ケモノの調査隊
わんころ餅
第1話 プロローグ~学園へ入学
ここはとある星の地中深くにある世界。いわゆる地底世界。その名前は『アビストラ』とそこに住む者は言う。この世界には地上の世界のように光もあり水や、草木もある。地底世界というと肌寒く、じめじめしているような印象を持たれるが、そんなことはなく、不思議な力によって四季が再現されていたり気温も温暖だったり寒冷化することもある。
その不思議な力というものは【魔法】と呼ばれるこの世界で発展した技術である。魔法というものは私たちの世界でいう科学や、またまた違う世界戦では錬金術に相当するものであり、この世界には必要不可欠といっていいものである。
そんな世界にある国『獣王国:ヴォルファリア』。ヴォルファリアは伝説の神:フェンリルに統治されている。この国には多くの獣人が住んでおり、犬、猫、狐、狸と我々の世界でいう「哺乳類」が住んでいる国である。
また、この国には魔法の技術を学び、訓練をすることができる『フォクノナティア学園』がある。
そして、そこに通う一人の獣人が目標を叶えるために奮闘する物語である。
☆
「オレの名前はレンです!」
元気よく名前を告げる彼は猫型獣人の十二歳の男の子。
猫型獣人と言われるように彼の体は猫の特徴を持っており、髪は短髪というよりも少し長く、体毛は茶色で短い毛並みに、眉毛は白く丸い。尻尾には濃い茶色の縞模様がある。猫族なので身長や力はそこまで高くはないが、瞬発力と動体視力には自信があった。
また、生まれて物心がつく前には両親はすでに他界しており、顔も覚えていない。
この年までは戦災孤児の施設に通いながら一人で暮らしていた。戦災孤児は十二歳を迎えると『フォクノナティア学園』に自動的に入学することができる。
なぜ戦災孤児に対して学園に自動入学できるのかというと、この国では十三歳になると成人の扱いをされる。戦災孤児は施設からそのまま世に放り出しても碌な就職先にありつけず生きていけるものが少ない。
女王はそれを防ぐために学園を作ったといわれている。また、親がいる場合は入学費を支払う必要があるが、入学自体は可能であり、十二歳しか入られないことからほとんどの国民はこの学園を卒業する。
常識や魔法の使い方を学ぶだけではなく、その後の支援もあるということで大人気である。学園に入学したレンは、まず魔力測定と生得魔法の検査を受けることになった。教師はレンの顔を見て、書類と照らし合わせて確認をする。
「ではレン君、そこの魔道具に手をかざして魔力量を測定します。」
レンは教師に促されるまま、魔道具に手をかざす。この魔道具は内包されている魔力に反応して色付きの光が出る。魔道具は光り輝き、淡い青色の光に安定した。光の色とカラースケールを照らし合わせる。
「はい、あなたの魔力量から中等級クラスに配属です。次は競技場で生得魔法の試験になりますので移動してください。」
案内看板を追い、歩いて競技場に到着すると、そこは岩が乱雑に置いてあり、なんとなくではあるが実戦を模した雰囲気であった。すでに何人かの入学者が試験を受けており、威力や範囲の大小はあれ、発動していた。炎や水、土、風の元素魔法と呼ばれるもの、飛行や重力を操ったりする事象魔法。他人や自分に攻撃力や防御力を上げる付与魔法の三種類に分類される魔法をそれぞれ放っていた。
「……オレもできるかな?」
レンは生まれてこの方、魔法を発動したことがなかった。特に施設や町中で自由に発動してはならないという法律やルールはない。むしろ魔法を普段使わなければ、原始的な生活となるので不便極まりない。
そして、この世界の魔法は一人ひとつだけ魔法が発現する。この魔法は生得魔法と呼ばれ、生まれ持った個人の魔法であるため、後から変更することはできない。
ただし、特定の魔法を封じ込め、魔力を注ぐだけでその魔法を使うことができる魔道具がある。その魔道具を先人が発明してくれたおかげで、誰でも炎や水を使った魔法が使用できる。
魔道具ができるまでは昔の人は紋章と呼ばれる魔法陣を描いて発動していたという。実際、魔道具には生活用、戦闘用とあるので魔力さえあれば生活できるうえ、戦闘に関しては魔力を凝縮したものを身に纏って直接ぶつけたり、形状を変えたりして戦うのが一般的なため、生得魔法は良いものがあればいい、その程度の認識なのだ。こういった魔道具のおかげでレンは今日まで自分の魔法に頼ることなく生活していた。
レンの順番が来て、教師が位置に着くように促した。
「名前と魔法、魔力等級を」
「レンといいます!魔力等級は中等級、魔法は……発動したことがありません。」
