第9話 デートの誘いと二人を繋ぐ石

 翌日、学園に着くと担任のサムから保健室に行くようにと伝えられた。授業をすべて終わらせて保健室へと行くと、めえが執務中だったようで話しかけると、机の上に置いていた本を手渡される。それにはしおりが挟んであり、本の題名は『魔法大全』と書かれた手のひらくらいの分厚さがある書物であった。

 

 レンはそれを持って部室に行き、リコと一緒に本を開く。その中にはこの国にある全ての魔法が記されており、当然【召喚】も記載されていた。そして、しおりの挟んであるそのページを開くと、【重撃】と書かれたページであり、短かったが説明と条件が書いてあった。


【重撃】

 紋章の複製および複合させる魔法。対象の紋章を複製することにより魔法の威力・範囲の向上、複数紋章の複合で属性の変化を可能にする。条件は以下の通り。

 ・一人では発動不可能。

 ・絆を深めた者同士、魔力を共有することで発動条件が満たされる。

 ・紋章の複製、重ね掛け、複合は【重撃】の持ち主が可能。

 ・魔法の発動・威力などは相方に依存する。


 と書いてあった。レンは腕を組んで納得した表情をする。


「昨日は必死でリコさんと発動したけど、発動条件ってあんなに厳しかったのか……。そりゃあ、一人で発動できないんじゃ入学の魔法確認の試験時に何も反応がないわけだ。」


「これで合点がいきました。最初の時に発動したのは、魔道具と私、レン君がリンクしたことで発動条件が満たされ、昨日の訓練ではレン君と直接リンクしたことで再度発動条件が満たされたということになりますね。こんなわかりにくい条件や、効果までもあの短時間で解析するなんて女王様はすごいですね……。」


「ねえねえ、この複合って面白そうだね。」


「複合魔法は時間と魔力も相当必要なので連発は厳しいですね。」


 話し合いをしていると部室の扉が開かれた。そこにはサクラが立っており、気まずそうな顔をしていた。ずっと立ったまま黙っていたので、リコが扉を閉めてもらう意味も兼ねて問う。


「どうして、そこに立っているのですか?活動に来たのではないのですか?」


「えっと……リコ……さん。ごめんなさいっ!」


 サクラは突然リコに謝罪をした。リコは何のことかわからず首をかしげていた。


「その、昨日の模擬戦を見て……あたしが勘違いしていました。」


「え?一体どういうことですか?」


「リコさんは天才だから努力なんてしてないって勝手に思って、妬んで……。決闘の申請は昨日のうちに取り消しました。本当にごめんなさい!!」

 

 サクラが頭を下げていると、リコは立ち上がり、サクラの手を両手で握った。その行動に驚いているとリコはニコッと笑った。


「サクラさん、あなたのおかげで私は沢山いいことがありました。謝罪はいりません。むしろお礼したいです。」


 そう言い、ズイズイとサクラに顔を近づけていく。リコの顔は真剣そのもので近づく。同じ女子から見てもリコは美人であり、彼女を追いかけているヒトもいるという。鼻が引っ付きそうになると、サクラの中で何かが開花しそうになった。

 

「え、いや、そのぉー……レン君!ちょっと見てないでリコさんなんとかして~!!」


 こうしてサクラとリコのいざこざは無くなり、決闘もすることがなくなった。


 

 レンは石の精製をしつつ、もう一つ魔道具を作っていた。この魔道具はリコと模擬戦をしているときの発想を運用したものだった。あの時はただの筒状のものだったが、石を使うことでもっと小型化かつ精度のあるものができるのではないかと研究していた。その中でカレンとの初稽古を思い出した。



「魔力を纏って攻撃力が上がるなら、魔力を直接飛ばして当ててみるのもいいのかな……?」


 レンは石を飛ばす魔道具を一旦置いて、前腕と同じ長さの棒を作ってみる。ミスリルは魔力を流しやすい性質であるが、留めることには向いていない。そのためレンは頭を抱えた。


「どうやってとばすんだよぅ……。」

 

