第7話

僕らが認識のすり合わせを終え、椅子に深く腰を下しなおした時、ふいにコンコンと扉をノックする音が聞こえる。

結界を解き、どうぞ と声をかけると御者が馬車から荷物をリビングへ運び終えた旨を報告してくれた。

実にタイミングが良い。

御者に感謝の言葉を伝え、下がらせる。

すると、アルバが僕の袖を軽く引きながら「パシ…そろそろ…」と呼びかけてくる。

確かに、日は少し傾き始めている。

少し早いがそろそろ出発をした方が良さそうである。


僕らは、数日分の食料と野営道具を鞄に詰め簡単な準備を済ませると御者に出発する旨と留守を頼み、村長の家を出る。

御者は僕の言葉に頷くと、頭を下げ僕らを送り出してくれる。

僕らが恐れ多いのか、村人たちは家から出た僕らに声をかけることはなく遠くからただ手を合わせて拝んでくる。

そんな中、村長は緊張しながらも

「本日は、じきに日が暮れます。お二方も旅の疲れが残っているやもしれませんし、本日はごゆるりと過ごされ、浄化は翌日以降にしてはいかがでしょうか。村を上げて歓迎させていただきたく思います。」と提案をしてくる。

「歓待は不要だ。残念だが、僕らはそんなに暇ではない。それに夜の方が魔力が高まり作業が捗る。広範囲を浄化するため、数日は戻らない。」と淡々と彼らの提案を拒否する。

夜の方が魔力が高まるのも、広範囲の浄化も当然嘘だ。だが、魔獣の討伐という本来の目的をまだ知られる訳にはいかない。

ゆえに、今は申し訳ないが嘘をつかせてもらう。

申し訳ありませんでした と村長が深々と頭を下げるのを見て、「別に…気にしてない…」とアルバが小さく答える。

淡々としているし、感情がわかりづらいがきっと彼女なりの優しさだ。

だが、そんな思いを知る由も無い村長はさらに一段と頭を下げて下がっていく。

まぁ、いい。これで怪しまれることなく魔獣の探索を行うことが出来ると僕らは未復興領域に向かって再び歩き始める。


村を出て、少し歩くとすぐに未復興領域に入った事がわかる。

ココは今もなお残された汚染度の高い領域のため、特にわかりやすい。

まずもって、未復興領域では、まるで荒野のごとく大地はひび割れ、草木の一つも生えていないのだ。

だが、何よりも特徴的なのはその大地の色だ。

この大地は、気味悪いほどに赤黒く染まっている。

生命にあふれた柔らかな腐葉土とも違い、ただまるで血を固めたかのような色の大地。

これこそが、未復興領域が未復興領域である所以。

魔獣の血による汚染だ。

奴らが流した血と魂は、大地に吸収され、その土地を呪う。

そして、呪われた大地は眼前の景色のごとく成れ果てるのだ。

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