私も見せていただきたいです!」


 にゃんは「ふふっ」と笑い、腰に下げている魔道具を取り出した。魔石が埋め込まれた杖のようなもの、かぎ状に曲がっている棒が二本あった。魔道具であることは確かだが、市販で販売されているような武具ではないのがわかる。二人は見たことない魔道具をじっくりと観察していると、


「いぬの工房製『デバイス』っていうんだ。」


「でばいす……?」


「魔力を込めると武器になる魔道具なの。」


 にゃんは杖状の魔道具に魔力を込めると、魔力の刀身が形成され両刃の両手剣になった。かぎ状の魔道具も片刃のブレードになった。めえが持っている鎌状の魔道具と一緒の構造であるようだ。


「これを【統合】で合体すると……一本の剣になるの。」


 サクラの目がキラキラと輝き、リコもその造形に見惚れていた。その魔道具から魔力を取り除き、武装を解除した。


「これがデバイスっていうの。調査隊に選ばれたら、あなたたち専用のデバイスを作るから修行に励んでね。」

 

「これって、一体どれくらいの価値があるのですか?」


 めえが紙に何かを書き、それをリコとサクラに見せた。すると二人は驚愕の内容だったようでアワアワしつつ後ろに下がった。ポチおはそれを見て腹を抱えて笑っていた。


「では、出発します。めえさん、薬ありがとうございます。」


「じゃ、めえさん、免許のことよろしくね。リコちゃん、レンが起きたらいつでも工房に遊びに来いって伝えてくれるかい?」


「は、はい!」


「ガブとうさ子に会ったらよろしく言っておいてくれ。」


「了解」


 と言って、出て行った。めえは滞っていたサクラとリコの治療を再開した。


「レンくんはあの方に師事してもらっていたのですね。」


「ほう、レンとわんこは師弟みたいなものか。レンは見る目があるのは確かだな。」


「どういうことですか?」


 めえは二人が疑問に思っていると、おかしく思ったのか笑っていた。二人は目を合わせていると、笑いすぎて涙が出ていたのでそれを拭く。

 

「ポチおはこの国の最初で最高の魔法技術士なんだよ。レンの作ったような古代の魔道具ではなく、現代の魔道具を開発してみんなにその知識や技術を教えて、この国を練り歩いているんだ。」


「あの飄々とされた方が最高の魔法技術士……?」


「ウソでしょ……!」


「信じられないと思うが、本当だ。レンはそのことを知っているかわからないが、本当に運がいいな。お前たちも技術の向上に貢献してくれると、女王も私もポチおも助かる。頼んだぞ。」


 めえがそう言うと、リコとサクラは嬉しそうな表情をして頷いた。

 


 治療が終わると「もう大丈夫」と言い保健室を後にした。

 リコは健やかに眠っているレンの手を握りうつらうつらとしていた。サクラは保健室のソファで眠っていた。

 リコの頭ががくんと落ち、レンの腹部に頭突きを当ててしまう。リコはハッとして、レンを見ると頭突きの箇所が痛かったのか「うーん」と腹部をさすって再び眠りについた。

 リコはその姿を見て安心し、首にかけていたネックレスを取り出し、眺めていた。リコはふと何かを思い出し、保健室から出て行った。


 こうして歓迎祭を無事(?)に終え、学園生活、残すは卒業試験のみとなった。

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