第15話
ふぅ と口から安堵の息が漏れる。
これで探知した敵はすべて始末できた。
「片付いたよー!」
右手を元に戻して、アルバへと手を振りながら終わったことを告げる。
そう思った時、ふと違和感を覚える。
待て、師匠は何と言っていた。
そうだ、師匠は言っていたはずだ。
魔獣は5体だと。
直下から音がする。
迂闊だった。
師匠の言葉を思い出してからの行動は考えるよりも早かった。
僕は、反射的に左手を蛇へと変え、地面を叩きつける。
反動で身体が宙へ飛び上がる。
その瞬間地面から魔獣が口を大きく開けながら僕が先ほどまでいた位置へと飛び出してくる。
どうにか初撃を回避することは出来た。
だが、マズイ。このままでは態勢が不安定すぎる。
飛行へと移行するのも難しい。
一度、着地しなくてはならない。
だが、奴はこちらから目を離していない。
確実に着地の瞬間を狙ってくる。
僕はアルバの方へと視線を向ける。
だが、アルバが先ほどまでいた位置にも、同じように魔獣が飛び出ていた。
「アルバ!!!」
僕は思わず彼女の名を叫ぶ。
もう遅いというのに。
そう思った時、アルバへと飛び掛かったはずの魔獣が凍り付き、砕け散った。
砕けた氷の破片が舞う中、白い影が飛び出す。
そのまま、もう一体の魔獣の方へと滑るように、なめらかに、地面に白い軌跡を残しながら高速で接近していく。
そして、次の瞬間には僕を狙っていたはずの魔獣も同じように氷となって、砕け散った。
砕け散った氷の中にたたずむ白い影。
アルバだ!
僕は蛇をクッション代わりにして、着地をするとアルバへと駆け寄る。
「アルバ!ありがッ」
コンッと額に氷が当たる。
「油断…しすぎ…。」
しまった、そう思ったがもう遅い。
「突っ込み過ぎ…。まずは敵の戦力分析から…いつも師匠言ってたでしょ…」
完全に怒ってる。
「魔力探知…しっかりやれば残りの2匹も見つけられた…。」
淡々と怒ってくるアルバ。
アルバの言うことは最もだ。
あまりにも正論過ぎる。
眼の前の敵だけに注意を惹かれ敵の数を間違えた。
完全に僕の落ち度だ。
あまりの正論に何も言い返せずに、肩がシュンッとなる。
「ホントに…パシは…」
僕は頭を下げる。
ホントに何も言い返せない。
「ホントに…ホントに……」
しかし、アルバの言葉はそれ以上続かない。
「ホントに………」
詰まってしまったように、それ以上の言葉は聞こえてこない。
ズズッと鼻を啜る音が聞こえる。
「心配…したんだから…」
僕が顔を上げるとアルバは、涙を流していた。
「ゴメン。ホントにゴメン。」
僕は、ゆっくりアルバを抱きしめて謝罪の言葉をかける。
ポカポカとアルバの拳が肩にぶつかる。
「ゴメンね。」
僕は腕に力を入れ、アルバをキツく抱きしめる。
僕を叩くアルバの手が止まる。
「うん…」
アルバの腕が僕の背に回る。
抱きしめ返してくれたアルバの腕に少し圧迫感を感じる。
「次は…ゆるさないからね…」
僕の腕の中で、アルバが呟く。
その言葉に、背筋がピンっとなる。
繰り返すつもりはないけど、絶対に繰り返さないようにしよう。
僕は心の中でそう誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます