第11話
ふと、気づくと周囲はすっかり暗くなり、月光と星の輝きだけがこの大地を照らしていた。
僕もアルバもすっかり泣き疲れて、寝てしまっていたようだ。
腕の中を見るとアルバが同じように眠っていた。
その姿に申し訳なさを感じながら、アルバからゆっくりと腕を離して起き上がる。
さんざん泣いたせいか喉がひどく渇いている。
渇きに耐えかねて、側に置いてあった紅茶のカップを手に取るとグイっと中身を煽る。
長時間放置していた紅茶は、当然すでに冷え切っていた。
そして、茶葉の渋みが出尽くしていたのか舌が少し痺れる。
渋みのおかげか、頭が少し冷静になった僕はいくら周囲に魔物がいないことを確認した後とはいえ、不用心過ぎたことを反省し、探知魔法を改めて行う。
緊張がほぐれたからか先ほどよりもスムーズに探知が出来る。
相変わらず周囲には魔獣の気配はない。
安心して、ふっ と息を吐くと「もう大丈夫?」とアルバが声をかけてくる。
さっきの探知で起こしてしまったのだろう。
「うん、ありがとう。もう大丈夫だよ。」僕はアルバの顔を見ながら答える。
ひどい顔だ。涙の跡でぐしゃぐしゃになっており、彼女の可愛らしさが少し損なわれてしまっていた。
でも、きっと僕の顔も同じなのだろう。
「紅茶、冷めちゃったし淹れ直そっか。ついでに、暖かいタオルで顔拭こう」と僕が提案するとアルバは恥ずかしそうにローブの裾で顔をクシクシと拭きながら、「うん」と答える。
さきほどと同じようにケリーケトルでお湯を沸かし、紅茶を入れる。
ついでに、そのお湯を使って、濡れタオルを作った。
濡れタオルで顔を拭うと少しさっぱりした気分になる。
アルバの方を見ると、彼女もさっぱりとした表情で笑顔を返してくれる。
寄り添いながら腰を下ろすと、紅茶をゆっくりと飲む。
ほぅ と僕とアルバの声がほぼ同時に漏れる。
はっと横を向くと、アルバと目が合う。
思わず、お互いに声を出して笑ってしまう。
こんな何でもないことが、なぜだかとても嬉しいのだ。
僕はそのままアルバの小さな手へと手を伸ばすと、ゆっくりと握る。
アルバも軽く握り返してくれる。
いつだって彼女のこの手は僕に勇気をくれる。
だから、だからこそ。
「アルバ、ありがとう。僕、一人でやらなきゃってなぜだか勝手に思い込んで、勝手に怖くなってた。」
アルバの顔を見つめながら、僕は胸の内を吐露する。
「でも、でも、それは間違ってた。僕は一人じゃない。君がいる。誰よりも信頼している相棒の君がいるなら、僕らはきっと大丈夫だね。」
僕の言葉にアルバは聖母のごとく優しく頷いて返してくれる。
そんな彼女の姿に ありがとう、アルバ。本当にありがとう。 と僕は心の中で改めてお礼を言う。
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