第三世界 モノクローム第七話

 「嘘だろ。」


 目の前の出来事に体が動かなかった。


「チッ、このために住人達の魔力をとってたんですか。」


 その言葉にシキさんが反応した。


「いや魔力だけじゃない。あいつの右腕についてるリング。あれアーティファクトだよ。『拡張の腕輪』あれを使うと使用者の能力の幅が広がるんだよね。めちゃめちゃ厄介なやつだよ。」


 そう言いながらシキさんが考え込んだ。


 あの隕石が落ちてくるまではおそらく約十分ほど、そもそも隕石の下に行けたとして、あれを止められるか?

 わからない、わからないけどやるしかない。

 

 シキさんが隕石を止めに向かおうとするとアルマに止められた。


「どこ行くんだ?君たちはここで座ってなきゃ。」


 掴まれた腕を振り解きアルマの目を見た。


「どいて。私はあれを止めないと。」


 その言葉を聞きアルマは大爆笑した。


「アッハッハ面白いこと言うな、あれを止めるだって?」

「貴方こそ、この数を一人で相手にするって言ってるんですか?フフ面白いこと言うね。」


 手を顎に当てアルマがロゼの方を向いた。


「んー、まぁできなくはないけど、今はいいかな。ロゼ。」


 そう言うとリュウがロゼの拘束を解きリュウとネムが僕達に攻撃してきた。


「リュウ?!ネム?!」


 手を広げ笑顔で自慢してきた。


「いいサプライズだろう?ポルカ。」


 それに応えるように冷たい目線でアルマを見た。


「二人に何したんですか。」

「いや、今いる二人は正確にはロゼの分身魔法で作った分身だ。」

「本物の二人はどこに?」


 その言葉にニヤリと笑いながら後ろに下がった。


「さぁ?まぁこれで形成逆転だな。で、この数相手にどうすんだ?シキ。」


 アルマが煽るようにシキさんに言うとシキさんが笑いながら言った。


「やることは変わらないよ。ただしたいことをするだけさ。」


 大きくため息をついた。

 

 どうしようシキさんはあんなこと言ってるけど、アルマって人多分めちゃくちゃ強い。それにリュウ達とあの猫、さらにあの隕石、詰んでる。

 あの隕石をシキさんがどうにかするとか言ってるけど…そこは任せるか。どうにかシキさんをあの隕石のところまで送らないと。

 待てよ、あの二人はロゼの魔法って言ってたな。つまりあの猫ぶっ飛ばせば…


「シキさんあの分身の二人相手にできますか?」


 そう聞くとシキさんは僕の考えを汲み取ってくれたように了承してくれた。


「わかった。後は君に任せるよ。」

「ポルカ、いけますか?」


 息を吐きアルマの目を見た。


「実は私ちょっと彼に思うことがありまして、

任せてください。」

「僕はお前だ。」


 そういいロゼにガンを飛ばした。


「さぁ猶予十分、いこう。」


 シキさんの掛け声と同時にシキさんの技で分身二人を横に飛ばし、ポルカはアルマを骨で押し出しシキさんと逆方向に飛ばした。そしてここはロゼと僕だけになった。


「お前まさかとは思うけど、タイマンだったら僕に勝てると思ってるの?」


 そういい影を出して臨戦体制に入った。


「まぁさっき勝ったからね。」

「舐めるな。」


 ロゼが影で攻撃し、それを剣を出して僕が防ごうとしたが力負けして吹き飛ばされた。


「いいかお前は僕より下だ。」


 

 分断したのはいいですが、ここからどうしましょう。


「君から誘いをもらうのは初めてだな、嬉しいよ。」

「それなら多少手加減をしてもらってもいいんですよ。」

「いやいや、俺は真剣勝負も大好きなんだ。


 アルマの気配が変わった。


「それに、必要ないだろお前は。」

「かいかぶらないでくださいよ。」


 鳥が鳴くのと同時に二人の攻撃がぶつかった。



 遠くのポルカ達の戦いを見ながらシキが話しかけていた。


「わぁ、すごいねあの二人。で?君たちはどんな感じなの?」


 リュウが風を纏いシキに向かい、ネムは手に持っているぬいぐるみを巨大化させてシキに攻撃した。シキはそれを交互にいなしながら街に向かおうとした。しかし、手数だけは多く膠着していた。