 机に頭を乗せて泣き言を言っているとサクラが近くに来て顔を覗く。目が合うとレンは飛び上がり毛が逆立つ。急に現れると猫族はびっくりして威嚇をする習性がある。サクラはケラケラと笑い簡単に謝っていた。そして、少し恥ずかしそうな顔をした。

 

「レン君、学園祭はどうするの?」


「なにするって、たぶん研究してる……かな?どうしたの?」


「で、デートとかって興味はないの?」


 デートという単語を聞いてレンは尻尾をぴんと立たせる。恥ずかしくなってきたのか、だんだん耳が垂れていく。感情が表に出やすいレンをサクラは楽しんでいた。

 

「え!オ、オレと……デートって……ま、まだ君のこと……」


 サクラは少し嬉しそうな顔をしていたが、首を横に振り、レンの腰をバシンと叩く。離れたところで研究中のリコに指を向けて、ジト目でレンを見る。

 

「アタシじゃなくて、リコちゃんと!パートナーなんでしょ?」


 ついにレンは一気に顔が熱くなって落ち着きがなくなった。尻尾が千切れるのではないかというくらい勢いよくブンブン振られる。

 

「い、いや……まだ……パートナーじゃない……んだけど……。」


「えぇ!?あんなに息ぴったりなのに!?」


「……オレじゃ、もったいないよ……。」


 レンの消極的な発言に落胆した。キッとレンを睨みつけて彼の頬を引っ張る。


「い、痛い痛い!」

 

「いい?リコちゃんに合うパートナーはレン君しかいないのよ。よく考えてみて。レン君はこの学園の中で唯一リコちゃんと長く一緒にいるの。」


 サクラはレンの鼻に指をびしっと乗せて、顔を近づける。


「だから絶対に学園祭でパートナーを申し込むこと!じゃなきゃリコちゃんはもう二度と君に振り向かないと思いなさい!!」


 そういうとプンスカしながら外へ出て行った。何が起きていたのかわからずリコは首をかしげてドアを見ていた。レンは緊張してリコを見ることができず、研究に手を戻した。サクラは戻ってくることはなかった。

 

(リコとパートナーか……なれたらどれだけいいか。)


 いつの間にか日没を知らせる鐘が鳴った。帰り支度をしているとリコがこちらへ来た。


「レン君、サクラさんは何か怒っていた気がしたのですが……。何かあったのですか?」

 

「え、いや……ケンカはしてないよ。その……。」


 リコは首をかしげて見つめていた。その表情は少し不安な感じだった。

 レンはリコを見て意識する。鼓動が速くなる。のどが渇く。逃げてしまいたい。

 そんな感情に支配されたが、サクラに言われたことを思い出し、胸をぎゅっとつかむ。


(当たって砕けろ!)

 

「リコさん!……その、学園祭……一緒に回りませんか?」


 驚いた表情をしていたが、すぐに微笑み、うれしそうな表情で頷く。


「はい、いいですよ。予定を開けておきます。」


 レンの学園祭デート交渉はうまくいった。その光景をサクラは窓から見届け、帰ることにした。

 

(アタシがキツネの肩入れをするなんてなぁ……)


 レンはリコに取られてしまったが、その足取りはとても楽しそうなものだった。


 ☆

 

 学園祭までの間レンは自宅で魔道具を作っていた。とはいっても大掛かりな道具は家にはないので、部活動中にパーツを作っておいて家で組み立てていた。それは個人研究で作っているものを応用し、ネックレス状の魔道具だった。実験で作った石の中で質のいいものを集め、きれいに輝くよう、配置した。レンは妄想でリコがつけているイメージを沸かせて、デザインを決めていった。全ての石に紋章を組み込んでいない。レンはどの魔法を組むか迷っているところだった。しばらく悩むと魔道具を持って家を出た。


 町の中を走ってついた先は『いぬの工房』だった。扉を開けるとポチおが魔道具を作っていた。紺色の作務衣を着て、黒い魔道具の製作をしていた。


「いらっしゃい、ってキミか。元気してた?」


「オレ、レンって言います。あの時はありがとうございました!」


「ええの、当たり前のことしただけだし。んで、何用かね」?


