BLゲームの中の王子様とか、マジ終わってる。神さま呪うレベルだわ。


 ちなみに、ネロたんの格好のときは勿論、『ネロ様』でネレイシアの格好のときには『ネリー様』、もしくは『ネル様』だ。さすがに、極少数の使用人はあたし達が同一人物だと知っている。


 そして、いきなり見知らぬ言語を話し出したあたしを、奇異の目で見ることはなかった。どうやらあたしの神童扱いが利いているようだ。


「外国語を流暢に話されるのですね」


 それで済んで、感嘆された。


 それから、あたしがシエロたんのことを知りたいと言ったら、使用人の人達が色々と教えてくれました。恩は売っておくものね! 情けは人の為ならず、ってやつ♪


 やっぱり、ゲームの通り寵姫だった母親と似た容姿のシエロたんは、父親である国王に腫れ物のように扱われているようね。第二王子として丁重に扱うようにという命令の通り、大事にはされているようだ。


 表向きは、だけど。


 国王の信頼厚い乳母が付けられて、寵姫の使っていた離宮に暮らしているみたい。


 ちなみに、乳母の息子で攻略キャラもであるシエロたんの乳兄弟。粘着ストーカーな細マッチョ近衛騎士こと、グレンも一緒に暮らしている模様。


 おそらくは、もう既に幼少期のエピソードを幾つかこなしているだろう。


 シエロたんの頭が良ければ、幼少期のデッドエンドは避けられると思うけど・・・もしもシエロたんの頭がちょっぴり残念な感じなら、かなり危ういと思う。


 プレイヤーによっては、アホな選択肢を選んで『残念なシエロたんもまた堪らん! ハァハァ!』という人もいたんだけど、リアルだとかなりヤバいわよね? 具体的には、シエロたんの命とか健康、そして精神状態的なものが。


 ・・・これは是非とも、実物のシエロたん(ショタバージョン!!)の生存&健康の確認ついでにじっくりとその麗しいご尊顔を舐め回すように鑑賞して、兄妹権限を行使してハグして、ハスハス匂いを嗅いで、あちこち撫で回して、存分にシエロたんの感触を堪能しなくてはっ!?


 と、シエロたん(シエロお兄様)に会いたい! 是非とも! と必死にお願いし捲ったら、使用人達は最初は渋っていたけど、「伺ってみるだけですよ?」と言われてダメ元で手紙を出してみたら――――


 なんと、シエロたんご本人からOKをもらってしまいましたっ!?


 キターーーーっ!!!!


 シエロたん直々のお返事は、品のいい封筒に入っていて、便箋からはいいにほいがした。


 嗚呼、これがシエロたんの匂いなのね……


 くんかくんかハスハスと、匂いがなくなるんじゃないかってくらい、便箋の匂いを嗅ぎ捲った。


 使用人達からは、「そんなに楽しみなのですか」「仲良くなれるといいですね」と微笑ましいという顔で見られた。若干、そんなことは無理だろうけど……という憐れみの感情が透けて見なくもないけど。


 まぁ、あの寵姫を憎んでいた側妃の子供で、『第二王子という立場を奪われた』という見られ方をされているのネロたんだから、当然かもしれないけど・・・


 でも、今現在ネロたんことあたしの中身は、【愛シエ】を愛したヤンデレスキーで立派な腐女子っ!? ちなみに、あたしの最推しは勿論シエロたん!


 さあ、今から助けに行くから待っててねシエロたんっ!!!!


 是が非でも、世界の損失を防ぐわ!!


♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫


 そして、とうとうやって来たお茶会の日。


 確か、このお茶会の飲食物には母の手が掛かっていて、毒物が仕込まれていた筈。シエロたんには絶対に苦しい思いはさせられないから、気を付けなくちゃ!


 え~と、『本来のネロルート』なら・・・


 『ネロ』としてシエロたんを愛する攻めルートなら、シエロたんが毒を飲むことになる。これは、シエロたんが苦しい思いをすることになる上、『ネロ』がシエロたんに嫌われるから却下。


 そして、女装の受けルートであるネレイシアコースなら、あたし……ネロたんが毒を飲むことになっている。


 今日のあたしは、女装……いや、中身は立派な腐女子だけど、身体は男の子だから女装? まぁ、細かいことはどうでもいいわ。一応、ネレイシアという設定で、シエロたんが苦しむフラグを折りに来たんだから!


 と、シエロたんが姿を現すのを、今か今かと興奮して待ち続けた。


 すると――――


 キラキラとした銀色の髪、憂いを帯びた水色の瞳、ふっくらとした滑らかな頬、ほっそりとした顎、すらりとした短い手足の、天使と見紛うばかりの麗しい美ショタなお子様が・・・あたしを見たっ!?!?


 自然と荒くなる呼吸。暴れる心臓の鼓動がヤ・バ・いっ!!


『あぁ・・・生シエロたん、しかも無垢なショタバージョン、マジ尊い♥』


 思わず洩れ出た心の声に、ヒクリとシエロたんの顔が引き攣ったと思ったら、サッとその顔色が変わる。どうしたのかしら? 具合でも悪いのかと心配した途端、シエロたんが顔を覆って天を仰いだ。


「??」


 そして――――


『やっべぇ、詰んだ。BLゲームの中の王子様とか、マジ終わってる。神さま呪うレベルだわ』


 神さまを呪うとまで言い出したシエロたんに、


『そんな悲しいこと言わないでっ!? シエロたんはもう生きてるだけで尊いんだからっ!? この世界に生まれたあたしが、どんなにシエロたんを愛して、どれだけ会いたいと切望して、こいねがったのかわかるっ!? あと、この世界の神さまは貴腐神きふじん様に違いないわっ!?』


 そう言って前世の『愛シエ』を思い出したあたしがどれっ程、シエロたんに逢えることを夢にまで見たかの思いの丈をぶつけると――――


『・・・あのな、お嬢ちゃん。俺にシエロたんとか言われても、マジキツいから。ノーマルな、普通に女の子が好きな健全な元男子大学生がよ? BLゲームの王子様とか、本っ当に勘弁してくれって感じだからな。あ~、もう、こんなことになるんだったら、姉貴に言われてこんな腐ったゲーム買いに行くんじゃなかったぜ・・・』


 その言葉に、衝撃を受ける。


『・・・え? もしかして、アンタ・・・あおい、だったりする、の?』

『ん? ああ、前世の名前は蒼だが・・・?』


 なんとびっくり! シエロたんの中身が・・・前世で『愛シエ』の豪華特装版を買いに行ったっきり、歩道橋の階段から転がり落ちて、ゲームを死守したけど自分が死んじゃった弟の蒼だったなんてっ!?!?


『キャー、ウソぉっ! 蒼、蒼ともう一度会えるだなんてっ!?』

『もしかして、姉貴、なのか?』

『そうよっ!? あたしよ! 茜!』

『マジかっ!?』


 それから、蒼と話をして――――


 折角BLゲームの尊い王子様(大体受け、一部キャラにリバあり)に転生したというのに、蒼ってば、麗しい攻略キャラ達(基本みんな鬼畜・ヤンデレ)とのいちゃこらどろどろらぶらぶストーリーを・・・ガチで拒否しよったっ!?!?!?


 何故っ!? 解せぬっ!!


 まぁ、蒼曰く『自分はノーマルで、普通に女の子が好きなんだ!!!!』とのことで、麗しき鬼畜ヤンデレな攻略キャラ達とのBLは死ぬ程イヤみたい。それに、実は蒼は百合スキーだったのね。


 そこまで拒否されたら、あたしだって鬼じゃない。


 それに・・・また、あたしよりに先に死んじゃう蒼なんて、見たくない。


 半泣きで縋って来るシエロたんの表情とか・・・マジ堪らんっ!!!!


 まぁ? ほら? 半泣きで『助けろください』って縋られたら、助けるしかないじゃない? 蒼はあたしの可愛い弟だし?


 だから・・・お姉ちゃん、本気出しちゃうからねっ!!


 シエロたんの中身が、BLを拒否する蒼。そして、ネロたんの中身があたしになっているという不確定要素はあるけど。


 どうにかして、破滅、死亡フラグを折って生き残ってやろうじゃないのっ!!!!


 掛かって来いや運命っ!

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