「そうか、ではまず魔力を全身にまとわせてくれ。」
レンは全身に力を込めて魔力をみなぎらせた。
「次にその魔力を額に集中させる。」
魔力が額に集まるように集中する。頭に血が上りふらふらしてきた気がした。
「何か頭の中に文字や声が聞こえないか?」
「……い、いえ。何も聞こえないです。」
「そうですか。魔法なしだな。ではこれを持って中等級クラスへ行きなさい。」
「魔法がないって……そんなぁ。」
レンはガックシと肩を落とし、重たい足取りで教室へと向かった。
教室へ入るとまばらだがすでに人はいた。空いている席に座り、入学の資料を見ていた。魔法測定が終わると次は担任とのあいさつ。その後は屋内競技場で歓迎祭。最後に課外活動紹介で締めになる。
周りがにぎやかになっていたため振り返るとクラスの席は埋まっていた。すると中等級を担当する教師が入ってきた。熊族特有の大きな体格でいかにも強そうだった。レンのように髪の毛はないが、体毛が髪の毛の代わりをしており、前髪と思われる部分が形成されており、爽やかな印象を与える。教師専用の制服を身に纏っているが、鍛え抜かれたその体がわかるほどピチピチであった。
「おっし、全員集まっているな。俺……じゃなくて私はサムという。一年間よろしく!」
サムと名乗る教師は点呼を取り、学園の説明に入った。この学園は一年制となっており、入学時期は四半期ごとである。したがって生徒の入れ替わりが激しい。1年制ではあるが、追加で半年間は学ぶことを許されている。さすがにそれ以上は退学か強制的に卒業させられる。
また、卒業後は成績に応じて職が斡旋される仕組みである。低級職・中級職・上級職と三段階に分かれており、卒業時の成績に応じてほぼ決まる。
レンには夢があり、それは地上の世界を冒険することである。そのためには上級職であることが必須だ。上級職には宮廷魔術師、近衛師団、調査師団、魔法技術士などがあり、レンは魔法技術士か調査師団のどちらを目指すか悩んでいた。宮廷魔術士は魔法に特化した職業で、魔術院と呼ばれる場所で日々、魔法の研究や魔法を使った戦闘訓練が行われているところだ。ここを管轄しているのは、この国の女王である。彼女の側近が、魔術院のトップで、魔法による戦闘や救助、薬学に精通しており、その分野では側近の右に出るものはいないといわれている。
近衛師団とは、主に白兵戦、いわゆる剣や槍など武具を用いて戦闘訓練や緊急事態に備え救助の訓練など行われている。近衛師団は王が管理をしている。近衛師団長は一般種族から成りあがった者で、この国の秘宝である聖剣を扱うことのできるほどの実力者である。話によると、一般兵程度なら木剣と身一つで三千人は制圧できるという、嘘か真か判らない噂がある。
そして魔法技術士は宮廷魔術士と近衛師団、調査師団とは毛色が違う。国家が管理しているものに違いはないが、先ほどの三つの職業と比べると活動の自由度がかなり大きい。この職業は主に魔道具を作ることを生業としている。素材や製造機器に関しては自前で調達しなければならず、たびたび国外に出向いて材料を調達することがある。
そして何より、魔法技術士は戦闘用魔道具の販売許可がされている。この職業は材料を自前で調達するという行動により、単独戦闘に特化している。この世界にはびこっている魔物や魔獣から素材を得たり、危険地帯に足を踏み入れ鉱石などを手に入れたりする必要がある。したがってそのようなところにひとりで行けるほど強くならなければならない職業で危険も多いので人気はない。
たまたまレンの趣味が魔道具を作ることで、魔道具を作ることができる魔法技術士を目指したい気持ちがあった。しかし地上世界へ冒険というずっと抱いていた夢も捨てがたかった。どちらを優先するか迷っていたので教師に聞いてみることにした。
「せ、先生!地上世界の冒険は調査師団だけなのでしょうか?」
緊張して声が裏返ったこともあり、教室にクスクスと笑う声が聞こえた。調査師団の業務は、いまだ解明されていない地底世界の謎が多く、未開の地への調査業務が主な仕事である。地上世界の調査は比率的にはそこまで高くない。サムは少し音を立てて持っていた名簿を机に置く。ざわついていた教室が静まる。
「調査師団は確かに地上世界の調査をしている。でもな実際に行くとなると調査隊というものが編成されるんだ。それには宮廷魔術士、近衛師団、魔法技術士、調査師団の者が選ばれ、彼らの力が必要になってくる。まあ、結局強い奴が地上世界の調査に参加できるってわけだ。大体こんなのだが、いいか?」
「あ、ありがとうございます!」
レンはその話を聞き、魔法技術士を目指すことに決めた。魔道具屋の経営、調査隊の参加を両立することで自分の道筋ができ、やる気が出た。
「さて、歓迎祭だ。屋内競技場に移動するぞ!」
屋内競技場に移動すると、今期の入学生が集まり、それぞれ集団ができていた。ほとんど同じクラスの集団だったようだ。レンは同じクラスで輪に入ることができないか探していたが、先ほどの件で敬遠されていた。入学早々、ボッチが確定してしまい、しょぼくれていると歓迎祭の開会式が始まる。
まずは学園長の挨拶から始まり、在学生の挨拶、入学者の挨拶となった。入学者挨拶は首席によって行われた。遠くて顔はよくわからなかったが、野狐族の女の子のようだ。当たり障りのない内容で終わり、歓迎祭がいよいよ始まった。どうやら課外活動の活動紹介パフォーマンスと同時進行のようだった。魔法競技部のパフォーマンスが始まると周りから歓声が沸き上がる。【飛行】の魔法が刻まれている魔道具に乗って魔法の打ち合いをしていた。空中で行われる魔法の打ち合いは火、水、土、風の元素魔法をもとに行われ、【加速】の魔法が封印されている魔道具を使用しての高速飛行など入学生の心をわしづかみにした。その派手さからパフォーマンスが終わってからも入学生の噂になっていた。
続く魔法技術部のパフォーマンスが始まった。お世辞にもとても良い発表ではなく、魔法競技部の後であるがために誰からも見向きされていないようだった。レンはそれでもしっかりと見ることにした。実験は発表者の緊張によって失敗したり、装置が故障したりと散々だったがレンは大型の装置を作っているという活動内容に惹かれていた。時間も終わりに近づき失敗続きでいいところが見せられなかった魔法技術部の部員が声を上げた。
「わ、私たちの部活では部室にある道具や材料は使い放題なので安心してください!」
と言って、発表の制限時間が来たのか打ち切られるように終わってしまった。他にも料理を専門とし、会場のみんなのおなかをすかせた食堂釜めし部、剣術のみを極め、近衛師団長のような剣豪を目指そうぜ!みたいな剣術部など発表があった。すべての発表が終わり、教師からは課外活動は強制的なものでないので参加をしてもしなくてもよいと言われた。
ただし、課外活動で良い成績が取れると、上級職の目に留まり勧誘を受けることもあるのだと。レンはどの部活に入ろうか悩んでいた。どの部活も結局のところ魔力の総量が高いこと、魔法を使いこなしていることが最低条件であるような気がしていたからだ。レンは魔法を持っていないこともあり、能力の向上には骨が折れそうであった。戦闘用の魔道具を作ることを許可されている魔法技術部は先ほどのような発表だったこともあり、少し不安を感じていた。どのみち、魔道具を製造するにも、使用するにも魔力が一番のカギとなる。結局、何をするにも魔力が必要になるので、レンは考え込んだ。
「パートナーを見つければ……ってオレ、クラスのみんなに敬遠されてるしなぁ。」
パートナーとは種族・性別問わず、その個体同士でパートナーの契約を結ぶことにより成立する。ただの友達や仲間とは違い、契約を結ぶことで能力変化や基礎能力向上などの副作用が生じることがある。レンの場合は魔力量が多くも少なくもない程度なので魔力量の向上が目標である。そこで重要なのがパートナーである。大小あれ能力が上がることが証明されており、実際に低級能力の人がパートナーを持つことで高成績を残すようになった事例も存在する。
しかし、パートナーになるチャンスは同じ個体には一度きり。パートナーになるというのは契約であり、お互いの価値観や目的が合わなければ能力向上は難しいとされている。衝動的にパートナーになったとしても解消することがあり、その代償として能力の向上がなくなったり、逆に低下してしまったりと解消のデメリットも大きい。
このことから仲良くなってもすぐにパートナーになろうとする人は少なかった。パートナーになるには相手のことをよく知り、信頼し合う必要があった。
☆
歓迎祭と活動紹介が終わり今日は解散となった。入学生首席の女の子の周りにはかなりの人だかりができていた。レンはその光景に背を向けて帰ることにした。
翌日、彼の運命はある日突如として変わることになる。それは学園で生徒たちが自主的に活動をしている課外活動入部の日。レンは入部した先で出会うことになった獣人とどうなっていくのか……。
そしてレンはどのように、何を成し遂げていくのか。今はまだわからない。
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