常にそう自問し続けるがいい。あの子供達は、末恐ろしいぞ?
「そう、ですか……」
「ああ。
そして、盾であるからこそ、アストレイヤが血筋で王に選ばれたレーゲンと政略結婚して王妃となった。
「だがな、ライカ」
「はい」
「現状として。レーゲンの横暴に失望し、不満を抱いている諸侯は多い。今はわたしが抑えられているが、これ以上はどうなるかわからん。そして、わたしは父に……お前のおじい様に。『レーゲンの盾となり、死んで来い』とは言いたくない。また、『レーゲンを守る為に、歯向かう者を殺せ』とも言いたくない。無論、正妃として失格なことは重々承知しているがな?」
苦笑しながら紡がれるアストレイヤの言葉に、ライカは顔を歪めて小さく頷く。
「それに、あの二人も言っていただろう? 国を乱す愚王は要らん、と」
「っ!」
「つまり、あの二人に愚王だと認定されれば、引き摺り下ろされることになる。レーゲンもきっと、あと数年もしないうちに、元国王になるやもしれん。次の椅子はお前に譲るとは言っているが……お前とて、レーゲンのように
「だ、だから母上は……僕に、ネロの下に付け、と。そう仰るのですか?」
「いいや? わたしはお前に、ネロの下に付く覚悟をしておけと言ったのだ。お前が、あの子達を信じられるならば、お前が彼らの王になればいい。但し、それはあの子達の眼鏡に
「僕が、シエロと一緒に・・・ネロを、支える?」
ぱちぱちと瞬くライカを見下ろし、ぽんと頭を撫でるアストレイヤ。
「ああ。それもまた、選択肢の一つ。シエロが寵姫の子でなくば、シエロが王になるという可能性もあっただろうがな?」
「シエロが? それは、その……無理ではないですか?」
「無理だと思うか? だが、もしネロが……あの双子が、お前でなくシエロに付けばどうだ? 容易く……とまでは行かぬが、実現してしまいそうではないか? あの二人……いや、三人は、それ程に仲が良い。シエロはきっと、生半なことではあの双子を裏切るまいよ」
「なぜ、そう言い切れるのですか?」
「死にたくないから。これに尽きるだろう? お前達の中で、一番立場が危ういのがシエロだ。現に、お前はシエロのことを快く思っていない。おそらく、ネロのこともな?」
「僕は、別に・・・」
気まずげに目を逸らすライカ。
「見ていれば判る。わたしでも気付くことを、あの子達本人が気付かないとでも? シエロに第二王子という立場をやったレーゲンよりも、あの双子の方が余程シエロに好意的であろうよ」
「どういう意味でしょうか? シエロを王子としているのは、父上でしょう?」
「それが一番、シエロの立場を危うくしている原因だろう?」
「あ……」
「わたしとシエロを引き会わせたのは、あの双子だよ。誰を味方に付ければいいのか……生き残れるかを、的確に判っていることだ。わたしも、正妃としてはシエロを疎ましく思っていたさ。場合によっては排除することを考えてもいた。だが、実際に会って話してみれば面白い子供だった。自分は使える奴だと、『文官として使ってくれ』と、わたしにアピールして来たぞ? たった六つの子供が、だ。あれもまた、普通の子供ではないよ。あの双子が傑出し過ぎているから、一見そうは見えていないだけだ。敢えて言おう。ライカ。三人の王子の中で、一番普通で、凡庸な子がお前だよ」
「……は、い。僕も……そう、思いまし、た。いえ、先程。そう……思わされました」
ライカは悔しげに肯定する。
「ライカ。お前は、これからずっとネロと比べられ続けることになる。ネロも、王子としての教育を本格的に始めるからな」
「っ!?」
「だから、問う。お前は、ネロとシエロのことを、裏切らずにいられるか? ライカ」
「僕、は・・・」
「自らが王になるというのであれば、常にそう自問し続けるがいい。あの子供達は、末恐ろしいぞ? たった六つで、わたしと同等……いや、下手をするとそれ以上の思考をするような子達だ」
「はい……」
しょんぼりと俯くライカに、
「まあ、大人になって、只人に成り下がるという可能性も、ゼロではないがな?」
ニヤリとアストレイヤは
「・・・それはそれで、全く想像が付きませんね・・・」
「まぁ、まだ時間はあるさ。それも、レーゲンがなにかやらかすまでの猶予……ではあるがな? それまでによくよく考えて、存分に悩んで答えを出すがいい」
「はい。わかりました、母上」
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次の話から、茜視点に戻ります。
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