「あの……今好きな子にプレゼントを考えているんです。それでこれを見てください!」


 ポチおはニヤ~と笑みを浮かべると、レンは照れ隠しでそっぽを向く。

 レンは見せたいものを思い出し、カバンの中からネックレス状の魔道具を取り出してポチおに見せた。それを手に取りじっくりと観察し、光の角度や魔力を当てて確認していた。

 

「キミ、本当に学生?宝石のついたアクセサリを作る才能あるかもよ。魔法技術士の観点から見ても結構理想的な石の配置してるね。でも、中身が入ってない。あと、プレゼントなら金属の装飾が少しほしいな。」

 

「はい、ポチおさんに聞きたいのが、この石の中にオレの魔法とその子の魔法をリンクさせやすい魔法を組みたいのです。」


 そう言われポチおはテンションが上がったのか、身を乗り出してレンの話を聞く体勢になった。

 

「ほう!キミとその子の魔法は?それによって難易度は変わるよ。」


「オレが【重撃】でその子は【召喚】です。」


「……うーん、よし【重撃】はよくわからんな。きっと補助のカテゴリかな?【召喚】については『たまさん』に聞こう。それじゃ、行こうか!」


 レンはよくわからないまま、『たまさん』と呼ばれる人に会うこととなった。

 外に出ようとすると1人の猫型獣人の女性が店の奥から出てきた。彼女は全身白い毛並みをしており、服が白色で女王と同じような作りをしていた。ズボンは裾が大きく膨らんだ青色のもので素地は服より硬そうな感じであり、上下で統一された服装になっている。腰には長い帯が巻いており、先端の金具がチリンと鳴る。そして尻尾にはピンク色のリボンがついており、ポチおの尻尾にも同じものがついていた。

 

「あ、にゃんさん!今からこの子と『たまさん』のとこ行ってくるわ。もしかしたら遅くなるかも。」


「そうなのね。じゃあ店じまいしておくわ。気を付けて行ってらっしゃい。」

 

「へい!」


 そういって工房を後にした。


「今の人って……。」


「うちの嫁さん。あげないぞ。」


「そういうわけじゃ……。」


「じゃあ転移するよ。手を離すなよ。転移の衝撃で体がズタズタになるから。」


 そう脅されると急いでポチおの手を握る。すると目も開けられないほどの光に包まれ、浮遊感に襲われた。


 

 目を開けると、石つくりの城が目の前にあった。レンはあまりの出来事に声が出なくなっていた。【転移】の魔法はかなり難しく、事象魔法でありながら使い手は片手で数えられる程だと聞いていたからだ。それを難なくこなすポチおは紛れもなくすごい人だと思っていた。そう思っているとポチおはレンの前で本を見せた。

 

「これ、【転移】の魔導書。魔力さえ与えたらできる代物だよ。オイラが作った魔道具だよ。」


「これ……すごいものじゃ?」


 すると魔導書は燃えて灰になった。


「無理やり組み込んだやつだからね、やっぱり一回ぽっきりだわ。」


 さらっと使い捨てのように使うこのヒトはなんか普通とはかけ離れた思考の持ち主だと感じていた。

 城の中へ入ると警備兵がおり、一斉にこちらへ向かってくる。レンはびっくりして逃げようとすると、ポチおに首根っこを掴まれて捕獲された。レンは目をぎゅっと閉じて覚悟を決めたが、ポチおは陽気な感じで警備兵に話しかける。


「やほー。」

 

「ポチお様!お久しぶりでございます。本日はどのような用件で?」


「たまさんを呼んでくれない?ちょっと重要なことなんだ。」


 そういうと警備兵は通信用魔道具で連絡を始めた。通信が終わると、警備兵に待合室のようなところに案内された。

 特に豪華な装飾はしておらず、学園の中といわれても違和感はなかった。レンは落ち着かずそわそわしていると、一人の女性が歩いてきた。

 尻尾が6本生えており、首元にはたくさんの毛がありモフモフで気持ちよさそうに見える。リコのように大きな耳、目の下には女王と似ている赤の紋様があった。

 彼女もまた女王と同じくこの世界の服のデザインが違った。白い服にズボンのような赤いスカート。とても軽そうだが、袖などが大きいので前衛には向かないなと思った。

 そして、写真で見た調査隊の妖狐であり、女王の娘だと理解する。しかし、女王のような威圧感はなく、とても物腰が低そうであった。


「や、たまさん。いきなり呼んでゴメンね。」


「わんこさん、突然来られて何の用ですか?」


 レンはポチおに肩をたたかれた。レンは背筋を伸ばし、自己紹介と目的を告げる。

 

「オ、オレはレンといいます。【召喚】について聞きたいのですが……。」


 【召喚】と聞き、たまの表情が柔らかくなる。本来の表情なのだとレンは思った。

 

「この子が自分の魔法と好きな子の召喚魔法をリンクさせるため、魔道具に組み込みたいんだってよ。教えてやってくれるかい?」

 

「そうなのですね。貴方の魔法は?」


「俺の魔法は【重撃】です。このまえ、女王様に名前を付けてもらいました。」


 たまはレンの魔法を聞いて、頷くと少し申し訳なさそうな表情をしていた。


「あぁ、母から聞いています。確か新たに発見された補助魔法ですよね?……申し訳ございませんが、召喚魔法は魔道具に組み込めません。」

 

「はい、そこで……好きな人の力になれる……魔法を組み込みたいのです。召喚魔法に相性のいい魔法を教えてください!」


 緊張していたものの、身振り手振りで訴えた。そんな姿を見て何とか力になってあげたいと、たまは少し考え、ポチおに目を向けて頷く。

 

「私が貴方と彼女の魔法に合う魔法をおしえます。それはその子とパートナーとなればわかります。今言えるのはそれだけです。」

 

「この石に紋章を組み込んでいきたいのですが、紋章はありますか?」

 

 レンはネックレスを取り出してたまに見せる。いろいろな角度から見て、魔力の反応を確かめる。するとたまはレンにネックレスを返すとにこりと笑う。


「はい、紋章はこの巻物に転写しておきますので、これを魔道具に組み込んでください。その際はわんこさん……じゃなくてポチおさんに指導してもらいながら組み込んでくださいね。」

 

 その紋章は普通のものとは違い、さまざまな紋章が組み合わさってできたものだと感じた。レンは見たことない紋章にワクワクしていた。

 たまはポチおの方へ向くと眉間にしわを寄せて見つめる。よく見ると頬が膨れていた。


「わんこさん。召喚魔法と魔道具の相性の悪さ知ってますよね?」


「知っているよ。だからたまさんに頼んだんだよ。オイラじゃ魔法の発明はできないからね。」

 

「そういうことですか……。いつものことではあるのですが、【転移】の魔導書で来られましたよね?帰りはどうするのですか?」

 

「送ってくださいな。」


 たまはため息をつきながら【転移】の魔道具で二人を送り出した。



 目を開けると工房の前に転移していた。


「さてと、まずはそのネックレスに金細工して彼女に似合うようにしていこうか。コツは教えるからやってみ。」

 

「は、はい!」


 レンはポチおに師事されながらネックレスに細工を加えていった。そして出来上がると、仕上げの工程として紋章を組み込むことになった。


「この前見たものより精度が高いからいいものになるぞ。一つの石に何個も組んでいくときっと割れるから、石に負荷がかからないように全部で一つの紋章を組むんだ。」


「はい!」


 レンは慎重に、繊細に石に紋章を組んでいく。顔を伝う汗など気にもせず、ひたすら石に集中した。

 紋章を組み込んでいく中、リコとの思い出が浮かんできた。最初の出会い、彼女の言動、勉強熱心なところ、本当はよくしゃべるところ。

 彼女の笑顔が愛おしくて手放したくないと思っていた。そう思っていると、石は明るかったが優しい光を放っていた。


「お?できてるんじゃないか?」


 レンは石を覗き込んだ。取り付けた石の数と紋章の重ねがうまく組み合わさって一つ一つは小さくても、一つの大きな魔法になっていた。


「すごい……ポチおさん、これっていったい何の魔法なのですか?」


 ポチおはしばらく考えたが、判らなかったのか両手をあげて首を横に振った。


「たまさんのその場で考案した魔法だし、よくわからないな。でも、パートナーになったらわかるって言ってたし、いい魔法を作ったんじゃないかな?たまさん、優しいし。」


 そういうと、レンは妙に納得した。リコと同じ【召喚】の使い手、しかも女王様の娘で野狐族とのいざこざを解消した人。そんな人が作るのだから、とてもいい魔法だと思った。しかし、その場で考案するたまさんの魔法に対しての知識量がいかにすごいか分かった。

 

「……レン。キミは地上世界を目指す魔法技術士志望だったな?」


 うなずくと。ポチおはレンの前に座り、一瞬真面目な顔になるが、すぐにいつもの表情に戻る。腕を組んで考え込み、「まあいいか」と言って目を合わせた。その目はかなり真剣なもので、思わずつばを飲み込んだ。

 

「んー……。最初から話すか。オイラと嫁さんは元地上の人間だったんだ。」

 

 レンは衝撃のあまり声が出なかった。地上の世界を知る人どころか地上に住んでいた人だったから。

 

「前に失敗作がこの世界に攻めてくるっていったな?オイラも嫁さんも同じ境遇だ。」


「ただ、ほかの失敗作と比べるとオイラたちはこの世界の獣人にそっくりでな、オイラたちは【命令】されてなくて戦わずに済んだんだ。」

 

「あの……地上に戻りたいと思わなかったのですか?」


「最初は思ったさ。でも、この現状だ。この世界のヒト達はみんな優しくしてくれるし、助けてくれた恩もある。」


 そういっているポチおの目はどことなく優しい目をしていた。ふとシャシンについて思い出したので聞いてみることにした。

 

「シャシンの人たちはみんな知っているのですか?」


 一瞬目を見開き、首をかしげて考え込むと、思い出したのかポンと手を打つ。


「あ~、集合写真ね。もちろんみんな、この事を知っているよ。」


「あのカメラよく動くよな。オイラの世界じゃすぐにダメになるのに。まだじーさん持ってるんかな?」

 

「かめら……っていうものですか?司書がこの前出してましたよ。すぐにダメになるって、地上の世界はそんなに過酷なのですか?」


 ポチおは首を振り否定した。


「過酷ではなかったけど、少しずつ悪くはなっていったかな。戦争もあっちこっちであったし。」


「ただ、オイラがいた時よりかなり科学が進歩しているみたいだよ。」


 レンはまた未知の言葉を聞いてきょとんとしていた。それに気づいたポチおは笑いながら、説明してくれた。魔法とは違って、燃焼や蒸気、水や風の力などでエネルギーを得ることができ、それで地上民は生活できるのだと。ただ、その為には莫大な力をエネルギーに変換する必要がある。しかし、その力が不足し、エネルギーが枯渇してきて第三、第四のエネルギーを考案して、ポチお達のような生物実験へと発展したらしい。エネルギーを生産するのではなく、自分の力で賄う。そのような方針で科学を進歩させたというのだ。

 人間に動物の細胞を埋め込んだりして、拒絶反応が起こしたものが魔物。耳や尻尾など獣人のように体に変化があれば使い捨ての生物兵器。適合して人の形であれば新人類として扱うようだ。


「とまあ、大体こんな感じだよ。オイラと嫁さんはたまたま記憶が残っていたからね……。」


「でも、廃棄したならどうしてこの世界を破壊するのですか?」


「前にも言っただろ?あいつらにとってこの世界は汚点なんだ。だから消すの。」


 ポチおは立ち上がり、背伸びをした。少し苦い顔をしながら話を続ける。

 

「まあ、ディバイドエリアがあるから、オイラたちは地上に行けないんだけどな。」


「ディバイドエリア?」


 聞いたことがない単語を言われて首をかしげる。ポチおもレンにわかりやすく説明しようとするが思いつかず、水をすくう器を持ってくる。

 

「うーん……例えばだ、この器がオイラたちの住んでいるところとして考えてくれ。まあ本来はこのように球状になっていて、中の空洞にいるのが今いる地底世界で表面が地上世界とする。」

