第17話 サクラの気持ちと美味しいお肉
ついに国外へ足を踏み入れたレンたち。
歩けど歩けど赤土の岩の壁、枯れた木、疎らに生えた低い背丈の雑草しか目に入るものがなく、方向の感覚が失いそうになりかけていた。それでも迷わなかったのは一定の方角がわかる魔道具があり、事前にそれを作っておいたおかげである。もちろんその魔道具もポチおのレシピに書いてあったもので『こんぱす』と呼ぶようだ。
理屈はレンにはよくわからないが、この魔道具は整備もしやすく方角も分かるので便利に感じていた。レンたちは半日ほど歩いたのだろう。地図を広げて『こんぱす』と地図の角度を合わせ、大体の距離を算出して位置を特定する。そうすると距離的にはそこまで進んでいないことが分かった。
それもそのはず、彼らはとても慎重に進んでいたというのが主な理由になる。もう一つ、理由として挙げるなら疲れていることも入ってくる。変わらない景色に、慣れない国外、常に魔獣や魔物に警戒を怠らないよう気を張っており、国内の時より疲弊していた。レンは口数が減ったサクラを見て、リコも見ると彼女もまた気を張りすぎて疲れが見えていた。
周囲を見ると丁度よい高台を見つけたので休憩を取ることにした。
「よし、ここらで休憩しようか。」
と声をかけると、二人は安堵したように深いため息をついた。収納カバンから敷物を取り出し、軽食の準備を始めた。とはいっても、ここまで魔獣と遭遇していないので缶詰か保存食を食べることになるのだが、それでも食事をすることで彼女たちの気持ちを和らげようとしていた。
二人が食事をしている最中、レンは地図を広げ、現在位置を確認していた。すると、サクラが干し肉をほおばりながら地図を見て、訊ねる。
「レン君、アタシたちは今、どの辺にいるの?」
「うん、関所がここにあって、このルートを通っているから、大体この辺だね。」
「この調子で進むと何日かかりますか?」
「……多分、二週間はかかるかもしれない。」
リコとサクラは見るからにがっかりしていた表情をしていた。それを見たレンは少し申し訳ない気持になっていた。レンは魔力量が少ないため、探知に割くことができない。
従って、魔獣の探知はサクラとリコ任せになる。そのことにレンは申し訳ないという感情を持っていた。
(もっとオレにも魔力があれば役に立てるのに……。)
無いものねだりだが、レンは切実に思った。
休憩を済ませ、片づけをしているとレンの何かが反応する。それはリコやサクラも同様に感じ取っており、高台から恐る恐る下をのぞくと魔獣がのそのそと歩いていた。茶色の体毛がびっしりと生えており、体は巨体ときた。魔力量はレンより多いことが肌で感じ取られ、レンはごくりと唾を飲み込む。幸い魔獣からは気づかれてはおらず、三人は顔を合わせてうなずいた。
ふくから命じられた任務の一つに魔獣と魔物の掃討があるのでサクラは高台から飛び降りて【幻揺】の魔道具で切りつける。駐在軍のゾウの皮膚より防御は薄いが、魔力の防壁でほとんど刃が通っていないようであった。レンは杖を取り出し、魔力弾で攻撃をしてみる。正面から当てたということもあり、頭に向かって打ったが、体勢を崩しただけだった。しかし、高台からリコがそれを見逃すはずもなく、岩槍を上空から落下させ胴体を串刺しにした。
それでもまだ動こうとする魔獣をサクラが魔力を魔道具の限界まで込めた斬撃で頭を切り落とすと動くことはなくなった。難なく倒したレンたちは魔獣を解体していた。この魔獣の肉は野生の感ではあるが、美味しいと思い丁寧に肉を削いでいた。
「すみません。サクラさんの刃が通らなかったのを見て威力を調整しなくて……。食べられるところ少ないですね。」
「ううん、レン君も助太刀に入らなかったらアタシはまた怪我をしてたかもしれないし……。いい判断だと思うよ、ありがとう。」
「この肉、きっと美味しいよね?」
レンは削いだ肉を保存用の容器に入れ、ルナティクスを取り出し、複合魔法を組み上げて容器ごと冷凍する。
「これで今日の晩御飯が楽しみになったぞ。」
「レン君、昨日も思ったのだけど、その杖?の魔道具はいったい何なの?」
サクラは腰に下げている指揮棒型の魔道具に指を指して聴く。レンは得意げな顔をしてそれについて答える。
「これ?試作型なんだけど、保健室の先生やポチおさんの持っている魔道具の再現というか真似事みたいな?そんな感じだよ。」
「試しに使っても大丈夫?」
そう聞かれたレンはうなずいて了承する。サクラは近場の岩に向かって杖を振る。高速で魔力弾が飛んでいき、岩にぶつかるすると岩が爆ぜた。レンが使用するとせいぜい岩が欠けたり、少々ひびが入ったりする程度なのだが、サクラの魔力量となると威力が桁違いであった。想像していた威力より大きく、サクラが呆然としているとリコがサクラのところに来て目を輝かせて順番待ちをしている。
「わ、私にもやらせてもらえますか?」
「ど、どうぞ。」
と渡そうとすると根元からぽっきり折れた。
「あ……。」
三人は再び調査場所に向かって歩みを始めた。レンは折れた魔道具を眺めてしょげていると、サクラがそばに来て謝罪した。
「ご、ごめんね。レン君の道具壊しちゃって……。」
「ううん、大丈夫。もともと試作品だから、いつかは壊れる運命だったんだし。また直せばきっと使えるようになるよ!」
レンは壊れた魔道具をカバンの中に仕舞い、前を向いて歩く。それを見たリコは安心したように尻尾が下がる。
「昼までと違って歩くペースが速くなったのは助かりますね。」
「そうだね、さっきの弱い魔物だったんだろうけど、オレでも知覚できるくらいの魔力放出してくれているから探知に割かなくてもいいのは二人にとってかなり楽になったんじゃないかな?」
「そりゃあ、全然違うよ!探知はずっと魔力の範囲広げないといけないし、それで精神もゴリゴリ削られるときついよ。」
「楽になって良かったよ。この調子です——」
レンは片手を上げてリコたちを止める。レンの感でも複数いるのはわかる。そして、先ほどと違い、こちらに狙いを定めているというのも察知できた。
「複数の魔獣に囲まれている。あと、すごく敵意をを感じる……。」
「そうだね、動き的には群れで狩りをするタイプじゃないかな?もしかしてアタシたち、ナワバリに入っちゃった……?」
「では火の魔法で分断を狙いつつ、サクラさんはリーダーの討伐に行ってもらえますか?」
サクラはきょとんとしていた。先ほどといい、彼女の魔道具では歯が立っていなかったことを気にしていた。それもあり、サクラは慌てて説明をする。
「り、リコちゃん!?アタシの魔道具は魔獣にも通用しなかったんだよ?アタシじゃリーダーを落とすなんて……。」
「じゃあ、これ使う?」
レンは棒状の魔道具を取り出した。それは、駐在軍のクマを切りつけたときの魔道具であった。レンは調査資源の枯渇を心配していたが、部隊が全滅する可能性を考えると、そんなことも言っていられない。昨日整備した段階ではこの魔道具に損傷もなくまだまだ使用できる状態であったので、サクラに託した。受け取ったサクラは少し嬉しそうにレンを見つめる。
「また壊しても知らないんだからね?」
「大丈夫。もともとサクラさんのために作った魔道具だから。」
サクラの胸がドキンと高鳴った。その意味を彼女は知っていたので振り払うように首を横に振ってレンに背を向ける。
「レン君の人たらし!ばーか!」
と言い、走って魔獣の群れに向かって走っていく。
「えぇー……?」
「なんでサクラさんは怒っているのでしょうか……?レン君、サクラさんの援護に入りましょう!あのままでは危ないです!」
リコに促され、レンはリコの背中に手を当ててリンクを開始した。
☆
――分かんないけど……分かんないけど……!
