随分スッキリした顔ねー。


「……は、母上っ!?」


 泣きそうな顔でアストレイヤ様を見上げるライカ。


 ああんもうっ、普段はつんけんしたような態度取っておいて、やっぱり『お母さんのこと大好き♡』なんじゃないの! 素直じゃないんだからっ、さっきまでつんと澄まし顔していたキラキラぷにショタのそんな表情もまた善し!


「お前達の覚悟はよ~くわかった。が、少し待ってやれ。ライカが混乱している」


 と、呆れたように落とされる溜め息。


「そうですね。まあ、今日明日中にそういうことが起こる……という可能性は限りなく低いですが。少なくとも、十年、二十年以内には起こる可能性がありますからね。その為の猶予……いえ、準備期間だと思って、しっかりとお勉強していてください。宜しくお願いしますね? ライカ様」

「まぁ、ほら? 国王がいきなり急死したり、乱心して幽閉されたりして、若い王太子がいきなり戴冠することも無くはありませんから。覚悟だけは、いつでもしておいてください」

「・・・」


 無言の青ざめた顔で、ライカはアストレイヤ様へ助けを求める。


「お前ら。もう少し手加減してやれ」


「「?」」


 きょとんと、蒼と顔を見合わせ首を傾げる。


 アストレイヤ様に窘められちゃった☆


 でもでも、考えてみれば・・・あたしと蒼は、前世の記憶がある。前世分の年齢をプラスすると、見た目は幼児。でも、中身は二人共アラサー近いのよねー?


 おそらくは正真正銘、一桁児のライカに大人げなかったかしら?


「ひとまず、今後の方針としては……レーゲンがまた余計なことをし、今以上に王室や国の規範を乱すようなことがあれば、レーゲンを引き摺り下ろす。そして、お前達は全面的に、わたしやライカの味方をする。これに異存は無いな?」

「はい」

「勿論です」


 アストレイヤ様に頷きを返す。


「ということだ。ライカ」

「母上?」

「今は、そうだな……ネロとネレイシア。そして、シエロはわたしとお前の味方である。このことを確りと覚えておくがいい」

「……はい」


 不安げに頷くライカ。


「では、今日のところは解散とする」

「はい。わかりました。では、わたしは今日のことをネレイシアに報告して同意を取っておきます」


 ま、ネリーちゃんもあたしなんだけどねー?


「では、わたしはこれで失礼します」


 と、どこかスッキリしたお顔のシエロたんこと蒼と一緒に、アストレイヤ様の部屋を後にした。


『随分スッキリした顔ねー』

『実際、スッキリしたからな!』

『ま、そうねー。これで、次期王位を狙う不穏分子という警戒はされなくて済むわね♪』

『はっはっは、別の意味で、国家転覆を狙うやべぇガキ共扱いされた気がしなくもないがな!』

『それはほら? クソ親父が悪いわ』

『そうだよなー。んじゃ、また明日な』

『あ、そだ、蒼』


 おっと、危ない。蒼に言っておかなきゃいけないことがあった。


『なんだよ、ねーちゃん』

『アンタ、最近ストーカー予備軍ショタのこと構ってあげてる?』

『ねーちゃん、言い方な、言い方』

『そんなことはどうでもいいの。適度に構ってあげないと、変なタイミングで爆発されたら困るわよ? 最近あの子、ず~っと不満そうな顔してるから。気を付けなさい』

『・・・マジ?』

『うん、マジ。ほら? 最近はこっちでアストレイヤ様やライカと過ごすことが増えてるでしょ? 相対的に、ストーカー予備軍ショタとの時間減ってるでしょ』

『ああ。それがなんなんだ?』

『友達だか弟取られたー的な嫉妬とか?』

『は? んな、気ぃ付けるようなことかよ?』

『だって、ここはヤンデレBLゲームな世界だもの。誰のどんな負の感情が、どういう風に歪んで行くかわからないじゃない?』

『・・・た、確かにっ!? ど、どうすればいいんだっ!?』

『最善……とまでは言えないけど、一応対策は無くもないわ』

『教えてくださいお姉様っ!!』

『身体、鍛えてみれば?』

『は? え? なに? どゆこと?』

『シエロたんは、お母さん似の、儚い美少女のような華奢な美少年なワケよ』

『お、おう』

『で、よ? それを踏まえた上で、シエロたんはヤンデレ攻略対象達にとってはドストライク♡な容姿なんじゃないの? ってことで、敢えてその容姿を変える。と、攻略対象達の好みの見た目から外れるかもしれないじゃない』

