第19話 帰還と学園最後の大戦闘
サクラが目を覚ますと、外から食欲をそそるにおいがしたので、外に出るとガブが朝食の準備をしていた。サクラは炊事ができる紳士だと思った。
「おはようございます。昨夜はすごく眠れました。ありがとうございます。」
「おはよう。すぐ食べるか?」
「あ、はい。いただきます。レプレさんは……?」
サクラが周囲を見渡して探していると、ガブは鍋の具材をかき混ぜていたお玉でレプレのいる方向を指した。
そこを見ると、衣服が乱れており、割と危ない格好で眠っていた。ガブを見ると、少しやつれているような顔色であった。
レプレの姿が月兎に戻っているあたり、サクラはすべてを察して、いそいそと椅子に座りご飯を食べることにした。芋とニンジンを魔獣の骨からとられる出汁で煮込んだ簡単なスープではあるが、冷えた体にはとてもありがたかった。
「とても美味しい……!」
その感想を聞いたガブは少しうれしそうな顔をし、調理を続けた。テントからレンとリコが寝ぼけ眼で出てきた。
「おはよ~……。」
「……おはようございます。」
「おはよう。お前たちは肉食寄りの雑食だったな。もう少し待っててくれ。」
レンはガブがいたことで眠気が一気に覚める。リコはもう少し目が覚めるまでかかりそうであった。塩漬けにした魔獣の薄切り肉、小型魔獣の卵を使ってできた料理が出てきた。
レンとリコはそれを頬張り、食べているとレプレが目を覚ます。歩いて火のところへ向かうとみんなの視線がレプレに集中する。
「えっ?えっ?な、なにさ……みんな私を見て。」
ガブは頭を抱えてうなっていた。
「は、初めて見るサイズ……!」
「破廉恥。」
「その大きさ、分けてほしいな。」
「と、とりあえずレプレ、服を着ような?」
レプレは自分の姿を見て、目にもとまらぬ速さでテントに入って、服を正しく着なおして出てきた。
レンはレプレの姿が変わっていることに気がついていたが、リコがこっそりと昨日助けてくれた兎族だと教えてくれた。
「あはは……。服を直すの忘れてたよ。キミたち、特にネコ君。キミは何も見てなかった、いいね?」
「もちろんです!何も見ていません!」
年頃の男の子にはラッキーなハプニングがあったが、レンたちは朝食を食べることにした。
朝食を食べ終え、片づけが終わると、レプレはレンを座らせて診察していた。昨日の状態より良くなっており、レプレは自信を持って頷いた。
「うん。もう、大丈夫そうだね。軽く魔法撃ってみる?」
「は、はい!リコさん、一緒に……。」
レンとリコはリンクし、水の弾丸を構えた。問題なく【重撃】は発動し、大量に紋章がレンとリコの前に出現する。更地に向かって大量の水の弾丸が着地した衝撃で砂埃が上がる。
「うわぁ……。何その魔法。あんなに紋章増やす魔法って聞いたことないんだけど。」
「弱い魔法でも威力を底上げできていい魔法じゃないか。」
二人の反応は分かれていたが、レンの魔法が発動できたことに全員安心していた。
「よし、これでわたしたちはお役ごめんだね。」
「そうだな。一応国に帰って父上とふく様に報告するから、帰ったらいろいろ質問されると思っていた方がいい。」
レンたちは頷くと、ガブはレプレを肩に乗せてダッシュした。その速さは目では到底追えないもので、一瞬で姿が見えなくなった。
「帰ったら、王様と女王様にお礼しなきゃ、だね。」
「そうですね。ここの調査滞在期間はあとどのくらいですか?」
「ドラゴンとの戦闘で地形が変わっているからね……。それでも、移動しながら調査していけば、あと二週間くらいで国内に戻れるんじゃないかな?」
「よーし、それじゃ頑張って調査を再開しますか!」
三人はテントをしまい、調査を再開した。ドラゴンの放った【煉獄】の威力はすさまじく以前調査したところは地形も含めて諸々変わっていた。変わってしまった地形を地図に描いていく。
魔獣掃討は【煉獄】で周囲の魔獣は皆、巻き添えを食い絶滅してしまったようで姿がみえなくなっていたのである。ドラゴンの脅威を肌で感じ取りながら歩いていた。
