第12話

寄闇の中互いの紅茶を飲む音だけが聞こえる。

その静けさが心地よい。

もう少しだけこうしてアルバと寄り添っていたい。

そんな事を思うが、カップの紅茶は少しづつ減っていき、この時間の終わりを実感させる。

名残惜しさを押し殺して最後の一口を仰ぐと、そのまま仰ぐように空を見る。

そして気づいた。

あぁ、もう月が真上に差し掛かっている。

思わず手に力が入る。

つないだままであった、アルバの手が握り返され、少し安心する。

「片付けよっか」僕が呟くと、アルバが「そうだね」と返す。

一度手を離すと、別々に片づけを始めるが、そこまで大したことはしなかったからか思いのほか早く終わった。


よしっ と呟くと僕はこの大地に対峙する。

そのまま、隣に立つとアルバの手を取って、傾いていく月を背に背負いながら僕達は再び歩き始める。

太陽が昇る方角へ。


そこからは順調であった。

月明かりが照らす中、僕らは時折魔力探査を挟みながら東へと進みつづけた。

5度目の魔力探査を終えたとき、僕は東の空が白んでいるのに気づいた。

夜明けだ。

予定よりも少しペースが遅れてしまっているが、今日はここまでだ。

本当は遅れてしまった分を取り戻したいが、ココで無茶をしては魔獣との戦闘に万全な状態で挑めない。

はやる気持ちを抑えて、僕はアルバと共に野営の支度を整える。

パンとスープで簡単に食事をすませると、アルバから休むことにした。

流石に、昨夜の様に二人同時に睡眠を取るのはリスクが大き過ぎる。

簡易的な日除けの下、周囲を見渡すがやはり何もない。

ただただ赤黒い大地だけが広がっている。

夜はあまり意識することが無かったが、昼になるとその異質さが際立ってくる。

きっと僕らが浄化をしなければ、この強い呪いは100年後も大地を蝕み続けているだろう。

そんなのは、忍びない。

帰ったら師匠にお願いをして、改めて浄化の機会を作ってもらおう。

その時はきっと手伝ってくれるよね と思いながら、アルバの方を見る。

アルバはすぅすぅと寝息を繰り返すばかりで返事はない。

だけど、きっと彼女もわかってくれるだろう。


そんなとりとめのないことばかり考えていると、隣から寝苦しそうなアルバの声が聞こえてくる。

アルバの声で、気温が一段と上がっていたことに気づく。

確認のために、顔を日除けから外に出してみると太陽の眩しい光が燦燦と真上から降り注いでいた。

もうお昼になっていたようだ。

交代の時間ということで、僕は「おはよう、アルバ」とゆっくりと声をかける。

その言葉に、「おは…よう…」とアルバが少し眠そうに答えてくれる。

僕はケトルの水を温め直し、紅茶を淹れる。

紅茶を手渡すとアルバはふぅふぅと少し冷ましてから口に運ぶ。

アルバは、少し渋そうに顔を歪めると非難がましくこちらをじっと見つめてくる。

どうやら茶葉を入れすぎてしまっていたせいか渋かったようだ。

ごめん と謝ると、アルバは んっ と頷き返す。

どうやら、許してもらえたみたいだ。

アルバは、手から氷を出すと、紅茶を薄めて飲んでいた。

渋い紅茶のおかげか、アルバは完全に目が覚めたようなので、「じゃあ、寝るね。夕方くらいに起こして」と声をかけ僕も布に包まる。

疲れのせいか横になるとすぐに意識が深く沈み始める。

意識が沈んでいく中、「おやすみ、パシ」とアルバの声が聞こえた。

僕は「おやすみ」と返すと、そのまま意識を手放した。

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