「チッ、分身ってことバレてからなんも話さなくなったね。ならそこ通らせてもらってもいいんじゃない?」


 シキの言葉を、ガン無視して攻撃続けてきた。


「シャイかよ。」


 レン、大丈夫かな…いやだめだ。信じよう、レンを。


「くっそ。」


 やばい時間がない。隕石衝突まで後三分ほどしかないのにあいつに勝てるビジョンが見えない、強すぎる。


「(なぁあいつなんか弱くなってねぇか?)」

「はぁ?お前今、僕が強いって思ってる真っ最中だぞ。」

「(何キレてんだよ。ちょっとは冷静になって見てみろ。)」


 何言ってんだ。今僕は攻撃をいなすことしかできない防戦一方状態なのに。…ん?確かにおかしい。さっきはポルカの全面的なサポートありきで防戦一方だったのに…

 なぜ?単純に舐められてる?いや、そんなことはない。多分あいつの性格上すぐに僕を倒しシキさんとかを潰しに行く。


「(な?言ったろ。)」

「ごめん隕石のせいで焦ってた。でも時間はどんどん迫ってきてる。今すぐあいつを突破しないと。」


 あさってる僕を宥めるようにモードレッドがアドバイスをくれた。


「(いいか?こう言う時こそ冷静になれ。少し考えてみろ。あいつにはおかしな点が二つある。まずあいつのメインの魔法とやらを影魔法と言ってたことだ。多分俺が思うにあいつの使ってた分身魔法の方がメインだと思う。)」


 モードレッドの話があってると仮定して話を進めた。


「つまりこの影は、能力の応用ってこと?でも応用にしては強すぎる。」

「(そうだ。そこで二つ目の疑問だ。なぜあいつがあの城の時の攻撃をしないのか?そもそもあいつが影を操るんだったらこんな周りくどいことしないで影で全員倒せるだろ。)」


 確かにそうだ。こんな夜中、そこらじゅうに影がある。これを使えばあの街なんか隕石を使わなくても壊滅されられる。

 ではなぜしない?魔力か?いやそれならシリィじゃなくてあいつに魔力を渡せばいい。そもそもそれが可能ならワルプルギスなんて待たなくて良くなる。つまりあの影にはなんらかの条件がある。


 なんだ?考えろ思い出せ、違和感を。

 なぜ今とさっきで力が違う?場所?ここと城じゃ何が違う。清潔感?いやそれはないか。清潔感って言えばあの城、廃城って割にはあいつらがいた部屋は妙に綺麗だったな、特に壁。いや壁というより色合いか?光の当たり方がいいのか。てかあのライト変な配置だったんだよな。…ん?ライト?光?


「わかった。お前のカラクリが。」


 ロゼが少しピクっとした。


「何言ってるんだ?ついに頭でも狂ったか?」

「影だろ。」

「そりゃ影魔法なんだか…」


 ロゼの受け答えが明らかに動揺していて確信した。


「いやそうじゃない。自分の影だろ?お前が動かせる影は。あの城のライトの配置はお前の影を多く大きくするためのもで、今お前がいる位置も影が一番大きくなるところにあるんだろ?」


 ロゼが少し動揺しながら答えた。


「タネが割れたところでお前は僕には勝てない。」


 そういい大きく影を広げて向けてきた。


「ハァ、後残り一分!」


 そういい、勢いよく剣を撃ち合わせて早くも三十秒。

 くそ、くそ、そりゃそうだ。タネが割れてもそもそも対抗手段がない。


「ーーッ」


 焦り始めた瞬間、影のいなしをミスり影の先端が顔の真ん前まで来ていた。

 「やばい」そう思った瞬間に走馬灯のようにグリアの言葉を思い出した。


 「いいか?お前は自由に戦え。お前の奇想天外な戦いが私の中で一番脅威だ。」

「それバカにされてます?」

「ハッハ。何言ってんだ、前も言ったろ?初見殺しはこの世で最も強い必殺技だ。つまり自由なお前が一番強いんだ。」


 そうだ、そうだった。数年前までただの素人だったやつが、こんな化け物相手に普通に戦って勝てるわけない。

 そうだそうだった。そう思うと気持ちが楽になってきた。そうだ自由にやろう、自由にやりたいことをやろう。

 

 目の前にある影をレンは噛んだ。そうして歯を使って勢いを後ろに流した。


「は!?」


 そしてレンは剣を逆手に持ち剣先をロゼに向けた。


「残り三十秒!!」


 そのまま、ロゼに向かって剣を投げた。投げた剣はものすごいスピードでロゼに向かっていった。動揺し反応が遅れたロゼは影を下から上に上げ防いだ。そして剣はロゼの真上に飛んだ。


「燃えろ!モードレッド!!」


 すると空中の剣が蒼白い炎を出しロゼの影が殆ど無くなった。


「でも!お前も剣がないだ…」


 ロゼがレンの方を見るとレンが素手で走ってきていた。

 

「は!?」


 ロゼは動揺しながらも少ない影を集めた。するとレンは素手で振りかぶりそのまま剣の間合いまで突っ込んできた。ロゼが影で無防備なレンを攻撃しようとした瞬間、


「『ツヴォルフ』!!」


 すると、真上にあった剣がものすごいスピードでレンの手に落ちてきた。


「いいか覚えとけ。初見殺しがこの世で一番強い必殺技だ。『リベリオン』!!」


 剣のスピードをそのまま乗せてロゼに攻撃を放った。ロゼは影でガードしたが防ぎきれず城壁に吹っ飛ばされめり込んだ。


「残り二十秒、間に合った。」


 そう思いシキさんの方を見た瞬間、僕は膝から崩れ落ちた。


「あ、あぁ…」


 頑張れば、思えば叶う、現実はそんな甘くない。分身は消えてなかった。

 考えてなかった。ロゼが、分身魔法の使用者が倒れれば分身が消えると、そう思い込んでいた。消えない可能性が頭から抜けていた。


「僕の…僕のせいで…シキ…さんのしたいことの邪魔をしてしまった…」


 心の底から絶望が侵食してきていると


「まだ!」


 その声と同時に分身の真下から骨が突き出て分身を串刺しにした。


「ナイス!ポルカ。」


 この時、僕はいろんな感情が入り乱れていた。絶望、安心、嫉妬、混乱、怒り、その他諸々。そうするとシキさんが僕のところまできて頭に手を置いてきた。


「よくやった、レン。」


 あぁまたこの人に、この人の言葉に救われてしまった。

 敵わないなこの人には…自然と涙が溢れた。


「お願いします。」


 すると僕にニコッと笑いかけ


「うん。任された。」


 そういい上空に飛んだ。


「いいんですか?止めなくて。」


 ポルカの行動を邪魔せずに見届けていたアルマに聞いた。


「んー。見て見たくなったんだよ。あんなの俺でも軌道を逸らせる程度なのに。」


 シキの方に手を向けた。


「あの子は言い切ったんだ。任せてって、だからさ見たくなった。」

「そうですか。私の手間が減るので助かります。」

「で?さっきのどうやったの?」


 アルマはさっきのポルカの行動に興味を示しウキウキで聞いてきた。


「単純ですよ。初めてレンさんがロゼを倒した時、リュウ倒れそうになったんですよ。

 だからレンさんが倒した時に分身には大きな隙間ができる。そう思ったから準備してたんですよ。」

「へぇ、君は賭けたんだ、彼がロゼを倒せるって。」

「いいえ。信じたんですよ。」

「じゃあこれも賭ける?」

「話聞いてます?まぁもちろん、信じますよ。」


 残り十秒あるかないかくらいか、いけるか?いや可愛い後輩に頼まれたんだ。跳ね返してやるよ。


「貴方誰ですか!?」

「ごめん、時間ないから。」


 空中で隕石を見ていたシリィは、通り魔のに襲われたかのようにシキに轢かれて吹っ飛んだ。


「さぁレンにいいとこ見せるぞ。」


 上空で深呼吸をした。


「『制限放棄』」


 瞬間、シキさんの本が美しく光り輝いた


「天上の大地よ、天を舞い散る星の妖精たちよ、この世に星空の楽園を。『世界の楽園プラネタリー・ステラ


 すると、大きな星空の宮殿がシキを中心に街を覆った。街を覆いきるのと大きな衝撃音と同時に隕石が衝突した。ものすごい衝撃波と光が周囲を覆った。


「止まれぇー!!」


 長いとも思えた衝突はすぐに終わった。そして自分が生きてることを認識した。


止めたのだ、シキさんが止めたのだ。


「これが先輩の力だぜ。」


 そう呟き、シキが上空から落下した。

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