「あのドラゴン、斃せたんだね。」
「はい、レン君の【氷結】を【重撃】増やしてもらったので凍らせて、サクラさんが魔力弾でとどめを刺したんです。」
サクラは大事なことを思い出して、レンの前に出て手を合わせる。
「あーーー!レン君ごめん!あの杖、粉々に砕けちゃったの……。」
「ううん。大丈夫だよ。使うべき人に使ってもらえてよかったよ。もっといい案が浮かんでいるから帰ったら作るんだ。その時はまたサクラさんに使用感を聞きたいからお願いするよ。」
レンがそういうとサクラはジャンプしながら喜ぶ。するとリコが傍に来て、レンの服の袖を引っ張り、上目遣いで見る。
「私にはないのですか?」
「もちろんあるよ。それに、リコさんの力を貸してほしいんだ。」
リコは嬉しそうに尻尾をふりふりしてレンの前を歩く。
「早く帰って、卒業したら……魔道具屋を開業しましょう♪」
リコはいつになく上機嫌で調査をしていた。
☆
王城の王の間でガブはヴォルフとふくの前に立ち、報告を上げていた。レンたちのいる場所から大体一週間で到着するところを半日で走って帰っていた。氷狼は足が早いというレベルでは済まない速さである。
「以上が報告になります。」
「うむ、ガブとうさ子よ。お前たちはよくやった。下がってもよいぞ。」
ガブとレプレは報告を済ませると、執務室から出ていった。ふくは腕を組んで安堵のため息を出す。
「なんじゃ?ぼるふ。」
ふくの後ろにはヴォルフが立っていた。相変わらず音もたてずにふくの背後に立つ。
「聞いたぜ。学園の生徒がドラゴンを討伐したって。」
「それでも、レンが死にかけたという報告が上がっておるからの、すべてうまくいったわけじゃなかったようじゃ。」
「それでもだ。ドラゴンを討伐する実力があるなら、次回の調査隊に組み込むのもありなんじゃないか?」
ヴォルフが提案するが、ふくはあごに手を当てて難色を示していた。
「それなんじゃが……。」
ふくの提案にヴォルフはにやりと笑い
「いいじゃないか。その案に乗ってやろう。」
「それも大事じゃが、『豊穣の儀』はいつ行うのじゃ?」
「そうだな……。あの三人組が帰ってきたら、特別に参列してもらおうか?」
そういうと、露骨に嫌そうな顔でヴォルフを睨んだ。両手を上げてやれやれとすると、ふくが拒否できないように理由を説明する。
「いいじゃないか。この学園始まって以来、最高の生徒なんだろ?じゃなきゃ学園祭にも、卒業試験の内容発表にも出てこなかったろ?」
そう言われ、図星だったのかふくは腕を組んでため息をついた。頬がぷくりと膨れていた。
「わしはあの後のことを見られるのが嫌なんじゃ。じゃが、ぼるふがそういうなら……しょうがないの。」
ふくは諦めたように執務室の机の前に座り、作業を開始した。ヴォルフはニマニマと笑みを浮かべて、仕事をする服を眺めていた。もちろんその後、邪魔だという理由でヴォルフは追い出されたのである。
☆
レンたちは調査を終え、関所まで帰ってきた。関所に入るとアスランが走ってきた。
「お前たち!よく戻ってきたな!ドラゴンが出たって聞いて心配してたが、まさか斃すなんてな。どおりでうちの新人が負けるわけだ!」
関所の人々がレンたちの帰国に盛大な拍手と歓声を送る。レンは照れて後頭部を掻き、サクラはノリノリで両手を上げ、リコは丁寧にお辞儀をしていた。
「疲れただろう。宿屋を手配するから、今日はしっかり休んで、明日学園に帰るといい。いいかな?ネズミの宿屋の女将。」
「ええ、いいわよ。英雄の帰還ですもの準備をしておきますね。」
「え、英雄だなんてとんでもないですよ!?」
レンが焦って英雄になることを否定しようとすると、アスランがレンの肩に手をドスンと置く。獅子の手は大きいのでレンは一瞬バランスを崩す。
「竜を斃せる、そんな獣人はこの世に何人いると思う?うちの軍はともかく、近衛師団でも師団長以外は撃退が精いっぱいだ。これを英雄と言わずして何というのかね?」
アスランに圧力をかけられて逃げ場を失ったレンは、受け入れることにした。
