第一世界 リスタート第一話 噂話
チャイムが響き渡り、昼休みが始まった。
早々に主人公席を奪う蓮と、いつものことだと呆れながら一つ前の席に座る晴人。いつもはここで晴人が文句を垂れ流し、蓮がフル無視をするのがお決まりの光景なのだが、今日は少し違うらしい。
晴人は右手に購買パン、左手に紙パックのジュース抱え、目を輝かせながら蓮に話を振った。
「なぁ、あの先生どう思う?」
「どうって……」
当たり前のように晴人の席を占領し、片手でパンを頬張りながら今日の一日の記憶を思い返す。
「やばい人って感想しか出てこないよ」
「ははっ、蓮に言われるなんて相当だね」
そりゃそうでしょ。初日に校長室に連行される教育実習生なんで見た事ある?しかも、その後も三回くらい連行されてたからね。
「でもさ、すごく綺麗な人だったよね」
「……何言ってんだ彼女持ち」
羨望の眼差しを向ける晴人に、軽蔑の眼差しを向ける蓮。「冗談だよ」彼は言うが、冗談でも冗談じゃないしろ、こいつは一発殴っておいた方がいい気がする。
まぁでも、同じ男として共感出来なくはない。特に、朝の時間の最後。担任に首根っこを捕まれ引きずられる最中のこと。
彼女は僕らに向かって「最後に!何かどうしようもないことがあれば相談して、必ず力になるし、絶対助けるから」こう言っていた。
あの時の彼女の目はとても……なんと言えばいんだろう。こう心の内があったかくなるような、安心するような、信用したくなるような目だった。
まぁ……担任の強制連行に抵抗して、教室のドアにしがみつきながら、だったのは流石にかっこ悪かったけど。
その後も攻防は続き……担任は両手で四季先生の首根っこを掴み、片側のドアに足を乗せ思いっきり引っ張る。四季先生は横のドアと反対側の壁にある出っ張りに指をかけ抵抗する。
これのせいで今日の一時間目の授業が十分遅れた。
今日、僕が見ただけで三回はこれが起きている。……思い返してみるとやっぱりさっきの──信用したくなるような目──は気のせいかもしれない。
「それにしてもあの先生人気だよね」
「あぁ、この学校変な人多いから。多分類友なんだよ」
「お前にだけは言われたくないわ!」
僕が通うこの学校。なんと髪色自由メイクOKカラコン大丈夫。そんな学校だからなのか、変な人が集まりやすいのだ。
まぁそのおかげで僕の生まれつきな奇抜な髪色も、ここではあまり目立たないのだ。
「しかも、なんか変な事聞いてたし……」
「それはそう。なんであんな事聞いてたんだろ」
******
その変な話というのは、四季先生が二回目の強制連行から解放された後の事。
「センセー!」
強制連行から解放された四季先生に声をかけ駆け寄ってくる集団がいた。
この変わった学校の中でも一際目立つ金や赤、水色の髪を持つ四人組の女の子達。
彼女らの目に映るのは大きく広がる興味関心のみ。その為、彼女らは開幕初手質問である。
「センセーって恋人とかっているんですかぁ?」
「え?いきなりだね」
唐突にくる暴走機関車集団に、流石の変人も鳩が豆鉄砲を食らったような表情になる。
少し表情が崩れだが、彼女らの表情を見るなり何かを思いついたように答える。
「えっとね。恋人っていうのはいないかな。……でも、探してる人はいるよ。」
どこか寂しそうで、悲しそうで、それでいてその子達にとても真摯に向き合ってくれているそんな表情。
想像以上にしっかりと答えてくれる四季先生に、あっけらかんとなる彼女たち。四季先生は反撃でもするかのように今度は質問し返した。
「私も聞きたいことがあったんだ。最近おかしな事はなかった?」
「おかしな事?」
「本来、この世界で起こらないような不思議なこととか。」
妙にふわふわした質問に当然彼女らも困惑し、彼女らだけで円になり相談しあう。
しかし、彼女らはそういう怪異現象的な噂に関して言えばその道のエキスパートだ。すぐになんのことを聞かれてるのか理解し、最近の流行りの噂を引き出した。
「あれじゃない?」
「あぁ、最近噂の」
「ん?なになに?」
彼女らの円にぬるりと入り聞き返す。普通の人なら驚くであろう場面にその四人組は驚くほど無反応。どころか自然に四季先生を円の中に入れ四季先生の方が困惑することに。
そのまま一人が金色の髪をなびかせ教えてくれる。
「スワンプマンですよ」
「スワンプマン?」
ある日、ある夫婦がキャンプの最中に大きな沼を見つけた。特に変わった様子のないその沼になぜか妻が歩き出す。
理由を聞くに「沼に変わったペンダントが落ちているの」と。別段危険というわけもなく夫も「そうか」とだけ伝え、キャンプの準備を続けていた。
思わしくない空模様。流石に夫も心配になり妻に声をかける。しかし返事は無い。再び声をかけようとする瞬間、突然雷鳴が響いた。
夫は悪い予感が頭をよぎり、すぐにその沼に駆け寄ると……そこに立つ妻は、確かに妻だ。けれど何かが違う。
雰囲気、立ち姿、呼吸。不気味に思い夫は駆け寄るのをためらった。しかし、時すでに遅く────
「って言うお話」
「あなた好きだよね、その都市伝説」
「都市伝説じゃないもん!実際にこんな感じの事件いっぱいあるもん!」
「はいはい、わかったわかった。その事件に関わった人みんなその変わったペンダントを見てたんだもんね」
「わかってない!!」
微笑ましい団欒。ほとんどの人はそっちの方に目が行く。だが四季先生だけは、とても真剣な眼差しで立ちすくんでいた。
******
「なんだったんだろうね」
「さぁ、なんなんだろ」
そんな談笑を切り裂くようにスマホの画面に一見の通知が表示された。初めは流し目でそれを見ていた蓮は内容を目にした瞬間、音速にも見える速度でスマホを手に取った。
「なんだその動揺は、さては女の子か?」
ついに蓮も女の子が……達観するような目でこちらを見てくるがいい迷惑である。
「例のあの子だよ」
「……あぁあの子か」
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