第11話 ナウカワ公国
ヨイリからタカキに
翌朝、モローとアマリは馬車を東に向け、海岸へと進み始めた。
モローはともかくアマリは完全に寝不足のようだった。それに加えて、御者台で手綱を引いて隣に座るモローへ走らせる視線が、どこか
「眠れましたか」
多少ぶっきらぼうな声で、アマリはモローに訊ねた。
「ああ、よく眠れたな」
馬車の荷台で眠ったモローがそう答えるので、彼女は
(本当のところ、この人はあたしのことなど何も感じていないんだ)
と、そう思う。だが当たり前と言えば当たり前なのだ、今回のこともモローは一人でエグへ
たぶんモローの頭の中には娘として暮らしているサフランが一番なのかもしれない。こんな
(自分は
朝、部屋の窓が
「モロー殿、……わたしは邪魔ですか」
アマリは馬車を曳く馬の良く動く耳を見つめながら、思わずそう口走っていた。
「何を
「……
そう言ったアマリに、モローは薄く笑った。今頃気づいたのかという
「邪魔だったのなら、同道は許さない」
「……」
「とっくに放り出している」
笑みを引っ込め、モローが答えた。
「それに、昨夜の約束も忘れてはいない」
そう言ったモローの言葉に、アマリは自分の
急に視界が広がり、川の流れがもたらす土砂でなだらかな平地が望めるようになり、その先にきらめく海が見え始めていた。
各地を動き回ってきたというモローには見慣れた光景かもしれないが、海に面したオスダに居ても、アマリは海をじっくりと見たことがない。
海は毒に満ちている、そう言い聞かされてきたからで、海は
今、アマリの眼前に広がる海は、空が晴れているのも手伝い、青く、そして宝石のようにきらめいていた。心が晴れつつあるアマリにはどうしても毒のあるものとは見えなかった。
「海ですね」
広がる景色に目を奪われながら、アマリがそう呟いた。
道は以前として海岸を
「近づくと危険と言われていますが」
そうアマリが
「そう思うか」
「そう、言われています」
遠くを見る様な目でモローは海を見つめ続けている。広がる海面遠くに島であろうか、薄紫色の
「昔はそうであったかもしれないが、今はどうかなと俺は思っている」
「……毒は消えたと」
アマリがそう尋ねた。
「この海の先がどうなっているかは知らん。大きな断崖が
とモローが言った。それはアマリも聞かされていた内容と一致する。海の果てには崖があり、
「それだから、流れ込む川の水と、海の水が断崖から落ち続けることで毒は
モローはアマリに視線をやり、再び薄く笑みを浮かべた。
「そうか」
「でも、この美しさを見ると、本当に毒に犯されているのでしょうか。……美しいものには毒があるとも言いますけど」
アマリは隣に座るモローの横顔を見上げた。
「そうだな、そう言うな」
短い相づちのような言葉だが、跳ね
「あの島には人が住んでいるのでしょうか」
アマリは水平線近くに浮かぶ、大きめの
「ああ、住んでいる。こっちのように国の
モローの話しぶりは、実際に見てきたように思えた。
「行かれたことがあるのですか」
「あの島ではないがな」
「では、やはり毒と言うのは……」
「俺が経験した限りでは、何もなかったな」
かなりの期間モローは身を
集落の場所は、亥之国などに面した島の反対側にあり、亥之国から見える島の地形は切り立った険しい山を背景に断崖が続いており、人が住んでいる様子は見えない。
「何かの
「いや、身を隠すために渡ったんだ。
そう答えたモローを見つめ、アマリはこれ以上話してもらえ無さそうだと思った。しかし、彼がここまで自分の事を話してくれたことは無かった。「山の者」との戦いで親密になったと思っていたが、その
道は海沿いから二陸里程になると毒のある海に近づかないよう左に折れ始めた。荒れたて道が、たまに利用する者もいるらしく馬車の
昼過ぎに二人はタカキに入った。
―ナウカウ公国―
ナウカワ公国は「山の者」の大群の侵入を許し、王であるナウカウ公爵まで命を落としている。生き残った国の官僚たちは
ナウカワでの滞留が長くなってしまったシュリは、呂之国の運営に時間を割けなくなった分、彼女の国も少し
アナイという派遣軍総司令官は呂之国第二歩兵軍団長で優秀だと言われているが、政治面については
―混迷―
タカキは坂の多い街である。城壁は小高い山を囲むように造られており、王宮は山の頂上に建てられている。
「山の者」の襲撃を受け、荒れた状態のタカキではあるが、ナカツを統一したナカツノ王国時代からの王都でもあり、街は歴史を感じさせる
タカキを
「山の者」に襲われて二ヶ月余り、まだ、
「最悪、アマリ殿も馬車で寝る羽目になりそうだ」
再建中の街並みを
二部屋取れたと聞いて、
ウルバンはモローがハンの者であること、ハンの者は呂之国との
アマリはウルバンからそう命ぜられた時は驚いたが、今回の探査でモローがどこかで人に会っているとか、おかしな行動を見せた事はない。彼女はモローが他国の
宿で確保した互いの部屋に分かれて入り、アマリは
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