しばらくは関所の町の人たちに握手やサインを求められたり、子供たちに魔法を使った訓練方法を教えたりと色々と大変な目にあった。
そして【太陽】の魔法が夜に変わるごろ、レンたちは駐在軍の女官に連れられて宿屋へと向かった。
相変わらず夕食はいくらでも食べてもよいらしく、キャンプ飯から解放された三人はモリモリ食べていた。満腹になり、眠気が強くなり、サクラは個室、レンとリコは同じ部屋に入っていった。
外敵に襲われる心配もない。そんな生活に戻り、安心して深い眠りへと落ちていった。
☆
翌日目を覚ますと、時間はすでに昼を回っていた。宿屋の女将は気を利かせて、眠らせてくれたようで、レンたちが起きると、急いで食事を準備してくれた。食事を食べ終えると、荷造りをし、宿屋を出ることにした。
「あら?今から出発しても一日かかるのに野営するの?」
「いえ、夜も歩いていきます。」
夜も歩くと聞いて、女将は心配そうな顔をする。
「さすがに国内とはいえ危ないわよ?」
「どうしても見たい景色がありまして……。」
「そうなのねぇ」
というとそれ以上女将から追及されることはなかった。
レンたちは宿屋を後にし、学園に向けて歩き始めた。国内は魔獣の管理が行き届いているので、害が少ない魔獣ばかりで安心した。それでも好戦的な魔獣はしっかりと片付けていく。
気持ちの問題であるのだろうが、国外と比べて国内は暖かい気候で過ごしやすい。
日がどんどん暗くなり、夜になっていく。夜になるとさすがに明かりがないと闇が深くレンの目でも見ることができない。【照明】の魔道具に魔力を込めて、周囲を照らす。
その中で三人は進んでいった。
随分歩き、日が明るくなり始めた頃。レンたちには見覚えのある光景が見えてきた。調査の出発日に見た朝日に照らされた学園である。三人は立ち止まり、その光景を見てサクラは涙を流し、レンとリコは手を繋いだ。
「帰ってきたね……。」
「はい……。これで旅は終わりなのですね……。」
「大変だったね……。ぐすっ……。みんなで帰ってこられてよかったよぉ……。」
サクラは号泣して、二人で慰めていたのであった。
サクラが落ち着くと、再び歩き出し、学園の門をくぐる。久しぶりの学園の景色を見て、深呼吸をする。
懐かしいにおいでレンは帰ってきたことを実感する。まだ学園の生徒が来るような時間ではないので、とても静かであった。魔法技術部の扉を開けると、部室の魔道具などには埃がかぶっていた。
「まずは、掃除からだね。」
「なんだか、入部の日を思い出します。」
「そんなこともあったなぁ。」
「なに?のろけ話?」
「い、いや。そういうわけじゃないんだけどなぁ。」
レンたちは使われていない部室の掃除を始め、少し時間が経つと、部室の扉が開かれた。
誰も来ないはずの扉が開かれたことで警戒して扉を見つめる。訪問してきたのは、めえであった。
「先生!?どうしてここに?」
「どうしても、こうしてもない。私は学園の見回りをしているから、普段ついていない部室に明かりがついていたら気になるに決まっているであろう。」
「先生。ただいま戻りました。」
「無事に帰還しました。」
「あ、えと……。報告書は仕上げて持っていきます。」
レンたちがそういうと、いつも冷たい表情をしている印象であるめえの顔が優しい顔に変わり、レンたちをまとめて抱きしめた。リコとサクラと違い、めえからもいい香りがした。
「よく戻ってきた……。心配したぞ……。」
レンたちはめえに抱きしめられて、彼女の心配していた気持ちが伝わり、緊張がほぐれたのか三人とも涙を流していた。
「そういえば、新入部員は入ってきたっていう情報はないですか?」
レンは埃だらけの部室を見てめえに疑問をぶつける。めえは、腕を組んで難しい顔をしていた。
「一応入りたいという者は前年に比べて多いのだが、誰も彼もお前たちの姿を見たいというヒトばかりでな。卒業試験でお前たちが帰ってこないことで、辞退したものが多く、入部を諦めたらしい。よって今年も三人程度の部員でいつものように卒業間近まで部室は使わない者ばかりだ。」
めえがそう告げると三人は少し残念な感情に包まれてしまった。あれだけ頑張ったパフォーマンスでも、ヒトを留めることはできないという事実にかなり落ち込んだ。
掃除が終わり、レンは報告書を仕上げる作業に入る。レンは書類の製作が得意であり、調査隊としてリーダーに抜擢された頃から自分の仕事だからと言って一人で仕上げていた。
リコはレンの作っていた杖を改良するために素材から見直していた。サクラは【幻揺】の魔道具を眺めていた。今回の調査でこの魔道具は威力がないことに悩んでいた。対人戦では威力はあるものの、少しフィジカルの強い種族の戦士や魔獣や竜には全く歯が立たなかったので、防衛任務や調査隊選抜のことを考えると威力が欲しくなっていた。
「ねえねえ、レン君は【幻揺】の魔道具の威力を上げるにはどうしたらいいと思う?」
レンは「うーん」と顎に手を当てて、考えているとリコが来て、
「私の精霊の力を借りてみるのはどうでしょうか?」
二人は目を合わせてきょとんとしたが、レンはあることを思い出す。
「【召喚】って確か魔道具と相性が悪いんじゃなかったっけ?」
「はい、そこでレン君の力を貸してもらいたいのです。」
レンは頭に「?」を浮かべていたが、リコはレンをそっちのけでシルフを呼び、具現化した。
「レン君、シルフと交渉してください。」
「え……!?いきなり!?あ、あの……コンニチハ。」
——なんでカタコトの挨拶なのよ?で?ご主人様に君と話をしてほしいって言われたんだけど、何か用?
「え、えぇっと。君たちの魔法は魔道具に封印することはできないかな?」
——ご主人様のやっていたようなことなら無理だわ。ご主人様の魔法は私たちとタマシイで繋がっているからね。
「ということは、抜け道があるってこと?」
——抜け道って……。あなたを介した魔法なら可能だってことよ?あなたの魔法は特異すぎて理解できないけど、ご主人様の魔法を無理やり変更するなんて普通じゃないから!
「じゃあ、【重撃】で手を加えさえすれば、魔道具に封印できるってことかな?」
——そういうことよ。うまくいかなくても文句は言わないでよ。あと、今ご主人様の持っている石みたいに、紋章を分けて複数で一つに仕上げなさい。
そういうとシルフは風になり消えていった。魔法が切れたことが分かり、レンの元へと行く。
「終わりましたか?」
「うん、聞いての通りリコさんは直接作ることができなくて、オレの【重撃】で書き加えたものなら可能だってさ。」
そういうとサクラが申し訳なさそうな顔で尋ねる。
「ゴメン。レン君は精霊と話をしているとき、聞いたことのない言葉でしゃべっていたからもう少し詳しく教えてくれないかな?」
レンはそれを聞き驚いていると、リコの方に向くと、首を横に振ってリコにもわかっていなかったという事実が判明した。
レンは精霊と話したことを一から話すと、サクラは「なるほど……」といい、リコは「そんな方法で……」といって感心していた。
【重撃】は他の魔法に練りこんだ状態であれば魔道具に封印できる。これは以前【結合】の魔法がルナティクスに組み込まれていた事例を【召喚】で再現するものである。
厳密には【召喚】を練りこむのではなく精霊の扱う精霊魔法に【重撃】を練りこませ、リコの権限から外し、誰でも使用できる状態にするというものである。
早速、サクラは魔道具の元になる素材を集めて、成型を始める。リコは組み合わせる魔法との相性を考えつつレンのルナティクスを細かく配置して魔道具へとセットした。レンは深呼吸をしてルナティクスにシルフの魔法【風刃】と【幻惑】、【斬撃】、おまけで火の紋章を複合させてルナティクスに結合していく。できた魔法の根幹の部分をサクラに渡し、サクラは魔道具の動力部分と結合を始める。
長剣のような長さの魔道具が出来上がった。その魔道具からは今まで見たことのないような光が漏れていた。サクラは恐る恐るそれを持ちあげると、膨大な魔力が部室を満たした。リコは一気に表情が険しくなり、サクラからそれを取り上げた。その勢いで魔道具は床に転がり、魔力が解除される。
「大丈夫ですか!?」
「う、うん……。威力が凄すぎて制御できるか心配になっちゃった……。」
「とりあえず、収納カバンに入れて、競技場に向かおうか?」
レンは収納カバンを取り出し、魔力を遮断する布で魔道具をくるみ、カバンに収納しようとしたが、入らなかった。
「え、内蔵されている魔力だけで容量限界なのか……!?」
「慎重に運んでいきましょう。私は保健室の先生に競技場の許可を取ってきます。事故が起きる可能性があるので……。」
リコは走って部室を出ていった。レンはサクラと共に慎重にゆっくりと競技場に向かっていた。
リコは走って保健室に行くとめえがいた。
「先生!競技場の使用許可をください!」
突然扉が開かれて、競技場を貸してほしいと言われ、何が何だかわからず、呆然していると。入り口から死角になっているところから、カレンが現れた。その姿を見て思わずリコは身構えた。
「急に競技場を貸してほしいなんて一体どういうことだ?」
「は、はい。魔道具を作ったのですが、部室棟が壊れてしまうくらいの出力が出そうで……。」
「へぇ、めえ様。またこの子たちに稽古つけてもいいかな?」
カレンが笑いながら言うと、めえは今までに見たことないような冷酷な目をしていた。
「また生徒を傷つけてみろ。そのときは私が貴様を埋めてやる。……それでもいいかな?リコ。私も向かうので先に準備をしていてくれ。」
「は、はい。大丈夫です!それではカレン様今日はよろしくお願いいたします。」
リコはカレンにお辞儀をして保健室から出ていった。
「い、痛い痛い痛い痛い!めえ様!おしりをつねらないで!」
「肝に銘じておくことだな。」
「ふぇい……。」
カレンは涙目になりながら返事をし、競技場へと向かった。
どこから広まっていたのか、すでに競技場の観客席には全学生が集まっており、大盛況であった。それもそのはず、歓迎祭で魔法技術部が競技系クラブのパフォーマンスを余裕に凌駕する内容であったため、もう一度それが見られるのかと皆、待ち望んでいた。
しかも相手は近衛師団長ときているため競技系だけではなく、学園のみんなはその雄姿を見ようというのが目当てである。レンとサクラが競技場入ると盛大な歓声に包まれる。その観客の数にびっくりして呆然としていた。
「え?え?なんでみんなここに集まっているの?」
「あ、アタシたちただの実験でここに来ただけなのに……。」
戸惑っていると入り口からリコが入ってきた。
「リコさん!これ……どうなってるかわかる?」
「すみません。保健室の先生に競技場の貸し出しを申し込んだところ、近衛騎士団長もいらっしゃって、実験も兼ねて闘うことになりました。しかし、この観客は一体……。」
「はは~ん、噂好きの仕業だろうね……。でも、そうなったのなら、やってやろうじゃないの。」
サクラはやる気満々で構えていた。レンとリコは困った顔をしながら頷き、向かい側の入り口を見た。すると、全身鎧姿のカレンが現れた。腰の聖剣を抜き、上空へ掲げた。
「皆の者!静まれ!」
その大きな声は【拡散】の魔法など使わなくとも、競技場全体に響いた。そして競技場は静まり返る。
「我は今より、学園最強のこの三人。レン、リコ、サクラを相手にし、正々堂々闘うことを誓う。」
剣を地面に刺し、レンに目配せをする。レンも一歩前に出て、【拡散】のルナティクスを口元に当て、緊張した表情で宣誓する。
「私たち、レン、リコ、サクラは近衛師団長じゃじゃ様に正々堂々と戦うことを誓います!」
そう告げるとめえが上空からふわりと飛び降りてきて、レンの持っていたルナティクスを持っていく。
「この試合を正式な試合として私が見届ける。我が名はめえ。王直属の護衛隊長、並びに宮廷魔術院院長の名においてこの試合を承認する。両者位置について……。」
レンたちは競技場の指定の位置につき構える。レンは少し改良した杖、リコは開始と共に発動できるように魔力を纏い、サクラはまだ布に包まれたままではあるが魔道具を構える。対して、カレンは聖剣を両手で持ち構えた。
めえが小さな石を投げる。そして、炸裂音が競技場内に響き渡る。レンはすぐさま杖を振り先制の魔力弾を飛ばす。
カレンは何事もないように払いのけようとしたが何かを感じ、紙一重で避けた。バランスを崩したところにリコの風の弾丸と水の弾丸が撃たれる。カレンは何も動じていないのか、その体勢のまま風の弾丸と水の弾丸を切り伏せる。それだけでなく、死角の追撃までも捌いていた。
サクラは【幻惑】残像を増やして【幻揺】の魔道具でカレンに斬りかかった。変則的に曲げられた斬撃もカレンにとっては朝飯前なのか簡単に受けきられてしまい、カウンターを仕掛ける。
サクラに当たる瞬間、レンの魔力弾がカレンの胴体にヒットし、吹き飛ばした。今までダメージを与えられなかったレンの攻撃は鎧をへこませることに成功した。サクラが後退すると、リコはすかさず追撃を入れる。
「『大地の怒りよ、彼の者を地竜の牙で穿て!』」
二本の巨大な岩槍がカレンを打ち上げ、上空から二本の岩槍がカレンに向かって襲い掛かる。彼女は打ち上げられている最中に実感していた。
(いやぁ……。わんこと同じことしてくるコ、初めてかも……。)
ニィッと口角を上げ、目を見開く。カレンは魔力を解放し、追撃の岩槍を切り刻み、払いのける。その払いのけた石つぶてがレンたちに襲い掛かる。サクラは【守護】のルナティクスを取り出し、詠唱をする。
「『守護の力よ、われらを守り給え!』」
白い光の結界が石つぶてをすべて防ぎきる。しかし、カレンはすでに距離を詰めており、結界を聖剣で切り払う。ガラスが割れるような音を響かせながら壊れる結界をしり目にレンに向かって剣の腹でレンを吹き飛ばしにかかったが、サクラがそれを許さず、【強化】と【加速】のルナティクスで身体能力を上げて、聖剣を持っている腕に蹴りを入れて軌道を逸らし、リコが詠唱を始めた。
「『水の精霊、ミズチよ。彼の者の自由を奪う水の檻に閉じ込めよ!』」
サクラの蹴りに気を取られていたカレンはリコの詠唱を止められず、水塊に閉じ込められた。三人は距離を取り、体勢を立て直す。
「ゾウさんのように閉じ込めましたが……。いえ、ダメそうですね。」
リコの言う通り、水塊は切り刻まれた。彼女の聖剣には光の帯が八本生えていた
「水を斬れる剣ってアスランさんの剣と同じ性質なのかな……?」
「ですね。魔法や普通の剣では水は斬ることができません。」
「……二人とも、ちょっといいかな?」
サクラが申し訳なさそうに口を開き、何事かと思うと布に巻かれた魔道具を持っていた。
「この魔道具を使ってみようと思うの。それで……暴走したら、止めてもらえる……かな?」
レンはにっこりと笑い、サクラの肩に手を当てる。反対の方にはリコの手が乗る。
「当たり前だよ!オレたち仲間でしょ?」
「もちろんサクラさんの手助けさせてもらいますよ。」
サクラはうつむき、二粒のきらりと光るものが落ちた。
「アタシたちに……ケンカ売ったことを、後悔させてやるんだから!」
☆
こんなに全開に近い戦闘したのいつぶりだろ……。一対三なんてどうでもいい。
それよりも、もっと全力で戦闘したいよ!魔物を相手にしても国民に危害を加えてはいけないから、力は加減しなくてはいけないし。最近は近衛師団のメンツもたるんでいるし。でも、あんまり厳しくしたら辞めていっちゃうし……。
それに比べて、彼らの連携はすごくいいし、隙も全部つぶされる。なにより、レン君!最初のころに比べると戦闘能力は全然違う。とても苦労したんだろうなぁ。
魔道具を駆使してこんなにも強くなるなんて。わんこも同じ感じでみるみる強くなっていったし、これが彼のスタイルかな?いや、まだ切り札残している感じだよね。
知っているよ。キミたちは二人で一つ。パートナーとしての全力戦闘を見せてよ!
手に力を入れて聖剣の能力を引き出してあげる。
「さあ!八割の力だよ!キミたちはどうやって対応する?」
聖剣から発せられる魔力に当てられて気を失う人が出てるけど、気にしない。ウチはもっと戦いを楽しみたいんだっ!!
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