『成る程!』

『それに……』

『それに?』

『このままあのストーカー予備軍に姫扱いされ続けてると、グレンルート入っちゃうかもよ?』

『んなっ!?』


 確か……グレンは幼少期からシエロたんのことを、それはそれは壊れ物のように大事に大事にしている。乳兄弟、そして護衛対象として。


 それで、グレンルートに入った場合はシエロたんが他の攻略対象達に執着され始めると、二人の『愛の逃避行』になっちゃうのよねー。


 シエロたんが、自分からグレンを誘っての逃避行パターンは、命懸けで国境を越えて、別の国に行く……という、希望を目指しながらも、悲愴感が見え隠れするメリバエンド。


 そしてもう一つ。薬で眠らされたシエロたんが、グレンの隠れ家に無理矢理拉致監禁されちゃうパターン。監禁逃避行の方は、薬で意識の朦朧としたシエロたんを、それはそれは嬉しそうな至福の表情でいろんなお世話をするグレン……という、なかなかヤバい感じの病んでるエンドだったわねー。


 アレ、明確に身体に悪そうな薬だったし。シエロたんの意志をまるっと無視した、グレンだけハッピーなメリバ。


 そして最期に――――逃げることを諦めた二人が心中するバッドエンド。シエロたんがグレンを心中に誘うバージョンと、グレンがシエロたんを道連れに、無理心中するバージョン。


『まあ、身体鍛えるのは悪いことじゃない筈よ。それだけで、攻略対象達の好みから外れる可能性が高まるし、暗殺者……とまでは行かなくても、暴漢を自分で退けられるようになれば、自ずと生存率だって高くなるもの』


 あと、単純に身体が大きく重くなれば、簡単には運べなくなる。成人男性って、普通に重いし。見付からないようにこっそりと運ぶのは、結構骨だろう。


 まぁ、複数人で運ぶ、もしくは馬や馬車などで運ぶ場合はその限りではないけど。それでも、相手に抵抗ができるか否かで、拉致誘拐される確率はぐんと減る。女性や子供に比べ、成人男性の誘拐率が少ないのは手間や労働力が掛かるからでもあるし。


 とは言え、手間や労働力を一切惜しまなければ、屈強な成人男性でも構わずに誘拐、監禁がされてしまうということでもあるけど。


『良い事尽くめかっ!!』

『まぁ、あくまでも可能性の一つよ。ほら? シエロたんの存在そのものが、貴腐神様やこの世界のイケメン達に愛されている! というBL世界の真理が無きにしもあらずだし?』

『ンな気色悪ぃ真理があって堪るかっ!! けど、まあ……試してみる価値は大いにある』

『……うん。シエロたんがムキムキマッチョになっちゃうのは……あの、華奢で儚い、美少女と見紛うばかりに麗しい、線の細い天使な美少年が存在しなくなっちゃうことは、至極っ……至極、心の底から、マジで惜しくて惜しくて残念無念遺憾千万甚だしくてやるせないけどっ……でも、蒼の身の安全には代えられないものね! 本当に本当に、めっちゃ悲しいけどね!』

『ねーちゃん、感謝の気持ちが綺麗サッパリ消え失せたわ』

『まずは脱、姫扱い! を目標にして、程々にがんばりなさい。無理して身体壊しちゃ、元も子もないんだからね』

『おう!』


 こうして、蒼が身体を鍛えることを決意して――――


 あたしは・・・せめてシエロたんが麗しい男前な細マッチョくらいで止まりますように! 絶対、絶対、ゴリマッチョまでは行きませんように! と、心から祈ることにした。


―-✃―――-✃―――-✃―-―-


 次の話は、茜と蒼が不在になります。

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