君達があの女を待つ筈がないだろう。で、本当のところはどうなんだ?


「ネレイシアとネロは、母上の……正妃宮うちに移って来ないの?」


 本日はネリーちゃんとしてお勉強の予定。というワケで、いつもの通りにやって来ましたアストレイヤ様の執務室! で、ライカが口を開いた。


「ほら、その……ネロとネレイシアは、母上の養子になって……義理とは言え、僕の弟と妹になったんだからさ」


 と、早口で言うライカ。うむ、キラキラぷにショタの照れ顔もまた善し!


「こっちに引っ越しするなら、手伝いを寄越すよ?」


 『うちにおいで♪』と言いたそうにワクテカ期待感満載のぷにショタには申し訳ないけど……使用人やら派閥の関係もあるし。なにより、アストレイヤ様の離宮に移ったら、それこそあたしが動き難くなってしょうがない! というワケで、アストレイヤ様の離宮に移るのはお断りしたのよねー?


 ほら? ネロたんとネリーちゃんが同一人物だってこともバレるとまずいし? 側妃宮は割と人の出入りが激しかったけど、ネロリンのお世話をする人は限られていたし。ネロたんネリーちゃんが恩を売っていたからか、ネロたんの秘密を知る人自体はかなり少ない。


 今、お世話係とか増やされちゃったら、その分秘密がバレる機会が増えることと同義。ま、執事さん一人は付けられること確定なんだけど。あのナイスミドルなおじさまも、ガッツリ監視員なんだろうなぁ……


「いえ、ライカ様のお申し出はありがたいのですが。わたくしも兄も、このまま側妃宮で暮らして行きたいと思います」

「え? どうして?」

「母が……戻って来るかもしれませんから」


 と、寂しそうな顔で言ってみる。


 むしろ……「フハハハハハ! ずっと幽閉されてろや! その方が他人様に迷惑掛けんで済むわ!」な~んて思ってることは、おくびにも出さない。


「ネレイシア……」


 気遣わしげな表情であたしを見詰めるライカ。しかし、


「いや、君があの女を待つ筈がないだろう。で、本当のところはどうなんだ?」


 ……やっぱり、アストレイヤ様はそんなにちょろくないか。


 バラされちゃった☆


「え? 母上?」

「もうっ、アストレイヤ様ったら。折角ライカ様が誤魔化されてくれそうでしたのに」

「ええっ!? ネレイシアっ?」

「まぁ、本音を言うと派閥関係でしょうか。ライカ様とネロの……というか、母の実家方の派閥ですね。正妃宮に、あちらの人を入れるワケには行きません。幾らネロとわたくしの両方がライカ様の支持を表明していても、向こうの家がまだ幼い子供であるわたくし達に従ってくれるとは限りませんもの」


 ほら? あの女の命令か実家方の思惑かで、シエロたん暗殺に動いていた前科があるワケよ。第一王子であるライカにまで手を出すまでのヤバい橋を渡る……とは、なかなか考えられないけど。万が一ということもある。


 なら、そもそも疑わしい人達は近付けないに限る。倫理的な観点とあたしの道徳心から、お子様達が非道な目に遭うことは看過できない。


 それに、あたしの動き易さも重要!


 ま、アストレイヤ様のとこの使用人がもっとうちの離宮来るかもだけど。それはもう、仕方ない。だって、前科があるものねー?


 そう、あたしが……ド変態外道神官をちょっくら社会的に抹殺して来たことも、監視要員が付けられることに無関係ではないだろう。ちなみに、ド変態神官は処刑が決まっているものの、余罪が多いので、それらをキッチリ明白にさせてから刑が執行されるらしい。当分の命は保証されている。罪を明らかにされちゃまずい連中からはガッツリ狙われるだろうけど。ある意味、年単位の執行猶予と言える。さすがに、王族への暴行未遂&殺害予告と脅迫だし? 暗殺者などからは守られる筈。拷問を受けているとは言え、まだまだ楽には死なせないでしょ。


 と、それはおいといて。


 あれは、アーリーの異端審問官フラグと、それに伴うシエロたんの破滅フラグを折る為にどうしても必要だったのですっ!! な~んて主張が、できる筈も無し。


 一応あれは、『お友達が欲しかったの☆』というあたしの可愛らしい言葉にアストレイヤ様が騙されてくれたような気がするけど。もしかしたら、以前のシエロたん(蒼を思い出す前)が偶に神殿に祈りに行っていたということに……シエロたんが変態野郎共に目を付けられないように動いた、と。そう勘付かれたりもしてるかもしれない。蒼になってからは、この世界の神さま(おそらく、貴腐神様に違いないわね!)に祈るのはやめたようだけど。


 ほら? さっき、アストレイヤ様にぶっちゃけ宣言しちゃったからね! あたしは、シエロたん……蒼を守る為なら、なんでもするって。


 あれはあれで、アストレイヤ様がシエロたんを切り捨てたり、もしライカがシエロたんの排除に回ろうとしたら、あたしは……「ネロとして、敵に回りますよ?」という牽制だったから、必要な宣言だったワケですよ。


 ああ言っておけば、アストレイヤ様なら、ライカがシエロたんに敵対するのを上手く諫めてくれるでしょうからね!


「ライカ様をお守りする為でもあるのです。お許しください」


 うるうるおめめで見詰めると、


「そっか……ネロとネレイシアは、沢山考えてるんだね……」


 しょんぼりと頷くライカ。


「全く、子供が要らん気を回し過ぎだ」


 苦い表情で言葉を返すアストレイヤ様。


「あ、そうです。つきましては、母の実家からの援助も減ると思うので、その分自分達で稼いでいいですか?」

「え?」

「お前な……わたしの世話にはなりたくないと? 子供の一人や二人くらい、食わせてやる甲斐性くらいあるわ! あまりわたしを舐めるな!」


 あら、怒らせちゃった☆

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