アタシは明らかに動揺していた。
目の前に陣形を組んでいる四つ足の魔獣どもに目もくれず、一番強い魔力反応を示すリーダー格のもとへ走る。胸の高鳴りは収まらない。
たぶん、アタシは諦められていないのかな。
初めてレン君を見たとき、なんであんな弱そうな人が近衛師団の団長様と訓練しているのか疑問に思って見ていた。案の定フルボッコにされていて、情けない人と思っていた。それでも立ち上がって、立ち向かっていく。最終的にはたおれているけど、競技系活動の剣術部のルールに乗っ取っていると胴に向かって綺麗な一本とっていた。
その時のレン君のまなざしを見てアタシは惚れた。ちっとも強くない男には興味なかったアタシが惚れてしまった。
そして、何とか彼の居場所を突き止めたら魔法技術部だった。一応魔道具の知識はあるからアタシにもできると思っていた。でもレン君は学生が作るような役に立つのかわからない小さなものと違った。実際の大きさは小さかったけど、性能は破格だとすぐわかった。紋章を封印する石、ルナティクスの開発。
悔しくてあの時は意地悪で指摘したけど、彼はその指摘も解決してきた。その諦めない、めげない姿勢がかっこよく感じた。
でも、リコちゃんという強力なライバルがいた。レン君とリコちゃんが仲良く話しているととても心がモヤモヤして決闘も申し込んだっけ?それで、あの二人の絆というものを見て、諦めたはずなのに……。
「あー!もう!優しいから好きになっちゃうじゃない!」
イライラした感情を襲い掛かってくる魔獣にぶつける。そして、リーダー格の魔獣と目が合う。
「あいつだ……。あいつを斃せば!しまっ——」
リーダー格の魔獣はこうなることを予想していたみたい。周囲も上空もどこにも逃げ場のない状況。レン君から受け取った魔道具でもさばききれない。思わずしゃがみ込むとアタシの周りが突然燃え、魔獣を殲滅した。
この魔法はリコちゃんの魔法だ。活路を導き出してもらったアタシは残っていた【加速】魔法の効果を振り絞って、一気に間合いを詰めて、リーダー格の魔獣を焼き切った。統率が取れなくなった魔獣たちは逃げようとするけど、レン君によって無茶苦茶に増殖した紋章をリコちゃんが発動させて、その群れは全滅した。
アタシが二人の元に戻ると、心配して駆け寄ってきた。よく見たら、いつの間にか切り傷のような怪我もしていたみたいで、調合した傷薬を塗られた。レン君は治療の仕方も丁寧で手際が良かった。その握ってくれている手を離して欲しくないなと思う。
「レン君は手当てが上手だね。」
「オレ、よくケガするからうまくなったのかな?てへ。」
自分の失敗を語って照れ隠しで舌を出す……そんなの、ますます好きになるよ。でも、この二人を見ていると、アタシが入るスキなんてない。深くため息をつくと思わず本音がこぼれる。
「アタシにもいつかレン君みたいな旦那さんできたらいいな。」
急いで手で口をふさぐと、彼は少し困った顔をしてたけど、嬉しかったのか尻尾が揺れている。
「うーん、オレなんかよりいい人はいっぱいいるよ?」
「レン君はあげません。でも、サクラさんの見る目は間違いないです。」
このキツネめ。卒業して、ゆっくり、ゆっくりと生涯のパートナー探しもして、宮廷魔術師で名をはせてやろうじゃない。そう心に決めて、アタシは二人に抱きついた。
☆
順調に魔獣を斃しつつ目的地まで向かっていったが、【太陽】が夜を迎えていたので野営をすることにした。
「この辺に手ごろな洞穴はないかなぁ?」
「それならいらないよ!待っててね……よいしょ。」
レンは収納カバンから野営道具を取り出し、魔力を込めた。するとポチお考案の魔力で開閉されるテントが出来上がった。リコは存在こそ荷造りするときには知っていたが、このように大きなものになると思っていなかった。サクラは驚きのあまり開いた口が塞がらないようで自分の手で口を閉めていた。
「これ、レン君が作ったの……!?」
「うん。ポチおさんのお嫁さんにレシピをもらって作ってみたんだ。あとはこれを中に入れると……完成!」
中では机も完備されており、ちょっとした一部屋住居のような感じだった。寝るところは大きさ上仕方がないが川の字で寝ることになるようだ。
リコは着火剤に火の魔法を放ち、キャンプを開始する。レンは報告書を書くためにテント内に籠っていた。
ついでに今日壊れてしまった魔道具の修理ができるか考えていた。サクラは今日採れた魔獣の肉を一口大に切り、それを数個串に刺して、器に入れていった。
