第2話 魔法技術部入部と首席の狐族
レンは学園の中央通りに設置されている簡易的な課外活動入部案内の会場にいた。同じ組の人たちは魔法競技部や魔術研究部など魔法をメインとした課外活動に多く集まっていた。そのまま歩くと人が少ないブースがあった。
「えぇー……と、あった。魔法技術部であってるよね。」
魔法を補助する道具、魔道具を製作する部活動であり、パフォーマンスで散々な結果を起こした部活であった。レンは一晩考え、やはり趣味である魔道具作りの個性を伸ばしていきたいと考えており、魔法技術部に入部すると決めていた。
ブースの前に立つと、二人の部員と目が合った。片方の女の子はみるみる緊張していく。
「い、いらっしゃいませぇ~!」
「お、お店じゃないよ!?(小声)」
「ほあぁぁぁぁ……。」
どうやらこの活動は人とあまりかかわらないものが多いのだろう。その証拠に彼女たちの活動紹介が全然できていないのだ。いろいろと何かを喋っているが、話があちらこちらに飛んでいるようでメモをしていないと解読に時間がかかる。彼女たちがあたふたしていると一人の生徒が話しかけた。
「あの……ここが魔法技術部で間違いないですか?」
野狐族の女の子だ。藤色の髪の毛を三つ編みにし、前髪は長さが揃えられている。なにより美人で賢そうな雰囲気が出ている。そして昨日の歓迎祭の入学生挨拶で発表した首席の女の子であった。彼女についてくる人たちはいたものの、一定の距離を維持したまま、彼女には近づこうとはしなかった。
「は、はい!入部希望ですか!?」
「はい。入部するといつから活動は開始できますか?」
「き、今日からでも大丈夫です!!い、一応名簿に登録してくださいね!」
「わかりました。では、部屋を使わせてもらいます。」
彼女は素早く入部手続きを済ませ、部室へと消えていった。それまで追いかけていた人たちは魔法技術部のブースの前で留まり、渋滞を起こす。男子生徒だけでなく、女子生徒も少数だが彼女の追っかけをしているみたいだった。狸族の女の子とレンは目が合うが、すぐにそっぽ向かれ、彼女は追っかけの群れから離れていった。
「やっぱりリコちゃん、すげえ美人だったな!」
「俺も入部しようかなぁ……」
「やめとけって、お前じゃ相手にされねえ。何せ首席入学生のリコだぜ。しかも、魔法技術部って今後の成績にあまり評価点が加わらない部活だぜ。」
(あぁ、さっさと入部したのはこの追っかけから逃げるためだったのか……。)
レンがそう考えていると群れが解消されて渋滞がなくなる。最後に話していた男子生徒の言葉が魔法技術部のブースにいる女子生徒の心をえぐる発言に涙目になっていた。
レンは首席の名前が判明し、口に手を当てて考えた。
(どうしよう。美人だったなぁ。いやいや!ここで成果を出して魔法技術士になるんだろ!)
「あの……オレも入部したいです!」
レンはそう言い、入部手続きを済ませ、部室に入った。
するとそこには、魔法に関する様々な機器、道具、書物が乱雑に置いてあった。その乱雑さは歩くスペースはほとんどなく、いつも歩いているだろうと思われるところだけ獣道のようになっていた。
「きっっったねぇぇぇ!!まず、片付けないと何もできない!」
「あなたも新入部員?」
「うおぅ!ああ、リコ……さんもだよね?」
「え?どうして私の名前を知っているのですか?同じクラスではなかったと思うのですが。」
レンとリコは他のクラスで接点がなく、リコは自分の名前を知られていることに警戒をしていた。レンは彼女の警戒を解くために、尤もな理由を考えて口を開く。
「あ、えぇーと……リコさんは首席で有名だから……。あ、オレはレンっていうんだ。よろしく。」
「そうですか。レン君ですね。こちらこそよろしくお願いします。ではわたしはこれで。わっ……ぷぎゃっ!?」
リコはそのまま奥の部屋に向かおうとすると散乱した魔道具に躓き派手に転んだ。
「まずは片付けしないとダメですね……。」
「そうだね。一緒に片付けよう。」
レンとリコは片づけをはじめた。そしてこの日は片づけだけで一日が終わった。非常にごちゃついていた部室はなんとか歩く道を確保し、次に片付けやすいようにある程度分別をしておいた。片付けをしていると本当に勿体無い使い方をされている端材があったり、素材を結合するための魔道具が埋まっていたりと先輩たちは一体どうやって研究発表をしていたのか気になった。
