第8話

そもそも、呪いとは魔法の一種だ。

魔獣の体内を流れる血は魔力を含んでおり、それがしみ込んだ大地で奴らが命を落とすと、その魂と共鳴し、滅びの魔法を発動させる。

これが呪いだ。

滅びの魔法とは恐ろしい名前をしているが、人や動物を直接殺す力はない。

ただ、ただ大地から生命力を奪い取るのだ、

ゆえに、呪われた土地はドンドンとやせこけ、やがて草木は枯れ果てる。

そして、人々を作物も育たない土地を捨てざるを得ない。

実に厄介な魔法だ。

まさに、今もなお続く魔獣との戦いの負の遺産。


そして、一度呪われた土地から呪いを取り除く方法は、二つだけだ。

一つは、時間の経過で呪いが薄まるのを待つことだ。

もう一つは、僕たち魔法少女が浄化を行うことだ。

重ねてになるが、呪いとは魔獣の血に宿る魔力によって引き起こされた魔法だ。

ゆえに、僕たち魔法少女がそれを上回る魔力をもって奴らの魔力を上書きすることで、効果を反転させ、その土地を生命力あふれる土地へと戻すことが出来る。


とはいえ、今回の目的は魔獣の討伐だ。

浄化に避ける魔力は無い。あるとしたら、魔獣討伐後だ。

浄化はただでさえ多大な魔力を消費する。

特にこんな汚染度の高い地域ではどれほど膨大な魔力が必要になるかわからない。

もし仮に浄化で魔力が減っているところを、魔獣に襲撃されるようものなら、どうなるかは火を見るよりも明らかだ。

ゆえに、そんな危険を今は犯せない。


ザッザッと乾いた大地を踏みしめる音だけがゆっくりと連なって響く。


初めての実戦。

かつての恐怖の対象たる魔獣との対峙。

失敗した場合の被害。

そんな事ばかりが脳裏をよぎる。

そして、不意に一歩を踏み出すことすら怖くなるのだ。

もしこの一歩を踏み出すと魔獣が襲ってくるのではないかと、考えてしまうのだ。

だが、僕は逃げることができない。

これ以上、魔獣に苦しむ人を見たくないのだ。

恐怖に震える心を使命感でもって無理やり押さえつけ、一歩を踏み出す。


そのせいか、街から約5km離れた最初のポイントにたどり着いたころには、息も絶え絶えになってしまった。

疲労と緊張からくる吐き気を無理やり抑え、魔力探知を発動させる。

いない。魔力探知に反応がない。

いや、まだだ。

まだ、地中を調べ切れていない。

安心から途切れそうになってしまった意識を再び探知に集中させる。

狭く。狭く。深く。深く。

探知魔法の範囲を絞り込む。

大丈夫だ。

ほうっ と安心から息をもらし、その場にへたり込んだ。

やはり地中を含め、探知の範囲内には魔獣はいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る