第三世界 モノクローム第九話
レンの攻撃で、アルマの右腕が消滅し、はめられていた腕輪はポルカの近くに落ちた。
全身の力が抜け、剣は光となって消え意識が飛びそうになり倒れかかった。
「ーッ」
「お疲れ様。」
すると、そっとシキさんが支えてくれた。
「シキさん、もう大丈夫なんですか?」
「うん、結構休んだからね。」
脇腹を抱えながらポルカが立ち上がり、文句を言いにきた。
「それにしてはタイミングがいいですね。」
「いや〜耳が痛い。」
そう会話に花咲かせているとポルカの表情が変わった。
「さぁ逃げますよ。」
シキさんと僕は訳が分からずポカンッとしていると、ポルカが空中を指差した。
「あれは!?」
ポルカの指の先には、巨大な筋肉繊維の塊が浮いていた。
さらに、塊はまだどんどんと筋肉繊維を集め凝縮し、大きくなっていた。
目の前の存在に唖然としているとポルカが説明してくれた。
「あれは制御を失った魔力の塊です。制御を失い途方もない質量のあれは、ある地点を中心に集まり、後に放たれ爆発します。」
新たな脅威への絶望をしているとポルカが慰めてくれた。
「安心してください、私達が逃げられる程の時間はあります。それに幸い付近に倒れていた住人はすでに移動させてます。後は私達だけです。」
「よかった。じゃあ早く逃げよう、シキさん行きますよ。」
ポルカの言葉に安堵してシキさんの手を引こうとしたら…
「いやだめだ。」
そういい僕を引っ張って止めた。
「なにがですか?」
「まだ彼が残ってる。」
指を刺しそういうシキに、ポルカが口調を強くして反対した。
「なに言ってるんですか?彼が、アルマがなにをしたか忘れたんですか?!」
ポルカの訴えしっかりと聞き、聞いた上で笑顔で答えた。
「うん、覚えてるよ。それでもね、聞こえだんだよ。【助けてくれ】って。」
傍から見たら狂気としか映らないだろうそれは…
「いい?私は、どんなに頑張っても助けを求めない人は救えないんだ。
だから、ならばせめて助けを求めた人は全力で助けようと決めてるんだ。」
「それでも!かれ…」
ポルカの反論を遮って答えた。
「何をすればいいですか?」
これが僕の道だ。
「ふふっ、ありがとう。」
そういい塊に向かったいく二人に、呆れ果てながらポルカが向かった。
「はぁ、わかりました。あなた方がそうするのであれば私もついていかなくては。」
塊の前でシキさんが呟いた。
「さて、どうしよう。」
「なにも考えてないんですか!?」
シキはポルカの方を向くのが怖くなり、レンに話を振った。
「いや〜、どうしようかな?レン。」
僕とシキさんでしゃがみ込み考えていた。
「とりあえずあの塊からアルマを引き摺り出す方法を考えないと。」
そう呟きながら頭で考えを巡らせた。
でもどうやって?私が今出せる技は微々たるものしか無い。力ずくで取り出すにも、あの塊はずっと動き回っていて近づけない。
そもそも、それ以前にアルマがどこにいるかすらわからない。
いや待てよ、あれならいけるかも。
同時にレンも考えを巡らせていた。
んー、どうしよう。てっきりシキさんは救出プランを考えてるんだと思ってた。
見てる限りアルマはたまに見え隠れする程、引っ張り出す機会はないし、そもそも多分それはできない。ならどうしよう。
ん?あれ?あるじゃん。こんな時にピッタリな奴。
「「アフェレシス!」」
シキさんと僕が同時に声を出し、声が重なったことに少し驚き、少しニヤけた。
「アフェレシスってなんですか?」
ポルカの疑問に僕がニヤニヤしながら答えた。
「こういう時に使える優れもの。」
さて、次の課題だ。シキさんからナイフを受け取ったはいいものの、どうやってアルマに突き刺すか。
さっきの『放棄』のせいでモードレッドは一時的に使えない。てか使えたとしても、あんな高くまで飛ぶ力も体力もない。シキさんは余裕ぶってるけど多分立ってるのもキツイはず。ポルカはさっきので魔力全部使ったらしいし…終わってるな。
「(レン、一個当てがない訳じゃないんだけど試してみるか?)」
急なモードレッドの提案に、それしかない!と思い即答した。
「やる。」
「(わかった。ならこっちに一回こい。)」
そう言われて円卓の指輪の精神世界内に行った。
「よう。」
ここは、前にモードレッドに試されていた場所だったんだけど、以降はモードレッドとの会合になどに使ったいた。
「前にも言ったが、お前が使ってる円卓の指輪には俺以外にも騎士がいる。その中に今の現象を打開できる騎士がいるんだが…」
モードレッドが頭を抱え、僕をチラッと見た。
「ちょっと気難しい人でな、まぁ頑張れ。」
頑張れって、投げやりすぎだろ。
「トリスタン卿。」
モードレッドの呼んだ方向を向くと、後ろから声が聞こえた。
「はぁい、何?」
後ろを向くと、下で寝っ転がって本を読んでいるだらしない騎士がいた。
「ト、トリスタン卿。」
え〜この人?みたいな顔をしたらモードレッドに軽く引っ叩かれた。
「トリスタン卿、こいつにお力を貸していただけませんか?」