 

 途中からレンが難しそうな顔をしたので無理やり納得させる方針にした。レンはふと疑問に思ったことを言う。


「地上のヒトはこの下側にいても落ちないのですか?」


「星には重力というものがあってだな、地上民は星の中心に向かって引っ張られるので下にいても大丈夫。逆に地底民はその力に反発する力で内側に立っている。その二つの力が拮抗しているところがディバイドエリアという。わからんと思うけどそういうもんだ」

 といって、器を片付け始めた。


「そこに行くとどうなるのですか?」


「どっちからの圧力によってプチってなるよ。まえの調査隊はそこまでは行けたんだ。けど、どういうわけかオイラたち失敗作は運よく潰れずに済んだんだよなあ。それに攻め込んでくる奴らもディバイドエリアを通ってきてるはずなんだけど。なんか通り道でもあるんかな?って調査を進めている状況なんだ。」

 

 片づけが終わると再びレンの前に立ち、ニカッと笑みを浮かべる。


「だからオイラたちもいつかは地上に出られるかも知れないね。」


 そういうとレンはすごく心が躍った。このような話は到底想像できなかったが、ポチおが噓を言っていたとしても地上の世界に行ってみたい意欲がさらに沸いた。

 

「レン、キミはまず強くなりな。強くならなきゃ、調査隊に選抜されないし、彼女も守れない……だろ?パートナーがいればもっと上の、ほんとに地上に行けるかもしれないからな。頑張って訓練積んでいきなよ?あ、この話は混乱を招くから他言無用な?」


「は、はい!頑張ります!今日はありがとうございました!」


 そう言い工房を後にした。レンは、出来上がったネックレスを大事そうに持ち、家に帰る。町の広場を歩いていると、サクラと出会った。


「レン君!?どうしてこの時間に出歩いているの?」


「実は、魔道具屋に行って、稽古をつけてもらっていたんだ。」


「ふぅん……。ねぇ、何を大事に持っているの?」


「え、えぇっと……。わ、笑わないでよ!?……これなんだ。」


 レンはサクラの圧に耐えられなくなり、町の広場にあるベンチに座り、カバンから小箱を取り出して、中身を見せる。それを見たサクラは目が輝き、うっとりとする。


「すごく綺麗……。これ、レン君が作ったの?」


「うん。工房の魔法技術士のヒトに教えてもらってね。」


「リコちゃんにあげるの?」


 そう尋ねられると、レンは顔が火照り、尻尾が膨らむ。サクラはそんなレンを見つめていた。


「いいなぁ。アタシもそんなことしてくれるヒトが来てくれたらなぁ……。」


「サクラさんはかわいいからモテるんじゃないの?」


「……。レン君ってドンカンでしょ?」


 レンは何のことやらと首をかしげる。サクラはそんなレンを見て思わず手を握った。握られたレンはキョトンとし、止まった。そして、鼓動がどんどん早くなってくる。対するサクラも手からじんわりと汗をかいていく。


「レン君、アタシに【重撃】使ってみてくれる?」


 そう言われ、レンは目を閉じて集中する。魔力をサクラとリンクさせてみるが、上手くいかずに弾かれた。サクラはその事実に気づき、落ち込む。


「どうして、サクラさんに【重撃】使えないんだろう……。」


「これが、リコちゃんとの差なのね……。いい?魔法大全でも見たと思うけど、【重撃】は絆を深めたもの同士でリンクして使うものなの。アタシとレン君はまだそんな絆がないってこと。でも、リコちゃんとレン君はお互いに絆があるからできた。だから……レン君とリコちゃんはお似合いのパートナーなんだよ……。」


 サクラは泣きそうな顔をしてたちあがると、そのまま歩き出した。レンが追いかけようとすると、サクラは立ち止まって振り返る。


「告白、失敗するんじゃないぞ!また、明日ね!」


 サクラは走って町の中に消えていった。レンはサクラの悲しみを理解できてはいなかったが、応援されたので頑張ることにした。ネックレスの小箱を大事に持ち、家に帰るのであった。

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