第18話

「アァァァァ!!!!」少女の絶叫が村に響き渡る。

横から走り寄ってきた黒い影が、少女の伸ばした腕に噛みついていた。

「いやぁぁぁぁ!」アルバの叫びとともに、黒い影は凍り付き、砕け散る。

アルバは、少女へと駆け寄り掴み損ねたその手を取る。

少女の身体はビクンビクンと痙攣している。

アルバは少女へ必死に呼びかけるが、少女からの返答はない。

だが、魔獣たちはそんな事を待ってくれるはずもなく、アルバたちへ走り寄っていく。

僕は、アルバを救出するために再び飛翔しようとするが間に合わない。

その時、強烈な冷気が村から押し寄せてくる。

アルバの方へ走っていた魔獣たちの反応が止まり、そのまま反応が消失する。

見ると、アルバへと走り寄っていたはずの魔獣たちは氷の彫像と化していた。

村からは物の見事に魔獣たちの反応が消失していた。

この程度の攻撃で倒れるのなら、思っていたよりも弱い魔獣だったのかも知れない。


だが、今大事なのはそんな事よりも生存者だ。

さきほどの少女の様子はさらに悪化しているようだ。

魔力探知から、少女の反応がドンドンと鈍くなっていくのがわかる。

僕は、アルバたちの方へと走り寄る。

「アルバ…」

僕が声をかけたその時、少女はアルバの腕の中でもうぐったりとしていた。

探知からも、少女の反応が消失した。

僕はなんて声をかけて良いのかと思いながらも、アルバの肩へと手を伸ばす。


その時、少女がアルバがゆっくりと胴体を起こす。

少女は顔をアルバの方へと向け、ゆっくりと目を開く。

少女の様子に奇跡が起きたのかと、アルバは顔を綻ばせる。

少女はアルバを見るとそのまま口を開き始める。


そして、彼女が開いた口を大きな針が貫通し、彼女は再び絶命した。

その光景にアルバも僕も呆然とする。


「いやぁぁぁぁ!

なんで!?なんで!?」

アルバの絶叫が響く。


「なんでなの!!?パシ!!!」

その言葉で、ようやく手を濡らす血の感触に気づく。

そして、思い出した。


あの瞬間、魔力探知で少女の反応が消えた瞬間だ。

魔獣の反応が突如として発生し、考える間も無くほとんど無意識に攻撃を仕掛けていた。


思わず全身から力が抜ける。

魔法が解除され、手が元に戻る。

ボトッと音を立て、少女の脳髄が大きく空いた穴から垂れる。

アルバは少女の遺体を地面にゆっくりと横たえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る