モードレッドが恐る恐る聴くと…
「いいよ。」
「え?」
トリスタン卿の即答に、断られると思っていたのかモードレッドが想像以上に驚いていた。
「いや、だからいいよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「いやいや、君には大きな借りがあるからね。」
そのまま、僕の方に指を刺して話した。
「ただし、君…レンって言ったかな?君に貸すのは僕の武器だけだ。僕の能力は君に貸さなよ。」
その言葉にモードレッドが何かを言おうとすると畳み掛ける様に要求を出した。
「後、僕の武器で一度でも標的を外した時、直ちに武器を返却してもらう。
そしてそれ以降僕は絶対に君に力を貸さない。それでもいいなら、いいよ。」
「トリスタン卿!それはあまりに…」
文句を言うモードレッドにトリスタンが反論した。
「いやいや切ってよし、射抜いてよし、さらに矢ぎれが無い。これだけでも十分強いと思うけどな。」
「わかった、貸してくれ。」
無茶な要求も前に即答したレンに、少し驚きながら起き上がり、力を貸してくれた。
「まぁ、せいぜい頑張って。」
その声を聞きながら視界がぼやけた。
「レン?レン?」
シキさんの呼びかける声で目を覚ました。
「大丈夫?」
「はい。後、解決策ができました。少し離れていてください。」
そういいシキさんが離れると、レンは左手を前に出し手を開いた。
「我が名に答えよ。第二席トリスタン!!」
開いた手を握りしめると、そこから細い無数の光が乱雑に出てきた。それは形を成していき、特異な弓現れた。
その弓は、弓幹が刃でできていて持ち手は弓幹の一個引いたところにあり、刃は片方が折れたような形をしており、弦がなく、弓と呼ぶには、いささか難しい形をしていた。
息を吐き弓を構えると、弭から光の弦が生えてきた。右手にナイフを持つとナイフの持ち手に光の矢がついた。
「はぁ、怖わ。グリアには感謝しないとな。」
見知らぬ弓を握りながら、レンはなぜか余裕を見せていた。
実は、グリアに円卓の指輪は複数の武器種を出せるかもしれない、と言う事は伝えていた。
それを聞いたグリアは、僕にあらゆる武器の使い方を教えてくれた。
特に弓は剣以外で一番練習したかもしれない。だからこそ絶対の自信がある。外さない。
そう思いながら、塊からアルマが見える瞬間を待っていた。
そしてその時がきた。ほんの一瞬、うごめく大きな塊の隙間にアルマが見えた。
「『ベネディクト』」
放たれた矢は、筋肉繊維の隙間を縫ってアルマを突き刺した。
そして同時に、塊と分離したアルマをシキさんが回収した。
「ナイスレン、早く逃げるよ。」
そう言った時、巨大な塊が急に膨張した。
「クソッ、こいつが急に消えたせいでバランスが崩れた!爆発するよ!」
シキさんが構えるが、僕たちにはもうあの爆発を止める力は残ってない。絶望しているとポルカが前に出た。
「安心してください、私がいます。」
そういいながらポルカが腕輪をはめた。
「こんなところで役に立つとは。アルマ、貴方のやり方を真似させていただきます。」
そういいポルカが地面に手をついた。
すると、砕け散った餓者髑髏の破片が動き始め、集め塊にを覆った。しかし、塊全てを覆うほどの量の破片は残っていなかった。すると破片が形を成した。
「潰せ、餓者髑髏!!」
その言葉に骨の破片が凝縮して、大きな骨の手になった。
その大きな手は、膨張する塊を思いっきり握りつぶした。
「はぁ、終わった。」
そういい手をついて倒れると…
「まだ終わってないよ。」
「え?」
不穏な言葉に少しビビっているとシキさんがプッと笑らった。
「本来の目的忘れた?アーティファクト。」
「そうでしたね!」
小馬鹿にした様な笑いに、少しキレながら答えた。
そしてポルカから腕輪を受け取り軽く話した。
「ありがと、これからどうするの?」
「そうですね、まずそこに転がってる人たちからリュウ達の居場所を聞き出します。その後は…
すると少しポルカが考え込み、少し微笑みながら答えた。
「少しのんびりしたいですね。」
「そっか、じゃ私達はもう行くね。」
「もうですか、早いですね。もう少し話したかったんですが…」
その言葉に申し訳なさそうにした。
「そうだね、私たちはこの世界の人じゃないから、あまり長居しちゃいけないんだ。」
「…そうですか、ではさようなら。」
ポルカの振る手に振り返した。
もう、彼らと会う事はないのだろう、だから目一杯感謝を込めて。
「はい、さようなら。」
シキさんとゲートに入り、フェイカーズに戻った。
「やっと終わった。」
集中の糸が切れ、ドッと疲れが出てきた。
「お疲れ様。最初の旅にしては軽めだったかな?」
即座にシキさんの方を見た。
「え?これより重いのあるんですか?」
「フフ、まぁ後のお楽しみってことで。」
「そんな、答えてくださいよ。」
そんな会話をしながら、僕の初めての旅が終わった。
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