第三世界 モノクローム第八話
あ…やっばい、もう飛ぶ力すら無い。流石に無茶しすぎたかな。
さっきの技で力を使い尽くしてしまい上空から落下していた。ふと下に視線を向け、そっと瞼を閉じた。
ふわっとした感覚の中目を開けると、空中でレンが私を抱き抱えて飛んでいた。
目元が少し赤く、それでも精一杯の笑顔を見せてくれる君にただ聞きたかった。
「…どうだった?」
焦りや悲しみ、絶望や悔しさ。いろんな感情を噛み締めて、それでも笑顔で答えた。
「最高でした。」
そんな僕を見透かすように頭に手を置いて微笑んだ。
「レンも最高だったよ。」
その言葉は、地面に着地してからもずっと心の中に染み渡り、少しその場に立ち止まってしまった。すると少し気まずそうにシキさんが言ってきた。
「あの…流石にずっと抱えられてると私でも恥ずかしいんだけど。」
ハッとして少し恥ずかしくなり、すぐにおろした。
「す、すいません。」
シキさんとの会話で不安が少し和らぎ覚悟を決めた。
「じゃあ、行ってきます。」
すぐに行こうとするとシキさんが引き止められた。
「待ってレン。」
「なんですか?」
「いい?レン。私はいろんな世界を見てきて、たくさんの人達に出会ってきた。大抵そういう人達には戦う理由があったりするの。信念とかね。」
突拍子のない話題に不思議そうに相槌を打った。
「まぁ要するに戦いづらいんだよ。そういう人達は。でもね、あいつは違う。アルマは絶対的な悪だ。人を何とも思わない自身の快楽のみに生きる悪だ。珍しいんだよ、あぁいう奴は。」
「えっと、つまり?」
「何も気負う必要はないよ。気楽にぶっ飛ばしてこい。」
拳をきゅっと握り締めシキさんの目を見た。
「…はい!」
アルマとポルカが話していた。
「いやぁすごいね、彼女。本当に止めちゃった。賭けは俺の負けか。」
「そうですね、さすがです。後私はかけてま…」
言い切る前にアルマがどこかへ行った。
「あ、あぁおかしいこれはおかしい!私の全魔力を注ぎ込んだのだ!なぜだ!なぜ!」
シキさん轢き飛ばされ、建物の上に座っていたシリィは、隕石を止められたことにとても嘆いていた。
そんなシリィの前にアルマがやってきた。アルマを前に、シリィは震えながら訴えていた。
「す、すいませんマスターあのゴミは、あのゴミは私が必ず始末します!!」
アルマの目はとても冷たく、訴えいるシリィの目を全く見ていなかった。
「腕輪、渡せ。」
「は、はい。必ず私達であのゴミどもを地獄に落としましょう。」
そういい、シリィがアルマに腕輪を渡した瞬間!!アルマがシリィを蹴り飛ばした。
「…なん…で?」
そういい壁にめり込みシリィは気絶した。
「お待たせ。」
当たり前のように行うアルマに困惑し、聞いてしまった。
「いいんですか?仲間ですよね。」
「ん、仲間?あぁあいつ?そもそも仲間じゃないよ、勝手についてきただけだ。そんなことはどうでもいいんだ。さっさと始めよう。」
「そんなことですか…まぁわかりました。始めましょう。」
その合図と同時に戦いが始まった。ポルカは地面から骨を出し続け、アルマはそれを交わしながらポルカに近づいた。近づくアルマにポルカは自身で死角を作り、隠していた後ろ側の地面からの大きな骨を出しアルマに直撃させた。
「流石だな、ポルカ。」
ひるむアルマに新たに地面から無数の骨を出し追い討ちをした。
「容赦ないな、お前。」
アルマが追い討ちを弾き地面に突き刺さった骨を一本を折りそれをポルカに投げた。飛んでくる骨をポルカが骨を出してガードした時、一瞬だけアルマを視界から外してしまった。正面を見るとアルマが見当たらず、ポルカは周りを見渡した。
「上だよ、八十パーセントメテオ。」
