第二世界 プレパラシオン第二話 死にたがり②

 まず、剣の使い方から学ぶ。木剣を構えるアルマに渡された木剣で切り掛かる。その度にアルマからどう違うのかを事細かく指摘され、指示に従い振るとまた指摘される。

 

 もちろん、この指摘の前に剣の振り方が違ったら反撃される。それもかなり強烈なのを……

 そのような訓練(強制)を二時間ほど続けた後、すぐに戦闘訓練に入る。


 戦闘訓練は本来、指導する側が訓練者相手に合わせて行う物だと思うが、あいつは違う。普通に立ち合いの一回一回、僕を壁に叩きつける。

 途中から先ほどやった剣術訓練の経験などどこかに吹っ飛ぶほどにボコボコにされる。

 これを僕が気絶するまで続ける。これが一日の流れだ。もちろん休憩はない。

 

 はっきり言おう。あいつは人間じゃない……


 そのような日々がもう約七日、一週間程経過している。


 今の僕の心情がどんなのかは、みんなも分かるんじゃないだろうか……そうだ。


「絶対、あいつに一撃入れてやる」


 一面が白亜に染まる広い訓練場の真ん中で木刀を握りしめて定まらない足腰を踏みつけ一言。

 目の前には、ここ数日ほぼ全ての時間、視界に写っている青い瞳の修羅。

 レンと同じで休憩などはほとんど取っていないはずなのにも関わらず、今にも鼻歌でも歌いそうなほど悠々としている。


「アルマ〜〜そろそろぉ〜〜、休〜憩ぇ〜〜しませんか〜〜??」

「うるさい、そんな大声声出さなくても聞こえるてるよ。ほら、さっさと構えろ」


 今ほど言葉の力を疑ったことはない。本当にあの人と僕の言語一緒か?

 それともあれか?鍛えすぎて頭まで筋肉になってしまったのか?


 数日の疲れはレンの思考能力を著しく消耗させる。さらに、アルマの鬼畜訓練により、レンはかなりの精神的にも体力的にもを消耗していた。

 

(はぁ、こんな状態でもまだ立ってられるのはこれのおかげなんだろうな……)


 レンは視線を下に落とす。


 予備支給汎用戦闘服『サンスベリア二式』

 訓練場より少し霞んだ白色の隊服。シキさんの着ていた物に形が少し似ており、着る人の基礎能力を補助してくれるらしい。

 ここに来た時に、部屋と一緒に支給してくれた。

 もう片方の部屋は……ぶっ続けで訓練しているおかげで寝る時しか使用していない。

 というより……入る時は気絶しているし、朝は、僕が目を覚ますより早くにアルマが僕を訓練場に引っ張ってくるから……僕は僕の部屋がどこにあるのかすらまだ知らない。


 割と、いやかなり終わってるなぁこれ。


「レン、構えろ」

「……はい」


 自身の待遇を考える時間も彼女はくれないらしい。渋々木剣を握り、構える

 

 レンが木剣を構えたのを確認した瞬間、アルマは地面を思い切り蹴り上げ、急接近。


「──!?」


 とっさにレンが木剣を横に倒して防御しようとするが、見え見えの防御にアルマは合わせ、縦に振り下ろそうとした剣を止め、右足でレンの脇腹を蹴り飛ばす。

 全く反応できないレンはそのまま壁に叩きつけられる。


「がっ……はぁ!!あッぁ!はぁ……」


 悶絶するレンにアルマが投げかける。


「レン、戦いで最も大事なのは何だと思う?」

「はぁ……はぁ……強い……剣術?」

「剣術……形のことか、まぁそれも場合によっては正しい。あれらはいろんな流派があってそれぞれがじゃんけんみたいに相性があっらなんだったりって、駆け引きがあるからな。それに教えるのも楽だしな」


 少し皮肉を言ったつまりが、きちんと答えてくれるアルマに少し罪悪感が湧く。

 というのもアルマは、剣の使い方は教えてくれるが、それと言った形のようなものは一切教えてくれないのだ。

 故に「剣術の形のような物を教えてくれ」という意味を込めてこう答えたのだが……


「僕にはそういう形は教えてくれないんですか?」


 ふと湧いた疑問をそのままアルマにぶつける。するとアルマは少し苦い顔をする。


「確かに形は教えやすいし、実際よく出来てるしな……でもそれは同じ次元での話だ。ああいう形は同じ実力同士の場合は有効だが、次元の違う相手にはなすすべなく負ける。そしてお前が今後戦うであろう相手はおそらくほとんど次元の一つ二つ違う化け物だ。だからお前には形なんかは教えてない」


 そう話しながら手で構えろと僕に指示し、僕はもう一度アルマに木剣を向ける。


「……じゃあ、最も大事なのは何なんですか?」

「観察することだ」

「?」

「相手の戦い方、武器、能力、癖、隙、その全てを観察しろ。相手がどう動いてどう攻撃するのかどう思考しているのか、相手の全てを観察し、思考しろ」


 それが戦いにどう役に立つのか、あまり僕の中ではイメージ出来なかった。


「わかりま……」


 一瞬、世界がぐらつく。ここ数日の疲れが意識を持っていく様に足がもつれ、ふらついた。

 すぐに左足を地面に踏みつけバランスを取ろうとするが……

 

 瞬間、アルマが木剣で軽く左足を突く。バランスを取る支えをなくした僕は、なすすべなく地面に倒れ込む。

 軽い力、普段の僕なら何ともない程度の力に僕は転ばされた。

 

 これが……


「観察すればこういうこともできる様になる」


 地面に倒れ込んだ瞬間、ここ数日の疲れが一気に紐解かれる様に倦怠感が全身を巡った。

 引きずられる様に意識が遠のいていく。


 

 限界か……まぁこいつも頑張った方だろ。普通のやつは多分初めの二日ぐらいで根を上げる。

 だがこいつは精神より先に、肉体が悲鳴を上げたらしい。

 

 今日は終わりか……


 アルマはその部屋を出ようと扉に手を掛けた。


 しかし、次の瞬間。ドン!!っと言う大きく地面を踏みつける鈍い音が白亜の部屋に鳴り響いた。


「どこ……行く気ですか?僕は……まだ落ちてませんよ?」


 ふらふらとぐらつく体を支える様に、万力をも超える力で地面を踏みつける。

 全身を支える左足はふらふらと焦点すら定まっておらず、なぜ立っているのかもアルマにはわからない。


 満身創痍、精神、肉体、共にもう立てる状態ではない。

 だというのにこいつはまだ立てるのか……ははっ意味がわからない。こんな状態なのにこいつは今も私に木剣を構え、私を見ている。

 

 その紫紺の瞳は真っ直ぐただ真っ直ぐ目の前の敵を倒さんと刺し続ける。


 何がこいつをここまで奮い立たせている?


 異様な根性。もはや狂気としか思えない行動。アルマすら興味する、レンをここまで動かす理由それは……


(絶対、こいつに一撃入れてやる!!)


 残念ながらこれだ……

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