第8話 超格上との戦闘とこの国の女王
最近のレンはとても忙しかった。もちろんリコやサクラが忙しくないということではなく、単純なキャパオーバーになっているということ。魔道具の研究、戦闘訓練、自分の魔法の研究、授業とタスクがこなせていなかっただけである。
魔道具研究の進行は順調だった。ポチおの助言もあり大きく前進し、精製の成功確率が上がりそろそろ大容量化にも手が出せる段階になってきた。
リコの方はずいぶんと余裕になったようで、研究も仕上げに入ったようだ。サクラは毎日部室には来るが、リコとは一切口を利かず、リコと二人きりになりそうなら、すぐに部室を出ていくようである。
レンが部室にいるときは二人が同時に来ることはないがそれぞれ話しかけてきていた。
サクラの実験のほうは題目が決まったようで、急ピッチでこなしていた。時間をずらしているようだが、実験後に戦闘訓練も行っているようで決闘宣言前と比べるとかなり自信があふれているようだった。
肝心なレンの戦闘訓練はというと、もともと慣れていないこともあり進捗は良くなかった。相手がリコというのもあるのだが、とにかく遠距離からフルボッコにされるのだ。
接近戦に持ち込もうとしても速射・連射の利いた早い魔法が複数飛んできて防戦一方。そのため下がらざるを得ない状況になり、素直に下がってしまえば裏で準備していた大魔法で仕留めに来る。完全に掌の上で転がされていた。
リコ自身、戦闘は得意でないと言っていたが、運動が苦手なだけで固定砲台としてはかなり脅威だった。連射・速射・狙撃もなんでもこなし、極めつけには大規模魔法も放ってくる。
こんなのとどうやって戦うのかレンは疑問に思っていた。一瞬自分の魔法についても考えていたが、あれから発動ができず、どの方法を試しても自身の魔法は発動することがなく、魔法なしの頃とほとんど変わらない状況であった。レンは部室の前の草原に寝転がり、空を眺めた。
「やっぱ魔道具に頼るしかないのかな……。」
「しかし、生活用魔道具や戦闘用魔道具では速射性はあっても規模が小さいと思います。」
「だよねぇ……。」
レンが落ち込んでいるのがわかると、リコが慌てて身振り手振りでレンを励まそうとする。
「さすが、猫族ですよね。私の速射魔法を簡単に躱されると思っていなかったので、常に二つの魔法を同時に組まされています。」
「そりゃ、当たったら痛そうな音がしてくるからねぇ。」
自分の作った紋章を封印する石を空中に投げて考えていた。するとポチおの言ったことを思い出した。火の魔法陣を六枚紙に描き、【結合】の魔道具でそれぞれを石に封印していった。
そしてミスリルの長細いくず材を集めて筒状のものを作った。見た目だけならこん棒のように見えるものだが、中身は空洞でレンの作った石が丁度入るサイズである。
石を中に入れた状態で動力部に魔力を流すと石が勢いよく飛んでいく仕組みだった。リコは彼が何を作っているのか見当もつかずに首を傾げた。
「これはなんですか?」
「へへ~ん、次のオレはちょっと違うぜ!競技場に行こう!」
「あ、待ってください!」
レンとリコは競技場へと向かった。競技場に到着すると、まだ使用しているヒトがいなかったのですんなりと許可が下りた。
二人は開始位置に立つと、向かい合う。二人が目を合わせて頷くと、訓練が始まる。リコは開始早々、大規模魔法を組み上げてくる。
それを見たレンは地面が抉れる程力を込めて跳躍する。短距離走なら猫族のレンはリコの比にならないほど速い。しかし、その行動はリコには予想内の動きであり、裏で待機させていた速射魔法を放つ。
「『風の弾丸』」
詠唱ともいえないような短い言葉で空気の弾がレンにめがけて放たれるとレンは猫族特有の眼の良さで小さな埃のわずかなブレを視認すると右へ左へ当たらぬようレンは動きまわる。そして速射魔法の攻撃には息継ぎのようなわずかな間が開く。それを見逃さずに魔道具で石を発射した。しかし、リコには当たらずさらに右後方へ飛び、地面に刺さった。リコはてっきり当ててくるものか、近くで魔法を遠隔発動してくるものだと予想していたので風の鎧を纏ったが外れた。
(急ごしらえのものだから命中精度は悪いはず……)
そう思い大規模魔法は破棄して、異なる魔法の詠唱を始めた。速射魔法と連射魔法を組んでいた。そもそもリコのように二つの違う種類の魔法を同時展開するのは超難易度の技術であり、それを難なくこなすリコは異常なセンスである。
「『水の弾丸』、『岩の槍』」
レンに放たれた魔法は圧縮して威力の高い水の塊を飛ばす魔法とリコの前方に次々と地面から鋭利な形をしている岩を生やす魔法である。
リコの速射魔法は弾速が速く組み上げるのに時間のかからないもののを指し、今回で言うと『水の弾丸』が速射魔法に該当し、最速で魔法が組み上がるが威力は低い。それでも普通は回避するのも大変だが、レンの種族の特性でカバーする。連射魔法は速射魔法より複雑かつ魔力消費が大きいのだが、地面から次々に生やしたり、雨のように大量に降らしたりする魔法で、一つでも当たると抜け出すのが難しいくらい数が多い。
レンは飛んでくる水の弾を避け、二発リコに打ち込む。しかし、リコの前方に着弾し外れてしまう。着地した瞬間、岩の槍が地面から生えてくるのが見え、真っ向から突っ込む。次々と生えてくる岩の槍を足場代わりにして三角跳びの要領で躱していく。そして三発打ち込むがリコの左右と左後方に着弾する。6発すべて撃ち込んだことを確認したリコは、大規模魔法の詠唱を始めた。もちろん裏から速射魔法の自援護も忘れていない。それを確認したレンは手に隠し持っていた最後の一つをリコの真上に投げ、詠唱を始めた。
「『業火の檻よ、焼き尽くせ!』」
「え!?上級魔法!?あの石には下級魔法しか入らなかったはず……。どうやって……!?」
リコが周りを見渡すと石が刺さったところから光があふれていた。その光はよく見ると火の紋章であり、それらが重なると【火炎】という魔法になる。程よい火力と消費魔力がそれなり魔法ではあるが、上級魔法に位置するのでリコの水の弾丸では対抗できない。リコは今組んでいる魔法の相性が悪いと見るやそれを破棄して、相性のいい水の精霊を呼び出すため、紋章を急いで組み上げた。
「『大いなるミズチよ。大海の力を持ってすべてを消し去らん。』」
詠唱が終わると同時にリコの周囲は火柱に包まれた。その瞬間、火柱は内側から出現した巨大な水塊によってかき消された。レンは大量の水に消された【火炎】を悔しそうに見ていると、どこからともなく飛んできた風の弾丸がレンを吹き飛ばした。
「むぎゅー……また、負けた……。」
「今の攻撃は危なかったです。ミズチを使わされるとは思いませんでした。」
「リコさん……ずるい。」
「そういわれましても……召喚魔法ですから。」
そう話していると鎧を着た馬族が競技場に入ってきていた。よくみるとカレンであり、にこにこしながらこちらへ来た。
「やあやあ、少年。青春してるね。」
「カレンさん!?どうしてここに?」
「よく訓練で来ているんだよ。近衛師団には骨のあるやつが少なくてね、生徒ならいろんな戦法で戦いに来てくれるから、楽しいんだ♪見たところ戦闘訓練してるみたいだね。よーし、お姉さんが一肌脱ぎますか。」
そういうと腰に下げた大剣を構えて臨戦態勢に入った。
「これはやらないといけない雰囲気ですね。」
「リコさん、あの人は近衛師団の団長です。以前訓練をさせてもらったことあるんだけど、めちゃくちゃ強かった。リコさんでも全力でやってギリギリかもしれない……。」
それを聞いたリコは納得したのか眉間にしわを寄せてカレンを睨む。カレンの魔力と気迫を感じ取ったのか横顔からはとても強張っていた。
レンは思わず耳を畳み、毛を逆立てて威嚇する。そんな二人を見て、カレンは恍惚な表情を浮かべた後、目が本気になった。
「それじゃあいくよ!」
カレンは剣を思い切り振り下ろした。その攻撃は前回の時とは大違いで当たったらただでは済まないのがわかる威力だった。その攻撃を見たレンは恐怖で体が動かなかった。
「『風の大楯』」
短く詠唱した魔法だが、風でできた大きな盾が剣風を霧散させた。
「お、召喚魔法とは珍しいね。たまさんと少し違うけど……。それならこれでどうかな?」
「っ!『水の鎧』、『風の鎧』!」
高速移動でリコに近づいて剣で吹き飛ばしたが、防御魔法で直撃の威力を殺した。しかし、剣風までは防げず、競技場の壁に吹き飛ばされた。それを見たレンはとっさに石を拾い、それをカレンに投げつけた。飛んでくる石に対し、剣を構える。
「前回と同じ攻撃じゃ、意味がないよ!」
「『爆煙よ、包み込め!』」
剣で振り払おうとするとカレンの目の前が黒い煙で覆われた。レンが拾ったのはただの石ではなく、火の紋章が封じられている石だった。火の紋章で放つことができる【爆煙】は小さな爆発と煙で視界を遮る魔法である。カレンが煙に包まれている間、リコの元へと走った。
「リコ!大丈夫!?」
リコが起き上がるのを確認し安堵した瞬間、背後から吹き飛ばされた。壁にぶつかる瞬間、リコが手を上げ、レンの周りに風の鎧が出現する。風の鎧のおかげで衝撃が大幅に軽減された。【爆煙】を至近距離で受けてもぴんぴんしているカレンをみて二人は嫌な汗をかく。
「敵に背を向けてはいけないよ!意識は必ず向けること!」
「でたらめすぎる……!」
「でも……私たちが目指す世界とはこういうものなのかもしれません。やるしかないですよ、レン君。」
「どうやったら、一撃与えられるのか……見当もつかない……!」
「私に考えがあります……。」
それを聞いたレンは持っていた魔石を地面に殴りつけて砕き、それをカレンの周りにバラまいて爆発させた。その行動を見ていたリコはあまりにもパワープレイすぎて若干引いていた。競技場内に砂埃が立ち込め、再びカレンの視界を遮った。レンは座り込んでいたリコを抱え、岩の陰に身を潜めた。お姫様抱っこをされたリコは、レンが自分よりも小さいのに簡単に抱えて走っている姿にときめいていた。近くの大きな岩場に身を潜め、二人は作戦会議をする。
「考えっていったい……。」
「レン君のあの魔法を使います。あれなら私の手数を増やしてくれるかもしれません。」
レンは一瞬ポカンとしていたがリコの言ったことを理解して慌てて説明した。
「あ、あれから一度も発動したことないんだよ!?そもそもまた暴走するんじゃないかと不安で……」
「わかります。でもそれしか勝つ方法がありません。レン君、私の魔力にリンクしてください。」
リコの目は本気だった。レンはリコが意外と好戦的な性格であるということを思い出し、つばを飲み込む。突然風が吹き、煙が晴れた。カレンは一薙ぎですべての煙を払っていた。相変わらずにこにこして戦うカレンを見て、レンは腹を括った。
「っ……!ええい!リコさん、やるよ!」
「はいっ……!」
カレンは煙を晴らすと魔力の感知でレンとリコの立っているところを見つけた。そこに目を向けてよく見るとリコは詠唱に入っており、レンはリコの後ろに立っていた。厳密にはリコの背中に両手を当てていた。
「……。なんだか『わんこ』と『にゃんこ』みたいなことしてる。次は本気だってことね。よ~しかかってきなさい。お姉さんが全部たたき切ってあげる。」
カレンはニヤリと口角を上げ、剣を構えなおし、横薙ぎ一閃し、剣風を巻き起こす。しかし、それは風の鎧に阻まれた。先ほどの鎧より強固なっており、動くことなく防ぎきった。カレンは目を輝かせて興奮した。そして目にもとまらぬ速さで剣を振り、剣風をおこして攻撃したがすべて阻まれる。正面、横から風の弾丸がカレンを襲ったがすべてさばききった。馬族であるカレンは驚異的な聴力で風切り音を聞き分け、避けるのではなく、すべて正確に切り払ったのだ。強烈な魔力を感じ、レンとリコの方へ眼をやる。
「なんだろう、なにかすごいもの来そうな気がする……。」
そういって剣を握る力を強めた。そしてそのセリフには楽しそうな感情が乗っていた。
鎧の魔法、弾丸の魔法を同時展開し、カレンを近寄らせないようにしていたリコ。合間にレンとリンクした彼女は彼の中に眠る魔法を探っていた。そして魔法の元となる部分を見つけ、そこに向けて魔力を逆流させた。するとレンの頭の中にズンと何かがのしかかってきた。それはリコの魔力だと気づき、より深く彼女とつながった気がした。
「うっ……!?頭になにか……何か聞こえる……。」
「それがレン君の魔法の根源です!……詠唱を!」
「『数多の……魔法よ。……幾重にも重ね……その力を……、昇華せよ……!』」
頭の中に浮かぶ詠唱呪文をゆっくりだが、文章となるように組みなおして確実に唱えた。詠唱が終わるとリコの発動している紋章が輝き、そしてカレンの周りを囲むように増える。そのすべてがカレンに向かって風の弾丸を発射していた。
急に増えた弾丸に目を丸くしたがカレンには朝飯前なのかすべてを捌いていく。前方から撃たれるものを捌きつつ、光の帯を伸ばして死角からの攻撃も完璧にさばいていく。
リコはそれを見て後ろに目がついているのではないかと思うくらい、正確にはじいているのだ。
一方レンは初めて暴走させず、リコの魔法を増やし、制御していた。
「で……できた……!できたよ!リコさん!」
「はい!では、大規模魔法の準備に入ります。重ねは4つでお願いします。」
そういうとリコは歌を歌うように詠唱に入った。今までに聞いたことのない彼女の詠唱はとてもきれいで美しく聞こえた。その間もカレンへの攻撃をしつつ、防御もリコがやっていた。一度に三つの魔法を同時展開させる、それを可能にしたのはレンの魔法であり、立派な固定砲台だった。
「ではいきます!『シルフよ、小さな風であれ、その力を集約すれば大きな刃とならん。我が願いに応えよ。風の大鎌で薙ぎ払え!』」
そよ風が吹いたと思いきや、その風が集まると一気に渦巻き、切断力高い大きな風の刃がカレンを襲う。
「えへへ……キタキタ~!それだよ!そういうのを待っていたんだ!聖剣解放……剣光帯同!!」
彼女の大剣が光り輝き、剣の周りに四つ光の帯が出現した。剣を振るう度、四つの帯も斬撃として攻撃に組み込まれており、彼女の剣を振るうスピードと相まって、風の刃がみるみる霧散していった。
「まだです!『地の槍』、『水の弾丸』!」
次々に魔法を発動し、攻め立てたが、すべて薙ぎ払われた。しかし、それは陽動であり、裏で隠していた本命の魔法が行使された。
「『炎の精サラマンダー、風の精シルフ、水の精ミズチ、地の精ノーム。すべては円環となし、巡り巡れ!』」
実体化した精霊たちがカレンの周囲に集まり、それぞれが精霊魔法を発動していった。全ての魔法はレンの重ね掛けで四重の魔法力になっていた。精霊に囲まれたカレンは一瞬だけではあるが狼狽えた。しかし、すぐに持っていた聖剣の握る力をさらに込める。
「うえっ!?これはまずいかも。聖剣解放、剣光八捌き!!」
聖剣の力をさらに解放し光の帯が八本になった。解放された力を使いカレンは全ての攻撃を捌いていた。精霊の攻撃は苛烈で、レンたちに攻撃する余裕を与えず、カレンは防戦一方だった。風と土の精霊の砂の檻で包み込み、水の精霊で渦巻く風と共に小さな水の弾丸を巡らせる。そして、とどめに入るため火の精霊を活性化させる。
「あと、す……こし……!」
リコはさらに力を振り絞った。次の瞬間、彼女はレンに抱きしめられていた。レンは必死に抱き締めており、あっけにとられていると精霊魔法は解除されすべての精霊の実体化が解かれた。
「ダメだ……これ以上は、リコが死んでしまう……!」
「……レン……く……ん?」
レンの行動に理解が追い付かなかったが、血の匂いを感じ、下を見ると血が溜まっていた。手を口に当てて、その手を見ると血まみれになっており、自分の口から出たものと認識する。それに気づいたレンが止めてくれたのだった。
リコは急に力が抜け、座り込むと抱えていたレンも一緒にへたり込んだ。カレンが聖剣を収めてレンたちの元に走ると、カレンは巨大な魔力の塊に横から吹き飛ばされた。
「じゃじゃ、貴様はよくも私の生徒をこんな目に合わせてくれたな。」
めえの殺気はこの前の事件の時とは比較にならないものであった。思わずレンとリコも正座をしてしまう。
「め、めえさま!こ、これには訳がありまして!」
「ほう……私に対して言い訳するのか?聖剣解放を第二段階までしておいてか?おまえはあとで説教だ。」
と言って、リコのところへ向かった。カレンはへたり込んで絶望的な表情で震えていた。
「まったく、お前は無茶をするような奴ではなかったはずだが……?」
リコを治療しながらため息をついていた。
「レン、といったか。よく止めてくれた。」
レンは髪の毛をくしゃくしゃと撫でられながら褒められたので、照れていた。めえは種族の特性を理解しているのかいとも簡単にレンを手玉に取った。
「しかし……召喚術だけでこんな威力は出せるのか……?聞いたことがないぞ。」
「レン君の魔法で、紋章を増やして大魔法化ができたのです……けほっ。」
リコが小さく咳をすると、その状態が良くないということがレンでもわかる。不安な顔をしていると、めえはリコの腹部に魔力を当てて、診る。そのあとは薬を調合していた。
「レンの魔法のカテゴリは補助魔法か。紋章を増やすなんて聞いたことない魔法だな。条件も厳しいものになりそうだし、判る人に見てもらおう。」
そういって、めえは通信用魔道具で通話し始めた。レンはリコの顔を覗き込むと目が合い、目を逸らされた。するともじもじし始めリコがレンの服の袖をつかんだ。
「レン……君。その……ありがとうございます。おかげで命拾いしました……。」
「ううん、オレ……リコさんを失いたくなくて……。」
「すぐに来るみたいだから治療を続けよう。」
治療を再開した瞬間、強大な魔力がこの場を支配した。声も出すことができないくらい圧倒的な魔力量で、カレンの魔力とは桁が違った。
リコとレンは恐る恐るその魔力の持ち主を見ると一人の狐型獣人の女性が立っていた。膝裏まである長い黒髪、九本の尻尾、体のラインが見えない見慣れない服装、そして金の瞳と顔の赤い模様があった。二人はその姿に見覚えがあった。
「ふく様。こちらが未知の魔法を身に付けた者となります。」
「ふむ……わしが見てやろう。」
ふく様と呼ばれた女性はレンに近づき、頭に手をかざした。ほんの一瞬かざし終えると、腕を組み悩んでいた。
「あ、あの……。」
「なんじゃ?」
「いったい何をしているのかわからないのですが……。」
「お前の魔法を読み取って、解析したものを書物に書くために整理しておるのじゃ。そしてわしがその魔法にふさわしい名前を付けてやるのじゃ。」
そう答えると再び考え始めた。レンはリコのほうを見るとうつむいていた。リコも気づいており、この女性が九尾の妖狐、そして女王だった。ポンと手を打ち、レンのほうへと向いた。
「お前の魔法は【重撃】を名乗るがよい。効果や条件は、そうじゃの……明日、めえに渡すように手配する。では、帰るのじゃ。」
「待ってください!」
リコが声を上げ、女王を制止した。胸に手を当てて、深呼吸し口を開いた。冷や汗を垂らし、手も体も怯えているよな感じで震えていた。レンはリコの傍に行き、リコの片手を両手で包む。レンの行動にリコは安心したような顔をし、再び女王を見る。
「野狐族の……野狐族との和解は本当なのですか……!?」
一瞬目を見開いたが、ふっと笑い、リコの方へ顔だけ向ける。
「わしの娘、玉藻に感謝するのじゃ。」
そういって一瞬で姿を消した。
「あの方はもう野狐族に対しての粛清はされないと言っているから大丈夫だ。」
「……はい。」
リコは司書の言葉を思い出し、安堵した。レンは顎に手を当てて考えていたが、思いつかなかったのかめえの方へ向き質問する。
「女王様って何の魔法使っているんですか……?」
「あの方の魔法は私でもわからない。ただ、どのような魔法もすぐに習得されてどんどん使える魔法が増えていくのだ。紋章も一瞬で組み上げ、どんな魔法かもわからないうえ、詠唱もしたりしなかったり……。とにかく変わった魔法の持ち主なのだよ。」
レンはあっけにとられていた。一人一つの魔法が常識であるこの世界で女王はいくつも使えるということ。少なくとも先ほどのことで【解析】と、【転移】の魔法が見られた。解析魔法も魔道具では再現できていない生得魔法の解析を一人でかつ、超高速で読み取っていた。リコはその魔法の速さと正確さに目を輝かせていた。
「じゃ、じゃあ、王様もすごいんじゃ……。」
「よんだ?」
ひょっこりと現れたカレンはめえに兜の上から思い切り殴られ、地面にめり込んだ。レンとリコはその光景を見て首から上が生き埋めになっているカレンを心配していたが、めえは放っていた。
「王は【絶対】の魔法が使える。まあ、絶対零度の空間作るだけでも頭がおかしいのですが。」
「王も女王も格が違うのですね……。」
「王は神ともいえる方で女王はだれも真似できない境遇の方ですから。」
治療が終わり、地面に埋まっているカレンを引き抜いて学園にもどっていった。競技場のど真ん中に二人は座り、お互いに今日のことをまとめていた。来る決闘に備え、二人は夜になるまで戦術など話し合いをしたのであった。そこに今日の試合を見ていた影が立ち去って行った。
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