それで? お前の兄は、なにをしに行ったのだ?


 翌日のお茶の時間。


「お前の兄は、自分が幾つなのか判っているのか?」


 と、険しくも麗しいお顔が、あたしをじっと見下ろしています。


「えっと……六歳、ですね」


 いや、そろそろ七歳?


「そんな子供が一人で外出して、あまつさえ、裏では変態だと噂される者と二人きりの状況になって、無事で済むと思っていたのか? ましてや、王族の一員が」


 おおう、客観的に見ると、かなり危険だ。知ってたら普通に止めるわ。


「お前達は神童などと呼ばれて、少々勘違いをしているのではないか? 子供の遊びではないのだぞ」

「兄は……母の健康祈願に向かい、偶々巻き込まれただけだと伺っております。まさか、司祭を騙るような変態が神殿に紛れていたとは夢にも思いませんでした。兄がご心配をお掛けしてしまい、本当に申し訳ございません。兄に代わってお詫び致します。また、ネロを助けて頂いたこと、大変感謝しております」


 と、頭を下げる。


 あの変態司祭は、ネロたん殺害未遂事件の容疑者として厳しい取り調べ……と、称する拷問を食らっている最中らしい。まだ六歳なお子様の耳に入れるのは憚られると言われて口を濁されたので、めっちゃ聞き耳立てて自分でこそこそ調べたぜ!


 アレだね。余罪がぽろっぽろ出て来て、神殿上層部の人達はすっごく頭が痛いだろうね! 王族に対する傷害未遂、脅迫罪、殺害予告……という重罪に次ぐ重罪のオンパレード。その上、今回の被害者(未遂)が国王に冷遇されているとは言え、王位継承権を有する第三王子殿下。しかも、アストレイヤ様直属の部隊の人に救出されたということで、現行犯確定。証拠隠滅を図ることも不可能。


 神殿の権威や権力などを削ぎたい人達は、ここぞとばかりにガンガン口を出して攻撃しに行くことだろう。王族を害する意志は、神殿の総意なのか? と。蜂の巣を突いたような騒ぎになってること確実ね!


 ま、トカゲの尻尾切りとしては……あの変態を破門の上、奴の関係者達の徹底調査が行われ、国家反逆の意は神殿の総意ではないことを示し、あの変態の処刑に同意する、というのが妥当な処置かしら?


 とりあえず、ド変態外道神官は一匹駆除したので、他の変態共もしばらくは大人しく過ごすことだろう。大人しくできないようなクソ共は、さっさと処分でもなんでもされてしまえばいい。


 イエスロリコン、ノータッチ! イエスショタコン、ノータッチ! が、真の変態紳士&貴腐人たる者の誇り高い在り方というもの。容易く己が欲望や劣情に負け、穢れ無きピュアなお子様達を傷付け、取り返しの付かないトラウマを刻むクソ外道共など、即刻地獄へ堕ちるがいいわっ!!


 真性のド変態なら、仮令たとえロリやショタに指一本触れずとも、その声やその姿を見聞きしての妄想だけで満足できるというか……更に上級者になると、自家発電だけでごはん特盛で何杯だってイケちゃうんだから!


 修行が足りないにも程があるわ! 全くもうっ・・・


 と、それはおいといて。


 一応、保護された子の中でアーリーらしき子供の話は聞いてないから、アーリーが異端審問官になるフラグは折れた……と、思いたい。とは言え、アーリーの神々しいあの美貌では、またどこぞの変態をホイホイしてしまうであろうことは想像に難くない。


 なるべく早く、保護してあげたいところね!


 なーんて考えていたら、


「……ほう、そう来るか」


 低温の声が降って来た。あら、不機嫌を隠してないお顔。


 やー、お手を煩わせたことは申し訳ないと思ってるわよ? でも、あれはあたしと蒼の破滅フラグを折るのに必要なことだったのよ。致し方なし!


「お前達の母親は、心配しないのか?」


 あたしを見下ろす険しいお顔に、にこりと微笑む。


「ええ。母には知らせていません。その必要を感じませんから」


 使用人達への緘口令はバッチリだぜ! だって、あの女に下手に報告すると手が付けられなくなって大変なことになるのは確実だものね!


 つか、ある意味あのヒス女が育児放棄をしてくれてるお陰で動き易いという側面もあるのよねー。まともな親ならアストレイヤ様が言う通り、変な噂のあるとこに子供一人でなんて出掛けさせないでしょ。せめて、護衛の数を増やすとかさ?


「ふん、自分の子の監督もできんとは、相変わらず使えん女だ」


 やー、あのクソ女は単に使えないどころじゃないからなぁ。


「それで? お前の兄は、なにをしに行ったのだ?」

「……お母様の、健康祈願だそうですよ?」

「ふんっ、確かに。あの女はある意味病気ではあるがな! そのような建前など要らん。目的を話せと言っている。少し前から、お前達がこそこそ調べ事をしていたことは知っている」


 やっぱり、六歳児のこそこそには限りがあったか……残念!


「そ、その……実は……お友達が欲しいなぁ~? なんて思いまして。神殿に仕えている子なら、あんまり変な子はいないだろうから、ってお兄様が言ってました」


 ちょ~っと苦しい言い訳か? と、思ったら……


「友、達?」


 アストレイヤ様にしては珍しく、きょとんと瞬くお顔が可愛らしいですね!


「お兄様方には乳母が付いていて、乳兄弟の方と一緒に育っていると伺っていますが……ネロお兄様とわたくしの周りには、子供が一人もいないのです」


 寂しそうな顔で言ってみる。


 というか、ヒス女のヒスがヤバ過ぎて。数年前から、子供がいる人を優先してうちの離宮から全員追い出した、というのが実情なんだけどね~?


 うちの離宮は、多分一番騒がしくて……おそらくは、一番ひっそりとして雰囲気の張り詰めている離宮だろう。主にクソアマのヒスが原因でね!


「ああ……そう、か。お前が、あまりにも子供らしくない理由の一端はそれか。ふむ……まさか、子育て中の離宮に、子供が一人もいない環境だとは思ってもみなかったぞ」


 あら? 騙されてくれた?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る