ま、食えなきゃ普通に餓えて死ぬからなぁ。
「ふふんっ、もっ~と誉めてくれちゃってもいいのよ?」
「調子に乗るな。それに、だ。幾ら企画、計画が実現可能だとしても、そこに行くかどうかは、本人達が決めることだろ。強制じゃ意味が無い」
「そうね。本人達が納得してないと、強制労働になっちゃうものねー」
「ああ、そっか。その問題もあったか」
ライカがハッとしたような顔をする。
「ん~……でも、その辺りはほら? ぶっちゃけ、都心部って物価高いじゃない? だったら、自分達で食料生産に関わって、食べ物を作ったら、お腹一杯食べられるわよ? って、食べ物で釣ろうかと」
「それで釣れるの?」
きょとんと不思議そうな表情があたしを見やる。
やっぱり、ライカはなんだかんだ大事に育てられて来た王子様よねー?
「ま、食えなきゃ普通に餓えて死ぬからなぁ。確かに。腹一杯食えるってな、かなり魅力的なお誘いかもな」
「そうなの?」
「ああ。空腹と脱水はつらい。俺、寒くなって来た時期に人の来ない小屋に丸一日程閉じ籠められたことがあってさ。あのときは……助けが来るまで、ちょっと死ぬかと思った」
「え?」
「あ~……なんか、ごめん」
そっか。そんなことがあったのね。クソアマめっ!!
「いや、ネリーのせいじゃないから気にすんな。俺は一日だけで済んだけど、空腹と脱水はかなりつらいってわかった。あと、寒いのもキツい」
「そうねー。食事抜きはつらいわよねー」
生きる気力が無いと、空腹もあんまり気にならないけど。
「秋冬は凍死も気を付けなくちゃ」
寒いときには、体温を上げる為にエネルギー……カロリーが要る。人間は、体温が三十四度以下になると凍死する危険もあるし。
「え? ネリーもどこかに閉じ籠められたことあるのっ!?」
「いえ、わたくしの場合は……その、使用人達が母に掛かり切りになって。日に何度か食事の用意を忘れられたことがある、という程度かしら?」
クソアマのヒスが酷過ぎて、使用人達が掛かり切り。食事どころじゃなかった。ネロたんは滅茶苦茶良い子だから、使用人達に気を遣って、お腹空いたのを我慢したのよね……ネロたん健気!
「俺が言うのもなんだけど、子供はしっかり食べないと大きくなれないぞ」
「わかってるわ」
「……二人共、つらい思いをして来たんだ」
「ふふっ、大丈夫ですわ。この程度」
「ま、そうだな」
蒼と頷き合うと、
「え?」
驚いたように見開かれる碧。
「だって、これから立て直す孤児院や救貧院は、わたくしやシエロお兄様よりもつらく、苦しい思いをした子供や女性達が沢山いる場所ですもの」
「そう、なの?」
「ええ。おそらくは・・・」
だって、ド変態神官や外道共が携わっていた……かもしれない孤児院や救貧院だ。文字通り、地獄を見て来た子供、女性達がいたとしても、なんら不思議じゃない。まあ、教育上大変宜しくないことなので、ぷにショタなライカと蒼には言わないでおくけど。
それとも、やっぱり被害者の子供達は既に別の……カウンセリングができるような施設に移っている、ということも考えられるかしら? いずれにせよ、無事であることを願う。
「良くて食事が日に二回。最悪、数日に一回。それも、コップ一杯の水と硬くて小さいパンだけとか?」
「餓えに耐え兼ね、孤児院を抜け出し、盗みを働く子供がいるとも聞きました」
「なにげに、都市部のストリートチルドレンより、農村部のストリートチルドレンの方が食事事情はいいらしいからな」
「そうですね。農村部や森林地帯では、外へ食べ物を探しに行けますからね」
「ああ……そっか。だから、孤児達を郊外に、なんだ」
「ええ。獣害などはあるかもしれませんが、大勢が餓えてしまうよりはまだマシでしょう」
「なんだったら、猟師になるという道もあるからな」
「そうねー。ハンターは、結構重宝されるらしいわね。依頼が無くても、ジビエを獲って売ればいいんだし。最悪、全く稼げなくても、山や森に籠れば餓えずに済むみたいだし」
まぁ、山や森に籠るのは、常に危険と隣り合わせではあるけど。
「・・・二人共、よくそんなにぽんぽん思い付くね」
呆然とした顔であたしと蒼を見詰めるライカ。
まあ、そこら辺は人生経験の差というやつよね。前世の年齢プラスしたら、蒼もあたしも余裕で二十代突入……なんだったら、アラサーくらい行っちゃうし?
「図書室には沢山の種類の本がありますので。旅行記や風俗記、エッセイ、外国の資料などなど。大変興味深いです」
「ああ、暇なときに通うのはいいことだな」
なにげに、あたしと蒼の密会の場所でもある。偶然を装って、図書室の手前や中で落ち合って、ちょこっとだけ会話して情報交換をしていた。ひそひそするのにいい場所だ。
「ええ。それに、わたくしとネロお兄様は、お忙しいライカお兄様と違って、時間がたっぷりありましたもの」
なんだったら、キーキー
あのときは顔を歪めて、更に五月蠅く喚いてたけど……
ふっ、これからは静かで悠々とした読書時間が存分に確保できるというものよ!
「あ……そっか」
なんだか寂しげな顔でライカが俯くと、
「それで、方針は決まったか?」
アストレイヤ様が聞いた。
「はい。とりあえずは、郊外の安く売りに出されている農場や牧場を購入しようと思います」
「ふむ……単なる食料支援だけで終わらせるつもりは無い、ということか」
「勿論です。単に恵むだけよりも、栽培、飼育、狩猟の仕方を教える方がいいでしょうからね」
「よかろう。資金は?」
「半額から三分の一程を、アストレイヤ様に出して頂けると助かります」
「……どこから、残りを賄うつもりだ?」
あら、険しいお顔の低い声。
「わたしには不要なので、母の貴金属類、その他を売りに出そうかと。死蔵しているより、資金にしてしまおうと思いまして」
どうせ、あの女の買い漁っていた物の半分~三分の一くらいは側妃としての税金で賄われている。残りはおそらく、実家からの支援金だろうけど。まあ、それだって元々は実家の領民からの税収。なら、国民に還元するのが筋というもの。
「……わかった。三分の一は出してやる。ライカ」
「はい」
「もう少ししたらお前に慈善活動をさせようと、確保していた資金がある。それを上手く使え」
「ありがとうございます、アストレイヤ様!」
わーい♪使えるお金増えた~っ!!
――――――――――――
茜「シエロたんが無事で本当に良かったっ!!」ヾ(*´∀`*)ノ
蒼「ねーちゃんの方こそ、子供はしっかり食わねーと駄目だぞ!」(; ・`д・´)!
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