リコは火を焚いて、キャンプの範囲に均等な距離で魔道具を六か所置き、ルナティクスをセットし、中心にも同じ魔道具を置き、詠唱を始めた。
「『守護の力よ、われらに仇なす者から守り給え。』」
白い光がキャンプを包む。【守護】魔法で夜中、魔獣による襲撃を防ぐ結界を張る。
これは魔力が一番高いリコの仕事でもある。魔力量と魔法の強度は比例しているので、レンが魔石を使って発動したところで、リコの十パーセントの強度しかない。
したがって、リコは結界係となる。
離れると魔法が中断するように思うが、そこは魔道具の力で魔法を連続使用させている。魔石を使用して連続発動しているので時々様子を見に行く必要があるが、席を離れられる。一旦、魔道具で発動してしまえばレンでもメンテナンスはできるので交代で見張りすれば寝不足になることはない。サクラはリコの発動した【守護】の魔法を見て、唖然としていた。
「すごく強い結界だね。これならドラゴンでも突破できないんじゃない?」
「レン君の【重撃】の含まれた魔法ですからね。強固ではありますが、さすがにドラゴンには対抗できないかと……。あ、いい匂いしますね。」
「でしょー。これね、夜の町でやってた『やきとり』ってやつを真似してみたんだ。鳥じゃないから何て名前なのかはわからないけど、ニオイで美味しいのが分かるよね。そういえばレン君は?」
「報告書を書いているのでもう少し時間がかかると思います。先に食べておきましょう。」
作業しているレンをおいて二人はやきとりを食べることにした。キャンプの火の脇で炙られている肉から食欲をそそるにおいがする。
リコは思わず涎が出そうになるのを堪え、それを手に取り、塩をかけて食べる。サクラも同じようにして食べる。出来立ての為二人とも口がやけどしないようにハフハフ言いながら食べる。何とか一口を食べきると二人は顔を合わせて笑った。
「おいしいですね。肉もとても柔らかいのに、油ばかりではないので食べやすいです。」
「ほんとにね~。こんなに美味しいなら、見つけ次第肉にしてやろうよ。」
「いいですね。あ、レン君。ご飯美味しいですよ!」
「めっちゃうまそうなにおいする!」
匂いに誘われて出てきたレンはフラフラと席に着席すると、リコは串肉をレンに渡す。三人は火を囲んで食事を行い、もりもりと食べていく。そして串肉は残り一本となり、仁義なき戦いが行われたのだった。
三人は食事が終わり、片づけを済ませるとレンは再び報告書を書きにテントへと戻った。リコとサクラは火を前にして座っていた。ぱちぱちと木が燃える音を聞き、日から伝わる熱を浴びて、体が温まった。その間はずっと沈黙だったのだが、サクラが耐えられなくなり、リコの方へ向いた。
リコは首をかしげてサクラを見る。
「リコちゃん。リコちゃんはどうしてレン君のこと好きになったの?」
突然の質問にびっくりしたのか目をまん丸にしたが、すぐに柔らかい表情になる。吸い込まれるような闇のような空を見つめ、少し目を細めた。
「そうですね、私が好きになったのは実はよくわかってないのです。」
「ほえっ!?じゃ、じゃあどうして、パートナーや番になったの!?」
サクラは身を乗り出してリコに詰め寄る。リコはどうして詰められていたのか戸惑っていたが、言葉足らずであったことに気づいた。
「あ……好きになった時期がわからないのです。もちろんパートナーになったときには既に好きでしたよ?」
「な、なんだぁ……びっくりした。」
ため息をこぼしながら、再び座る。
「特別な感情を持ったのは、おそらくレン君が訓練に失敗して大けがをしているのに部活に出てきた時があったのです。おそらくそのあたりからたぶん好きになった、じゃないかと思います。」
サクラは大けがをしているレンを想像すると、サクラが始めてレンを見たときの記憶がよみがえる。
「そうだったのね……。もしかしたら、アタシも同じ時期にレン君に一目惚れをしてたのかもしれない。アタシは戦闘訓練を近衛師団長としている姿を見て、それで……かな。」
「レン君はかっこよく見えましたか?」
「うーん、なんだろ?諦めないあの姿勢はとてもかっこよかった……のかもしれない。」
サクラは両足を抱えて顔をうずめていた。リコはレンのことを褒められたことに嬉しくなり、耳を垂らして尻尾をバムバムしていた。
「リコちゃん。ちょっと恥ずかしいかもだけどさ、その……よ、夜伽ってどうだった?」
リコはその質問に対して尻尾の毛が逆立ち、膨らむ。
「そ、それは……言わないとダメ……ですか?」
リコは恥ずかしさのあまり熱くなっていた。サクラは、意地悪な表情で笑みを浮かべ頷いた。深呼吸をして、心を落ち着かせる。
「そう、ですね……。私は番になるということを間違った認識でいました。」
サクラはリコの言うことがわからなかった。番になる条件はだれでも知っていることであり、サクラも内容は知っている。
「初めて繁殖期が来たときは保健室の先生に相談して、何とかレン君に知られずに済みました。そして次の繁殖期が来た時に先生に相談して、パートナーがいるときはどうすればいいか聞いたのです。」
「それで、番になることを決めたの?」
リコは首を横に振って否定する。両手の人差し指を突き合わせて恥じらいながら口を開く。
「その、前に私が王族の付き人になるか悩んでいた時に、サクラさんが結婚したらいいと言ってもらえたのがきっかけなのです。」
「え、あんな適当に行ったのがきっかけ!?」
尻尾をパタパタと振り、うなずく。サクラは思い付きで言ってしまったことに少し後悔したが、それでも二人の仲人になれたことに嬉しさを感じていた。
「それで、何を間違った認識だったの?」
「えぇっと……。その、繁殖期にパートナーが家に来て、抱いてもらったら、番になれるってところです。」
サクラは頭の上に?が浮かび上がる。それより、いつも冷静な彼女がこんなに慌てているのが楽しく、サクラはちょっと意地悪したくなった。
「え?それって番になるための条件だよね?」
「は、はい。その……私はレン君が家に来てぎゅってしてくれたら、番になれると思っていたのです……。」
「純粋か!」
サクラはリコの間違えた解釈に思わずツッコミを入れてしまった。
「……で、そのままどうなったのさ。」
「なんだかよくわかりませんが、最初は首根っこを嚙まれました。」
「え、急に噛まれたの?」
リコは二回頷いた。サクラは少し考えると、あることに気が付いた。
「リコちゃん、繁殖期の時はにおい消しはした?」
首を横に振り、疑問をもった感じで首を傾げた。サクラは額に手を当ててため息をつく。
「リコちゃん。それはレン君は悪くないよ。繁殖期の女の子には男の子を発情させるにおいを発するの。それを嗅いだ男の子は理性が飛んじゃうんだよ?」
「で、ではその時にレン君は私のニオイで……は、発情を……。」
「そういうこと。さすがのレン君でもその匂いに抵抗はできないのね……。で、抱いてもらってどうだった?」
質問をするとリコのなかで恥ずかしさが爆発しそうになる。サクラを見ると、どうやら答えないと解放してくれなさそうな表情をしていた。リコは隠しても追及されるので、隠すことを諦めた。
「……その、たくさん頂けました……。」
「やっぱり……。レン君は上手だった?」
「上手かどうかは分かりませんが、とても優しかったので、とてもよかったです。」
サクラはため息をつきながら地面にあおむけで倒れる。リコを見てとてもうらやましく感じていた。
「うらやましいな。」
「サクラさんにもきっと、いい男の子に出会えますよ?」
「そうそうないわよ。レン君みたいな優秀な男の子は。」
「えへへ、うれしいです。」
リコはレンが褒められてとてもうれしそうに笑っていた。話しているとテントからレンが出てくる。
「サクラさん。見張り交代するよ?リコさんも休めるときに休んでね。」
「レン君。リコちゃんを悲しませたら許さないからね?」
「え?は、はい……?」
突然怒られたレンは戸惑っていた。そんな彼を尻目にサクラはテントに入り、寝袋に入って眠りについた。リコも背伸びをした後、キャンプの火に木をくべて火を燃え上がらせた。レンは壊れた魔道具を直すために小さな工具セットを持ち出して修理を始めた。
「リコさんも眠たかったら、一度眠るといいよ。魔道具の維持はオレに任せてくれても大丈夫だから。」
「いえ、せっかく二人きりになれたので、一緒にいさせてください。」
リコはレンの隣に座り、もたれかかった。しばらくすると、リコから寝息が聞こえるようになった。
その姿を見てレンは微笑み、リコを抱えて、テントの中へ入り、寝袋に寝かせた。レンは外に出て真っ暗な外を眺める。魔獣の唸り声や、遠吠えが反響する結界外は身震いするほど怖さを感じる。
その中一際大きな遠吠えのような声が聞こえ身構えたが、ずいぶん遠くにいるようであった。外の魔獣もその声を聴いて、唸り声と気配が消えていた。
不思議に感じつつもレンは指揮棒型の魔道具の修理を開始したのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます