第20話

歌が聞こえる。

目を開けると、月の明かりが僕らを照らしていた。

そのまま身体を起こすと。歌の主の方を見る。

そこには見慣れぬ女性が立っていた。

結界が破られた形跡はない。

あまりの異常な事態に僕は身構え、傍らにアルバを起こすべく手を伸ばす。

アルバのうなる声が聞こえる。

その時、こちらを向いた女性と僕の視線が交差する。

「あら?起きたのかしら?」

女性は優しく語り掛けてくる。

「でも、駄目よ。こんなに無防備に寝ていては。悪い人に襲われちゃうわよ」

女性はおどけた様に笑う。

その笑顔に思わず警戒が緩みそうになる。

だが、この女性は結界を破らずに内部に侵入をした。

しかも、いくら寝ていたとはいえ僕らに全く気付かれずにだ。

どうする。

明らかに僕らより格上だ。

最悪の場合、アルバだけでも逃げて逃げなくては。

思わず、アルバを握る手に力が入る。

「パシ…痛い…」

アルバが抗議するかのように声を上げる。

その言葉を合図に僕は脚を強化し、荷台を蹴って、駆け出す。

荷台は衝撃に耐えかねて、大きな穴が開く。

その衝撃にアルバが悲鳴を上げるが、今はそんな物に構っていられない。

僕は、もう一歩大きく地面を蹴って、跳躍し、そのまま翼を広げる。

このまま逃げる。

勝ち目が無い以上、逃げるしかない。

せっかくの生存者を見捨てることになるのは心苦しい。

でも、魔法少女たる僕たちがココで死ぬことは許されない。

翼に十分な魔力を流し、加速をしようとしたその瞬間、大きな影が頭上に現れる。

そのまま、肩に痛みが走る。

肩を見ると、大きなワシの爪で掴まれていた。

実力が違いすぎる。

逃げる事すら出来ないのか。

せめてアルバだけでも逃がそうと、手に力を入れようとした時、

「あら。怖がらせてしまったわね。ごめんなさい。」

頭上からさっきの女性の声がする。

相変わらず落ち着いた声だ。

「私の名前はシレーヌよ。初めまして、アルバさん、パシファエさん」

女性の言葉に安堵し、手から力が抜け思わず、アルバを落としそうになる。

アルバは驚いて僕にしがみつく手の力を強め、必死にしがみつく。

「あらあら。白い方のお嬢さんが大変みたいですし、一回降りましょっか。」

シレーヌ様はそのままゆっくりと降下し、僕らを地面へ降ろす。

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