第1話

カーン コーン 遠くから鐘の音が響いてくる。

鐘の音が繰り返されるにつれて、僕の意識もゆっくりと浮上する。

ああ、きっと朝の礼拝の時間なのだろう。

カーテンの隙間から差し込む朝日が、瞼の上からでもその明るさを訴えてくる。

少しだけ目を開く。

寝起きの瞳に、朝の日差しが煌々と飛び込んでくる。

眩しい そんなことを思いながら、少しでも朝日から逃れようと身体を横に倒す。

ファサッと、不意に白いものが顔に柔らかく当たる。

絹のようになめらかで、雪のように白く美しい髪。

まるで白磁のように綺麗な肌に、まだまだ幼さが残る可愛らしい顔。

アルバだ。

僕の腕を枕にして、同室のアルバが眠っていたのだ。

小さな身体を丸めて、すぅすぅと穏やかな寝息を立てて寝むるその姿があまりに可愛らしくて、同性の僕さえも見惚れてしまう。

ずっと見ていたいのも山々だが、このままという訳にもいかない。

礼拝の時間になったということは僕たちもそろそろ起きたほうがいいだろう。


「おはよう」

肩を軽くゆすりながら、声をかける。

眠りが深いのか、うぅん という吐息が聞こえるだけで夢の国から中々抜け出せていないようである。

繰り返し声をかけるが、そのたびに身体をどんどん丸めながら逃れようとする彼女の姿が小動物のようで可愛らしい。

しかしながら、身体を丸めるのも限界に達したのか、目をこすりながら眠そうに「お…は…よう…」と返してくる。

「おはよう、アルバ」と改めて挨拶を交わす。

その言葉に、安心したようにトロンとした顔のままにっこりと笑い返す彼女に庇護欲がそそられる。

アルバが、ゆっくりと起き上がって小さな身体を目いっぱいにそらしながら、うーん と大きく伸びをする。

腕から無くなった心地のいい重さに少しの喪失感を覚えながら、僕も同じように伸びをして大きく胸をそらす。

アルバから少しだけジトッとした視線を胸元に感じるが、いつものことなので気にしない。


いつも通り、二人してノソノソとベットから起き上がる。

「アルバ、お願い」僕が呼びかけるとアルバはいつも通りに、水桶に氷を出してくれる。

魔法で氷を溶かして二人分の水を作ると、二人して身支度を始める。

身支度が終わるとローブを羽織り、廊下への扉に手をかける。

少し力を入れると、ギィと音がして木製の扉がゆっくりと開く。


窓から差し込む朝日が廊下を照らしている。

大理石の床が太陽光を反射し、眩しいほどに輝いている。

そんな光の中を、僕とアルバは真っ黒なローブを纏って影のように進んでいく。

「いつも思うけど、この黒いローブじゃ魔法少女というよりおとぎ話の魔女だよね」なんて他愛の無い会話をしながら、廊下を歩いていく。


そんな中、また窓の外から鐘の音がカーンコーンと響いてくる。

朝の礼拝が終わったようだ。

きっと、この町の人達は、今から仕事に励むのだろう。

僕らも朝食を食べて、いつも通りの修行を始めよう。

そんなことを思いながら食堂へと足を進める。

いつも通りの朝。いつも通りの一日の始まり。

いつも通り二人の足音がコツコツと廊下に響いている。


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