第二世界 プレパラシオン第二話 死にたがり①
「おい、さっさと立て」
一面が白亜に覆われただだっ広い空間。もとい訓練場。今、この瞬間にその空間を満たすほどの轟音が鳴り響いた。
壁に叩きつけられるは、黒髪にまだらに白髪の混じる、紫紺の瞳をした少年。
木剣を握る力など等になく、腹部を抑え、うずくまりながら目の前の相手に視線を送る。
(やばい……マジで死ぬ……)
なぜ、レンがこんなことになっているのか。それは少し前に遡る……
******
「じゃあレン、改めてフェイカーズにようこそ」
シキさんのよくわからない試験を終え、僕は今、ここフェイカーズの施設を案内してもらっている。
先ほどいた部屋の脇にある扉から外に出ると長い廊下が続いている。
廊下に出てすぐ左に上下に向かえる階段があり、シキさんに案内されながら下に降りて行った。
するとまた上の空間と同じような長い廊下が見える。そしてシキさんに案内されるがまま進んで行くと、ある部屋に入った。
「ここが通信管理及び座標感知室。まぁ異常のあるスフィア《世界》がどこにあるかとかを探してくれるところ。」
そう話しながら、シキさんがその場にいる人達に指を刺した。
「あの人たちは、右からショウ、ナギ、神崎さん。まぁ他にもいるんだけど今日はこの人たちだけでも覚えてって。じゃあ次。」
この様にあまり人に案内する気がないかの様に淡々と早足でフェイカーズを案内した。
「ここは保管庫。回収したアーティファクトとかを入れてる」
「へー、いろんなのがあるんですね」
「そ、空間を曲げるやつとか、分身するやつとか、後記憶を消すやつとか、他にもいろんなのがあるよ」
「ここが宿舎」「ここが訓練場」「ここが共用スペース」「ここが…………
途中から案内するのが飽きたのか、シキさんの施設に対する説明がどんどん薄くなってきていた。
しかし、シキさんの希薄な説明でも不思議とここの施設の形はすんなり頭に入った。
というのも、なぜか少しこの施設の形に既視感があるのだ。
…………あ、マンションだ。
頭のモヤモヤが晴れるかの様に、既視感が繋がった。
ここの施設は階層分けされており、一階が訓練施設やアーティファクトなどの武器があり、二階に通信施設などの仕事で使う主要施設、三階はなぜかシキさんが独占しており、四階から上は人の住む、住居階となっいる全二十階の施設だ。
……なのだが、この施設内にエレベーターがあったり、なぜか広い空間は壁がぶち抜かれた後があったり、内装と言うべきが、この施設のところどころの色彩がめちゃくちゃだったり。
まるで……どこかからマンションをパクって改造しました。と言っているみたいに見える施設だ。
まぁ、たまたま僕の知っているマンションという物に構造が似ていただけで、こういう色合いが正常で、壁がぶち抜かれた様なのもそういう装飾の可能性だってある。
大丈夫だと思うが……まさか……ない……よな?
「…………」
レンは思考することを放棄した。
「シキさん?今どこに向かってるんですか」
「ん?最後に見せたいものがあるんだよ」
僕は今、シキさんの案内でエレベーターに乗っている。目指してる階は最上階。
「もう着くよ」
扉から開くと、一面に奇妙で美しい空が目に入る。
窓の内側からでは感じることのできなかった広大な景色。
真っ白のキャンパスに絵の具をこぼしたかの様な景色の中に、様々な色の無数の光が散りばめられる。
その光一つ一つが全てスフィア《世界》。そう認識して初めて分かる、この星空の美しさが。
取り込んで離さない美しい景色を振り解き、僕は周りに目をやる。
周りには僕の全く知らない、おそらく別のスフィア《世界》の花たち。その美しい花々は綺麗に整えられ、並べられ、咲き誇っている。
「花壇?」
「そう。ここはフェイカーズの屋上花壇。元々何も無かったんだけど、ある子が花を植えてね。……ほらあの子」
指の先には、咲き誇る花々に囲まれながら、愛でる様に水をやる一人の女性。
漆黒の体のラインがわかるほどにピッタリとした服に同系色のズボン。それらを覆うように上半身に大きな白のコートを羽織る。
腰まで伸びた金髪は頭の後ろで尻尾のように纏めている。
そして気づき、僕らに視線をやる青い瞳。
その女性がこちらに近づいてから僕はやっと気づく。
でかい。いや……変な意味ではない。……いや変な意味の方もでかくはあるが……シキさんや僕の身長を優に超え、僕たちが見上げる体制になるほどに。
おそらく百八十センチは超えているだろう背丈としなやかでとても長い四肢は、それだけで見るものを圧倒させる。
「久しぶり、アルマ」
「あぁ、久しぶり。そいつは?」
「この子はレン。今日からフェイカーズに入る子。レン、彼女はアルマ。見た目に似合わず花が好きな子」
青い瞳と目がかち合い、軽く会釈する。
「悪かったな似合わなくて。よろしくなレン。どうせこいつは碌でもないから、なんかあったら私に言えよ」
出会った人みんなに碌でもない判定されるシキさんって本当に大丈夫な人なのか?
「何、他人事みたいに言ってるの?アルマがレンを鍛えるんだよ?」
「「…………」」
一瞬、その場が凍りついた。というより、理解が追いつかず、フリーズした。
「じゃあそういうことで。後よろしく」
シキさんがそそくさと立ち去ろうとする時ようやく、シキさんがめちゃくちゃをやっていることだけは理解できた。
「「は!?」」
「待て待て、ちょっと待て!」
「待ってください、シキさん!」
立ち去ろうとするシキさんを二人で全力で引き止める
「待ってくれ、とりあえず説明をしてくれ」
アルマの言葉に全力で頷く。反対になぜか「何で理解できないの?」と言いたげな顔のシキさんが口を開く。
「レンが戦えるようにしたいから、アルマに鍛えてもらいたいの」
「私、そういう経験無いんだけど。それに……」
「アルマの思う通りにやったら、多分大丈夫だよ」
「……本当にいいのか?」
「うん、任せたよ」
どうやら蚊帳の外で淡々と僕の行き先が決まっているようです。
僕、まだシキさんに待ってくださいしか言ってないんだけど!?
「わかった。レンだったな。よろしく」
「よ……よろしくお願いします、アルマさん」
「アルマでいい。それよりレン、お前戦闘経験は?」
「えっと……まぁ全く無いですね」
戦いを教えるにあたり、戦闘経験というのが大事なのは僕でも分かる。故に落胆されるだろうと思っていたが、アルマはなぜかニヤニヤとしていた。
「そうか、無いか。それはそれは……まぁ改めてよろしくな」
ニヤニヤとしたアルマの表情に共に、アルマが僕に手を差し出す。
悪い予感はした。しかし、僕にそれを拒むことは出来ず、アルマが差し出した手を僕も嫌々握った。
「よろし……?」
瞬間、アルマが手を引っ張り、簡単に僕を持ち上げ肩に抱えられた。
「え?」
「じゃあ行くぞー」
「うぁああああ!!」
そのまま爆速で階段を駆け下り一階の訓練所まで連行された。
そして今に至る……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます