アストレイヤ様? それって、かなり判り易い嫌がらせなのでは?
こうして、都市郊外で農場、牧場、果樹園などなどを孤児や身寄りの無い人達、訳有りな人達に育てさせ――――
数ヶ月後。
「・・・まさか、本当に儲けを出すとは思わなかったぞ」
収支報告書を見たアストレイヤ様が、珍しく目を丸くして驚いている。
「ふっ、みんなが頑張ってくれました!」
ふふんと胸を張ると、
「つか、ネロが働かざる者食うべからずっつって、ある意味ガキ共の恐怖煽ってましたからね。そりゃ、餓えるのが怖い奴は必死で仕事覚えますって」
蒼が口を開く。
「……なんかこう、ネロの迫力が凄かったです」
ライカの言葉に、
「お前、孤児達に一体どんな教育をしたんだ?」
アストレイヤ様があたしを見やる。
「え? 普通ですよ? 『ごはんが食べたいかー?』って聞いて、『おおー』って返事があったから、『お腹いっぱい食べたい奴は確り働けー』って言っただけです。後は、毎週MVPを決めて、頑張った子十五名にご褒美としてお菓子を支給とかですかねー?」
「なぜ、十五名なんだ?」
「やっぱり、慣れるとダレて来ますし。それに、弱い者虐めはどこにでもありますから。ある程度、大人の目は光らせてないといけないので、十名は大人達が。そして、残りの五名は子供達自身に決めさせるという感じですかね?」
ご褒美で配るお菓子は、自分が食べさせたい相手と半分こも可。お兄ちゃんお姉ちゃんが、「弟や妹に食べさせてあげたい!」とやる気満々で頑張ってくれたりもするし、またその逆もある。仲良しで可愛らしいわ♪
「そんなことしてたん?」
「うん。これぞ、飴と鞭ってやつでしょ」
「ま、甘いもん食ったことないガキからしてみりゃ、お菓子はかなりのご馳走だもんなぁ」
「ちなみに、ご褒美システムと一緒に、『施設の売り上げが落ちるとご褒美のお菓子が減ったり、最悪支給が無くなるから、お菓子が食べたきゃ頑張って働いてね♡』って、通達済み」
「鬼かっ!?」
「その方がモチベーション上がるでしょ? って言っても、お菓子でつれる子はつれるけど、それでもサボる子は普通にサボるでしょ。子供でも甘い物嫌いって子はいるだろうしさ」
「まぁ、それは確かになー」
「というワケで、みんなが頑張ってくれました!」
ふふんと胸を張って宣言すると、ぽんと頭を撫でられた。
「そうか」
「あ、そうです。アストレイヤ様」
「なんだ?」
「もっと品質を向上させられたら、王室御用達の認定ください。あ、アストレイヤ様とライカ兄上が実際に口にしなくてもいいですよ? 食べたいというのでしたら、別ですが。とりあえず、わたしのとこの離宮で使用します」
一応仮にもネロたんは王子という身分だ。直系王族が口にしなくても、王室御用達になるというのも間違いではない。そして、王室御用達という付加価値はそれだけで、商売として成功したも同然! ドンドン儲けるわよ~っ!
「……ふむ。既に献上されている物がありはするのだが」
珍しく歯切れの悪いアストレイヤ様。
「ああ、あれですよね? クソ親父の派閥の領産ですよね」
「よく知っていることだ」
「調べました。というか、今王室が使用している食料のうち、六~七割程がクソ親父の派閥の産地の物。なにげに、面倒だと思いません? 検閲とか」
「確かにな」
「あと、建前上は献上ってなってますけど、代金は支払っていますよね?」
「まあな」
「関税やらなにやらと理由を付けて、ぼられてません?」
「・・・」
「え? ネロ、なにを言ってるの?」
「あー、よくあるやつか」
「え? シエロ?」
「そう」
頷いたあたしに、蒼がぼやく。
「競合相手がいない産業は、腐敗し易いからなぁ」
「成る程。確かにな? 一理ある。わたしのところへ来る食材は、少々質が落ちているのはそういうことか」
「え? 母上?」
「ぁ~……アストレイヤ様? それって、かなり判り易い嫌がらせなのでは?」
言い難そうな蒼の言葉。
「高い代金払って、わざわざ質の悪い物買う必要は無いんじゃないですか? なんなら、ライカ兄上が関わっているからと称して、食料は俺らの共同経営のとこから買った方がいいと思いますよ?」
「そうですねー。無論、毒見やら諸々の品質検査は必須ですが。アストレイヤ様が『母親として、息子の事業を応援する』という風に言えば、文句も少ないと思います。それにぶっちゃけ、余所の領から食糧運ぶより、関税の掛からない王都近郊から持って来る方が断然輸送費諸々が安上がりですし」
郊外の農場、牧場とは言え、分布的には王都。関税は掛からない。
「浮いたお金を、どこかへ回すこともできますからね」
あたし達の言葉を聞いて、
「それって、
ライカが不安そうな顔をする。
「実の息子を贔屓して、なにが悪いんですか?」
「え?」
「クソ親父が俺を贔屓しているのは周知の事実です。アストレイヤ様がライカ兄上を贔屓して、なにが悪いんですか?」
「で、でも、贔屓はよくないって……」
「では、言い方を変えましょう。応援をするのは、いけないことですか?」
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