第4話
そうと決まれば準備である。
今すぐ、すぐに準備を行い、出発をせねば。
そう考え、立ち上がろうとした僕らに、師匠から声がかかる。
「あ~、すまない。食後にすべきだったな。
お前たちは朝食を摂りに食堂へ来たのだろう?なら、焦ることはない。
食事も大事な準備の一つだ。しっかりと食べてから支度をすればいい。
もうすでに馬車の手配はしてあるから安心しろ」
師匠が少し申し訳なさそうにしながらそう言ってくる。
師匠の言葉にふとお腹が空いていることを思い出した僕はアルバの手を引き、二人で食卓に座りなおす。
卓に着くと二人で食物に感謝を告げ、朝食を摂り始めるが、スープやパンの味がよくわからない。
きっと、先の話の衝撃がまだ尾を引いているのだろう。
だが、味は感じられずともお腹は膨れ、身体も温まってくる。
そうしていると、少し思考に余裕ができ、ふと気づく。
普段は余裕を崩さないはずの師匠が少し申し訳なさそうにしていたのも、馬車の準備は出来ていて出発すべき時間も決まっているのに朝食前に話をしたのも、きっと僕らと同じように師匠も衝撃を受けていたのが原因だったのだろう。
僕らなどよりも、よほど魔力探知に優れた師匠がここまで発見を逃していたのだ。
きっと師匠にとっての衝撃は、僕らよりも何倍も凄かったのであろう。
食事を終えると今回の概要を師匠が改めて説明をしてくれた。
その説明を聞くや否や、僕たちは急ぎ足で部屋へと戻り準備を始める。
とはいえ、準備をするといっても、大きな鞄に衣類と非常食を詰め込むだけだ。
野宿用の設備や移動中の食料は師匠がもう馬車に準備をしてくれている。
手早く準備を済ませた僕らは、馬車へと急いで向かう。
そんな慌ただしく動き回る僕らを呼び止めると、
「そんなに焦ることはないと言っているだろう。
こういうときだからこそ、落ち着いて
行動しろ。」と師匠は小声で僕らをゆっくりと諭す。
師匠が言うことはもっともだ。
だが、逸る心を抑えることが出来ないのだ。
そんな僕らを見かねたのか師匠は改めて言葉を重ねる。
「いいか、二人とも。
焦りは視野を狭める。
そして、狭まった視野では、戦況を見誤る。
その結果を支払うのはお前たち二人だけではない。
お前たち二人がしくじった時に真っ先に被害に合うのは近郊の村の住人だ。
だからこそ、その気持ちを抑えて冷静に行動しろ。
そうすれば必ず対処できるはずだ。」
師匠の言葉に力強くうなづくと、僕らはゆっくりと馬車に乗る。
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