アルマはポルカの真上から落下し、肉で大きく強化した足で、ポルカにかかと落としをした。ギリギリまでアルマに気づかなかったポルカは、骨のガードが遅れほとんどもろにくらった。
「すまんな、ポルカ。お前は時間をかければ、かけるほど厄介だからな、早めに終わらせたかった。」
意識が飛びそうにならながら答えた。
「…それは光栄ですね。」
ひるんでいるポルカにアルマがトドメを刺しにきた。
「少し寝てろ、50%クレビス。」
アルマが肉で強化した右腕で、先にとどめを刺そうとした瞬間。
「『ブルー・インフェルノ』」
レンの攻撃はアルマの横腹に直撃し、アルマは吹っ飛ばされた。
「生きてます?」
「ありがとうございます。助かりました。」
ポルカの手を引いて立ち上がらせ戦闘体制をとった。
「いったいな。君誰?」
「えっと、三十分くらい前にあんたに名乗ったよな?」
「ごめんな。俺興味ないやつ覚えるの苦手なんだよ。」
「そうですか。なら、あんたが忘れられないくらいボコボコにしてやるよ。僕の名前はレンだ。」
そういい剣を構えるとアルマが高笑いした。
「君じゃ無理だよ。許容上限、100%ギガント」
するとアルマの四肢や体が肉に覆われた。
「防御!!」
僕に向かって急にポルカ叫んだ。その言葉の訳はわからなかったが、言うことを聞き防御体制をとった。
瞬間、アルマが消え僕が吹っ飛ばされた。何が起こったか分からず地面に横たわっていた。
「立って!」
ポルカの声が聞こえたが、動揺していて咄嗟に行動できなかった。そしてまた吹っ飛ばされ壁にめり込んだ。
さらに、俺のカバーをしようとしたポルカは隙をつかれ、アルマに踵落としされ地面に叩きつけられた。
「思った通りだ。お前は小さな力を手に入れて、自分は特別なんだと勘違いしているくだらない雑魚だ。…はぁ時間の無駄だったな。」
意識が朦朧としながら立ち去ろうとするとアルマに声をかけた。
「…その言い方じゃ、お前が特別みたいに聞こえるぞ。」
気分でも良かったのか、アルマがレンの言葉に答えた。
「そう言ったんだよ、俺は特別だ。だからこんな事ができる。そして、お前みたいな弱い奴は這いつくばることしかできない。」
アルマの言葉に笑いが込み上げてきた。
「アッハ。お前あれだな。好きな子に振り向いてもらいたくてちょっかいかける小学生みたいだな。」
アルマが壁にめり込んだレンをさらに蹴り飛ばした。
「待ってください!死んでしまいます!」
ポルカの叫びを無視してアルマが何度も蹴り飛ばした。
「吠えることしかできないとは、哀れだな。」
レンが沈黙しているのを見て少し呆れながら去ろうとすると、レンの指先がピクッと動いた。
「おお、まだ意識があったか。ほらワンワン吠えてみろ。」
「……」
レンがボソボソと小さな声で何かを言っていた。それをアルマが聞こうと耳を近づけた。
「…ワンワン。」
「そうか死ね。」
そういいアルマが腕を振りかぶると、
「待ってください。」
地面に寝ている体を、脇腹を抱えながら立ち上がり交渉した。
「私があなた側につき、忠誠を誓います。ですからレンさんを見逃してください。」
アルマは少し驚いた様な顔をして腕を下ろした。
「意外だな。お前が命をかけるのはリュウとネムだけだと思ってたんだが。」
ポルカの目を見てレンの首を掴み持ち上げた。
「お願いします。」
アルマは少しレンを観察しながら不思議そうに聞いた。
「ふーん。こいつにそれだけの価値あるか?」
「レンさんはこれから先、私が進めなかった道を進める気がするんです。」
「へぇ、賭けると。」
「信じるんです。」
「でも…」
アルマが答えようとする時、レンがアルマの肩を殴った。
「…何勝手に話進めてんだ。」
「お前はゾンビか。」
そういい首を掴んでる力を強めた。
「さっさと寝てろ。」
アルマを無視してポルカに話しかけた。
「おいポルカ。話あるから、聞ける程度になるまで休んでろ。僕はこいつをぶっ飛ばす。」
「お前何言ってんだ?負け犬の遠吠えも、もう飽きたよ。」
すると、レンがアルマの肩に置いてあった手を広げた。
「ツヴォルフ。」
「あ?何言って…お前剣はどこだ!?」
するとポルカの近くの瓦礫の間から剣がレンに向かって飛び出してきた。飛んできた剣はすごいスピードでレンの手のひらに向かい、間にいたアルマの肩を貫こうとした。避ける猶予のないアルマはギガントを解除して避けるしかなかった。
「『リベリオン』!」
レンの手のひらにきた剣のスピードをそのまま利用し、無防備なアルマに叩き込んだ。アルマはさっきと同じ様にぶっ飛ばされた。
「ポルカ!」
レンの迫真な声で顔を見れなかった。
「…はい。」
自分を犠牲にしようとしたことを怒っていんだろうと、少し覚悟した。
「そのあれ…隕石の時、ありがと。」
「え?」
予想だにしない言葉に心の底からの「え?」がでた。
「いやだから、僕はあの時すごい助かったんだ。だから、ありがとう。」
「は、はぁ。」
「つまり、ポルカは僕の恩人なんだ。僕は恩人の全てを代償にしてでも助かりたいとは思わない。だから二度とあんなことしたいで。」
「フフ、」
少し気が抜けて笑ってしまった。
「はい、わかりました。一緒に勝ちましょう。」
立ち上がろうとするアルマにレンが突っ込んで追い討ちをかけた。
アルマがレンの剣を避けた、その瞬間に地面から骨が突き出てアルマに直撃した。そのまま無数の骨で攻撃し、それを避けようとした時、その隙を今度はレンの攻撃が襲う。そんなコンビネーションでアルマを確実に追い詰めていった。
「『ブルー・インフェルノ』!!」
アルマの一瞬の隙に攻撃をして壁に叩きつけた。
なんなんだこいつら!とくにこのガキ、こいつ自体は簡単に対処できるがポルカの本来の戦い方、中距離攻防にこいつは上手く噛み合う。 ポルカのカバーで自由に戦えるガキは相当厄介になってる。だがそれだけじゃない。なにか、なにかが引っ掛かる。心の奥にある何かがポルカじゃなくてこのガキに気を向けちまう。
「…守られてないと戦えない雑魚が、俺の前に立つな。」
倒れ込んでるアルマを見下した。
「雑魚が吠える時はなんて言うんだっけ?ワン、でしょ。」
目の前にいるのは取るに足らない雑魚。この餓鬼に興味も関心もない。なのに何故か目を引く。俺の知らない感情がこいつに目を向ける。そして今この感情がなんなのかを理解した。
「ふふ、アッハッハ。そうかそうか!わかったぞ!さっきからお前に引っ掛かっていた理由が!これか!これが怒り、いや殺意なんだな?アッハッハ感謝するぞレン。俺はどうしようもないほどお前を殺したい!」
するとアルマは腕輪を手に取り右腕にはめた。
「なぁ!俺の肉体魔法の欠点ってなんだかわかるか?それはなぁ許容上限があることだ。
じゃあ、もしこの許容上限を超えるとどうなると思う?外付けされた筋肉に、腕の耐久力が負けて折れるんだ。つまり、俺ができるのは自身の筋肉の強化と、許容上限内の外付け筋肉繊維による強化のみだったんだ。」
腕輪を指差した。
「だがな?この腕輪をつけるとな、外付けする筋肉繊維の質量、強度、柔軟性なんかをいじれる様になるんだ。」
アルマの話がよくわからずポカンとしているとポルカがすごい焦りながら叫んだ。
「逃げてください!!」
アルマがニヤッとした。
「つまり筋肉を束ね支柱とすれば、巨大な肉体を作ることもできるんだよ!『
するとアルマを大きな肉が覆い、とても禍々しい巨人となった。
「降臨!『餓者髑髏』!!」
対抗する様に、すぐさまポルカが魔法を発動した。
地面に大きな魔法陣が出現し、そこから巨大な骸骨の上半身が出てきた。その巨大な骸骨がアルマに攻撃するとそれに合わせるようにアルマも攻撃した。
「増強二百パーセント!」
巨人の振り下ろした右腕が髑髏の左腕を粉砕した。そのまま追い討ちをかけようとすると…
「『ブルー・インフェルノ』!」
巨人の脇腹に攻撃が直撃した。
「は!?」
だが巨人は怯むどころか、ダメージすらほとんど喰らってなかった。そのまま空中にいるレンを巨人がはたき落とした。
「アッハッハ。無力だな!お前じゃもう俺に傷一つ付けられない!ほら、さっきみたいに喚いてみろよ。」
レンが口を開こうとした瞬間に踏みつけた。
「言わせる訳ねぇだろ!ハッハッハ。最高だな!レン。こんなの初めてだ!もっとだ!もっと抗えよ!」
レンをなぶり続けるとポルカが叫んだ。
「待ってください。」
「あ?またさっきと同じことするのか?でも無駄だよ。そもそも俺の目的は闇に落ちたお前であって、今のお前じゃない。それにお前が止めるってことは、こいつを殺せばお前の心を揺さぶれるってことだろ?なら尚更無理だ。」
すると分かっていたかのように返事をした。
「でしょうね。」
「あ?ならなんで聞いた?」
「いえ。ただ、あなたの気を紛らわせたかっただけですので。」
ハッとなり、振り向くとレンがいなかった。
「今の僕じゃ、お前にダメージを当てられない。だったら壊せる地面を!『ブルー・インフェルノ』!!」
レンは巨人の足元を抉った。すると巨人は耐性を崩した。そこに畳み掛ける様にポルカが攻撃した。
「私の全魔力を使って!」
地面にから巨大な骨が無数にでて巨人を串刺しにした。
「いけ!ポルカ!!」
そして動けない巨人に向かって骸骨の右腕で叩きつけ巨人は沈黙した。
「はぁ、ありがとうございます。」
「何が?」
「私のことを信じてくれたでしょう?」
「当たり前だよ。」
「さぁシキさんを迎えに行きま…」
瞬間、巨大な肉の触手の様なものが暴れ回り周囲にいた僕やポルカは吹き飛ばされた。
「アッハッハ、すごいなこれはやったことなかったがな。」
地面に這いつくばり視線だけをアルマに送った。
「な…んで生きてる。」
「あぁレン、もう虫の息だな。ポルカも意識飛んでるしまぁ教えてやるよ。
この腕輪のおかげで俺は筋肉繊維の質量、強度、柔軟性を操れる様になっただろ?なら巨人を構成してる筋肉繊維を違う形で操れるんじゃねぇかって試したんだ。一か八かだったよ。」
力を振り絞りアルマに剣を向けた。
「そうだよな!お前はまだむかってくるよなぁ!だがもう油断はしない。認めるよお前は強い。だから今出せる俺の全力でお前を潰す、『
アルマが飛び、巨人を構成していた筋肉繊維を全てアルマの右腕に収束させ、超巨大な腕でレンに殴りかかろうとしていた。
目の前にあるのは圧倒的な絶望の場面、なのに何故かレンは笑った。
「なぁモードレッド、敵はあと一人、空中にいて二次被害は考えなくていい。さらにあいつはこっちに向かってくるから僕たちの攻撃は必ず命中する。最高のシュチュエーションじゃないか?」
「(あぁぶちかまそうぜ)」
「ありがとう、アルマ。俺を全力で潰そうとしてくれて。」
レンは剣を構えた。
「「制限放棄)」」
周囲に青い炎が吹き荒れた。
「「終末の鐘が鳴り響く。純白の皇帝よ、漆黒に染まる大地に、赤く染まった大海に、朽ちた理想に終止符を)」」
剣から出た青い炎が周囲を覆い、再び剣に集まっていく。収束する炎は剣を白く、光り輝かせた。
「「『
光り輝く剣は、向かってくる巨大な腕を貫き、消滅させた。
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