レンは特別綺麗好きでは無いが、散らかっている部屋は苦手なのと、他人の部屋を掃除が好きな性格なのでテキパキとこなしていた。一方リコは掃除こそ丁寧ではあるが、本を見つけるとその場で読む癖があるらしく、掃除の大半はレンが片付けていた。
リコとレンは帰り支度をしていた。彼女の帰り支度が終わるのをみて、レンは勇気を出して聞いてみる。
「あの……い、一緒に帰る?」
「いいですよ?」
帰り道、レンは女の子と一緒に帰るのが初めてで緊張して黙っていた。リコはもともとよく話すほうではないらしい。そのおかげで沈黙のプレッシャーは軽くなり、空を眺める。
地底にある世界とはいえ空はある。創世記のころの獣人たちが地核を利用した大魔法で空間と太陽、空気、水を作り上げたというのだ。詳しい話はレンの知識ではよくわかっていないが、取り敢えずすごいことなのだと思っていた。レンは風景を眺めながら歩いているとリコが口を開く。
「レン君、あなたはどうして魔法技術部に入部したのですか?」
沈黙が破られ、まさか彼女から話しかけてくるとは思っていなかった。突然話しかけられたのでレンは変な声が出てしまう。
「へぁ!?な、なに?」
「ですから、あなたはなぜ魔法技術部に入部したのですか?」
リコは首をかしげて質問していた。その仕草が可愛らしく見えてレンは鼓動が少しばかり早くなる。
「うーん……オレは、地上の世界に行きたくて入部したんだ。」
「はい。」
「それで魔法技術士になって地上の世界に行けるチャンスが欲しくてね。」
「……あなたの魔力では魔法競技部のほうがまだ成績上げられると思うのですが。」
「いやー……オレじゃ選抜組には入れないですよ。それに、魔道具を作るのが趣味なんで。」
「そうなのですか?中等級くらいの魔力量だと思うのですが?」
リコのように魔道具を介さず魔力の総量が見える人はこの世界ではかなり少ない。それだけリコの魔力がずば抜けているということ。魔力の総量が高いほど、探知にリソースを割くことができるためである。
「オレ……魔法が無くてね……ハハハ……。」
レンは乾いた笑いをする。その中に惨めな感情が込められていた。リコはそんなレンを見て疑問に思って首を傾げる。
「どうして笑うのですか?別におかしくないと思うのですが?」
レンはリコの指摘に思わず黙ってしまう。そしてリコが再び口を開く。
「いいじゃないですか?魔法がなくても魔力さえあれば戦うこともできますので心配はしなくても。それに恐らくですが、あなたは魔法を発現していると思います。」
リコの発言にレンはモヤっとした感情が芽生える。今までどれだけ魔法の呪文や儀式をしても発動しなかった。基本的に紋章を描けば誰でも発動は可能だが、レンにはなぜかそれができなかった。そして昨日の入学テストでも発現なしと診断された。そのような状態で発現しているというのだ。レンは揶揄われていると感じて拳をギュッと握る。
「……な、何を根拠にそんなこと言うんだ!?昨日も発現なしって言われたんだぞ!」
大きい声を出して反論した。リコは大きい声に少ししかめ、ひるんだがすぐに立て直す。彼女はレンに対して敵対する気は無いため、冷静にかえす。
「いきなり大きな声を出さないでください。私は【解析】の魔法は持ち合わせていないので、あなたの魔法は特定できません。」
レンはリコのあいまいな答えを聞き、更に怒りを燃え上がらせようとすると、リコは手を前に出して制止の表現をし、話を続ける。
「それでも大体のカテゴリは予測がつきます。あなたの魔法種別は「補助」である可能性が高いです。」
「ほ……じょ……?」
レンは聞いたことのない魔法種別を言われ、戸惑ってしまう。
「はい、それも付与術みたいなわかりやすいものではないです。」
「付与術と違うって補助魔法ってなん……どんなもの?」
「系統外の魔法なので詳しくありませんが、私も同じく補助魔法に分類される魔法を発現したので、レンくんの気持ちはとてもわかります。」
レンは驚いた。自分の魔法が補助魔法であることと、リコの魔法も同じだというのだ。この世界で魔法を使えるものではわかりやすく三種類に分けられる。元素魔法、事象魔法、付与魔法があり、国民の九割以上は元素魔法、事象魔法、付与魔法を発現する。それは特別な条件が無いため、入学の際に行われる魔法のテストでも簡単に発揮することができる。
一方補助魔法は、先ほどの三種類の魔法では言い表せない魔法のことで使用者の数が圧倒的に少ない。魔法のテストの形式では条件が難しいこともあり発揮することがままならないため、魔法なしといわれることがある。レンはその補助魔法に属しているということだった。そして、リコもまた補助魔法に属している。
「補助魔法は発動条件が変なものが多いので、入学の検査で発動するのは困難なのです。あんなへっぽこな検査をするくらいなら、【解析】を魔道具化すればいいのですが、その魔法は魔道具化するのが困難であるから……ブツブツブツ……。」
リコは何やら呟き始めたので、レンは気になることを聞いた。
「リコさんは何の魔法がつかえるの?」
「私は【召喚】です。……実演したほうが理解しやすいですね。」
(……おい。)
「『風の精霊よ、わが魂の声を聞き給え。彼のものに風の鎧を纏わせよ。』」
リコの呪文が終わるとレンの体の周りに空気の流れが生まれ、毛並みが乱れはじめた。どんどん強くなり、しばらく待っていると風が安定し風の膜ができた。するとリコは落ちている石を持ち構えた。
「運動は苦手ですが……いきますっ!!」
助走をつけてレンにめがけて思い切り石を投げた。石は放物線を描いて飛んできた。だが投げられた石はかなり遅いのでレンは逆に驚いた。
「ちょっ……え……?この速度なら手でとれるけど……。」
手を伸ばして捕ろうとすると石は風に阻まれ目の前で落ちた。リコを見てみるといつもと変わらなさそうな表情だがとても得意げな表情に見えた。
「ほかの精霊も使役できますが、大体このような感じです。」
「すごい……。もっと、強いヤツできるの!?」
「はい、できますよ。ですが、長時間詠唱やさすがに紋章を組まないと暴走すると思います。」
「暴走するとどうなる……?」
「町が消滅すると思います。」
真顔で答えられレンは大爆発を起こして消し飛んだ町を想像して苦笑いを浮かべた。するとリコが、少し俯いた感じで話す。
「レン君。再々申し訳ないのですがあなたの詳細な独自の魔法はわかりません。専用の魔法や魔道具があれば判るとは思います。参考程度に補助魔法の仲間としては【再生】【自動】【狂化】などがあげられます。この魔法以外にも存在はしているはずです。私からの提案ですが……」
リコが近づき指でピッと横に斬ると風の鎧を解除される。レンはその動きをかっこいいと思って、思わず真似をしてしまう。リコはそんなことを気にせず真剣なまなざしで見つめてきた。
「レン君は私の助手になってください。私の研究をサポートお願いします。見返りに、あなたの魔法を一緒に探します。どうですか?」
レンは悩んだ。彼女の研究はおそらく高難度の魔法を扱うはずだ。魔法の難易度が高いほど魔法事故の危険も伴うが彼にとって魔法が発現するという見返りはとても大きかった。
「オレ、リコさんみたいに賢くも魔力もないけど、それでもいいの?」
「はい。私は運動や体を動かすのが苦手なのでそこのサポートをお願いしたいです。」
「そっか、そういうことなら任せてよ!」
レンの役割がはっきりして笑顔になった。リコは口に手を当てて少し考える。
「でも、レン君は自分の研究は決めて発表しないと成績に加点はされませんよ?」
「そうでした……。」
「もうすぐ夜になります。そろそろ帰りましょう。」
地底世界の夜は暗い。しかし、町まで帰れば違う。太陽の魔法が時間で暗くなるようだが詳しいことはレンにはわからなかった。町の広場にたどり着くとリコがこちらを向き、お辞儀をした。
「それでは失礼します。また、明日から作業の助手の方をよろしくお願いします。」
「あ、うん。またね。」
彼女は町の奥へと消えていった。レンは彼女の姿が見えなくなっても立ち止まっていた。レンは胸に手を当てると、鼓動が速い気がした。
「もしかして、オレ……リコさんのこと……。いやいや!早く帰って研究内容を考えなきゃ!!」
レンは家に向かって走り出した。レンは目標が見つかり、初っ端でつまづいてできないと思っていた友人を得て充実した感情に満ち溢れた。どんな研究をしようか、リコの研究は一体どんなものなのか気になることがいっぱいで入学してはじめてワクワクしていた。そして、これからレンは魔法技術部を中心にした学園生活が始まるのであった。
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